その名を暴け: #MeTooに火をつけたジャーナリストたちの闘い

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  • Amazon.co.jp ・本 (416ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784105071714

作品紹介・あらすじ

ピュリッツァー賞受賞! 「ハリウッドの絶対権力者」の大罪を暴いた調査報道の軌跡。標的は成功を夢見る女性たち――映画界で「神」とも呼ばれた有名プロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタインは、長年、女優や女性スタッフに権力を振りかざし、性的暴行を重ねてきた。自身の未来を人質にされ、秘密保持契約と巨額の示談金で口を封じられる被害者たち。沈黙の壁で閉ざされていた実態を、2人の女性記者が炙り出す!

感想・レビュー・書評

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  • 来年1月に実写化映画が公開と聞いて。
    ハリウッドの元映画プロデューサー ハーヴェイ・ワインスタインの”犯行”を暴いた、「ニューヨーク・タイムズ」紙(以下「タイムズ」と略)の女性ジャーナリスト2名(以下「2人」と略)による本書。彼の逮捕劇は日本でも話題になったので、詳細は知らずとも記憶にはしっかりインプットされていた。
    そこから#MeToo運動が広がり、それは先日読んだ『僕の狂ったフェミ彼女』の世界(2018年の韓国)にも繋がっている。

    まず本書にはワインスタイン関連やメディアの動きをまとめた年表が収められているが、控えめに言って目も当てられない。しでかした数があまりにも多すぎるからだ。
    アメリカなら即座に大っぴらになるはずだろうに、50年近く(!)秘密裏にされ被害者もまた口封じされていた。(その主な手口は示談書と高額な口止め料) おまけに被害者だけでなく「タイムズ」までも力でねじ伏せようとするのだから、益々タチが悪い。
    ワインスタインの他にもドナルド・トランプによる犯行が何ページにも渡って割かれており、その所業の酷さに視界が錯乱した。

    「この男は「だれもが自分に一斉にひれ伏すものだ」と思いながら、世間を強引に渡っていこうとしているのだ」

    ワインスタインの被害者は、彼が経営していたミラマックス社の従業員やハリウッドの有名女優と広範囲に渡る。
    特にグウィネス・パルトローが2人にコンタクトを取ってきた事は大好きな女優だっただけにショックで、飲み込むのに時間を要した。
    しかし大半は口封じのためか当初はインタビューを拒み、メールの返信すらないケースもあったという。「証拠さえ出てくれば必ず報道できる」というのに。

    「わたしたちは炎の中を歩いたけど、みんなその向こう側にたどり着いた。[中略]大事なのは、声を上げ続けること、恐れてはいけないこと」

    告発の記事がネット上にアップされて以降の話は、2人が語るように「ダムが決壊する」みたいであっという間だった。2人が取材した以上の数の女性から、ワインスタインに関する証言が相次ぎ、やがて彼は収監へと追い込まれる。

    ここで懸念が一つ。
    本書の実写化映画について読後調べてみたら、ゴールデン・グローブ 監督賞及び作品賞において、女性監督作品が1作もノミネートされていないという記事を見つけた。女性が監督としてキャリアを築きにくいシステムや、審査員が女性が直面する社会問題に興味を示さないなど原因が考察されていたが、これでは逮捕劇から何も改善されていないも同然では?
    このような因習を告発できたのは、2人の尽力もさることながら、証言者や「タイムズ」の仕事仲間、そして家族のサポートがあってのこと。彼女たちのことをより多くの人に知ってもらおうと、監督も映画を製作したはずだ。
    審査員に問いたい。「彼女たちに対して納得のいく説明ができるのか」と。

  • 【感想】
    2017年、ニューヨーク・タイムズが、「ハリウッドの大物プロデューサーであるハーヴェイ・ワインスタインから性的暴行を受けた」という女性たちの告発文を掲載した。ワインスタインはその地位を追われ、やがて女性たちが身近に蔓延する性的暴行をSNSで告発し始め、「#MeToo運動」として世界的なムーブメントを起こしていく。本書は、実際に取材を行った女性記者のジョディ・カンターとミーガン・トゥーイーが執筆したノンフィクションであり、ワインスタイン報道に迫る2年間の戦いの様子が綴られる。

    本書では、ワインスタインが数十年にわたって、自社スタッフおよび女優に性的暴行をはたらいてきた様子が暴露されていく。にしても、なぜ被害者は今まで声を挙げてこなかったのか。それは、ワインスタインが金と権力にモノを言わせて、強力な制限付きの示談書・秘密保持契約書を結ばせていたからだ。
    被害者のひとりであるパーキンズは、「現在であれ未来であれ、どんなメディアにも自分の身に起きた出来事を話してはならない」「関係者がこの件について漏洩した場合には、パーキンズは更なる漏洩を防ぐ、もしくは漏洩の影響が軽減されるよう懸命に取り組むなど、その方策に合わせた、筋の通った支援をおこなうことを求める」と約束させられている。つまり、パーキンズは真実が公表された場合でも、その真実を隠蔽することを求められていた。しかも、これらの制約はパーキンズの生活に大きな影響を及ぼしていたのに、文書全文のコピーを手に入れることは許されていなかった。許されたのは「制限付き面会権」とも言うべきもので、文書を見たい場合には、代理人弁護士のオフィスに行ってコピーを見ることしかできなかった。
    さらに悪いことに、ワインスタインの弁護士からかなり強い圧力がかかった後で、パーキンズとチウは、「この件についてふたりで話し合ってはならない」と書かれた守秘義務の条項に同意させられている。

    常識に反するほどの不当契約なのだが、被害者女性たちはこの条件を飲むしかなかった。一従業員程度では権力者に太刀打ちできないからだ。
    筆者のジョディは雇用関係問題の分野で有名な弁護士に電話をし、もし沈黙に合意した女性がその契約を破って声を上げた場合、どれほどのリスクがあるのか尋ねている。弁護士は「相手は、自分が支払った示談金を返してもらうために、その女性を訴えますね」「相手側は沈黙させるために金を払っているわけですから」と答えている。彼の弁護士人生のなかで、秘密保持契約を破棄した人はひとりもいないということだった。
    弁護士は示談に持ち込めば、示談金の最低30%を報酬として受け取れる。しかし、裁判になって負ければ報酬はゼロだ。このことから、多くの弁護士は被害者に示談を提案する。
    フェミニストの弁護士にして、加害者側の支援も積極的に応じているオールレッド弁護士はこう言う。「被害を受けた依頼人は必ずこう言いますよ。『わたしは償ってもらいたい。これがわたしがもらうにふさわしい金額よ。これでわたしは大満足。でも、どうして秘密にしておかなくちゃならないの?』って」「でも、権力のある人物が求めているのは平穏に暮らし、事件を終わらせ、そして、みんなと同じように先へ進んでいくことですからね」。

    ワインスタインは弁護士を通じて被害者を封じこめていたため、取材は難航していた。オンレコを前提に話してくれる女性が見つからず、取材メモは記事にできるレベルではなかった。
    打開のきっかけは、ワインスタインの補佐役を務めているアーウィン・ライターという男だった。彼はワインスタインを憎んでおり、女性従業員への行為をどう止めさせるかを模索していた。ライターが暴露に走ったのは、ワインスタインの悪行がいよいよ社内でも噂になり、これが漏れれば自社の評判が地に落ちると懸念したからだった(実際、イタリア人モデルのグティエレスに性的暴行をしたというニュースが出て、テレビ部門売却の取引が頓挫している)。

    ライターは密かにジョディと接触し、手に入れた女性従業員のメモを提供した。
    メモ「わたしは彼女から、ハーヴェイ・ワインスタインが裸でいるときにマッサージをさせられたとききました。なにがあったのかと彼女に尋ねると、彼女は、スイートルームの別の部屋にいて、彼の機器を準備していた際、寝室に行くと、彼が裸でベッドに横たわっていて、マッサージしてくれと言ってきたそうです。彼女がホテルのフロントにマッサージ師を呼ぶように頼みましょうと言うと、彼がバカなことを言うな、おまえがやればいいんだ、と言ったということです。彼女はそんなことはしたくなかったし、部屋にこれ以上いたくないと思ったそうです。ハーヴェイは彼女がマッサージをするまで、いつまでもしつこくせがんでいました。あんなに困り果てた彼女を見て恐ろしく思いました。わたしはこの件も報告しておきたいのですが、彼女は苦情を述べたことによる報復が怖いので、秘密にしておいて、と言いました」

    ライターの他にも、同社の重役のマエロフ、ワインスタインの弟のボブ・ワインスタインが協力者となり、ジョディに情報を提供していく。そして、ついに決定的な証拠――実名使用OKの女優の証言――が、アシュレイ・ジャッドから寄せられた。この証言が最後の一押しとなり、告発文掲載に至ったのだ。

    当初、ジョディとミーガンは、ワインスタインの記事の影響力を、「世の中の人々が気にするとは思えない」「ワインスタインはそんなに有名じゃない」と考えていたらしい。
    しかし、記事が公開された後、ジョディとミーガンのもとにはワインスタインの話をしたいという大勢の女性から連絡が届いた。そして、アメリカや他の国々の女性たちから、身近に潜む性的暴行を告発する「#MeToo運動」が巻き起こったのである。これまで見過ごされてきた「性的嫌がらせ」が、実は犯罪であるという認識が広がり、告発された男性権力者たちが次々に地位を剥奪されたのだった。

    ――「タイムズ」のワインスタインについての報道は、性被害に蔓延る秘密主義を打ち砕き、同じような辛い経験をしたことのある世界中の女性たちに声を上げるよう背中を押す形になった。「ハーヴェイ・ワインスタイン」という名前は、不適切な行為が何十年も検証されないまま放置されないように対処するための論拠を意味し、さらに軽犯罪がいかに深刻な犯罪へ発展していくかを示すひとつの例となった。またその名前は、性的嫌がらせや虐待について声を上げることは、恥ずべきことではなく、称賛に値することだという社会的合意や、どのような行為が雇い主にとって大きなリスクになり得るかという教訓を意味するものになった。そしてなによりその名は、“ワインスタインの行為は明らかに犯罪であって、決して大目に見てはならない”という、新たな合意を意味するものになったのである。

  • 『キャッチ・アンド・キル』を読んでから、本書を読んだ。たまたまだけど、この順番で良かった。

    『キャッチ』は映画みたいで小説を読んだような読後感だったが、同じ内容を追っていても本書は正統派のノンフィクションであり『キャッチ』では抜けていた分が補完されていた。

    それは『キャッチ』がダメだという意味ではない。ローナンが『キャッチ』を書く上で、自分の姉の話に触れないでいたら読者は満足しなかっただろう。そしてその話に触れるという事はどこか私小説的なノンフィクションにならざるを得ないからである。ワインスタインの問題を扱っていながら、主役はローナンであり、読者はローナンの感情に振り回されながら一緒に記事が世に出るまでの臨場感を味わえた。

    対して、本書の著者は女性二人。ニューヨーク・タイムズの記者で元々女性問題に取り組んでいたという事もあり、あくまでも主役は被害者女性。記者達がどういう人物かという事は少なめになっている。
    『キャッチ』と重なる部分もあるけれど、『キャッチ』ではインタビュー出来なかった人に話を聞けている。またワインスタインにインタビューした時の彼の言動も違っている。それは著者が女性であるからなのだろう。相違を比べながら読むのも面白かった。

  • 「その名を暴け」ジョディ・カンター、ミーガン・トゥーイー著 古屋美登里訳|日刊ゲンダイDIGITAL
    https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/book/279272

    Jodi Kantor - The New York Times
    https://www.nytimes.com/by/jodi-kantor

    Megan Twohey - The New York Times
    https://www.nytimes.com/by/megan-twohey

    ジョディ・カンター、ミーガン・トゥーイー、古屋美登里/訳 『その名を暴け―#MeTooに火をつけたジャーナリストたちの闘い―』 | 新潮社
    https://www.shinchosha.co.jp/book/507171/

  • 2020/08/29〜2020/09/20
    TBSラジオ『アフター6ジャンクション』に訳者の古屋美登里さんが出演し、紹介されていた本。

    ハーヴェイ・ワインスタイン、そしてドナルド・トランプの女性蔑視の姿勢に男性の自分でも大層嫌気がさした。

    女性はこんなにも社会の中で不均衡を課せられながら暮らしているのかと衝撃を受けた。
    男性こそ読まなければならない一冊。
    僕らの次の世代にこの不均衡を持ち越さないために、今、この瞬間から不正に目を向け、戦わなければならないと思う。


    「ミーガンは、十年以上、性犯罪と性的違法行為を暴く記事を書いてきた。シカゴでは、その地区の警官と検察官がレイプ・キット〔レイプ被害者の体に付着した犯人の体液や毛髪など、逮捕の手がかりとなる残留物を採取保存する器具、それによって採取した証拠物件〕を握りつぶしたり、公正な裁判を受ける被害者の権利を奪ったりしていることや、性的暴行をおこなった医師がいまだ診察を続けていることなどを暴いた。(P44)

    「ミーガンは被害者たちに、「過去にあなたに起きたことを変えることはわたしにはできない。でもね、わたしたちが力を合わせれば、あなたの体験をほかの人を守るために使うことができるかもしれない」と語ったのだ。」(P60)

    (マリサ・トメイは)「男女間の救いようがないほどの報酬格差と闘い、男性俳優の役を中心に回っている場面で、自分の役がただのアクセサリーに過ぎないことを何度も経験してきた。「演技というのが、男たちがやっていることに反応するだけっていうこともしょっちゅうですよ」と彼女は言った。(P65〜66)

    「トメイはある仮説を教えてくれた。女優と世間は双方の誤解による循環から逃れられない。とても幼い頃から女の子たちは、映画に登場する魅力的な女性を素晴らしいと思い、そういう女性になりたいと思うように仕向けられている。そうやって大勢の女の子が女優になりたいと思う。運よく女優になった娘は、嫌がらせや厳しい体型維持のことなどを口に出すことができない。話せば自滅が待っている。それでその悪循環は続き、次の世代の女の子たちもハリウッドの夢を見ながら成長し、映画界が娘たちをひどい目に遭わせていることはだれにも知られずに来たのだ。」(P66)

    (アシュレイ・ジャッド)「日本でモデルの仕事をしていたとき、ボスに性的暴行を受け、知り合いにレイプされた。」(P73)

    「ハリウッドの気風というのは、不満を呑み込んで、性的嫌がらせをに耐えることだった、とパルトローは述べている。」(P81)

    「示談は弁護士にとっても、とりわけ経済的な意味で好都合だ。弁護士の仕事は一般的に、「依頼人が金を得たときにのみ報酬を得られる」という偶然性に頼っている。(略)裁判で負ければ報酬はゼロになる。したがって性的嫌がらせの示談合意は弁護士にとっては結構な商売になる。」(P100)

    「この27年間、玄関扉を叩く人が現れるのをずっと待っていました」と女性は言った。「わたしがいま言えるのは、ミラマックスと労働紛争があり、その争いは和やかにかいけつしたので、それについては今後一切議論をしない、という合意に達したということです」(P105)

    「私達はどうして声を上げないの?」(P111)

    「彼と出張から戻ってくると、うまく切り抜けたという安堵感と、罪を犯して堕落したような奇妙な感情を味わった」(P112)

    (フェミニストの弁護士、オールレッド。「トランプへ訴えを起こした女性達の代理人」(P131)の意外な行動)「オールレッドの法律事務所はワインスタインに対する別の告発の記録を、政府や世間から注目されないように、非公開にしていたのである。
     オールレッドは被害女性に声を上げさせるということで評判が高かったが、その一方で、被害女性を黙らせ、性的嫌がらせや虐待の訴えを退けるためにひそかに示談に持ち込むこともしていて、それが彼女の収入源になっていた。」(P132)

    「オールレッドは共同経営者のジョン・ウェストにマッソーの件を任せた。ウェストは訴訟に頼らず、ひそかに示談にするほうがいいと言った。ワインスタインとその権力に公の場で楯突くことを恐れたマッソーは、すぐに十二万五千ドルを受け取り、その代わりに二度と告発をしないという法的拘束力のある約束をした。(略)「彼はわたしに、金をもらって前に進んで心を癒やせばいいと言ったのよ」。オールレッドの法律事務所は、この示談の成立で、示談金の40パーセントを報酬として得た。」(P134)

    オールレッドの横暴、P135ラスト

    「驚くことに、ボイーズの法律事務所は、ある訴訟事件で「タイムズ」の代理人を務めていたにもかかわらず、その裏ではワインスタインに手を貸し、「タイムズ」の調査を妨害するという契約を履行していた」(P161)

    「(略)私がアメリカにいて思うのは、アジア人は模範的なマイノリティであれ、という文化的な了解がある。大騒ぎをしない、声を上げない、頭を低くして、ひたすら必至に働き、波風を立たせない、と言うような不文律があるの」(P386)

    「ワインスタインの不適切な行為が公になってから、ワインスタインのさが彼女を、つまり彼女の名声、アカデミー賞受賞歴、成功を、ほかのか弱い女性たちを騙す手段として利用していたことがわかったという。(略)女性たちは、ワインスタインが自分たちに最適暴行を加えているあいだ、パルトローのことや、人が羨むほどの成功をおさめた彼女の仕事のことを決まって引き合いに出し
    それはパルトローがワインスタインに身を委ねたからだとほのめかした、と打ち明けたという。「あいつはわたしのキャリアのことで、こう言ったそうよ。『彼女みたいになりたくないのか』って」
    (略)
    「この出来事のなかでもっとも辛かったのは、レイプを強要するための道具ときて私が使われてたと知ったことね」パルトローは涙を流しながら言った。「たとえ筋違いな考え方だとしても、ある意味ではこれは私のせいだと思った」」(P388,389)

    「(トランプを告発したレイチェル・クルークスは民主党から立候補した)選挙キャンペーンで明らかになったことは、人々は“トランプの話”を通してしか彼女の存在を認識していない、ということだった。それでいまもそのレッテルと戦っていた。テレビに彼女が登場すると、その画面下に「トランプの告発者」とだけ記されることがあった。(略)「それがあなたのアイデンティティになったんだ」と男性の友人が最近彼女に言った。
    「扉が開いて新しい道が用意されたけど、わたしはあの嫌な奴との関係を断ち切れないでいる」と彼女は語った。」(P392)

    「しかし、この部屋にいるひとりひとりが、そしてもっと大勢の人々が、分かっているのだ。「話を公表しなければなにも変わりはしない」ということを。(略)
     私たちの報道の世界では、記事を書けばそこで仕事は終わる。それが結果であり、最終的な成果だ。しかひより広い世界では、新しい情報を発表することは、始まりだ。議論の始まり、行動の始まり、変化の始まりなのだ。」(P396〜397)

  • ジャーナリズムの真髄と嘘みたいな本当のストーリー。
    #metooとワインスタインの裏側にはこんなことがあったのかあ。
    ワインスタインのことをよく知らなかったけど、見てみたら自分が過去見ていた映画とかも手掛けててびっくり。#metooも日本ではこんなに大きく広がることはなくて、日本でも女性が団結して強くなるっていう流れができるといいなと思う。日本は被害者叩きすぎ。。
    かなり読み応えありました。

  • #MeToo 運動を爆発的なものとしたニューヨーク・タイムズのハーヴェイ・ワインスタインに関する報道の全容を明かしたノンフィクション。この報道は2018年のピュリッツァー賞を受賞した。さらに後半(第8章以降)には、連邦最高裁判事ブレット・カバノーを告発したクリスティーン・ブラゼイ・フォードとその弁護団の闘いが書かれる。
    はじめに、私は調査報道を舐めていた。こんなにも過酷でかつ繊細だとは想像もしなかった。しかし、もし誤った報道をしてしまえば、その報道で誰かの人生が破滅するのだ。報道は対象の人生を揺るがす。
    ジョディ・カンターとミーガン・トゥーイー、ふたりの記者は、まず証言者を探し、その証言の裏を取る。地道であり、果てしない作業だ。
    ハーヴェイ・ワインスタインは「神」である。ミラマックスとワインスタイン・カンパニーが手掛けた作品は映画好きなら皆知っている。アカデミー賞の為のキャンペーンに莫大な金をかけたり、買い付けた作品を散々再編集させたりという(性犯罪以外の)悪評もあったけれど、やはり彼は凄腕プロデューサーであり「神」であり、そして経営者である。
    声を上げられない女性の葛藤は非常に生々しい。そして彼女たちは秘密保持条項を含む示談に縛られている。「女性の味方」を標榜する女性弁護士がこの示談に関与しているくだりは、正直なところぞっとする。
    縛られる女性たち。探偵やイスラエルの諜報会社まで使って報道を阻止せんとするワインスタイン側。告発者を守りながらオンレコで語ってもらうには。
    調査報道の困難さが実感できる。2名の記者の粘り強さと礼儀正しさ。彼女たちを支え、助言するタイムズのメンバー。
    タイムズ側に対するワインスタイン側の対応は、贔屓目に見ても妥当に見えない。本当に地道な調査の積み重ねと、記者たちの真摯な姿勢が、理不尽な社会を斬った。
    ...だが、斬っても、社会の根本が変わっていないと思わされるのが第8章以降である。
    日本でもそうだが、世の中の一部は女性の感情を本当に見ていないと感じることがある。自分勝手な欲望を相手に与えてもそれを罪と思わない。いや、たとえ思ったとしてもそれを重大なこととは思わない。女性が長い間、その傷を抱えてついに告発しても「なぜその時言わなかったのか」と言う。立場の高い者は「女性が誘惑してきた」とも言う。恐ろしい程重い蓋だ。
    重い蓋を課せられながら、公聴会で告発したクリスティーン・ブラゼイ・フォード。結局、結果は変えられなかったが、この頑迷な世界に楔を打ち込むことはできたのだろうか?できたと信じたい。
    終章で、この本に登場した告発者の女性たちは集まり、語り合う。語り、先を見る。「語り合うこと」には強烈な意味があると感じた。孤独ではないということ。立場が異なっても闘う土壌は変わらないこと。声を上げ続けることの意味。
    最後に。この調査報道で様々なことが浮き彫りになったが、やはり女性を口止めする手段としての「示談」は卑劣だと感じてしまう。そしてそれがまかり通っていること。本当はそんなことが起こらない社会が最良なのだが、私たちは問題に直面したとき、誰を信じれば良いのか...。

  • ニューヨークタイムズの記者を始めたくさんの人たちが過去の虐待恫喝を明らかにすることで未来の女性たちを守るということに繋がる.ワインスタインを裁くのはもちろんだが,彼のような男至上主義の社会制度そのものに切り込んでいくことが素晴らしかった.これを記事にする苦労,ここまで気を使うのかと驚くとともに敵の妨害の攻防など映画を見ているようだった.自分たちにされたことを葬らずに世界に向かって語ることで,現在苦しんでいる女性たちこれから苦しむだろう女性たちを守るため,勇気を出した彼女たちに乾杯!

  • ハリウッドの有力プロデューサーのセクハラを告発しようとすると、示談金とNDAつきの示談書で黙らされる。原題は「She Said」。
    NYタイムスの女性記者が被害者に話してもらうまでの証拠証言集め、信頼獲得、示談弁護士との戦い。そして#metoo運動へ。
    セクハラにあった時どういう態度を取るべきか、証拠はどうするかなど、防御策も欲しい。
    日本のジャーナリストも頑張れよなぁ。

  • ジャーナリズムが権力側からの圧力に屈せずに事実を伝える事に感動。ってかこれって普通の事じゃない?
    それなのになぜ事実を事実として伝える事にこんなに心が震えるのだろうか?

    Netflixのリミテッドシリーズ『ジェフリー・エプスタイン 権力と背徳の億万』でもエプスタインは女性にマッサージを要求(←ワインスタインもいつもこのパターン)していた。そして売春/接待も行っていた。そしてその現アメリカ大統領トランプもその接待を受けたと言われている

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