帰れない山 (Shinchosha CREST BOOKS)

  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784105901530

作品紹介・あらすじ

街の少年と山の少年 二人の人生があの山で再び交錯する。山がすべてを教えてくれた。牛飼い少年との出会い、冒険、父の孤独と遺志、心地よい沈黙と信頼、友との別れ――。北イタリア、モンテ・ローザ山麓を舞台に、本当の居場所を求めて彷徨う二人の男の葛藤と友情を描く。イタリア文学の最高峰「ストレーガ賞」を受賞し、世界39言語に翻訳された国際的ベストセラー。

感想・レビュー・書評

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  • 北イタリアの山岳地帯に住むブルーノと、ミラノ育ちのピエトロの心の交流を描いた本作。そして2人を繋ぐ役割としてピエトロの父親が物語の軸、キーパーソンになっている。ピエトロ同様に著者も、幼い頃から父親との登山に親しんでおり、本書は彼の自伝的小説とも言える。

    生きてきた中で山登りと呼べる経験は数えるくらいしかしていない。そのせいか少年期のピエトロが経験したような登山中の息切れや吐き気は何となく想像が出来ても、登山の喜びや山への愛情に関してはあまりピンと来なかった。映像化されてようやく完全に物語を味わえるレベルなのが、ちょっぴり悔しい。

    でも弱音ばかり吐いてはいられず、何とか想像を巡らそうとしたのも事実。ピエトロも終わりにかけて山への郷愁を覚えていったんだし。
    終わりにかけてと言えば、2人の友情も段々確かなものになっていく。ピエトロが自然と上手く共存しているブルーノに憧れを抱いていた一方で、当のブルーノは心を許していたには違いないがぶっきらぼうだった。
    それが長い年月の末に「今でも友達だよな?」とブルーノ側が確かめるようになっていて、こちらとしてはジーンと来るしかなかった。(波瀾万丈まではいかずとも、ここに行き着くまでに色々と紆余曲折があったから…)

    「ここに登ったのは何年ぶりだろう。誰とも会わず、麓まで下りることもなく、みんなで山にいられたら、どんなに素晴らしいだろう」

    母親やブルーノの証言から、また山頂に設置された登山者のノートから、父親の足跡や想いが明らかになっていくのも特筆に値する。
    特に2人のことを、遠い昔に失った無二の親友と自分に投影していると気づいた時には胸が熱くなった。日常生活では不機嫌な傍ら、山への執着が人一倍強いという、自己中な父親としか思えていなかっただけに尚更だ。

    乏しい登山経験同様、今まで読んだ山関連の小説も『塩狩峠』『八甲田山 死の彷徨』と、かなりハードなものに限られていたが……
    ここで初めて例外を知ることになった。
    文章が優しい。優しく包んでくる。あれだけピンと来ていなかったのに、2人の遊び場だった沢や父親と3人で向かった氷河といった山のイメージも、ぼんやりとだが目に浮かぶようになっていた。

  • 再読
    北イタリア、モンテ・ローザ山麓。都会の少年ピエトロは、夏の休暇を過ごすグラーナ村の少年ブルーノと出会い、友達になる。二人の男の葛藤と友情を描く。

    父との確執。孤独。葛藤。
    表情を変える山の魅力。時の流れ。
    最後にタイトル「帰れない山」の意味をおもう。


    メモによると、前に読んだのが2019年。再読しての気づきは、ブルーノが彼の母親について話したことが印象的だったこと。彼女には自分と近いものを感じるからかもしれない。

  • 前篇 五感をひらく自然描写 | パオロ・コニェッティ×松家仁之 朗読&トーク『帰れない山』 | パオロ・コニェッティ , 松家仁之 | 対談・インタビュー | 考える人 | 新潮社(2019年4月3日)
    https://kangaeruhito.jp/interview/6536

    山岳文学の新しい峰『帰れない山』 - 京都ドーナッツクラブのブログ
    https://kdc.hatenablog.com/entry/2018/12/10/204246

    Takumi Sugiyama Illustration
    http://inori-books.net/index.html

    パオロ・コニェッティ、関口英子/訳 『帰れない山』 | 新潮社
    https://www.shinchosha.co.jp/book/590153/

  • 北イタリアの山を舞台に、夏の間だけ山で過ごす主人公と山の少年との友情、山男である父親との関係、それぞれの生き方など、浮ついたところのない文章で読ませてくれる。
    夏と冬で全く違う山の威容や自然の美しさが、目に浮かぶというのではなくただ力強く存在していると感じた。

    イタリアとも山とも無関係に生きてきた私でも、友達にもやもやしたり、反抗期があったり、親や自分の人生を思ったりと、共感するところがたくさんある。
    自分のことを振り返っては懐かしさを感じつつ、先の人生に思いを馳せた。
    どんなに寄り添っていても究極的には独りで、それは別に悲しいことではなくそういうものなのだと思う。

  • 良い時間を過ごした、そう思えた一冊でした。 一人の男が人生を振り返り静かに語るのをゆっくり聴いた(読んだのではない)感じです。

    ミラノに住む少年ピエトロは、毎年夏にイタリア北部のモンテ・ローザ山の麓で夏を過ごし、そこで牛の放牧をする少年ブルーノと出会う。
    山で遊び冒険をし、山は二人にとってかけがえのない存在となってゆく。
    登山好きの父親に4000メートル級の山に連れていかれ厳しさも知るが、次第に強引な父親への反発も強めていく。
    子ども時代過ごした山の描写がとても素晴らしい。

    ピエトロは大人になり山を離れ都会に暮らすが、父の死をきっかけに、再び山と向きあうことになる。
    父親が記録していた登山行程の地図を見たときのシーンは感動的だ。そしてピエトロは父の歩いた登山行程をなぞりながら山を歩く。父の姿を求めるように。
    山男のブルーノとも再会し、助けられながら父の残した山小屋を建てていく場面に胸打たれる。
    それは、父を理解するための作業であり、ブルーノとの友情を築き直すための作業でもあったのだ。
    ピエトロの父に対する気持ちの変遷が丁寧に語られている。
    子ども時代は夏山の情景だけだったが、大人になり同じ山の冬の姿が描かれる。それは夏には想像もつかない厳しさであり美しさでもある。人生とリンクするような山の描写がまた巧みで素晴らしい。

    男の友情、父と息子、男同士の関係がもどかしく、切なく、美しく、静謐。異性である私はその世界に魅せられました。

  • 雄大な自然、父や母という存在を背景に繋がる2人の少年の静かな友情が胸を打つ。寂寥と寂寞。何故なんだろう。

    北イタリア、無口な少年ピエトロは家族で訪れた名峰モンテ・ローザの麓で地元の少年ブルーノと出会う…

  • 体力に自信がないので、本格的な登山はしたことがない。ただ、山に対する憧憬はあり、旅をするときは信州方面に向かうことが多かった。落葉松林や樺の林の向こうに山の稜線が見えだすとなぜかうれしくなったものだ。子どもが生まれてからは八ヶ岳にある貸別荘をベースに、夏は近くの高原に出かけ、冬はスキーを楽しんだ。この本を読んでいるあいだ、ずっとあの森閑とした夜を思い出していた。

    北イタリア、モンテ・ローザ山麓の村を舞台に、ひとりの男の父との確執と和解、友との出会いと別れを清冽に描いた山岳小説。ピエトロは小さい頃から夏は両親に連れられ、あっちの山こっちの山と連れ回された。麓の宿に着くと、父は一人で山を目指し、母と子は近くを散策しながら父の帰りを待った。母は二週間も泊まる宿が毎年変わることを嫌がり、やがて一家は母が見つけてきた一軒の家を借りることになった。

    ミラノもネパールも出てきはするが、小説の主たる舞台はグレノン山を仰ぐグラーナ村だ。母が見つけてきたのは鋳鉄製のストーブ以外何もない家。集落の上方に位置するその家でピエトロは少年時代の夏を過ごす。僕の沢と名づけた沢で遊んだり、大家の甥であるブルーノという少年と廃屋を探検したり、ミラノ育ちの都会っ子は次第にたくましくなってゆく。

    「僕」が六つか七つのとき、初めて父と山に登る。父の登山はとにかく誰よりも早く頂上を攻めるスタイルだ。休むことなく一定のリズムで歩き続ける。迂回路を拒み、たとえ道がなくても最短距離のルートを選ぶ。そして、頂上に登りつめると興味をなくしたかのように、後は急いで家に帰りはじめる。「僕」は父の言うままに登山をはじめ、やがてモンテ・ローザ連峰の四千メートル級の山々に挑むことになる。

    ある年、父はブルーノと「僕」を連れ氷河を目指す。しかし、高山病にかかった「僕」は、クレバスを前にして吐いてしまう。一心に登頂を目指す父とはちがい、「僕」は山歩きの途中で目に留める風景や人々の様子に魅かれていた。思春期になり「僕」は両親と距離を置きはじめる。そして、ある日ついに「僕」はいっしょにキャンプしようという父に「いやだ」と言う。初めて父に対して自分の意志を表明した訳だが、父はそれを受けとめられなかった。その日以来二度と二人はいっしょに山を歩くことはなかった。

    父の死後「僕」は、父が自分にグラーナ村の土地を遺したことを知らされる。久しぶりに村を訪れた「僕」は、親子が夏を過ごした家の壁に張られた地図に記されたフェルトペンの跡に感慨を覚える。網目状に広がる線の黒いのは父、赤いのは「僕」、そして緑がブルーノの踏破した軌跡だった。「僕」が同行しなくなってから父はブルーノと登っていたのだ。そして、「僕」は久しぶりに大きくなったブルーノと再会を果たす。

    父が「僕」に遺したのは湖を臨む土地に「奇岩」(パルマ・ドローラ)と呼ばれる岩壁を背負った石壁造りの家だった。雪の重みに耐えられず梁が折れて屋根は崩れていた。父はブルーノにこの家の再建を頼んでいた。金がない、と躊躇する「僕」に、手伝いがあれば安く上がる、とブルーノは言う。父の思いは疎遠になった二人をもう一度近づけることだと気づいた「僕」は喜んで従う。吹っ切れたように家づくりに励むことで「僕」は、再び山に、そしてブルーノと過ごす日々に夢中になる。

    ネパールで出会った老人が地面に円を八分割した図を描く挿話が出てくる。八辺の上に八つの山を描き、その間に波状の線を描いて海だという。そして中心にあるのが世界の中心である須弥山(スメール)だ。老人は度々ヒマラヤを訪れる「僕」のことを「八つの山をめぐっている」のだといい、須弥山の頂上を極める者と、「どちらがより多くを学ぶのだろうかと問うのさ」という話をする。「僕」は、山から離れないブルーノのことを思う。

    ピエトロの母はどこにいても誰かと関係を結び、年をとっても孤独でいる気遣いはない。山に魅せられた男三人との対比が鮮やかだ。家族もいるというのに、牧場の経営が破綻しそうになっても山を下りる生活が考えられないブルーノ。いくつになっても独り身でドキュメンタリー・フィルムを撮る資金を集めてはネパールやチベットに通い詰めるピエトロ。放浪と定住という差はあるにせよ、山に縛りつけられている三人の男の桎梏がせつない。

    まるでその場にいるようなグラーナ村とそのまだ上にあるパルマ近辺の森や湖、湧きあがる雲、降り積もる雪の描写が素晴らしく美しい。初読時は一気に読み、次の日にはじっくり再読した。頑なな父の気質がどこから来たのか、それに悩まされながらも突き放すことなく粘り強く接し続けた母。その母は決して氷河の上を歩こうとしなかった。そこには深い訳があったのだ。

    原題は「八つの山」(Le otto montagne)。中央に聳え立つ山ではなく、その周囲にある山をさまよい続ける人々を意味するのだろう。邦題は逆に、中央の山を『帰れない山』と名づけている。その意味は最後の段落にある「人生にはときに帰れない山がある」という一文を読んで初めてわかる。深い喪失の悲しみに胸蓋がれる結末が読者を待ち受けている。それでも、何度でも頁を繰りたくなる。近頃めったと出会えない心に沁みる長篇小説である。

  • 同題名映画が映画サイトで話題になっていたので、何気に観たいリストに入れていたのだけれど、ふとした縁で原作を手に取る機会を得た。山を通じて知り合った二人の少年を、深く結びつけているのは、間違いなく孤独の魂なのだと思う。
    30年に渡って描かれる二人の男たちの、言葉を介さない心の共鳴が描かれていて、二人の友情を、羨ましくもあり、また何故か誇らしくもありといった、不思議な感情を抱かされた。
    題名の不穏さから、ある程度の結末の行方を想像しながら読んだけれど、もしこの作品が原題の「八つの山」であったなら、こうした読み方はしなかっただろう。この小説を見事に表した『帰れない山』は、いい題名だと思うけれども、この一点に関して言えば、少し残念な思いもある。
    もちろん、それを補って余りある日本語としての読みやすい文章に、端正な言葉選び等、素晴らしい訳であることは間違いない。
    山登りを趣味にしている者として、僕なりの山の景色を思い浮かべながら読み進めたが、描かれているモンテ•ローザなどの山のことを知っていたら、もっと深い味わいを残したことだろう。
    そういう意味で、映画で描かれているであろう山の景色の描写を観ることが、とても楽しみである。

    • ぱらりさん
      小皿さん、初めまして。
      いいねありがとうございます。
      映画はご覧になりましたか。
      私は、観ようと思いつつ先延ばしになってました。良い機会なの...
      小皿さん、初めまして。
      いいねありがとうございます。
      映画はご覧になりましたか。
      私は、観ようと思いつつ先延ばしになってました。良い機会なのでこれから観ます。
      2024/02/05
    • 小皿さん
      ぱらりさん、はじめまして。
      いいね、コメントありがとうございます。
      先ほど配信サービスを使って映画の方も鑑賞しました。
      総じて原作で描かれて...
      ぱらりさん、はじめまして。
      いいね、コメントありがとうございます。
      先ほど配信サービスを使って映画の方も鑑賞しました。
      総じて原作で描かれていた父と息子の葛藤や、ピエトロの孤独など描ききれず、原作を読んでいたから登場人物たちの機微を理解することもできたかなと思います。
      思い描いていた山や湖、山小屋のイメージとは違いましたが、これは許容範囲です。
      原作と脚本の問題で痛ましくも悲しい事件が世間を賑やかせていますが、まず、原作をリスペクトするのが僕の基本姿勢です。
      原作を超えられないもの、原作を凌駕するもの、いろいろありますが、どちらも別のものとしての僕の中に仕舞いどころがあるようで、影響を受け合っても侵食されることはないように感じています。
      甲乙など付ける必要もありませんが、今回は原作を先に読んでおいて良かったなぁと思いました。
      先に映画を観てしまっていたら、たぶん原作にてわのばしてなかったかもですもの。
      2024/02/06
  •  仕事や家庭生活を2番目にして、「山」を愛してきた女性を知っている。喜寿のお祝いを家族がするといっていると、うれしくなさそうでもないおしゃべりを先日聞かされた。彼女に、まず最初に薦めたい。
     読み終わったばかりで、うまくいえないが、「山」そのものを描いて、ここまで一気に読ませる作品がかつてあっただろうか。
    https://www.freeml.com/bl/12798349/1069459/

  • 先だって銀座でこの映画を見て、原作のこの本を購入。読み終わった。翻訳本だけどすごく読みやすく名訳だと思った。山の描写、山の生活、登山行、男の友情よく書けた本です。行間から都会でいきる人間にとっての山の意味するところ、厳しさが伝わってきます。お薦めします。

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