ファミリー・ライフ (Shinchosha CREST BOOKS)

  • 新潮社
3.71
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本棚登録 : 228
感想 : 26
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  • Amazon.co.jp ・本 (216ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784105901431

作品紹介・あらすじ

家族の暮らしを一変させた、ある夏の事故。愛情と祈りに満ちた感動の家族小説。インドからアメリカに渡り、ささやかな幸福を築いてきた移民一家の日常が、夏休みのプールの事故で暗転する。意識が戻らない兄、介護の毎日に疲弊する両親、そして悲しみの中で成長していく弟――。痛切な愛情と祈りにあふれる自伝的長篇を、繊細であたたかな小野正嗣訳で。フォリオ賞・国際IMPACダブリン文学賞受賞作。

感想・レビュー・書評

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  • 同じようなありふれた不幸を経験したものとしては、心から共感できるものだった。

    子どもに突然訪れた不幸は、もちろん人生を変えるが、その変わり方は親ときょうだいでは違う。親はとことん悲しみ、必死に状況を良くしようと努力する。生きることの中心が不幸な子どものことになる。が、きょうだいはどこか客観的に見てしまう。学校に行ってその不幸を一瞬忘れ、楽しく感じたりもする。親がすがるまじない師を滑稽だと思ってしまう。しかし、いつも100%楽しめるということはないし、自分が普通に生きることについての違和感を抱えながら生きることになる。
    そのあたりが、本当にリアルに描かれている。
     物語にカタルシスを求める人には薦められないが、きっとたくさんの似た経験をした人(訳者もそうだ)には、同じ後ろめたさを感じている人がいることは、救いになるのではないかと思う。
    幸いにしてこういう経験はしないで大人になった読者は(あんまりこういう本を読みたくならないような気もするが)、こういう人も自分の身近にきっといる、学校でなんだか嫌なことばっかり言ってた嫌われ者にも、もしかしたら深いわけがあったのかもしれない、と考えてくれたらいいな。

  • 風の噂でこの本の評判を耳にして、
    心惹かれて読んでみた。

    作者アキール・シャルマさんの
    自伝的長編。

    インドからアメリカに渡ったある家族、
    成績優秀で家族の期待も高かった主人公のお兄さんが、
    ある日プールの事故で意識不明の寝たきりとなってしまう。

    先の見えない介護の日々、
    学校や近所の人のふるまいに傷つけられ、
    また人種差別の問題もあって、
    読んでいても心は落ち込むばかり。

    また、
    どんなに頑張っても意識不明の兄と比べられ
    認められないと悲しむ主人公、

    現実から目を背けたくなり、酒におぼれてしまう父親。

    でも解説に「怒りにとりつかれた母親」とあったけれど、
    私は、このお母さんが一番現実をみながら
    精一杯頑張ってると思って、胸が痛かった。

    主人公(書き手)は大学進学で家を離れ、
    立派な会社に入り、仕送りをして家族を支える、

    この方が勉強などがむしゃらに頑張ったとは
    思うんだけれど、

    この主人公が女の子だったら

    多分違っただろうな、と思った。
    ほぼ一人で介護に奮闘するお母さんを置いて、
    大学進学の為、家を離れられただろうか?ってね。
    と言うか、つまり自分だったらってことだけどさ。

    とまあこんな風に、
    読んでいる間も、読み終わった後も、
    色々考えて、心は晴れない本。

    急に何かが起こって、
    一変するってこと、あるんだよね。

  • 自分も娘を家族を介護しているので、毎日の介護の途方もなさ、淡々と過ぎる日常の描写を親近感を持って読むことができた。
    作者がモデルである主人公のアジェが作家として目覚めるくだりがスリリングでリアルだった。寝たきりの兄を入浴させている父のパジャマが濡れて、下着が透けて見えるようになる様子がを見つめ、自分たちの苦しみが文章になるのだということを発見するアジェ。
    視点がグルリと変わる瞬間を捉えた場面だった。
    図書館で手に取り、最初の数ページでこれはいいかも、と思って読んだのだが、思わぬ拾い物をしたな。
    あとで気づいたけど、翻訳が、小野正嗣ではないの。

  • 兄弟が致命的な障害を負った、残された兄弟がどう感じるか。悲劇が自分に起こらなかった安堵、安堵を覚える罪悪感。
    成長とともにつかむ葛藤から解き放たれるコツ。
    成功して振り返る、自分の家族の有り様。

    『肉親が病気になったり事故にあったりするという経験は決して珍しいものではない。回復の見込みのない状態に陥った肉親を長期間介護するという体験は、一見稀有な体験に見えるが、人間が死すべき存在である以上、どんな家族にも、誰の身も起こることだ。』(あとがき)

    204ページ、目が離せなかった。

  • アキール・シャルマの自伝的小説。アメリカへのインド人移民がまだ少なかった頃にアメリカへ移住した一家。ある夏の日、たった3分の間に起きた事故で、兄は永遠に寝たきりになる。主人公が成長し、父がアル中になり、家庭環境が変化しても、それと対比させるように兄の描写がある。あの夏の日以来、何一つとして変わらない、回復もしなければ容態が悪くなることもない兄。家族の中で兄の存在感はとりわけ大きかった。主人公が中学生になるまでの話が全体の半分、大学以降の話は数ページ。人生って、そんな風に過ぎていくのだろうな。

    p48
    フェンスのそばを歩きながら、息ができなくなるくらい激しく泣きじゃくるのもしばしばだった。そんなとき、僕は自分から抜け出した。僕は歩きながら喘いでいる。と同時に、僕自身の不幸が僕のそばを歩きながら、ぼんやりのなかに戻れるよう、呼吸が静まるのを待っているのがわかった。

    p55
    袖なしの下着を着て、腕と肩をタトゥーで覆われたミュージシャンは、インタビュアーを無視するとカメラに向かって叫び始めた。「俺を見るんじゃねえ!自分の人生を生きろ!俺はおまえじゃねえ」僕は突然強い衝動に駆られた。キッズルームから飛び出すと、ホールを抜け、病院から出た。

  • ★3.5
    寝たきりの息子を持つ両親も辛いけれど、寝たきりの兄を持つ弟もかなり辛い。幸せを実感した時には罪悪を感じ、良い成績を取った時には過小にしか評価されない。両親が手一杯なのは分かるけれど、アジェにも目を向けてほしい、と思うことが多々。が、そうは言うもののアジェもなかなか辛辣で、兄ビルジュにかける言葉や思うことは残酷なまでに率直。恐らく、それは介護に向き合った人にだけ言えることなのだろう。そして、崩壊しそうになりながらも家族であり続けられたのは、悲しみや怒りの向こうに共有できる慰めがあったからだと思う。

  • 数時間で一気に読了。
    70年代、インドから米国に移民してきた家族。そろりそろりと現地の生活に馴染みはじめてきたころ、両親の期待の星だった兄が不幸な事故に見舞われる…。
    作家自身の体験が色濃く映し出された、自伝的小説。
    移民として暮らすということは、家の中と外とまったく異なる文化のふたつの世界で暮らす、ということだ。子どもだって家を出れば七人の敵がいる。移民であれば、なおさらだ。
    それなのに、主人公のアジェは家でももはや安らぎを得ることはできない。変わっていってしまう父と母、子どもの目を通して描き出されるその姿で、読むわたしたち(大人)は両親の重い苦労と燃えるような苦悩を感じる。
    とはいえ、これは一人の少年の成長の物語でもある。家の中にも外にも居場所を見つけられないアジェはあるときから読書に没頭することで現実世界を離れることを覚え、やがて「書く」ことに自浄作用があると気づく。悲しさと寂しさはあっても、若いひとが少しずつ成長していくさまを読むのは、やはり心楽しく救われる。
    作者は、この本を書くのに13年という歳月を費やしたそうである。それを、ものの数時間で読んでしまっていいのか、と思わないでもないけれど、作者は喜んでくれる気がする。
    訳者あとがきは必読。あとがきも含めて、この本は一冊の作品となっている。

  • 事故にあったビルジュの姿をみると、家族は自分も大変だ、つらいんだ、と言えない。それは、愛しているからであり、家族としての責任や意地でもある。
    でも、家族も間違いなく、ビルジュとは違う大きな苦しみと向き合っている。
    もちろん、そんな生活の中にも幸せな瞬間はたくさんあるんだけど、こころのどこかに、「自分だけ幸せになることへの罪悪感」もあって、その意識がそれぞれの人生をどこか支配してしまっている様子が切なかった。愛とは。人生とは…。

  • 貧しさ、移民生活、障害者、依存性、怒り、嫉妬、自己否定、他者否定、、、
    人生で起こる出来事を、どう捉えるのか。
    苦しみの中で、生きる家族。
    目を背けるわけではないけど、読んでいて気持ちが落ちていく感じ。

  • 著者の実体験をもとにした半自伝的小説。プールの事故で寝たきりになってしまった成績優秀だった兄。介護のリアルが淡々と、粛々と物語は進む。表紙の絵も味わい深い。

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