- Amazon.co.jp ・本 (251ページ)
- / ISBN・EAN: 9784105900748
作品紹介・あらすじ
1616年夏、北極海。イングランドの捕鯨船が帰国の途に着こうとしていた。トマス・ケイヴという名の寡黙な男を一人残して-。明けない夜。うなりをあげる吹雪。闇を染めるオーロラ。雪と氷に閉ざされた極限状態のなか、ケイヴは、日々のできごとを克明に記し、生きるために獣を狩り、思い出深いヴァイオリンをアザラシたちにむけて奏でる。ケイヴはなぜ、極北の地に残ったのか。底知れない哀しみを抱えた男の越冬と魂の救済を重ねあわせた、胸をゆすぶる物語。英国人女性作家が400年前の航海日誌と豊かなイマジネーションで紡ぎだした、壮大なスケールのデビュー長篇。
感想・レビュー・書評
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主人公が一人きりで過ごした、極北の島での日々が、寒さや冷たさとともにしーんと胸に沁みるお話でした。しばらくしたら読み返したい。悲しいことも起きる話なのですが、不思議と心が落ち着く語り口です。
動物が可哀想な目に遭うのがお話と分かっていても辛いので、同じ感じの人は仔アザラシ狩の描写に気を付けて!詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
暑い夏に寒くなるほどの読書を、と思って読んだ。
時代は十七世紀、北の海は未知の世界。
ヨーロッパは中世から抜けておらず、ピューリタン革命や三十年戦争など宗教と貧困と戦争の時代。
ヒトの住むべきところではない極北の地で、ひとり冬を生きる男
もとより深く沈んだ心は、太陽の昇らない世界での出来事を経て、
さらに居場所を無くし、人のいる世界でも彷徨い続ける。
やがて、そこにはすでに「悲しみ」でも「諦め」でもなく、自らが大自然の一部であることを感じ、淡々と生きる。
夏が暑いことを受け入れることにしました。 -
ほんとうは不思議なことも秘密めいたことも存在しない。全てはありのままである。境界を知ることは難しいが、超えることは容易い
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1616年、北極海の島で一人、越冬をした男の話。
描写が非常に上手く、特に越冬中の生活も心理も、作者本人の体験でないのが不思議なほどリアル。
人の力を超えた大きなものへの畏敬の念が読んでいるこちらにも沸き起こり、圧倒された。
それに比べたら本当にちっぽけな人の人生の、幸と悲しみの深さにも。 -
17世紀、一人の男が極北に残り、一冬をこえる・・・
あまりに過酷、そんな言葉では表現できない世界で主人公、トマスはただ生きていく。暗い過去を抱えながら。
そして冬を乗り越えたとき、極北に訪れる春と鳴り響くヴァイオリンの音。
それは救済だったのかもしれません。
でも物語はそこで終わらない。
私たちが普段接する世界とは全く異なるものを見てきたひとを
日常はすんなりと受け入れることはしないのだから。
それでもこの物語は、私たちに力強い何かを与えてくれる。 -
サバイバルがテーマではないけれど、こういう話ってやっぱり好き。
極北の寒さ、暗さ、孤独感などなど、すぐそばにあるかのように伝わってきます。物語の中へ自分も深く入っていける小説。 -
1600年頃にこんなにシステマティックに捕鯨が行われていたという事実に改めて驚きました。
究極の孤独に耐えられたのは死よりも苦しい絶望があったからなのでしょうか?強烈な信仰心を支えにして狂わなかったロビンソン・クルーソーより、このトマス・ケイブに共感できました。暗黒の闇から何ヶ月ぶりかに昇った太陽とアザラシの群れに向かってヴァイオリンをかきならす光景には胸が苦しくなりました。
闇の黒、氷山の白さ、鯨の解体で流される血の赤、など色が印象的でした。
余談ですが、前に読んだ児童書の主人公、W・ローリー卿が出てきて懐かしかったです。 -
ヒトが行ってはいけない場所、見てはいけないものが、やはりあるのかもしれない。
極北の地に1人残ることを選んだ男が見てしまったのは、「孤独」などと呼ぶにはあまりにも重くて厳しい、手を触れてはいけないもの。 -
2010年4月8日読了。幻想的な話で面白かった。