ボート (Shinchosha CREST BOOKS)

  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (359ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784105900809

作品紹介・あらすじ

作家修業中のベトナム系青年。戦争中、少年だった父はその目で何を見たのか。多くを語らずに生きてきた父と、書きあぐねながら、出自は題材にすまいとする息子(「愛と名誉と憐れみと誇りと同情と犠牲」)。初老の画家がカーネギーホールに向かおうとしている。妻とともにロシアに去った娘が、天才少女チェリストとして凱旋したのだ。いそいそと支度をする男の待望の一夜(「エリーゼに会う」)。そして、ベトナムから難民ボートに一人乗り込んだ少女の極限の12日間を描く表題作「ボート」など、すべて異なる土地を舞台とした全7篇。生後3カ月で両親とともにベトナムからオーストラリアへ渡った作家が、持てるすべてを注ぎ込んだ清新なデビュー短篇集。プッシュカート賞、ディラン・トマス賞ほか多数受賞。

感想・レビュー・書評

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  • 「移民が書いた文学」と読み始めると、予想を裏切られる短編集。訳者がそのあとがきで書いているように、「無国籍」の文学である。

    おさめられた短編集の舞台は、アメリカ、中米、日本、イラン、オーストラリア、ベトナムと幅広い。また全ての物語が「移民のアイデンティティ」に絡められている訳ではない。

    短編小説に読み慣れていないせいか、物語の背景を読み取るのに少し集中力が必要なものの、どの物語も読み終わるころには物語の時代のその国にいたような感覚になった読了感である。

    おススメは『愛と名誉と憐れみと誇りと同情と犠牲』。
    (これに関しては、ベトナムからオーストラリアに移住した息子と親父の物語だが)

  • 舌切りスズメを読んで、宝物はちっさい方が良いもの入ってるという認識で生きてきた。
    「無駄に欲張ってもいいことないぜ」という先人からのメッセージかと思う。

    賢くセコい、こういう所がアジア人に共通してると思う。

    本編→ベトナム移民二世の短編。欲張ってないというのか、くどくど説明がないというのか、
    捉え方によっては「この本つまんね!」と一蹴されそうな危険な本。

    「読み方」を考えさせられるような。

    自分は登場人物がクールで好きだな。

    子供であっても自分が何者かわかっていて、必要以上欲しがらない感じが。

  • 本のタイトルにもなった「ボート」が一番読み応えがあった。リアルさが衝撃的でもあり。日本が舞台の「ヒロシマ」にも驚き。異国のヒトが書く自分の国の話、しかもガイジンの書く日本人...のような違和感が無いことが不思議。

  • 7作が収録されていますが、1人の作家が書いたとは思えないほど、多彩で空気が異なることに驚きました。
    その中では、「カルタヘナ」「ヒロシマ」「ボート」の3作が、特によかったです。
    著者の作品は、この1作しか邦訳されていないようですが、その他の作品も読んでみたいと思いました。

  • 原書と同時並行で読んだ。流石はプロの翻訳者と、つくづく感心させられた。

  • アイオワ、テヘラン、ヒロシマと。
    なんなんだろうこの人は。
    怖くないのかしら。これはこの土地の文学でない、と否定されることを。それを創作料理と訳者が言いますが納得。ヒロシマは広島でない。でも、この地域性の虚構を恐れずに創作することの強さが、良い。
    でも、やっぱり出自を元にしたベトナム色の強い作品、つまり最初と最後の作品の出来の方が良いと思う。そこはどうしても。

  • 代官山蔦谷書店のコンシェルジュみたいな人がテレビで薦めていた「移民小説」。4冊紹介されてた中で装丁デザインが美しいのをチョイス。

    ベトナム人作家のデビュー作らしい。表題作含めた7つの短編で構成。それぞれまったく異なる国と時代が舞台だが、どれも不思議と同じ世界観があって、特に極限状態におかれた人間の心の動きようや、行動の描写がハンパない。一人称の語りがさらに拍車をかけている。

    やや唐突な感じのする各ストーリーのラストもいい。想像力がオープンになって、読後もジワジワ残る。

    ナム・リー、いいじゃない。訳者の手腕もあるんだろうね。 次回作も間違いなく買う。

  • 村上春樹じゃないけど、翻訳という作業には創作の基本があるのだろうと思う。そして、日本語に訳された海外の小説は、日本語に訳された海外の小説という枠を意識しながら読んでいるような気がする。それは、原文で読むjohn irvingとはちょっと違う。そして、ナムリーの小説や、ジュンパ・ラヒリの小説に於いては、その翻訳の過程が何重にも繰り返される。上質のラップのサンプリングのようでもあるし、バッハのようでもある。日本語訳としてまずこの小説を読んだことは正解だった。

    meeting eliseがぐっときた。全編、亡くなった土田世紀だとか、村上龍などが描いた昭和歌謡的なかっこよさを感じる。

    きれいな女の人に貸してもらった小説がとても面白かったってのは、人生における最上の喜びの一つだよね。

  • ベトナム生まれ。生後三カ月でボートピープルとして両親とオーストラリアに渡ったナム・リーの第一短編集。

    ベトナムを色濃くモチーフとする表題作「ボート」と、「カルタヘナ」の他の作品は、舞台も人も、まったくベトナムを選んでいない。
    どころか、それはテヘランであり、ニューヨークであり、オーストラリアの田舎町であり、しかも「その地の人間」が物語を生きている。
    日本人ではない著者が綴る「ヒロシマ」でも、マヤコやササキ先生は、「ごくごく自然に」登場する。
    人としての物語は普遍なのだと、ストンと納得するしかないほどに。

    どの一品も、ゼリーや豆腐のようには流しこめない。
    砂が混じり、小骨が混じり、用心しながら十分に噛まなければならない料理…

    飲み下す直前に、奇跡のように現れる一節が、美しい映画を観たあとのような余韻を残すものが半数。
    しかしもう半数は、「ごくごく自然である」巧さゆえに、どこか嘘臭く息苦しい。。。

  • 国や人種を超え、様々な生き様を切り取って並べられたような短編集(7篇)。どの作品もざわざわと不穏な気持ちをかき立てられるような感じがします。読んでいて苦しくなりました。特に表題作の極限状態は醒めない悪夢に置かれたような苦しさです。ちょっと荒削り感もありますが、読ませます。

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