- Amazon.co.jp ・本 (461ページ)
- / ISBN・EAN: 9784105053727
作品紹介・あらすじ
日系人収容所で生き別れた「母と子」の、愛と苦悩の運命――戦後七十年、日米両国で注目の長編! 忘れえぬ「母」の記憶を抱いて日本へ――戦争で引き裂かれ、数奇な運命に翻弄される主人公ビル・モートンと「母」光子の愛と苦難に満ちた人生が、戦前のシアトル、戦時下のアイダホ州ミニドカ日系人収容所、昭和三〇年代の東京・九州を舞台に交錯する。村上春樹作品の英訳で知られる日本文学研究者が戦後七十年に向う渾身の長編小説!
感想・レビュー・書評
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20151024読了
村上春樹ファンなら知ってるジェイ・ルービンの長編。翻訳は柴田元幸他
これは史実に基づいたフィクションで、戦前からアメリカシアトルに住んでいた日本人と、急に環境が変わってしまう戦争、そして日本人の収容所生活から九州五木、東京、長崎と色々なことに巻き込まれバラバラになってしまった人たちを探し出す話。
収容所の話や原爆の日の長崎の話などわりと詳細に語られ、酷いことが多い中、主人公の心の中とそのつながりがあるからか、この作者の視点が生きているからか、思ったより暗く重くなく読み進められ、一大ドラマとしてすらすら読み進められました。映画とかにも向いてそうな話です。
そして、一大ドラマだけど私の苦手なドラマチックでは無いところが好きでした。映画にするならそこも淡々と撮って欲しいです。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
出ました本年度ベスト!原題は直訳すると「お天道様」か。日本人である奥様の力添えもあるとはいえこの物語をアメリカ人が書いたというのは驚き。終盤の舞台が広島でなく長崎というあたり、アメリカ人にも恥じる気持ちが少しはあるのかなぁ。第五部のあたりから加速するご都合主義的展開が惜しいけど、人間の愚かさと同時に愛おしさについて、いま読まれるべき普遍的なメッセージが随所にこめられていると思う。しかし本書で最も賞賛されるべきはトマス・モートンの徹底的なダメっぷりでしょう。トヨザキ社長が読んだら狂喜乱舞しそう。
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4.26/111
『忘れえぬ「母」の記憶を抱いて日本へ――戦争で引き裂かれ、数奇な運命に翻弄される主人公ビル・モートンと「母」光子の愛と苦難に満ちた人生が、戦前のシアトル、戦時下のアイダホ州ミニドカ日系人収容所、昭和三〇年代の東京・九州を舞台に交錯する。村上春樹作品の英訳で知られる日本文学研究者が戦後七十年に向う渾身の長編小説!』
冒頭
『いつもとおなじ息苦しい夕食を済ませたあと、ビルはガレージに抜け出して父親のシボレーに乗りこみ、シフトレバーを前後に動かした。』
原書名:『The Sun Gods』
著者:ジェイ・ルービン (Jay Rubin)
訳者:柴田 元幸, 平塚 隼介
出版社 : 新潮社
単行本 : 461ページ -
主人公の気持ちをいつまでも思い続けるような作品。
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太平洋戦争前のシアトル、日本人コミュニティにおいて神の名のもとに穏やかな日々を送る人々の生活が日米開戦を機に一変してしまう。強制収容所における苦難の日々、養母を慕うアメリカ人青年の葛藤、そして彼と運命的な出会いをする女性のひたむきさ。戦争が引き起こした傷心や喪失、さらには絶望の連続にあってミツコの存在は聖母のように光り輝く。
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今年最後にいい一冊を読み終えることができました。戦後70年という節目のこの年に読めたことがよかったです。
内容は、本当に米国の方が書いたのかと思うほどリアリティーに満ちた内容で、日系人が戦時中に受けた扱いを時代を往き来しながら絶妙かつ惹きつけるように展開しています。
正直このような人間の繋がりがあるとは想像以上でしたが、平和な今日をありがたく思わざるを得ない、素晴らしい一冊です。 -
ジェイ・ルービンと聞くと、村上春樹の翻訳家の、と返すほどにはムラカミストだが、漱石等も翻訳する日本文学専門の大学教授、初の小説だそうだ。
第二次大戦中の日本人・日系人収容所、さらには原爆や空襲まで、アメリカが日本にしたことに対し「怒り」をもって批判する。収容所の環境の過酷さなどのハード面のみでなく、日本人差別や”良かれと思って”やった原爆投下などのソフト面まで描き出す。さらに、一番の”悪者”を白人牧師に設定し、キリスト教と正義を掲げ他国を攻撃し続けている米国のありようも否定する。タイトルの「THE SUN GODS」は日本的なお天道様を拝むと言った素朴な宗教心を示す。
いかに知日の著者といっても、たいへん勇敢なテーマだし、アメリカでは様々な反応があっただろう。ぜひ日本でこそ多く読まれて欲しい。戦中戦後の日系社会と日本の描写はごく詳細で自然であるとともに新鮮でもある。
重いテーマながら、ストーリーは瑞々しい青春小説、恋愛小説だ。人物たちの感情や生きざまを身近に感じられる。初小説ゆえにリーダビリティにサービス精神が行き過ぎたというか、韓流ドラマかというような怒涛の展開(というかなんというか)はメロドラマとすれすれになってはいるが、その分読みだしたら先が気になって止まらない面白さがある。
テーマに星プラス1、小説としてのうまさは星マイナス1、というところ。ともかくも良書。 -
日本人を妻に持つ著者は、村上春樹を初めとする日本文学の翻訳家としては既に高名なのだという。
その著者が30年程前に書いたものの未発表だった大戦中の日系人強制収容所をテーマにした小説を近年改めて出版したところ、NYタイムズを初め好評を博したらしい。
テーマは収容所というよりも、本書を読むと実際にはより広く、人間性に対する尊敬だろうか。
聖職者他の白人上流階層の心の底にある白人至上主義に対する皮肉や東京大空襲、長崎原爆被害者の描写、終盤の白人である主人公と日本人の養い親との心の交流など、本書全編にそれは現れる。
政治的正当化など、実際の犠牲者、被害者に比べれば物の数ではないということだろう。
一方で、原爆を投下した米国に対して謝意を示した卑屈な長崎市長に対する批判も手厳しい。
いくつか違和感を覚える箇所がないこともないが、物語として読み易く、本邦の左翼運動家などよりもよほど人権意識はしっかりしている。