ミッテランの帽子 (Shinchosha CREST BOOKS)

  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (200ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784105901554

作品紹介・あらすじ

その帽子を手にした日から、冴えない人生は美しく輝きはじめる。舞台は1980年代。時の大統領ミッテランがブラッスリーに置き忘れた帽子は、持ち主が変わるたびに彼らの人生に幸運をもたらしてゆく。うだつの上がらない会計士、不倫を断ち切れない女、スランプ中の天才調香師、退屈なブルジョワ男。まだ携帯もインターネットもなく、フランスが最も輝いていた時代の、洒脱な大人のおとぎ話。

感想・レビュー・書評

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  • 『赤いモレスキンの女』以来、久々に戻ってきた。
    心が浮き立つような大人のおとぎ話。店先から漂う料理のいい匂い同様、表紙の装丁から既にいい出会いの予感がする……





    「(一部を除き)みんな盗癖ありすぎ笑」
    小説は好きだし読後感に浸ることもザラにあるけれど、「いやちょっと待て」とツッコミを入れることも多い。今回はまさかの初っ端からツッコミを入れるハメになったものの、物語が進展するにつれ、そうも言ってられなくなった。

    帽子の渡り方(?)が毎回違っており、「次は誰がどうやって?」と前の人のエピソードが終わる前から予測していた。会話の鉤括弧が(敢えて)抜かれているせいで誰の発言か分からなくなることもあれば、無理やり運命を動かそうとして失敗しないかと心配をしたりと思考を巡らすのに忙しい。
    でも帽子を手にした彼らはもはや無敵。こちらのハラハラを尻目に「心配ご無用」と軽快に切り抜けて見せる。

    「運命と言う偉大なGPSが決めてくれた経路をたどらない時、帰還不能を示す標識も見当たらない」

    帽子を手にした人々の運命を(その人達にとって)プラスの方向へと導く帽子。
    単なる偶然なのか。吉田氏(翻訳者)が仰るように「謎めいた力が宿っている」のか。そして何故ミッテラン大統領の帽子という設定にしたのか。帽子の持ち主はミッテランじゃなきゃ駄目だったのか。

    小説好きの人が聞いたら呆れるであろう、つまらない疑問の山をこしらえてもいた。これらの疑問はエピローグ・あとがきで明らかになるのだが、そこで語られるエピソードを知ってしまえば「タネを明かせ!」と躍起になっていたことが恥ずかしくなる。

    タネも仕掛けもない作用。一杯食わされた感じだけど、麗しの都って作用も働いているからか何だか悪い気がしない笑

  • とある帽子にまつわる連作短編。最近はずっと日本作家の方の書いた本を読んでいたので、久しぶりの洋書(和訳)が新鮮だった。

    舞台は1980年代のフランス。当時のフランスの様子に小説を通じて触れられ、大変興味深かった。タイトルのミッテランはもちろんミッテラン大統領のこと。ネタバレにならないよう詳しくは書かないが、登場人物のうちの一人が保守的な「右」側の人物だったところ、急に「左」に転換し、それに伴い手に取る新聞、付き合う仲間、家の装飾品などが見事に変わり、フランスの当時の支持政党によるイメージが分かり面白かった。それぞれの登場人物の行く末もしっかり描かれており、個人的にとても満足度が高い作品だった。

  • 1986年のパリ。
    仕事場で自分の意見を上司の顔色を伺うことでなかなか言えず、やや鬱屈とした気持ちを払拭しようとたまの贅沢のために高級レストランにやってきた、会計士のダニエル。
    運良くたまたまキャンセルが入り、予約なしで案内してもらえることになった。
    そして新しく入ってきて、彼の席の隣に座った客人は、なんと時のフランス大統領、フランソワ・ミッテランであった。
    ドギマギしながらミッテランたちの会話に聞き耳を立てつつ、ゆっくりゆっくりと食事をするダニエル…
    ここから紆余曲折あって、ミッテランの帽子の旅と、ダニエルを始めとしたミッテランの帽子を受け取った大人たちの、幸福へと導かれる物語がバトンのように引き継がれていく。
    帽子がどのように次は引き継がれていくのか、次はどのような人の元に辿り着くのかが気になりつつ楽しむ。
    この調子でミッテランの帽子はいったいどこへ行ってしまうのか…?
    1980年代のフランスの、行ったこともない地の情景を味わいながら、ついわくわくして読み進める。
    帽子はまさかの軌道を辿って物語は終わる!
    終盤に行くにつれて盛り上がるワクワクドキドキ。
    とても面白かった。
    エピローグとても好き。
    そして帽子に出会った人々の物語やその後の話も、愛着が湧く。
    さまざまな登場人物に幸福をもたらしていった帽子。
    本書背表紙に、大貫妙子さんの書評があり、引用させていただくと、「帽子が幸運をもたらしたとしても、それは本当は、それぞれの人に眠っていた力なのだ」。
    たしかに、きっと帽子がもたらしたのは、登場人物たちが自信をつけたり決断をしたりするキッカケだった。そしてそのキッカケをかれらはモノにした。
    なんだか素敵な愛用の帽子を一つ、買いに街へ出たくなるお話でした。
    あと牡蠣、今まで食あたりが怖くてなんとなく避けて食べたことなかったけど、本書を読んでいたら(そんなに美味しいのか…?)と少し食べたくなりました。
    さすが美食の国…

    あと訳者あとがきも、ミッテランや当時のフランス情勢について軽く解説してくれていて読むとお得だ。
    しかしそのあとがきの中で一番驚いたのは、他ならぬ本書の原作者、アントワーヌ・ローランとミッテランの帽子との出会いについてなのだ!
    その出会いを通じて、単行本のカバーには本物のミッテランの帽子が使われることになったとのこと…ロマンだ。
    そうだ、この物語すべてが、ロマンに溢れている。 

  • 「その帽子を手にした日から、冴えない人生は美しく輝きはじめる。」

    元フランス大統領フランソワ・ミッテランが置き忘れた帽子をきっかけに、くすぶっていた4人の人生が大きく変化していきます。

    1人1人にどのように帽子が渡っていくのか、そして何をきっかけに離れてしまうのかもこの本の見どころの一つです!

    あまりフランス文学は読んできていませんが、この本はトップクラスに気に入りました。

    本編を読んだなら、是非訳者あとがきのところまで読んでほしいです!

  • 夢があるなあ。

  • 80年代のパリを舞台にとった、往年のフランス映画を見ているような、小粋で洒落たコントになっている。近頃の小説は、どこの国のものを読んでも大差がなく、深刻で悲劇的、ネガティヴな印象を持つものが多い。時代が時代なので仕方がないこととは思うが、毎度毎度そんな話ばかり読んでいると気がくさくさしてくる。せめて本を読んでいるときくらい、クスッとしたり、元気を得たりしてみたいと思う、そんな人にお勧めの一篇。

    ミッテランといえば、ある年代の人ならすぐ思い出すのが、元フランス大統領、フランソワ・ミッテランその人である。一度は選挙に破れるものの無事返り咲いて社会党政権を率いた世界のリーダーの一人だった。ルーブル美術館の前庭にガラスのピラミッドを作ったのも、新凱旋門を建てたのもミッテラン政権のときだった。これは、そのミッテランが大統領であった当時の物語。当然、帽子の持ち主のミッテランは大統領のことである。

    昔話によく出てくる「呪宝」と呼ばれるものがある。樹々や鳥の話す声を聞くことができる「頭巾」(ききみみ頭巾)や、それを着ると姿が見えなくなる「蓑」(天狗の隠れ蓑)などがそうだ。力を持たない民衆のあこがれやはかない願望を託された、今ふうにいえば魔法のアイテム。この話の中では何の変哲もない黒いフェルトの帽子がそれにあたる。ただ一つ、それがそんじょそこらにある帽子とは帽子がちがう。裏の折り返しに金字でイニシャルが、F.M.と入れてある。ミッテラン大統領愛用の帽子である。

    ブラッスリー、というのは元はザワークラウトなんぞをあてにビールを飲ませる店のことだったが、今では一流レストランやカフェも、ブラッスリーを名のる。予約を確認しているところから見て、この話に出てくるのは、かなり高級レストランだろう。なにしろ、隣の席で大統領が食事をしているというのだから。それにしても、SPもつけず、一般人と一緒に食事を楽しむとはさすがに左派の大統領だ。気さくさを宣伝する散歩に、SP で脇を固めるどこぞの首相とは大違いだ。

    その大統領が店に置き忘れた帽子を手に入れたのが、ダニエル・メルシエ。ソジェテック社の社員である。人事問題でストレスを感じていた彼は新しい一歩を踏み出すためにこのブラッスリーを訪れ、この帽子に巡り会う。自分のもののような顔をして帽子を手にしたダニエルは意気揚々と我が家に帰る。その次の日からダニエルは人が変わったように会議で自分の意見を遠慮なく発表し始め、いつの間にかルーアン支社を任されるまでになる。

    どうやら、この帽子はそれを手にする者の裡に秘められた潜在的な資質を表に出すため、背中をひと押しする役割を担っているようなのだ。ところが、ダニエルは大事な帽子をル・アーブル行きの列車の網棚に置き忘れてしまう。丁度降ってきた雨を除けるために、それを手にしたのがファニー・アルカン。本を読んだり書いたりするのが好きで作品を書きためている。現在は先行きの見えない既婚男性と不倫関係にある。

    もうお分かりだと思うが、ファニーが帽子をかぶると、不倫相手は別の男のプレゼントだと勝手に思い込んで別れ話を始める。ファニーはファニーで、出て行った男に未練を感じることもなく、帽子と出会ってからの経緯を手持ちのノートに書きはじめる。やがてそれは一篇の小説となり、文学賞を受賞することになる。この調子で、帽子は次々とちがう人物の手に渡り、それぞれの人物の運命を変えてしまうことになる。

    帽子を手にすることになるのは四人の人物で、あとの二人は香水の調香師と資産家のブルジョワである。天才的な調香師だったピエール・アスランはいくつかの名作を世に出したものの、ここのところは長いスランプに苦しんでいた。ところが、公園のベンチで二つの香水の薫りが混じりあった帽子を見つけてからは生活が一変する。道行く人の香水をあてるゲームもかつてのようにできるようになり、新作まで思いつく。

    ブルジョア階級の夜会に退屈しきっていたヴェルナールは、ふだんなら聞き流していた会話にひっかかりを感じ、猛然と反論を始める。反動の人士が集まるその席では、大統領のことをミットランとわざと発音を替えてからかうのがならいだった。ところが、ブラッスリーでクロークが取り違えた帽子を渡されたヴェルナールは俄然ミッテラン擁護の論陣を張る。さらに翌朝、いつもなら右寄りのフィガロを買うのに、なんと左派のリベラシオンを買って帰る。

    このヴェルナールの変貌ぶりが80年代フランスのブルジョア階級の暮らしと文化をカリカチュアライズしていて、アンディ・ウォーホルやバスキアまで登場するパーティーのドタバタ劇がとことん笑わせてくれる。さらに、アメリカのTVドラマ『ナイトライダー』まで登場するのはご愛敬だ。当時フランスではテレビのチャンネルが限られていて、特別なチャンネルに加入しないと見られない番組があったらしい。

    エスプリがきいた軽いタッチで洒落のめしながらも、勢いのあった80年代フランスの人々の日常スケッチを通し、料理やワインの蘊蓄を傾けながらもさらりと流し、最後には水の都ヴェネチアのカフェ・フロリアンで、帽子が大統領のもとに帰るまでをノンシャランに描いていく。軽い気持ちで立ち寄った店で思わぬ拾い物をしたような気にさせてくれる上質のフランス製のコントである。


  • 始まりはかなり身勝手ではあるものの
    一つの帽子が数人の人生に関わり、
    運命を劇的に変えていく…、
    実に美しく、シックな物語だった。

    読み始めは、カタカナ名や単語が
    多く現れる度に混乱しそうだったが
    読み進めていくと、重要な人物は
    自然と名前と共に印象が残っているし
    そうでないものは今留めなくても良い、と
    軽い気持ちでストーリーを楽しむことが出来た。

    背景となる地や風景への描写が多彩なため
    映像化されたらより美しいだろうな、とも。

  • 1980年代のパリ。ミッテランが置き忘れた帽子…次々と持ち主が代わっていく。
    その度に彼らの人生が変わるほど不思議な力を持っている。
    生きている中でそれと意識することのない度重なる偶然が人生を大きく変えるなんて…
    まさしく大人のおとぎ話。

    現実、自分なら拾わないだろうけど(苦笑)

  • (あらすじ)
    冴えない会計士のダニエルは妻子が帰省している間ちょっと贅沢なレストランで夕食を取っていた。隣のテーブルに後から来た客を見て驚愕した。その中の1人は事もあろうにミッテラン!

    ミッテランが帰ったあと椅子の上の忘れていった帽子をダニエルはこっそり拝借してしまった。すると、何故か自信が出てきてこれまで逆らった事のない上司に自分の意見をはっきり言い切った。それがきっかけになって出世の道が開けた。

    この帽子が人から人へ渡るたびに、それを手にした人の生活に変化が起こる。不倫関係から抜けられなかった若い女性、スランプの陥ってる調香師、古い慣習に縛られてる上流階級の男。
    ーーーーーーーーーーーーーーーー
    コメディー映画のようの帽子が人から人へ思いもしない形で渡っていく。最初のダニエル以外はその帽子がミッテランのものだとは知らないのだが、それを手にした事で運が開け、いわゆるラッキーアイテムとして扱う。

    最後の章はちょっと…どうかな…?と思うけど、ま、いいかな。

  • 国父と称されるミッテランが、黒いフェルト帽を置き忘れる。その帽子は何人かの手に転々と渡る。帽子は人々に自信や勇気を与え、くすぶっていた日常を好転させる。

    帽子を手にした一人、ファニーが、未来のない不倫を断ち切る場面がかっこよくそして爽快だった。
    そこのくだり、「人はどうしたら他人の人生からいとも簡単に姿を消すことができるのだろう。それはたぶん他人の人生に入り込むのと同じくらいに簡単なことなのだ。偶然に交わされた言葉、それが関係の始まり。偶然に交わされた言葉、それが関係の終わり。その前は無、その後は空」。


    ミッテランの帽子は四葉のクローバーのよう。
    少し自信喪失して元気のない人、この本を読んでみるといいかも。四葉を探す感覚で。

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