- Amazon.co.jp ・本 (281ページ)
- / ISBN・EAN: 9784105063115
作品紹介・あらすじ
レスターは上官の罵声を浴び、モンクは警棒を振り下ろされ、ミンガスは破壊することをやめない。酒、ドラッグ、哀しみの歴史に傷つき、自ら迷路をさまようミュージシャンたち。しかし彼らの人生には、それでも美しいジャズの響きがあった-伝説的プレイヤーの姿を、想像力と自由な文体で即興変奏する、ジャズを描いた8つの物語。サマセット・モーム賞受賞作。
感想・レビュー・書評
-
エッセイとか翻訳では村上春樹さん、よい仕事をなさる。
おもしろいスタイルの作品で、
7 人のジャズ・レジェンド(レスター・ヤング、セロニアス・モンク、
バド・パウエル、ベン・ウェブスター、チャールズ・ミンガス、
チェト・ベイカー、アート・ペパー)が登場する。
さらっと読み流した「序文」にしっかりと書いてある、
よく知られたエピソードや情報をもとに著者がインプロヴァイズ(即興変奏)した「想像的批評」や近似フィクションと言う表現がよくわからなかったが、
読んでみるとなるほど、ありありといきいきとしたすばらしい表現法だと思う。
訳者あとがきにあるように、この本を読みながらここに描かれたミュージシャンたちの演奏する音楽を聴きたくなる。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
ジャズと文学は相性が悪い。僕はジャズが好きだし、文学も愛している。だが、ジャズに関する文学となると話は別で、形式に関係なく殆ど受け付けない。その多くは、文字通り読むに耐えない。それなりに骨を折って探しても、本当にロクなものがない。
僕は村上春樹を好まない。言い訳になるかもしれないが、決して読まず嫌いというわけではない。過去の代表的な作品は漏れなく読んできたし、『1Q84』も、文庫落ちを待ってではあるが、全て揃えた。その上で、やはり好まない。端的に言えば、彼の世界把握を僕は理解出来ない。文学的感性が狭量なのだと言われればそうなのかもしれないが、デカダンス派の幻想小説や、ビートニク周辺の作品群にも『テクストの快楽』を感じてしまう程度のキャパシティは持ち合わせているつもりだ。
ジャズのテクストと村上春樹。この取り合わせは、僕個人の感覚としては最悪に近い組み合わせである。たとえ村上春樹がいくらジャズに造詣が深くとも、いや、そうであるがこそ余計に鼻に付いて仕方がない。では、何故。何故僕がこの本を手に取り、あまつさえ購入したのか。それはひとえに、書店の棚に平積みされていた本書の装丁に起因する。
その表紙を見た時、視野の中心でマイルスが鳴り響いた。ジャコ・パトリシアスの気怠く歪んだベース音が、ビル・エヴァンスの悲痛なピアノが、アート・ブレイキーの豪快なドラムロールが、次々に到来した。LP盤のジャケットと同じように、そのアウトテリアは紛れもなくジャズだった。そして『But Beautiful』というタイトルを見て、僕の決意は固まった。
『But Beautifuil』…作曲のジミー・ヴァン・ヒューゼンと作詞ジョニー・バークは数々のミュージカルや映画の音楽で活躍した名コンビだった。この曲は元々ビング・クロスビーとボブ・ホープの喜劇映画「南米珍道中」の為に作られたもので、オリジナルを歌ったのは演者のビング・クロスビーだ。
音源をジャケットで選んだ時、そこに過度な内容を期待するのは野暮というものだ。そんな場合、ジャケットの視覚的デザインこそが内容であって、音源はもはや副次的な要素でしかない。そんなことは僕も分かっている。本書の装丁には定価分以上の価値がある。内容になど最初から期待していなかった。理由は上で述べた通りだ。
読みながら、悔しくて仕方なかった。レトリックを多少なりともご存知の人間には、お察しの通りだ。ズルい。文句無しに面白い。本書が扱う演奏者毎のエピソードはそれぞれ有名なものだが、多分に文藝的な演出が施されており、見事に小説として成立している。短編集であるが、案内役である2人の旅人が各話を貫きながら絶妙な存在感を示すことで、全体の統一感を強調する。終始歯切れ良く、リズム良く、テンポ良く、出来の良いアドリブを聴いているような心地で活字を追った。英語のグルーヴを色濃く残した村上の翻訳は、文体に忠実でいてしかも読みにくい箇所が無い。本当に悔しいが、実に見事の一言である。
この作品はまさに、活字によるジャズである。しかもそれが成功した稀有な、というより殆ど唯一の、幸運な本である。これ以上本書の内容を語る舌を、僕は持たない。ただ、一応書評の体裁を整える為に、タイトルにもなった素晴らしいラブソングにその肝心を語って貰おう。簡単だ。たった一ヶ所、歌詞の "Love" を "Jazz" に変えるだけでいい。
Jazz is funny or it’s sad
Or it’s quiet or it’s mad
It’s a good thing or it’s bad
But beautiful
But beautiful -
ジャズミュージシャンの伝説が、小説になっている。文章が抜群にうまい。悲惨な生き方、アフリカ系の人への差別。村上春樹訳。彼の音楽関係の本は見逃さないことにしている。
-
これがどういう本かについては、訳した村上春樹さんのあとがきを読めばわかる。
ペーパーバックの裏表紙に印刷してあったという、キース・ジャレットの推薦文にあるように「『ジャズに関する本』というよりは『ジャズを書いた本』」である。
解説でも批評でもないし、ディスクガイドでもない。それぞれのミュージシャンの評伝というのとも違う。
それぞれのミュージシャンたちの人生の一片を、事実に即して取り出し、浮き上がらせているのだが、むしろ味わいは小説のようだ。
章と章の間に挟まれたストーリーが、そう思わせるのかもしれない。面白い構成。
読みながら、或いは読んだ後、そのミュージシャンの曲が聴こえるような、そして聴きたい!という気になるのだから、「いい」ジャズの本、と言えるのは間違いない。
ここには確かに、音楽が流れている。
それにしても、村上氏の訳したものを読むたび、優れた翻訳というのは、翻訳者が透明人間になっているものじゃなかな、と思う。
読んでいるうちに、翻訳者は見えなくなって(同一化しているのかも?)、直接著者から話しかけられているような気分になる。 -
桃山学院大学附属図書館蔵書検索OPACへ↓
https://indus.andrew.ac.jp/opac/volume/767925 -
実際のジャズミュージシャンについて書いてるのだけどあくまでフィクション。早々に挫折。