- Amazon.co.jp ・本 (479ページ)
- / ISBN・EAN: 9784105068912
作品紹介・あらすじ
生命とは何か。究極の問いに肉薄した男が赤裸々に語る、世界を震撼させたドキュメント! 生命の本質、DNAの立体構造はどのように発見されたのか――旧版にはなかった貴重な資料写真、関係者の間で交わされた書簡、研究結果を記したノートの図版、そして「幻の章」など多数収録。ライバルたちの猛追をかわし、生物学の常識を大幅に書き換えた科学者たちの野心に迫る、ノーベル賞受賞までのリアル・ストーリー。
感想・レビュー・書評
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科学啓蒙書というより、レースの裏側を描いたスリル満点のノンフィクションとして読める。1953年にDNAの二重螺旋構造を解き明かしたワトソン&クリックの若いほうであるワトソンが、発見の15年後に描いたのが本書だ。じつに生々しい筆致で当時の研究者コミュニティが描き出されていて、発表直後から物議を醸すと同時にベストセラーになったというのも頷ける。ただのゴシップという批判もあったようだが、とんでもない。ふたりの業績が、同時代の多くの科学者の研究に支えられていたということ。手厳しい批判と思えたものがきっかけとなって、決定的なアイデアの飛躍が生まれたのだということ。科学者における競争と仁義の微妙な関係。いろんなことに気がつかされる。
ワトソンは、当初、『正直ジム』という書名を考えていたことが、本書でもかなりの紙幅で述べられている。読んだあとなら、キモチはわかる。彼は、「主観」の強さを信じる人であるから、あの発見ができたのだ。と同時に、彼の率直さ、無遠慮さ、奔放さは、(研究における才能と共通して)この本をすばらしくおもしろい読み物にしている力の源泉になっているのだと思う。
本書の中でスポットライトが当たるのは、ノーベル賞を2人といっしょに受賞しているウィルキンスと、ふたりのアイデアについて決定的に重要なX線写真を撮ったロザリンド。とくにロザリンドについては「ふたりに研究を盗まれた悲劇の女性」といったイメージが巷間に流布している。しかし、本書を読んだあとでは、そういったイメージは、かえって彼女を侮辱しているという指摘のほうが妥当だと思えてくる。それは本書が「完全版」として、著者ワトソンの記述を、大量の傍証で補足しているからに間違いない。発表当時には主観的だと批判されたワトソンの記述が、とことん裏付けられているという点で、本書の注釈はものすごい価値を持っていると思う。と同時に、本を「面白く読む」といった点においても、この注釈はすばらしい。登場人物が写真で紹介され、ワトソンの記述に対する当事者の反応や批判も脚注で補足されることで、本書の「証言」の価値がいっそう増しているし、読み手としても好奇心をさらにあおられる。
正直、こんなに面白いとは思ってなかった。読もうと思ったのは、この「完全版」を訳した青木薫さんのファンだからである。彼女の「後書き」が、HONZのサイトで読める http://honz.jp/articles/-/41433 。これを読んで、本書を手に取りたくならなかったら、あなたは「呼ばれてない」ので、読まなくて結構。しかし、「おもしろそう」とちょっとでも思ったら、絶対に読むべきだ。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
「知の逆転」つながりで。才気あふれる筆致で描かれる、ノーベル賞受賞に結びつく発見までの軌跡。半世紀以上前の科学の現場を実感させてくれる。科学研究に関して、イギリスは仁義があったけど、アメリカやフランスにはそんなものはなかった、と。誰かが先鞭をつけていれば、イギリスでは多少遠慮があるが、アメリカやフランスならいけいけどんどん。著者のワトソンがどのようにして研究分野を決め、揺らぎ、興味を持ち、DNAにたどり着き、構造を突き止めるために、研究し、対話し、ひらめき、研究生活を送り、人間模様の渦を巻き起こし、巻き込まれ、といったことが描かれ、スリリングで引き込まれた。相棒とも言えるクリックの造形も個性的で力強く印象に残る。模型を使った思索が、ひらめきに重要な示唆を与えているのも興味深い。最初に二重螺旋の構造を明らかにしたワトソンとクリックだが、ウィルキンスとの差は、タッチの差だったと言える。普段、科学が題材のノンフィクションは敬して遠ざける身にはなおさら。やはり、「知の逆転」のワトソンのインタビューが面白かったから、としか言いようがない。そして完全版で原書に付された膨大な注と資料は非常に効果的に感じた。事実誤認や、公平とは言えない見方、資料による補強が、原書の内容をさらに奥深くしているのではないか。/モーリス「DNAの構造がわかれば、遺伝子がどんな仕組みで働くのかを理解するためにわれわれはより良い位置につくことができます」p.65/ロージーは意地悪でそんなことを言っているのではなかった。なんとこの期に及んで、ロージーのDNA試料の水の含有量に関する私の記憶が、どう考えても間違いであることが判明したのである。p.151/ペルーツは礼儀上、問題の部分をワトソンとクリックに見せる許可をランダルから取り付けるべきだったと認めた。p.289注/フランシスが昼食の時間にイーグルへ飛んでいき、声のとどく場所にいるみんなに、生命の謎が解けたぞと言い放ったときには、私はかすかな胸騒ぎを覚えた。p.310/「デオキシリボ核酸(DNA)について、その構造を提案する。この構造には、生物学的観点からきわめて興味深い、新しい特徴がある」p.344
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配置場所:摂枚普通図書
請求記号:464.27||W
資料ID:51600479 -
資料ID:81500832
請求記号:464.27||W
配置場所:工枚教員推薦図書
【選書フェア2015】にて選書された図書です。 -
ワトソンの原著に、50年後に見つかった当時の関係者間の手紙や、背景となる情報や図版を注釈として加えた。イギリスの戦後まもない頃の科学者たちの交流、社交、暮しの中で、DNAの謎を追い求める姿。
人と人との交流があっての研究成果、人工知能に追い上げられてますが、このへんはまだ人間に強みだなと思いました。 -
生物学上の大発見の経緯とそれを取り巻く人間模様を綴った自伝。
この完全版の何が良いかと言って,まず青木薫氏の訳がとても読みやすい。特に氏のファンではなくても,新訳と旧訳を読み比べてみれば訳者の力量の重要性がわかるはずだ。そして註釈や新発見の書簡類の充実。補遺に納められたノーベル賞受賞のエピソードや出版の経緯(クリックをはじめ出版に反対する当事者たちとのやりとり)なども興味深い。
メインの自伝部分では,大西洋を挟んだポーリングたちとのDNA構造解析競争が白眉。 螺旋構造は分かってきてたけど,それが二重螺旋で,水素結合により内部で相補的塩基対が作られていることが分かったのが大発見。これでシャルガフの法則も完全に説明がつくし,本当に科学史上の一大ブレイクスルーだった。
今後も何十年も読み継がれる価値のある作品で,こうして完全版が出たことでその方向性が確定したといってもいい。うちの子供が読む頃には文庫化されて,もっと手軽に読めるようになっているかもしれないな。