遺言: 桶川ストーカー殺人事件の深層

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (284ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784104405015

感想・レビュー・書評

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  • 先に「殺人犯はそこにいる」を読んで、俄然興味湧き、著者を有名にした先のこの本も読む。
    いやはや、デジャブ感が半端ない。
    何?この警察の怠慢ぶりの全く同じ感触は?
    「殺人犯はそこにいる」と同じではないか?
    この事件のことがFOCUSに連載されていることは知らずにいた。この中にもあるように、大手メディアが流すものしか私の耳には入ってなかったので、こんなことが裏にあったのかなんてことは知るよしもなかった。
    大手メディアの功罪も大きすぎる…。ほんとにこれらからだけの情報で判断すると知らずにトンデモナイものに加担するときがあると、心底怖く思う。
    そして一市民として、警察でどうにもならなかったらどうしようもない。本当に怖い話である。
    当の警察だってヒマじゃないし、こんなこと言われても困るという話はそれこそ毎日山のように来てるだろう。故に「あぁ、またか…」と済ませたくなる気持ちもわからなくはない。
    しかし「あ?これはもしかして…」と思ったところで潔く動いていたらこんな大事にはならずに済んだだろうとは著者と同じく強く思う。
    人は、間違うし傲慢にもなる。しかし間違えたとわかったときどう行動するかで信頼度が計られる。
    警察が「信頼回復のために」と言ったあとにこういう行動が続くようじゃ、世も末と言われてもしょうがない。

    今日もTVで「袴田さん」の冤罪ニュースをやっていた。
    少し前には「殺人犯はそこにいる」の中でも触れられていた「飯塚事件」の再審請求のこともニュースになっていた。
    明らか著者たちの仕事の成果だと思える。
    「誰が」発しているニュースかという記者個人にまでも敏感にならざるを得ないのか?と思うとそれはそれで面倒くさいことだが、自分の生活の中でも「誰が何を言っていた」という情報の真意を確かめる際、普通に使っている感覚だと思えば、それが「世間のこと」になったとたんに大手だけを信じるというのがおかしい、ということだなと改めて思う。

  • 桶川ストーカー事件の概要は知っていたが、
    これが事実なのが、とても怖い。
    作者は記者なので、書くことがとてもうまく、読んでて、ヒヤヒヤや警察の対応などのイライラを感じた。
    とても面白くて、一気よみしました。

    私も娘がいますが、とても心が痛くなりました。
    人は不公平ではあるが、法の下では公平であってほしいと思います。

  • 久々のノンフィクション。警察やマスコミが嘘をあたかも真実であるかのように報告、報道していく様には恐怖を覚えました。犯人・小松和人の異常性は言うに及ばず。
    犠牲になった詩織さんのご冥福と、本当の正義が貫かれることを心から祈ります。

  • 1999年に桶川市で起きたストーカー殺人事件のルポ。

    著者の取材が、あきれるほど地道で丁寧で、でも信念に溢れたものであることは、他の著書からもよくわかる。
    マスコミの取材を一切拒否していた被害者のご両親が、唯一著者にだけは信頼を寄せ、会って話をしたというのも頷ける。

    当時、女子大生が刺殺されたとセンセーショナルに騒がれた割には、その後あまり捜査の進展が伝わってこなかったことも、しばらくしてストーカー行為をしていた人物の兄を逮捕という、ちょっと意味不明なニュースが流れたことも、年が明けてストーカー本人が自殺して見つかったことも、よく覚えている。のちに、実は警察の怠慢だったと判明したことも。
    これが世に出たのも、著者の執念の取材の結果だったということか。

    頼みの綱の警察からも体よくあしらわれ、なすすべもなくギリギリまで追い詰められた中で被害に遭われたご本人とご家族の無念を思うと、言葉がない。
    警察への社会の目が厳しくなったのもこの事件がきっかけだったと聞く。
    ストーカー行為の根絶は難しいかもしれないが、警察のお粗末な体質は、金輪際根絶されなければならない。
    それさえも難しいのだろうか。
    だとすれば悲しすぎる。

  • この事件を機にストーカー規制法ができたという事くらいで、詳細についての知識はなかった。被害者の友達の話から経緯を知るにつれ、もっと早く警察が動いてくれていたらと思わずにはいられない。また事件後の警察の捜査にもやるせなさが募るとともに、怒りさえ感じる。著者が取材を進めていなかったらと考えると恐ろしい。

  • まさに事実は小説より奇なり。事件を暴く執念、取材を通して進む事実確認がミステリー小説のようでありながら、しかし、ノンフィクションのため実際に起こった事として追体験するにもスリリングである。ストーカー規制法の契機ともなった事件を追う。

    清水潔は、記者として読ませる文章を書くだけではなく、時々見せる職業ポリシーや内省に非常に共感させられる所があり、自らのキャラクターをまるで探偵小説の登場人物のように、意図してか否か、上手く描いていると思う。実際の事件だから不謹慎かも知れないが、十分エンタメとして成立している。

    しかし、事件そのものはスッキリしない面もあり、結局は、どのような角度、立場で描かれるかで印象が随分違う。暴力団関係者、精神薄弱者、虚言癖、偏執症、あるいは誰かに完全に操られていたか。被害者も夜の仕事をしていたかで随分イメージ操作をされてしまったようだ。この事件も、ただの痴話喧嘩のように警察に扱われた。印象、イメージとは何か。外野や第三者から、正しいと思われるか、その逆か。報道や偏った一部の人間よって事実が歪められ、自らの主張が受け入れられない事は恐怖である。

  • 清水潔『遺言 桶川ストーカー殺人事件の深層』(新潮社、2000年)は埼玉県警の不祥事である桶川ストーカー殺人事件の真相を明らかにした書籍である。埼玉県の桶川駅前で1999年10月26日、女子大生が殺された。週刊誌記者の著者は被害者の遺した言葉を頼りに取材を続け、警察より先に犯人に辿りつく。ジャーナリズムの存在意義を感じる仕事である。
    この事件はストーカー規制法成立の端緒となった。しかし、典型的な個人によるストーカー犯罪とは様相が異なる。集団的な嫌がらせ、攻撃である。後に社会問題になる半グレ集団の犯罪に重なる。当時は半グレという言葉はなかったが、今から振り返れば半グレの問題である。逆恨みした半グレが個人を攻撃した問題と捉え直すべきではないか。そのような典型的なストーカー犯罪と異なる半グレ犯罪に対応できているか。恋愛以外でも逆恨みした半グレが恨みを晴らすために個人を攻撃することはある。
    埼玉県警は執拗なストーカー行為に全く動こうとしなかった。埼玉県警は半グレの味方ではないかと思わせる対応であった。この事件は民事不介入を金科玉条にした警察の消極主義が批判される傾向にあるが、戦前の警察国家の反省は重要である。批判されるべきは半グレの味方をするような埼玉県警のスタンスではないか。

  • ★本物の事件記者★「殺人犯はそこにいる」からさかのぼって読んだ。警察発表に依拠できない雑誌で、センセーショナルな見出しや警察の誘導に引きずられることなく、地道に取材して被害者周辺の声をきちんと伝える粘り強さ。被害者家族とのつながりは、アリバイのように「家族の声」を取りに行く凡百のマスコミとの違いが素晴らしい。
     警察より先に犯人に行き着いたというだけでも一生に一度モノの案件なのに、翻って警察の怠慢と嘘まで暴くとは。「殺人犯~」でも驚いたが、被害者の家族がいかに警察から放置されているのか、そして警察はミスを隠すために一度決めた自らのロジックを守るためにはどんな無茶でもするのか、ということに改めて驚いた。警察からの情報に頼らないだけに、ほかにない事件モノの作品となるのだろう。新聞記者が自らを「事件記者ではなく警察記者」と自嘲するのが響く。

  • 清水さんの本はとにかく読みやすい。臨場感もあるからどんどんページが進む。
    桶川ストーカー殺人事件は犯人の異常さが際立つが、警察のあまりの怠慢ぶりに開いた口がふさがらない。全ての警察署がそうではないことを祈るばかりだ。最後の砦だと思って駆け込んだ警察が、この状況下で何もしてくれないのではどこに助けを求めたらいいのかと思ってしまう。

  • Twitter のTL でたまたま見かけたことをきっかけに読む機会を得たこの本は15年前の発行。その1年前に起きてしまった事件は衝撃的でした。後に「ザ・スクープ」で知ることになった埼玉県警の不祥事は世間を賑わせましたが、その「裏」では清水氏の何かに取り憑かれたような取材があったのですね。その一部始終が記されているこの著書の迫力は圧倒的で、読むことが遅いことを自覚しているこの私が、一日で読み切ってしまいました。

    読む順番は前後していますが、『殺人犯はそこにいる』に書かれている警察とマスコミ――と十把一絡げにしては失礼ですね。記者クラブメディア、或いは「警察取材」を生業とする記者たちの体質は何も変わっていないことには絶望します。

    「主犯」が最期の地に選んだ北海道。その頃、札幌に住んでいました。もしかしたらどこかで擦れ違っていたのかも――とにかくその異常性には詩織さんの友人ならずとも恐怖を感じます。本を正せば、なぜこのような異常人格が形成されたのかも知りたいものです。

    21歳で人生をぶった切られてしまった。それに相応しい理由なんて何もない。ただ不運が重なっただけ。だからやるせない。国家権力も頼りにならない。剣より強いはずのペンも役立たず。

    清水さんの存在が救いです。

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著者プロフィール

昭和23年生。皇學館大学学事顧問、名誉教授。博士(法律学)。
主な著書に、式内社研究会編纂『式内社調査報告』全25巻(共編著、皇学館大学出版部、昭和51~平成2年)、『類聚符宣抄の研究』(国書刊行会、昭和57年)、『新校 本朝月令』神道資料叢刊八(皇學館大學神道研究所、平成14年)。

「2020年 『神武天皇論』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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