バット・ビューティフル

  • 新潮社
3.72
  • (8)
  • (21)
  • (16)
  • (1)
  • (1)
本棚登録 : 300
感想 : 29
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (281ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784105063115

作品紹介・あらすじ

レスターは上官の罵声を浴び、モンクは警棒を振り下ろされ、ミンガスは破壊することをやめない。酒、ドラッグ、哀しみの歴史に傷つき、自ら迷路をさまようミュージシャンたち。しかし彼らの人生には、それでも美しいジャズの響きがあった-伝説的プレイヤーの姿を、想像力と自由な文体で即興変奏する、ジャズを描いた8つの物語。サマセット・モーム賞受賞作。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • エッセイとか翻訳では村上春樹さん、よい仕事をなさる。
    おもしろいスタイルの作品で、
    7 人のジャズ・レジェンド(レスター・ヤング、セロニアス・モンク、
    バド・パウエル、ベン・ウェブスター、チャールズ・ミンガス、
    チェト・ベイカー、アート・ペパー)が登場する。
    さらっと読み流した「序文」にしっかりと書いてある、
    よく知られたエピソードや情報をもとに著者がインプロヴァイズ(即興変奏)した「想像的批評」や近似フィクションと言う表現がよくわからなかったが、
    読んでみるとなるほど、ありありといきいきとしたすばらしい表現法だと思う。
    訳者あとがきにあるように、この本を読みながらここに描かれたミュージシャンたちの演奏する音楽を聴きたくなる。

  • セロニアス・モンクをはじめとするジャズの巨匠7名を取り上げた評伝とフィクションがミックスしたような不思議な短編集。ジャズに詳しい村上春樹が、NYの書店でそれとなく手にして購入した後、暫くは積読状態だったというが、柴田元幸さん主催のMonkeyに一編ずつ翻訳して掲載。
    実は、モンク以外は名前は知っているけれど、どういう人物でどのような演奏をしていた人たちかを全く知らなかったので、まずネットで略歴をチェックし、それからYoutubeで音源にあたりながら読んだら、どれもとてもよかった。
    特にチェット・ベイカーの哀愁を帯びたトランペットと、消え入りそうな細い歌声を聴きながら「その20年はただ単に、彼の死の長い一瞬だったかもしれない」を読むと、ひとつひとつの表現がヴィヴィッドに胸をつく。
    本書は原作者がimaginative criticismと読んでいる手法で書かれており、村上春樹による意訳「自由評伝」とは言い得て妙だが、まるで、目の前に往年のジャズプレイヤーがいるような錯覚さえ呼び起こす語り口に、すっかり引き込まれた。

  • ジャズと文学は相性が悪い。僕はジャズが好きだし、文学も愛している。だが、ジャズに関する文学となると話は別で、形式に関係なく殆ど受け付けない。その多くは、文字通り読むに耐えない。それなりに骨を折って探しても、本当にロクなものがない。

    僕は村上春樹を好まない。言い訳になるかもしれないが、決して読まず嫌いというわけではない。過去の代表的な作品は漏れなく読んできたし、『1Q84』も、文庫落ちを待ってではあるが、全て揃えた。その上で、やはり好まない。端的に言えば、彼の世界把握を僕は理解出来ない。文学的感性が狭量なのだと言われればそうなのかもしれないが、デカダンス派の幻想小説や、ビートニク周辺の作品群にも『テクストの快楽』を感じてしまう程度のキャパシティは持ち合わせているつもりだ。

    ジャズのテクストと村上春樹。この取り合わせは、僕個人の感覚としては最悪に近い組み合わせである。たとえ村上春樹がいくらジャズに造詣が深くとも、いや、そうであるがこそ余計に鼻に付いて仕方がない。では、何故。何故僕がこの本を手に取り、あまつさえ購入したのか。それはひとえに、書店の棚に平積みされていた本書の装丁に起因する。

    その表紙を見た時、視野の中心でマイルスが鳴り響いた。ジャコ・パトリシアスの気怠く歪んだベース音が、ビル・エヴァンスの悲痛なピアノが、アート・ブレイキーの豪快なドラムロールが、次々に到来した。LP盤のジャケットと同じように、そのアウトテリアは紛れもなくジャズだった。そして『But Beautiful』というタイトルを見て、僕の決意は固まった。

    『But Beautifuil』…作曲のジミー・ヴァン・ヒューゼンと作詞ジョニー・バークは数々のミュージカルや映画の音楽で活躍した名コンビだった。この曲は元々ビング・クロスビーとボブ・ホープの喜劇映画「南米珍道中」の為に作られたもので、オリジナルを歌ったのは演者のビング・クロスビーだ。

    音源をジャケットで選んだ時、そこに過度な内容を期待するのは野暮というものだ。そんな場合、ジャケットの視覚的デザインこそが内容であって、音源はもはや副次的な要素でしかない。そんなことは僕も分かっている。本書の装丁には定価分以上の価値がある。内容になど最初から期待していなかった。理由は上で述べた通りだ。

    読みながら、悔しくて仕方なかった。レトリックを多少なりともご存知の人間には、お察しの通りだ。ズルい。文句無しに面白い。本書が扱う演奏者毎のエピソードはそれぞれ有名なものだが、多分に文藝的な演出が施されており、見事に小説として成立している。短編集であるが、案内役である2人の旅人が各話を貫きながら絶妙な存在感を示すことで、全体の統一感を強調する。終始歯切れ良く、リズム良く、テンポ良く、出来の良いアドリブを聴いているような心地で活字を追った。英語のグルーヴを色濃く残した村上の翻訳は、文体に忠実でいてしかも読みにくい箇所が無い。本当に悔しいが、実に見事の一言である。

    この作品はまさに、活字によるジャズである。しかもそれが成功した稀有な、というより殆ど唯一の、幸運な本である。これ以上本書の内容を語る舌を、僕は持たない。ただ、一応書評の体裁を整える為に、タイトルにもなった素晴らしいラブソングにその肝心を語って貰おう。簡単だ。たった一ヶ所、歌詞の "Love" を "Jazz" に変えるだけでいい。

    Jazz is funny or it’s sad
    Or it’s quiet or it’s mad
    It’s a good thing or it’s bad
    But beautiful
    But beautiful

  • 素晴らしい。ジャズを扱った文学の最高傑作といっていいでしょう(ジャズを扱った文学をそんなに読んでいるわけではないのだけど)。いや、これはジャズを扱った文学というよりも、ジャズそのものだといっていいのです。

    演奏旅行のため車で移動するデューク・エリントンとハーリー・カーネイの姿を合間にはさみながら7人のジャズメンの生き様を描きます。それぞれのジャズメンの有名な逸話を小説ふうにふくらませているのも手法としておもしろいのですが、その文章は、そのジャズマンという人間を描くばかりではなく、それぞれの音楽をも文字で表現してみせるのです。文章を読んでいるだけなのに、それぞれのジャズが聴こえてくるということです。

    いや、本当に、レスター・ヤングの、セロニアス・モンクの、チェット・ベイカーの音楽をこれほど表現しきった文章に出合ったことがありません。それが文学として昇華しきっているところが、またすごいのです、この作品。

    ジャズを知らない人、彼らの音楽を聴いたことがない人には、ちんぷんかんぷんかもしれません。なにしろ、いずれもある種の狂気の中に生きている人たちなのです。あるいは想像を絶する孤独の中に囚われている人たちを描いているのです(でも、ここで描かれているエピソード自体は、それぞれ事実として伝えられているものなのです)。

    なのでだれにでもオススメできる小説だとは思いませんが、これほど濃厚に「ジャズを聴いた」のは、僕は、久しぶりです。

    しかし、村上春樹、よくぞこの小説を米国でみつけてくれたものです。村上でなければ、ここまでジャズが聴こえてくる訳にはならなかったかもしれないのですから。

  • ジャズミュージシャンの伝説が、小説になっている。文章が抜群にうまい。悲惨な生き方、アフリカ系の人への差別。村上春樹訳。彼の音楽関係の本は見逃さないことにしている。

  • これがどういう本かについては、訳した村上春樹さんのあとがきを読めばわかる。
    ペーパーバックの裏表紙に印刷してあったという、キース・ジャレットの推薦文にあるように「『ジャズに関する本』というよりは『ジャズを書いた本』」である。

    解説でも批評でもないし、ディスクガイドでもない。それぞれのミュージシャンの評伝というのとも違う。
    それぞれのミュージシャンたちの人生の一片を、事実に即して取り出し、浮き上がらせているのだが、むしろ味わいは小説のようだ。
    章と章の間に挟まれたストーリーが、そう思わせるのかもしれない。面白い構成。
    読みながら、或いは読んだ後、そのミュージシャンの曲が聴こえるような、そして聴きたい!という気になるのだから、「いい」ジャズの本、と言えるのは間違いない。
    ここには確かに、音楽が流れている。

    それにしても、村上氏の訳したものを読むたび、優れた翻訳というのは、翻訳者が透明人間になっているものじゃなかな、と思う。
    読んでいるうちに、翻訳者は見えなくなって(同一化しているのかも?)、直接著者から話しかけられているような気分になる。

  • 桃山学院大学附属図書館蔵書検索OPACへ↓
    https://indus.andrew.ac.jp/opac/volume/767925

  • 村上春樹訳ということで手に取る。ジャズミュージシャンの名前はほとんどわかるが、それほど詳しくないので、聴きながら読んだりした。詳しければもっと楽しめたと思う。

  • 実際のジャズミュージシャンについて書いてるのだけどあくまでフィクション。早々に挫折。

  • ジャズ関連オススメ本ということで購入。

    自分の感覚で端的に言うと、「極めて洗練されて、もはや原作者がスピンオフ作品を書いたのではないか、と思うような同人誌」だと思った。
    ジャズの巨人たちの生きた断面について、実際のエピソードも交えつつ、今その場所で起こった事実を描写するかのような文体で描いたもの。虚実交えたもので、必ずしも事実のみに依って伝記小説にした訳ではない、ということだが、そのことがかえって、事実の羅列よりも臨場感を生み出すことに繋がって、没入できた。
    ああ、たしかにこのミュージシャンはこんな感じだろう、というところから、なるほどこのミュージシャンはこんな背景があってこそなのか、というところまで、ますますそのミュージシャンに興味が湧く一冊だった。
    訳書だが、随所に村上春樹フレーバーが感じられる文なので、ジャズにはそれほど興味がない村上春樹ファンも楽しめるかもしれない(全くジャズに興味がない、だとちょっと厳しいかもしれない)。

    世間的評価も高く、村上春樹としても訳者あとがきで絶賛しているだけあるな、と
    感じられる本だった。

全29件中 1 - 10件を表示

ジェフ・ダイヤーの作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×