西への出口 (Shinchosha CREST BOOKS)

  • 新潮社
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感想 : 17
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  • Amazon.co.jp ・本 (192ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784105901622

作品紹介・あらすじ

西へ、さらに西へ。自由を求める人々を追いかける、新しい同時代移民文学。中東を思わせるある街で若い男女が知りあった。人目を忍んで二人は恋人同士になるが、内戦の拡大で街は荒廃し、命の危険を感じるようになる。そんな中、国境を越えられるという「扉」の噂を耳にした。果たしてその出口はどこへ通じるのか――パキスタン出身の作家が、世界中の移民たちの風景を交え、新天地を目指す人生を鮮烈に描く。

感想・レビュー・書評

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  • 最後の20ページくらいで急に来た!ほんと急に来たからびっくりした。
    それまでは過酷なおとぎ話の中の遠いきらめきだったナディアとサイードの関係が身に覚えのあるものとしてじんわり胸に迫ってくると同時に、なんだかよくわからないままぼんやり読み過ごしていた細部が俄然光って見えはじめ、自分の迂闊さに焦る焦る。これ、もいっぺん最初から読み返さなきゃダメか…と肩を落としたところ、ネトフリで映像化されるという情報(オバマがからんでて、サイード役は『ゴールデン・リバー』が素晴らしかったリズ・アーメッドらしい)を得て、いつになるかわからないけどそっちを待ちたいと思った。
    「私たちはみな、時のなかを移住していく。」って、ほんとにそのとおりだなあ。

  • 体験した人にしかわからないようなリアルさと、ファンタジックな設定が共存している。国名はない、内戦に陥ったイスラム圏の街で死と隣り合わせで困窮する生活から「西」、ギリシャへ、イギリスへ、アメリカへと逃げだす。まさに中東やアフリカからの難民の状況を描く現代の物語だ。しかし移動手段がボートでも電車でもなく「扉を抜ける」という不思議な設定、どこでもドア。 「扉を開ける」という行為が、別の世界への移行を象徴しているように感じた。

  • 4.06/136
    『中東を思わせるある街で若い男女が知りあった。人目を忍んで二人は恋人同士になるが、内戦の拡大で街は荒廃し、命の危険を感じるようになる。そんな中、国境を越えられるという「扉」の噂を耳にした。果たしてその出口はどこへ通じるのか――パキスタン出身の作家が、世界中の移民たちの風景を交え、新天地を目指す人生を鮮烈に描く。』

    原書名:『Exit West』
    著者:モーシン・ハミッド (Mohsin Hamid)
    訳者:藤井 光
    出版社 ‏: ‎新潮社
    単行本 ‏: ‎189ページ

  • -静寂と、暗闇と、星々の明かりが広がる世界。

    こんなに読書に没頭したのはいつぶりだろう。文字を目で追ううちに周囲の物音は止み、内なる静かな場所にいた。波立っていた心が、落ち着きを取り戻していた。波長が合う物語を読むと、いつもそうなるように。

    『EXIT WEST』
    初めて知ったのは、Newsweek日本版の「世界を読み解くベストセラー40」という特集記事だった。
    当時はまだ邦訳が出ていなかったので、英語で読むしかなかった。それを、藤井光さんが訳した。うつくしい日本語で。
    それが『西への出口』だ。

    夜間の授業で出会ったサイードとナディア。
    昼は働き、夜や週末にデートをする日々。その生活は、しかし、長くは続かなかった。
    街に武装組織がやって来たのだ。夜間外出禁止令が出され、インターネットが一時的に止められた。それは、内戦の開始の合図だった。

    銃弾が飛び交う危険な状況下で、ふたりは再会し、サイードの家で一緒に住み始める。

    ふたりの夢は、外側の世界へ逃げて、生き延びることだった。
    「別の国に通じる特別な扉がある」と、人々の間ではまことしやかにささやかれていた。

    その噂を信じたふたりは、代理人にお金を払う。数日後、案内された扉を通じ、ふたりは別の国へ移動する。
    そして、難民生活が始まった。初めはミコノス島で、それからロンドン、そしてマリンで。運が悪ければ、排外主義者と衝突したり、反政府軍に撃たれたり、常に命の危険と隣り合わせの暮らしだった。

    過去に縛られないナディアと、故郷を想うサイード。ふたりは、自分たちの心がもはや取り返しのつかないところまで離れてしまったことに気づいた。ふたつの心の溝は、埋められないほど深くなっていた。

    人生では、どちらかを選ばなければいけない瞬間が、いくつもある。選んだ道も、選ばなかった道も、どちらが正解だったかなんて、結局のところわからない。

    ふたりは、努力してその溝を埋め、純愛を貫くのか。それとも別々の道を歩むのか。 結末は、わたしが想像していたものとは違っていたけれども、これでよかったと思うところに落ち着いていた。

    新潮クレストブックスは、海外文学好き必見のレーベル。世界中の珠玉の作品が邦訳され出版されている。この小説も選りすぐりの一冊だ。

    p21
    「アタカマ砂漠だよ。空気が乾ききっているし、澄み切っていて、ほとんど人もいないから、明かりがほとんどない。そこで仰向けになれば、天の川が空に見える。ものすごい数の星が、空に牛乳をこぼしたみたいになっている。それがゆっくりと動いていくのが見えるんだ。地球が動いているから。すると、宇宙で回転する巨大なボールの上に自分が寝転んでいるみたいな気になれる」

    p98
    自分たちの部屋がある。四方に壁があり、窓がひとつあり、扉には鍵をかけられる。それは信じられないほどの幸運に思えた。

    p150
    カップルというものは、もし相手にまだ目を向けていれば、移動するたびにおたがいが違うふうに見えるようになるものだ。人格とは白や青のようなひとつの不変の色なのではなく、照らし出されたスクリーンなのであって、どのような色合いを映し出すのかは周囲に何があるのかに左右される。

  •  内戦が起こりつつある国で出会ったサイードとナディアは恋人同士となるが、戦闘が激しくなり、街に閉じ込められたまま外を出歩くことも危険になってくる。
     そんなとき、まるでドラえもんの「どこでもドア」のような”扉”が世界中に出現して、別の場所へ瞬時に脱出できるようになる。サイードとナディアも手に手を取り合って「扉」を抜け、まずはギリシャの地へ逃げ込み、その後イギリス、アメリカへと別の理由で転々とする。

     「扉」が何なのかの説明はなく、むしろサイードたち移民や難民が置かれていた逆境、移動先で受ける迫害と受け入れる側の政治的葛藤を、俯瞰的視点から書いている。かと思うと、生活が徐々に安定していくに従いすれ違っていくサイードとナディアの感情の変化も丁寧に書かれており、ただの難民問題を扱った小説ではない深みがあった。特に、ホッと一息ついたロンドンでふとした相手の行動にイラっとする感情が生まれる瞬間はリアルだった。

     サイードたちが住む場所が定まらない不安定さを書いたシーンでは、最近読んだ『世界の「住所」の物語』というノンフィクションを思い出した。
     外国への移動時間が短くなり世界が小さくなった現在でも、自由な移動や移住・受け入れを望めない難民問題という重いテーマを扱いながら、人が安住の家を求める気持ちと、まだ見ぬ世界を求めさまよいたがる衝動、はかない男女の愛情をうまく絡み合わせ、ラストは少し希望を感じさせる終わり方だった。

  • 内戦の激しい故郷から扉を通って西へと脱出した恋人同士の2人の物語。扉の描写はSFぽいが、その他は世界の今、コロナ禍の今とも重なった。

  • とある中東の国の戦火を逃れる二人が潜ったのはある「扉」。

    どこでもドアのごとく、どこか別の国に通じているその先にあっても、住民との軋轢や摩擦がもちろんあり、安住の地があるわけではない一方で、どこか別の人もまた、その扉をくぐり続ける。

    180ページ程度の小説に鮮烈に描かれたグローバルな世界の縮図。いまだに小説って新しいことができるんだなあ。

  • 粗筋からいうと結構悲惨。中東が舞台。宗教はイスラムっぽい。既にこの土地に難民が入り込んでいるが、武装勢力と政府の紛争で周りの人や知り合いが死んだりしていて、外出も制限され、食糧物質は不足。船や飛行機でなく、仲介者により「扉」を使用し、別の場所に行けるという。若いカップルは旅立つ準備をする。最初から貧しい生活をしていたせいか、逃亡した先でも2人とも精神的に安定していて、悲壮感はそれほどない。うーん。普通の本って感じで、どうも他の方ほど、この本に陶酔する要素は見当たらなかった。

  • 最初の数ページで断念した。
    普段は面白くなるまで読んで見るんだけど、だいたい面白くないまま終わるので。

  • まさに今を捉えた移民文学とも言える作品。濃くなく淡々と描かれるさまがこの手の作品によくある重たさから開放されている。しかしそこに流れる漠然とした不安とそれに抗う生命力が、微かであるものの一筋の光となって物語に不思議な力を与えている。71

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