トリック (新潮クレスト・ブックス)

  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (400ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784105901578

作品紹介・あらすじ

少年は信じる、魔法の力を。70年の時を超えて甦る、極限下の奇跡――。プラハの貧しいラビの家からサーカス団に飛び込み、ナチス政権下を生き抜いた老マジシャンと、LAの裕福な家に育ち、両親の離別に思い悩む少年。壊れた愛を取り戻す魔法は、この家族に何をもたらすのか――。戦時下と現代、それぞれの艱難を越えて成長するユダヤ人少年の姿を温かな筆致で描く、17ヵ国語翻訳のデビュー長篇。

感想・レビュー・書評

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  • 20世紀の初頭、プラハで1人の男の子、モシェが生まれた。ユダヤ人の聖職者とその美しい妻の間に。けれど、そこには1つの秘密があった。父親は少年を厳格に育てたが、少年はある時見たサーカスの世界に魅かれてゆく。
    21世紀の初め、ロサンジェルスで1人のユダヤ人少年、マックスが11歳の誕生日を迎えようとしていた。少年には悩みがあった。父と母が離婚しそうなのだ。2人の離婚を何とか止められないのか。夢見がちな少年は、かつて有名だったという1人のマジシャンに願いを託そうとする。

    20世紀中欧と、21世紀アメリカ。
    1章ごとに2つの物語は視点を変え、やがて交錯する。

    モシェが魅入られたのは、謎めいた仮面をつけた「半月男」と、ペルシャのアリアナ姫の魔術だった。消えたかと思うと現れ、刺されたはずなのに無傷の姫。妖しい美しさにモシェは魂を奪われる。

    マックスが探し出した老マジシャンは偏屈でスケベでわがままだった。およそヒーローとは掛け離れた人物だが、少年は彼を信じ、彼に賭けようとする。父が持っていた古いレコードには、若き日のかのマジシャンが「永遠の愛」を叶えると唱えていたから。

    モシェの20世紀とマックスの21世紀の間には、もちろん、ナチスとホロコーストが横たわる。
    モシェはその荒波を超える。それには大きな代償が伴った。左腕を損ない、愛も故郷も失った。
    21世紀のマックスにもそれは無縁ではなかった。ある1つの「トリック」がなければ、彼の運命は大きく変わっていたかもしれなかった。

    読心術の種明かし、ステージマジックの仕掛けといった、魔術のディテールが楽しい。
    妖しく美しい舞台の描写にもうっとりさせられる。
    重い事件も含みつつ、著者の筆は、温かくウィットに富み、軽妙だ。まるで熟練のマジシャンのテーブルマジックを見るように。

    別々の大陸、別々の時代を描く物語は、終盤で1つになる。
    生きていることは、それだけでひとつの祈りなんだ。

    モシェの父の言葉が、遠く、深く響く。

  • ユダヤ人であることを捨て、ホロコーストの時代を奇術師として生き抜いたザバティーニと、両親の離婚に心を悩ませ、なんとか二人に愛を取り戻せさせたいマックス。

    戦時下での過ちにより生を受け、鬱屈した生活の中で旅回りのサーカス団に心を魅了され、奇術師になることを目指したザバティーニの生い立ちから青年時代は一人のユダヤ人の数奇な人生譚としておもしろい。

    その奇術師が現代の悩める少年マックスと出会い、すったもんだの末、愛の魔法を披露することに。
    そこで明らかになるもう一つのエピソード。
    過去があって現在がある。
    連綿と続く人の命、家族の愛の物語。

  • 第二次大戦頃のプラハに生まれたユダヤ人の少年モシェ。旅の奇術師一座を見て魅了され、母親の死を機に家を飛び出し、奇術師に弟子入りする。そして一座の美少女とともに一座を飛び出し、ペルシャ生まれの奇術師としてナチスの時代にスターになっていく。
    一方、現代のロサンジェルスに暮らす少年マックスは両親の離婚の危機に心を痛めている。古いレコードの中に奇術師の「永遠の愛の魔法」を見つけ、その奇術師を探し始める。

    稀代の奇術師の波乱万丈の人生と、両親のよりを戻そうとするマックスとの大団円…と思いきや、後半から何やら雰囲気が変わっていく。ユーモアあふれるお話と思っていたのが、ホロコーストの悲劇を生き抜いた大きな愛の物語だった。伏線がうまく最後に結ばれている。

  • 人はなぜ本を読むのか。知らなかったことを一つでも知り、賢くなったつもりを装うためか。なんにせよ、本もテレビも、人はドラマを求めていて、それができるには人間が一生懸命に生きた証がないと成立しないのかな。子供時代、祖母の満州引き揚げ体験をうんざり聞かされていて、トラウマだが、紛れもなくドラマでしかなく、人とは、懸命に生きた存在を尊重し求める生物なんだろうか。確実に我々が存在してる世界は戦争があり、人種差別が行われてきた。よりよく生きる判断っていうのは難しい。それが間違っているのかわからない。自分の感想も。

  • ★3.5
    ナチス政権下のベルリンで奇術師として活躍する青年モシェと、現代のロスで両親の離婚に悩む少年マックス。正直なところ、モシェとマックスの出会い、モシェと彼女との再会はご都合主義な感が否めない。が、二つの時代が交互に綴られる構成、ナチスの横暴とユダヤ人の歴史等、興味を惹く要素が多分にある。そして、現在のモシェのエロ爺っぷりに苦笑しつつも、その裏にある悲しさと淋しさに思いを馳せる。悲劇をユーモアで包む手法に、映画「ライフ・イズ・ビューティフル」を思い出した。何はともあれ、モシェが救われて本当に良かった。

  • 素晴らしい。どこか懐かしく、どこか不安でナイーブで。
    読み終えて、温かいものに包まれていることを感じる。
    物語の魔法に、見事にかけられた。

  • ホロコースト、離婚と重たい話でも、軽く読める。ザバティーニの術?

  • 読むのに体力が要る物語だった。

  • 良かった……

  • タイトルがシンプルすぎて書評探すのに著者名も並記しないと引っかからない難があるのだが、読後はもうこのタイトル『トリック』が本作品のテーマというか命題というかすべてとしか言いようがない。

    かわいいモシェがスケベじじいになっていることはさておき、これほど生きていることに対して、人生に対して、根源的な奇跡のトリックが描かれる結末になるとは思ってなかったので感動しました。モシェ良かったね…。

    自分でも何言ってるか分かりませんが、モシェが許されたと確信できたことに涙を禁じ得ない!現実的なのにおとぎ話のような素晴らしい人間賛歌作品です。たまたま何かで紹介されてたから手に取ったんだが、良い出会いでした。

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