学生を戦地へ送るには: 田辺元「悪魔の京大講義」を読む

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (368ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784104752133

感想・レビュー・書評

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  • 世界が混沌としてきな臭い方向に進みつつある今、国家の飛躍的論理に騙されないために、という本書。ショッキングなタイトルと個人的な課題として、民主主義やら資本主義周辺の本を散策する内に手に取りました。
    田辺元の論理には一度さらっと読んだくらいでは理解できない箇所が随所にあり、難解極まりないのですが、チューターとしての佐藤優が緻密な解釈と独特のユーモアを交えてわかりやすく説明されています。そしていつの時代においても戦争は気がつくと背後に忍び寄り、狡猾さを持って巧妙に駆り立てられていくのだと思いました。74

  • 非常に面白い。
    輪読とはこういうものだというものを知らしめてくれた良書である。おそらく私1人ではこの原本を読み通すことなど到底できなかったであろう、かつ佐藤氏をしてもこの難読書を読み解くことが非常に難しいと言うことがわかった。(私の能力が低い)
    佐藤氏を通して解読される本書は、私の能力では本当にその読解で、解釈であっているのかいささか不安ではあるがその時代の思想を読み解くのに非常に良い本だと感じられた。
    ポイントは3点、
    ①京大生ほどの知性を戦場に送り込むのには大掛かりな思想が必要であり田辺元はそれを達成した。
    ②しかしその論理には最終的には論理の飛躍がある
    ③しかし田辺元のずるいところは本書のおおよそ8割はまっとうかつ論理的で正しいことを言っていると言うことである。これは詐欺の手口と同じでほぼ大半を正しいことであれば最終的な結論は正しいように思わせてしまう。私には到底論破することができない。

  • 一人前の泥棒になるために、という話から佐藤氏が自分自身の経験を当てはめて生き残るということを語った部分が印象に残っている。こうあるべき、なにをやりたい、ではなく、瞬間瞬間でできることをすべてやり、使えるものをすべて使わなければ生き残れない局面がある。そのあたり、面白かったし、引き込まれたな。

    悪魔の京大講義を読む、というけれど、果たして田辺元という人物が本当に悪魔だったのかどうか。いや、田辺元を弁護しているわけではない。頭のよい個人の口車で悲劇が招き寄せられたのではなく、あの当時はみんなそういう気分だった。ただ頭のよい人がそれを上手に言葉にして、乗りやすくしただけだ。そんなふうに思えたんだよね。

    今残る資料や普通にみられる映画から、歴史的場面を感じることができるんだ。そういう刺激的なところを教えてくれる本だったんじゃないかな。

  • なかなかヘビーな書籍を読了!
    8割の正論の中に、2割の悪を入れるといいらしい笑

    ただ、佐藤氏は悪を作ることを助長しているわけではなく、正しいようなことの中に、ちょっとした悪を入れる思想が広まることの危険性の系譜をしてくれている。

  • 2015年におこなわれた著者の講座の内容をまとめた本です。

    1939年に京都大学でおこなわれた田辺元の講演『歴史的現実』のテクスト全文を読み、著者が解説をおこなっています。ほかに、国策映画『敵機来襲』を鑑賞し、また柄谷行人の『帝国の構造』の一部を読むこともおこなわれています。また、講座参加者との質疑応答のやりとりも収録されていて、臨場感をあじわうことができるように思いました。

    哲学のテクストをていねいに読み解く講座を書籍化するという試みは、仲正昌樹がおこなっており、本書もそうした内容を期待していたのですが、仲正の本とはかなり異なる印象を受けます。

    著者は、田辺が『歴史的現実』の講義によって受講者である学生たちを戦争へと駆り立てていったと述べています。そのうえで、戦争の危機がしだいにせまりつつある現代において、こうした扇動に引っかからないための処方箋として、『歴史的現実』のテクストを読むという目的を語っています。そのためなのか著者の解釈は、『歴史的現実』のテクストに含まれているアジテーションとして有効な議論のしくみを暴くということにのみ向かっており、仲正の講義のように哲学のテクストの背後にあるさまざまな文脈をひとつずつ拾いあげるということには向かっていません。

    もちろん著者自身の専門のひとつである神学にかんする補足情報や、現代の国際政治の問題に通じるような観点が含まれていることを指摘するなど、多少テクストの重層的な意味についての考察がなされているところはあるものの、全体としてはやや単線的な議論になってしまっているように感じてしまいました。

  • ふむ

  • 哲学
    戦争

  • 佐藤優 氏の講義「 田辺元 歴史的現実を読む 」を本にしたもの。田辺元氏が 京大生を 太平洋戦争や侵略戦争に 向かわせた 悪魔のロジック(知的操作)を検証している。

    京大生に エリートの自覚を促し、愛する人の救済を約束し、死の恐怖を取り除き、社会的大義を与えている。最後の「国のために死ね」という部分以外は 論理破綻を感じない点が 悪魔のロジックなのだと思う。集団催眠にも近い

    悪魔のロジック
    *人間は なるもの→人間になるために変化して成長せよ
    *未来は 過去に制約されている→未来は変えられる→考える未来は 現在を規定する
    *愛する者のため死ぬ=種族のために死ぬ→他の者も憧れて死ぬ→それこそ永遠に生きること
    *既存のゲームのルールに従うことは 強者の論理に従うこと。ならば 自分でルールを立てればいい

    「我々は〜その種族から生まれ、現在 その種族に属し、将来の目標を与えられている」
    *種族の中の人は 掟に囚われている
    *種族の掟に従わない人(突出した人)は 普遍言語を持つ→突出した人になれ

  • 佐藤優さんの本にしては珍しく栞紐がついていました。
    そのこと、半分以上読んでから気づいたのですが。
    京大教授で哲学者田辺元さんの講義がびっしり詰まっていて、
    かなり時間がかかることを想定したから、サービスしてくれた?

    でも、ごめんなさい。
    私はその講義については早々と挫折。
    すっ飛ばすことに決定。
    佐藤さんの解説と合宿に参加されたかたの意見だけ読み、
    必要と思った時だけ戻って読みましたが、
    やっぱりほとんど理解できませんでした。
    ただ、佐藤さんが「もう最後だ。とんでもない結論だよ。ひどい話だから騙されないように、じっくり検討していこう」
    と言われたところからは、頑張って読みました。

    田辺元は京大生を特攻隊にいかせる講義をしました。
    まだ「空襲」なんてあまり真剣に考えなかった時代に、です。
    (当時の映画を見るといろいろな状況が想定できます)
    そして田辺元自身は結局、空襲のないと思われる軽井沢に逃げたのです。
    私がこの難しすぎる講義を受けても特攻隊員になるとは思えませんが、
    それなりのレベルに合わせてコントロールできる先生なので、
    私もまちがいなく特攻隊員になるでしょう。

    さて、この本の最終章で柄谷行人さんの『帝国の構造』(2014年)を抜き読みし、佐藤さんの解説が入ります。
    こちらは私にも理解でき、面白かったので、田辺元の講義など読みたくないと思っている人にもお薦め。

  • 1939年京都大学(当時の京都帝国大学)において全6回で行なわれた田辺元の講義録「歴史的現実」(1940)を、現代の知の巨人(またの名を外務省のラスプーチン)佐藤優が二泊三日の合宿で読み解いた一冊。

    佐藤優が指摘する通り、時の構造や個人、種族、人類の構造を解いた部分は面白いのだが、その後に「どうせいつかは死ぬんだから、お国のために死んだら?」と説く部分は支離滅裂。佐藤優の議論のレベルもそれに合わせて、序中盤は充実していて「久しぶりに面白いリベラルアーツの本を読むなぁ」と思いながら読んでいたものだが、後半は軽薄過ぎてつまらず。柄谷行人パートも蛇足。

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著者プロフィール

1960年1月18日、東京都生まれ。1985年同志社大学大学院神学研究科修了 (神学修士)。1985年に外務省入省。英国、ロシアなどに勤務。2002年5月に鈴木宗男事件に連座し、2009年6月に執行猶予付き有罪確定。2013年6月に執行猶予期間を満了し、刑の言い渡しが効力を失った。『国家の罠―外務省のラスプーチンと呼ばれて―』(新潮社)、『自壊する帝国』(新潮社)、『交渉術』(文藝春秋)などの作品がある。

「2023年 『三人の女 二〇世紀の春 』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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