変わったタイプ (Shinchosha CREST BOOKS)

  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (448ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784105901516

作品紹介・あらすじ

世界が驚いた、小説家トム・ハンクスのデビュー作。月旅行を目指す高校からの四人組。西部戦線帰還兵のクリスマス。変わり者の億万長者とその忠実な秘書。男と別れたばかりの女がつい買ったタイプライター。ボウリングでセレブに上り詰めた男――。「良きアメリカの優しさとユーモアにあふれる短篇集」と各紙で賞賛された、人生のひとコマをオムニバス映画のように紡ぐ17の物語。

感想・レビュー・書評

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  • 「小説家 トム・ハンクス」のデビュー作は短編集。各所で彼の俳優経験も活きており、全体的に優しい風合い。普段はハッピーエンドより考えさせられる話を選びがちだが、たまには甘いものも食べたくなる。まぁその中にはほろ苦さもあったのだが。。

    全17篇をレビューするのは自分にとって至難の業なので、幾つか気に入ったのをピックアップしていきたい。うち数作品には内容が連関しているふしがあるけど、どの話も単品(⁉︎)として満喫できる。おまけにビターとスイートの調和もよく取れている。

    『クリスマス・イヴ、一九五三年』
    出だしは古き良きアメリカのクリスマスといった風。そこから10年前に遡り、冒頭の幸せは奇跡的に掴み取れたものだと読者は痛感することになる。ベトナム戦争の2年前でもあるからそれは益々貴重なものだということも。

    『心の中で思うこと』
    著者がタイプライター蒐集家であることから、ほとんどの章でタイプライターの描写や写真が登場する。(少々くどかった笑)
    中でも本作はタイプライター自体がメインテーマとなっており、尚且つ一番落ち着けた話だった。タイプライターは今でいうラップトップの筈なのに、主人公の女性みたいに妙な憧れを抱いてしまう。店主と女性の談義に自分ものめり込み、人生を変えるであろう一台に出会えた彼女のこれからに想いを馳せた。

    『過去は大事なもの』
    ジャンルとしてはSFにあたり、恐らく読者の多くが好きになった作品だと思う。何故なら普段はSFに疎い自分でも夢中になれたから。
    過去へのタイムトラベルが可能となった現代で、主人公バートが1939年6月8日へと時間旅行する話。「過去の写真に当時の服装にそぐわない人物が写っている」という都市伝説チックな話を耳にするが、本作では時間旅行会社なるものが当時の服装を手配してくれる。(他にも処置が盛りだくさんで全部が面白い!)
    何度同じ年月日(+時分秒)に遡ってもみんな合わせ鏡のように同じ言動をしている。当たり前のことだが、いざその現象を目の当たりにすると不思議な気持ちで頭がボーっとしてしまう。無論、ラストにも。

    『ハンク・フィセイの「わが町トゥデイ」』
    17篇のうち4篇は地方紙コラムニストによる「わが町自慢」のコラム。書き手の風貌が分からない分、どんな表情で記事を書いているのか等想像が膨らんでいく。内容はどうってこともないのだが、4篇を経てイメージが出来上がっていくのが何となく愉快だった。全篇にわたりタイプライターへの郷愁の念が強いことから、ひょっとしたらハンクさんはハンクス……何でもありません。


    途中まで著者特有の柔和ボイスで再生されていたが、以降は何度も著者のことを忘れるくらい読みふけった。筆のパフォーマンスもお上手だったとは…!

    • なおなおさん
      ahddamsさん、おはようございます。
      ほん3さんもおはようございます。横からすみません。

      トム・ハンクスさんが小説を書くなんて初めて知...
      ahddamsさん、おはようございます。
      ほん3さんもおはようございます。横からすみません。

      トム・ハンクスさんが小説を書くなんて初めて知りました。多才な方なんですね。
      ミュージカル映画「マンマ・ミーア!」の製作にも関わっているんですよね。
      知った時は驚きました(@@)
      「ハ、ハンクスさん!?」って(笑)
      「ハンクスさんが"ミュージカル"映画!?」と意外にも思っちゃいました。
      華やかな俳優業だけでなく、裏方に徹することもできる素敵な人だなと思いました。
      2022/08/07
    • ahddamsさん
      なおなおさん
      おはようございます!
      コメント有難うございます。
      「マンマ・ミーア!」もまたビックリでしたね∑(゚Д゚) あれだけ素敵な作品に...
      なおなおさん
      おはようございます!
      コメント有難うございます。
      「マンマ・ミーア!」もまたビックリでしたね∑(゚Д゚) あれだけ素敵な作品に仕上がったので、その力量も確かなものなんだと思います!
      出演作は数える程しか観ておらず(汗)穏やかな印象しかなかったのですが、今回読んでみてユーモアもある方だと実感しました。読書家でもあるので、絶対悪い人ではないと確信しています笑
      2022/08/07
    • なおなおさん
      ahddamsさん、お返事をありがとうございます。
      「マンマ・ミーア!」のメイキングDVDを持っていたんですよ、ミュージカル雑誌の付録か何か...
      ahddamsさん、お返事をありがとうございます。
      「マンマ・ミーア!」のメイキングDVDを持っていたんですよ、ミュージカル雑誌の付録か何かで。
      そこにトム・ハンクスが一瞬映っていたんですよ、確か。
      「あ!ホントだ!」と製作に関わっていることを再確認した覚えがあります^^;
      私も主演作は2、3作位観ただけなのに、何で好きなんだろう…。
      読書家さんなのですね。フムフム。良い情報を聞きました!ありがとうございます(^_^)
      2022/08/07
  • もう各方面で絶賛されていて、わたしの感想も同じだからいまさら書くことないなあ、って思うんだけど、とにかくよかった!
    今の話もあり、昔の話もあり、タイムマシンが出てくるSFあり、脚本あり、新聞記事の体裁もあり、映画業界の話あり、戦争の話あり、移民の話あり、ロマコメ映画にできそうな話あり、本当にバラエティに富んだ短編が17編。なにがすばらしいって、テーマとしては重かったり悲しかったりするものもあるんだけど、それでも全部が全部、ユーモアがあってファニーで温かい、ってこと。ぜんぜん嫌な気持ちにならない。いかにも「よきアメリカ」って感じがする。
    ……でも、トム・ハンクスのいい人そうな人柄(っていうか、実際に接したことがあるわけじゃないから、こういう人っぽいって勝手に思っているってことだけど)がすけて見えるような気がしながら読んでるからいっそうそう感じるのかもしれないけど。(個人的にファンだし……小説読んでさらに好きになったわ!)。
    俳優としても小説家としてもすばらしいっていったいどういう人間よ、と。俳優として優れているから、いろいろな人物の心を「声」として表現できるってことなのかも。

  • トム・ハンクスが小説を書いたと聞いて驚いた。読んでもう一度驚いた。
    知名度に寄りかかって奇をてらうではない、正統派の短編小説である。
    しかし、驚くことではないのかもしれない。
    脚本も手掛け、監督もこなしたことがある。その才は演じることだけに留まってはいないのだ。
    真面目で温かく、ユーモアもあり、ちょっぴりシニカル。
    作品の手触りはどこか、俳優としての著者の佇まいにも似ているようにも思われる。

    ハンクスは相当な読書家であり、タイプライター蒐集家としても知られているという。
    本書中の短編にはタイプライターが渋い脇役・重要な小道具としてそこここに顔を出す。
    作品の冒頭にタイプライターの写真が出てくるのも楽しいところだ。

    エネルギッシュすぎる恋人に振り回される男、第二次大戦の帰還兵、大女優の相手役を射止めた若き俳優、ぎくしゃくした家庭のティーンエージャー、スターになるのを夢見て田舎からニューヨークに出てきた女優の卵、アメリカに渡ったギリシャ移民。
    さまざまな人のさまざまな人生の1シーン。

    どんなに平平凡凡と思われる人の人生も、どこかしら何かしら変わったところはあるだろう。波瀾万丈か、と言われればそうとは言えないが、それでも、どこかドラマチックな部分というのはあるものだ。
    そんな味わいの短編集である。

    どの作品の登場人物もキャラクターがよく描き出されており、シーンは鮮烈に映像的である。同時に、どことなくあれこれと映画を思い出させる。著者自身が出演した「プライベート・ライアン」であったり、「アポロ13」であったり、あるいはそうではない「アメリカ・アメリカ」であったり、「ある日どこかで」であったり。
    著者自身がそうした映画を念頭に置いていたのかどうかは別として、エピソードの際立ち方が映画に似ているように感じられる。

    ストーリーはひねり過ぎず、どちらかというとシンプルだ。古き佳き「アメリカ」をそこここに感じさせる。
    すべての作品を非常に堪能したとは言い切れないのだが、個人的によかったのは、「光の街のジャンケット」、「ようこそ、マーズへ」、「配役は誰だ」あたりだろうか。
    実のところ、このうち1編はバスで読んでいて、久しぶりに停留所を1つ乗り過ごした。意外な展開というわけではないが、なかなか楽しかった。

  • 「変わったタイプ」
    初の小説集。


    トム・ハンクスという名前を見た時、同姓同名だと思ったら、調べてみたら本当にあのトム・ハンクスだった。とひと驚き。日本でもよくある作家デビューなのかと期待半分疑い半分でいたら、ちゃんと小説を保った文章と表現、人物描写やストーリー性を感じる。と言うか、アメリカらしさ、そう、カントリーを感じる。ふた驚き。じゃあカントリーさって何?て考えた時、うまい表現が出来ない。完全にアメリカ文学における知識不足である。


    しかし、初の小説「アラン・ビーン、他四名」が掲載されたのは、「ニューヨーカー」(2014年10月27日号)は、アリス・マンロー、J・D・サリンジャーのような錚々たる作家が名を連ねていたいわば文芸の聖地たるスペースであり、であれば、初小説に続いて書き上げられたその他16篇の完成度が高くても不思議はない。どれもナイス。


    個人的には「へとへとの三週間」が一番読みやすく、映像も浮かびやすく、アンナにぴったりの男でなければよい、とのフリからの終わりもユーモラス。


    タイトルは「変わったタイプ」でUncommon Type。これに関しては、堀江敏幸の言葉がぴったし。「正しい意味でUncommonなのは、登場人物を迎え入れる世界ではなく、この短篇集の書き手のほうだろう」。タイプライターマニアだからこんなに上手く書けるのか(な訳ない)。


    ちなみに、これら16篇は編集者に何篇は書いてみれば?と言われて書いてしまったらしい。え、貴方は天才ですか?

  • 装丁から、挟み込まれた古いタイプライターの写真のそれぞれ、そして、挿入された新聞記者のコラム。更に愛すべき「変わったタイプ」の短編達。
    どの作品もすぐにでも映画のように情景が生き生きと浮かんでくる。古い映画のファンの私には、慣れ親しんだシチュエーションやら趣向、そして想いを感じ取るだけで楽しい時間だった。

    中でも「Go See Costas」のラストでは思わず涙、分っているんだけどね。ちょっと間を持たされたから、その分ね。上手いなぁ。

  •  図書館で借りた本。

     トム・ハンクスが好きだ。『アポロ13』も『フォレスト・ガンプ』も『エルヴィス』も好きだが、『すべてをあなたに』が一番。本人がプロデューサー役で出演しているのはもちろん、監督として撮っているのがいい。

     この本は、そんなトムの趣味全開で、初っ端からオールディーズが頭の中でガンガン鳴っている短編。ビーチボーイズやらアメリカやら、7月4日に流れてる音楽。
     そして、映画の1シーンのような切ない物語が、次々と繋がる。タイプライターと型という意味でのタイプがかかっているのも、リズムを刻む機械というのも、らしくて良い。

     多才な人っているものなんだなと、あ、いや私の好きな物ばかり集めた話なのが嬉しいが、知らない人には、昔の音楽も宇宙の話も下敷きにされているものがわからないと内容も理解できなくて、つまらないのかもと。

     オールディーズと昔の映画とジュール・ヴェルヌの好きな人には、大絶賛で勧めたい本。

  • 面白くないわけがない。

    俳優としてあれだけの役をこなした上、監督や制作でも才能を見せつけて、足りないのは「時間」だけ。
    有名であるが為、最初から高いハードルがある。何もしなくても既に名声を得ており、その分やや損しているにもかかわらず…。

    とにかく、読み進めていくと登場人物がどんどん映像化されていく。
    『ようこそマーズへ』や『特別な週末』は、そのままで「少年の成長」ドラマのエピソードとなり、『ヘトヘトの三週間』『アランビーン、ほか四名』『スティーヴ・ウォンは、パーフェクト』は「おかしな四人のオシャレな生活」となる。
    『クリスマスイヴ・一九五三年』は映画『プライベートライアン』のようなドラマに膨らみ、『コスタスに会え』はそれだけで社会性の強い映画が一本できそう。

    才能がうらやましい…。

  • トム・ハンクスらしいさりげなくも味わいのある短編集。間に入るコラムっぽいのもまた良い。俳優としての経験がいいように熟成されたような感じで、次作も期待したい。

  • こういう短編すごく好き。Oヘンリーと似てるという紹介文を見かけたけど、私はそうとは思わなかったな。audibleは本人の声みたいなので、音声でも読んでみたい。

  • ★3.5
    俳優トム・ハンクスの作家デビュー作で、全17編が収録された短編集。著者が出演した映画のように、様々なジャンルの作品たちが並ぶ。そして、新聞の段組を用いたもの、脚本調のもの等、遊び心が満載。各話の扉写真に使われたタイプライターが、ちゃんと話中に登場するのも面白い。甲乙付け難い作品ばかりだけれど、特に「クリスマス・イヴ、一九五三年」「コスタスに会え」がお気に入り。また、何度も登場する高校時代からの4人組が楽しく、アンナのタフさに驚くばかり(笑)。「印刷室の言えない噂」の誤変換に思わず笑ってしまった。

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著者プロフィール

トーマス・ジェフリー・"トム"・ハンクス
(Thomas Jeffrey "Tom" Hanks)
1956年、アメリカ合衆国カリフォルニア州生まれの俳優、映画監督、プロデューサー。 
1980年「血ぬられた花嫁」で映画デビュー。1988年「ビッグ」でゴールデン・グローブ賞主演男優賞を受賞。1993年「フィラデルフィア」、1994年「フォレスト・ガンプ/一期一会」で2年連続アカデミー主演男優賞およびゴールデン・グローブ賞主演男優賞を受賞。2000年、「キャスト・アウェイ」で4度目のゴールデン・グローブ賞主演男優賞を獲得した。
1996年、監督作『すべてをあなたに』を発表、映画監督としても高い評価を得ている。2014年からは短編小説を執筆しており、それらをまとめた "Uncommon Type: Some Stories" を2017年10月に刊行。2018年8月に邦訳『変わったタイプ』で翻訳が刊行される。

トム・ハンクスの作品

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