猫をおくる

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (221ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103999065

作品紹介・あらすじ

そこでは猫がやさしく弔われ、星の形をした、あるものが手渡される。喪失を抱えるすべての人に捧げる連作小説。餌付けをしているわけでもないのに猫が寄りつき、「猫寺」と呼ばれていた都内の木蓮寺。若き住職の真道は高校教師だった藤井に声をかけ、猫を専門に扱う霊園を開設する。愛猫を看取ったばかりの瑞季、そして真道と藤井もまた誰にも明せない悲しみと孤独を抱えていた。猫と共に生き、猫に生かされてきた男女の祈りと再生の物語。

感想・レビュー・書評

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  • 猫専門の葬儀社と霊園を営む通称〈猫寺〉の木蓮寺。
    猫の骨を丁寧に火葬する藤井、住職の真道、客だった縁で事務スタッフになった瑞季。
    猫寺には今日もたくさんの名前のない猫たちと、少しの人々がやってくる。

    てっきり、亡くなった猫にまつわるエピソードが描かれるのかと思っていたら、全然違う話だった。
    三人とも身内を亡くしているという共通点と共に、不思議ちゃん? 夢? 妄想? という話が綴られる。
    そんな中で、瑞季の彼氏の瀬戸は妙に人間くさい。そして両親の離婚により妹と離れることになった少年も。

    『猫は誰の世話になろうが、誰のものにもなりません』

    これが猫を表現する全てだろう。

    猫のしっぽの骨にこんな秘密があるとは。そこから宇宙にまで話は飛躍し、亡くなった人々へ思いを馳せ、そして今生きている猫たちや通ってくる少年や少女や女性、更に瑞季や藤井や真道の話に戻ってくる。
    亡くなった人々と、お寺にやってくる猫たちと人々と、程よい距離感での交流は心地好い。

    序盤は取っ付きにくいのかと思っていたが、読み進めるうちにいつの間にか猫寺ワールドに入り込んでいた。

  • そこでは猫がやさしく弔われ、星の形をした、あるものが手渡される。
    餌付けをしているわけでもないのに猫が寄りつき、「猫寺」と呼ばれていた都内の木蓮寺。
    若き住職の真道は高校教師だった藤井に声をかけ、猫を専門に扱う霊園を開設する。
    猫専門のムーンライト・セレモニーを開設すると、引き寄せられてくる人々がいた。
    愛猫を看取ったばかりの瑞季、
    そして真道と藤井もまた誰にも明せない悲しみと孤独を抱えていた。


    タイトルの「猫」を見て思わず手に取ったこの本。
    でも「猫をおくる」…これは読むのに覚悟がいるんじゃないか。
    哀しくなるんじゃないかと、怖い気持ちもありましたが、
    やはり、読みたいと思った。

    読み始めから、猫の火葬のシーンでしたが、
    火葬の終わった猫の骨を生前そのままに綺麗に並べる…。
    猫の尻尾には星が隠されているのか…どんなんだろう?
    その星を見て、遥か宇宙に思いを馳せる人々。
    ボイジャー1号・2号の事は名前だけ聞き覚えがありましたが、
    詳しく知らなかったです。
    未確認生物との遭遇の為に地球の様々な音や様々な言語を録音したものを、
    搭載されているのですね。凄いなぁ。
    淡々と描かれる様に妙に冷静に読めていた。
    愛猫を亡くしたばかりの瑞季の思い出や心境には
    自分を重ねてやはり少し涙が零れました。

    とっても不思議な雰囲気に包まれた物語。
    喪われたものは、いつかきっと還ってくる。
    私も本当に漠然とですが、輪廻転生を信じているので、
    うんうん、そうだよねって思いました。

    あの柔らかくて、温かくて、気まぐれで自分が一番って思ってる愛しい猫。
    猫なしでは生きていけないなぁって改めて思った。

    こんな猫寺が近くにあったら毎日でも行きたい!

  • 最近いろんな事に忙しく、夜読み始めるとコックリといつのまにか寝てしまう。
    そんな繰り返しで読むのに時間がかかってしまった。
    でも内容的に優しい時間が漂う内容だったので、私の気持ちもいつも穏やかなゆっくりとした時間が流れていたのかも。

    猫専門の霊園。そこを営んでる猫寺木蓮寺。
    住職真道や猫の亡骸を優しく扱ってくれる元教師の藤井。そして愛猫を看取ったばかりの瑞季。
    彼らはそれぞれ心の奥底に孤独を抱えている。そういった人は他人に優しいのかもしれない。猫にも。

  • 実家で、いま飼っている猫、むかし飼っていた猫たちを思い出しながら読みました。
    猫専門のムーンライト・セレモニーで弔ってあげたかったなぁ。
    猫が隠し持っている星を見てみたいなぁ。
    などなど、しんみりしながら読みました。

    実家では、居ついたのら猫を飼っていました。その猫が歳をとり弱ってきた頃から、そっくりなのら猫が姿を見せるようになりました。そして、先代に頼まれたかのように、その猫が実家で暮らすようになりました。
    猫って本当に不思議なところがあるんです。
    わがままで勝手に暮らしているようで、飼い主さん達のことを大切に思ってるんでしょう。
    猫好きの戯れ言ですが…。

  • ゴールデンレコードの話が良かった。

  • ――日向の床で横になって、間近で目を合わせているうちに、どちらからともなく目を閉じて、それが別れになった――

    菜々さんは親猫とはぐれたらしく、ひとりぼっちでゴミ捨て場でうずくまって震えているところを、瑞季の父に拾われてきた。瑞季は当時、高校に入学したばかり。
    以来18年。瑞季の人生の半分以上の年月――その間に両親は相次いで亡くなった――を、菜々さんと一緒に暮らしてきた。そして今、菜々さんは死んでしまった。
    菜々さんを荼毘に付すために訪れた猫専用の霊園ムーンライト・セレモニー。いつからか自然と猫が集まり、「猫寺」と呼ばれるようになった曹洞宗のお寺「木蓮寺」に併設されたセレモニーホールで、瑞季は丁寧に猫のお骨を扱う火葬屋・藤井と、猫を胸に響く読経で見送ってくれる住職・真道に出会う。

    10代のうちに両親を亡くし、猫の菜々さんと長いこと暮らしてきた瑞季は恋人と呼べる相手がいるにもかかわらず、いまいち距離を縮めることができないでいる。猫の火葬を担当する藤井は、猫だらけの家で無人宇宙探査機・ボイジャー2号の旅を追い続ける母の気持ちを思う。真道は若くして亡くなった母のことは覚えていないが、母の代わりのように、夜、寄り添って眠ってくれたハチワレの猫がいた。一枚の写真に写る母の面影は、自分が年を経るごとに、姉のように、妹のように、やがて他人のものになっていく――。
    瑞季、藤井、真道。それぞれに思い出の猫がいる。その猫を思うとき、懐かしい人の記憶もまたよみがえる。父親、母親、兄弟、遠くへ行ってしまった、もう会うことのできない人たち。いつかの過去で、寄り添って生きていた温かいいのちのぬくもり。ともに過ごしてきた猫を喪うということの悲しみ。新たな猫と不意に出会う、畏れと期待。それはそのまま、人と人との出会いや関係、人生、そして別れとかさなってゆく。「猫をおくる」とき、きっと人は猫と生きてきた時間を思い、同時に、人と生きることを考えるのだ。

    「猫寺」に集まる猫の登場シーンが印象的。すっかり日が暮れた頃に、薄闇の中から何匹も何匹も現れる。まるで闇から生まれたものたちのように、静かに。そしてそっと脛や膝や手元に、からだをこすりつける。
    メインとなる登場人物3人はそれぞれに孤独を抱えている。猫たちはその孤独をそっと埋める存在なのかもしれない。気まぐれで、静かで、温かくて、いつのまにか寄り添ってくれている。
    猫を飼ったことのある読者にとって、本書は共感の連続であるに違いない。虹の橋のたもとに行ったあの子のことを思う。まだまだ、一緒に暮らしていきたいこの子のことを考える。そのどちらの読者の心にも優しくしみこんでくる。そんな連作短編集。

  • 猫に馴染みがないけど
    この本読んだら魅力が分かる。

  • 初読み作家さん、図書館で出会った本。
    猫たちがいつも過ごすお寺の住職を中心に猫好きの人々の暖かくて少し不思議な物語。

    淡々と日常が過ぎてゆく描写が心地よく彼岸と此岸が入り混じると言うと大袈裟だけど、猫寺と呼ばれている場所の心地良さを感じた。いつ来るともわからない終の時まで生きなきゃなぁと思った。

  • 思っていたのと違っていて肩透かしの印象。
    1話目のようなお話が続く連作短編かと思っていたのだけど、タイトルのような猫をおくる話は1話目のみ。
    この話はすごく好きで、泣きそうになりながら読んでいて、その分その先への期待が高くなりすぎたかな。
    あとは、その猫の葬儀屋を営むお寺の人たちの人生のお話だった。
    ちょっと軽い哲学っぽい雰囲気。
    でも、色々中途半端な印象でよくわからなかった。
    猫がたくさん出てきたのはよかったけど。

  • 猫は身体のある部分にに星を持っている
    (初めて知りました)

    猫専門の霊園の住職とセレモニースタッフが紡ぐ、心穏やかな連作短編集

    猫のしなやかな肢体と透明な目、神秘と不思議がつまっているみたい
    生活の中にとけ込んで癒されていく、読んでよかったなぁと思える作品です

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著者プロフィール

野中 柊(のなか ひいらぎ)
1964年生まれ。立教大学卒業後、ニューヨーク州在住中の1991年に「ヨモギ・アイス」で海燕新人文学賞を受賞して作家デビュー。小説に『ヨモギ・アイス』『小春日和』、『銀の糸』、『公園通りのクロエ』、『波止場にて』『猫をおくる』など、エッセイ集に『きらめくジャンクフード』など、童話に「パンダのポンポン」シリーズ既10巻(長崎訓子 絵)、『ようこそ ぼくのおともだち』(寺田順三 絵)、「本屋さんのルビねこ」シリーズ既2巻(松本圭以子 絵)、絵本に『赤い実かがやく』(松本圭以子 絵)など著書多数。『すてきなおうち』(マーガレット・ワイズ・ブラウン 作/J.P.ミラー 絵)など翻訳も手がける。

「2020年 『紙ひこうき、きみへ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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