なんでも見つかる夜に、こころだけが見つからない

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103544913

作品紹介・あらすじ

シンプル礼賛の時代に、シンプルになれないこころで生きる全ての人へ。どこでも、誰とでもつながれる時代。なのに、どうしようもなく「ひとりぼっち」だと感じるのはなぜ? 検索すれば、わかりやすい「答え」がありあまる時代。なのに、自分のこころがわからなくなるのはどうして? 紀伊國屋じんぶん大賞受賞の臨床心理士が読者との〈夜の航海〉を通じて描く、新感覚の「読むセラピー」。

感想・レビュー・書評

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  • "本を読んだ"より、"著者のカウンセリングを受けた"という読後感だった。
    語りかけるような文体がとても斬新で良かった。
    "こころ"という目に見えないものを上手く言語化していて読みやすかった。

    臨床心理士の著者が、小舟(個人)の先の見えない夜の航海(人生)をサポートするために書いた本。

    第3章の『働くことと愛すること』がとても心に響いた。
    働くことは"する"こと。愛することは"いる"こと。
    PDCAで"する"ことを効率化することは良いが、それを人間関係や趣味の"いる"ことに持ち込むと破壊する。
    また、その逆で家族を扱うように従業員を扱うとハラスメントになる。
    "働くこと"と"愛すること"は混ぜるな危険。

    今とても苦しんでいる人ではなく、将来に迷いがある人におすすめの一冊です。

  • 寂しかった自分に気づく本? 臨床心理士が綴る、こころの問題との向き合い方 | ananニュース – マガジンハウス
    https://ananweb.jp/news/415371/

    こんなにも生きることが困難な時代だからこそ…臨床心理士が抱く「こころ」をめぐる“危機感”とは | 文春オンライン
    https://bunshun.jp/articles/-/54259

    東畑開人さん「なんでも見つかる夜に、こころだけが見つからない」インタビュー 時代に傷つく心へ補助線|好書好日
    https://book.asahi.com/article/14589712

    僕らはひどく孤独になりやすい社会で生きている<東畑開人さんインタビュー 前編> 『なんでも見つかる夜に、こころだけが見つからない』 | BOOKウォッチ
    https://books.j-cast.com/topics/2022/04/19017820.html

    <中瀬ゆかりのブックソムリエ2022>なんでも見つかる夜に、こころだけが見つからない-3月31日放送  - えとせとら本棚
    https://matome.readingkbird.com/entry/2022/03/31/100808

    荒海に小舟の時代に | 東畑開人『なんでも見つかる夜に、こころだけが見つからない』書評 | 白石正明 | 本の試し読み | 考える人 | 新潮社
    https://kangaeruhito.jp/trial/378090

    植田たてり
    https://tateri.wixsite.com/ueta

    東畑開人 『なんでも見つかる夜に、こころだけが見つからない』 | 新潮社
    https://www.shinchosha.co.jp/book/354491/

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      自由だけど孤独な現代社会で迷子になった大人に勧める エッセイスト・塩谷舞が安心感を得られた一冊 | レビュー | Book Bang -ブッ...
      自由だけど孤独な現代社会で迷子になった大人に勧める エッセイスト・塩谷舞が安心感を得られた一冊 | レビュー | Book Bang -ブックバン-
      https://www.bookbang.jp/review/article/731731
      2022/06/17
  • 生きていく上で、道の途中でつまづいたときに助けてくれる、言葉という「処方箋」。しかし自分にぴったりの言葉というものは、探せば探すほど見つからないことが多い。
    そして、辛くなればなるほどに、周りが見えなくなって、余計に苦しくなっていく。
    そんな気持ちに、ごちゃごちゃした感情に、「補助線」を引いてみる。補助線は、図形を2つに分ける。「ポジティブとネガティブ」だとか、「スッキリとモヤモヤ」だとか。
    この本では、そんな補助線を7つ紹介している。

    最初の補助線は、「馬とジョッキー」。
    馬は決しておとなしいわけでなく、むしろ暴れ馬で、これと決めたら猪突猛進。
    一方、ジョッキーはその馬を宥めて、コントロールしようとする。
    アンガーマネジメントや、ポジティブシンキングなど、コントロールしようとする「ジョッキー側」の考え方が、世の中に浸透するあまり、馬の行動力が蔑ろにされている。
    心の声を大事にしようと言いながらも、すぐさま行動するのでなく、落ち着いてから動き出す。

    馬かジョッキーか、果たしてどっちがいいのだろう、という考え方は実は間違っていて、実はどっちも悪いし、どっちも良い。

    他にも多くの補助線について、実際のカウンセリングにフィクションを混ぜて語られているが、この本で流れている通奏低音は、「どれも正しい」ということ。

    この本の、そっと包むような優しさが、眠れない夜にぴったりだと思います。

  • 臨床心理士の東畑先生による"読むセラピー"です。
    先生が優しく語りかけてくれているような文体なので、一生懸命に読書をする元気がないな…という状態の時でも読みやすいのではないかと思います。

    私自身、メンタルはかなり弱い方なので、
    しょっちゅう落ち込んでるし、疲れたとか消えてしまいたいとかネガティブなことばかり渦巻いてどうしようもない時もあります。

    本書には、自由で過酷な現代社会を生きる私たちに向けて、東畑先生からのメッセージが綴られています。
    中堅心理士の年代へと差し掛かった東畑先生が、これまでのカウンセリングでの経験をもとに、私たちの生きづらさの正体を掘り下げていき、丁寧に解説してくれています。
     

    複雑な現実をできるだけ複雑に生きること

    「幸福とは何か」という問いに対する先生の答えは上のとおりですが、
    何でこんな難しいこと書くねん…て感じですよね(笑)

    大きな海の中で、自分で舟を漕いで進んでいくには、分かりやすい一本道なんてきっとないのでしょうか。
    まぁ、時には迷子になったっていいのかな。
    ゆっくりゆっくり、自分の中の色んな声に耳を傾けながら、舟を進めていこうか。

    暗闇の中にほんのりと灯り、優しく暖かい道標になってくれるような本です。

  • 『居るのはつらいよ』の臨床心理士・東畑氏による書き下ろし作品。
    フィクションに再構成したクライアントの体験や彼らとの会話を事例として扱いつつ、生きづらさを感じる心と向き合うための「7つの補助線」を章を追うごとにひとつずつ紹介していく。個々人が「小舟化」して孤立しやすい現代の状況とリンクし、寓話仕立てのストーリーが全体を覆う。専門用語の使用は意図して抑制され、万人向けの「読むカウンセリング」を目指した著作として読める。

    各章で順に登場する「補助線」は、「処方箋/補助線」「馬/ジョッキー」「働くこと/愛すること」「シェア/ナイショ」「スッキリ/モヤモヤ」「ポジティブ/ネガティブ」「純粋/不純」の七つ。冒頭とあとがきでも触れられるとおり、現在広く注目を浴びる「生き方本」「セルフヘルプ本」「自己啓発本」といった書籍を意識して作られている。それらが「処方箋」に当たるとすれば、本書は「補助線」の役割を担う。著者は「処方箋」の効能を否定せず認めつつ、他方で人生に悩む人々にとって同様に重要な「補助線」への理解へと導く。

    7つの補助線の要素はいずれも、一方の要素がその即効性などで現代社会において高く評価される反面、他方が軽視、または無視されている。そのような、現代において価値が忘れられつつある視点を再評価してリマインドすることも本書の指針となっている。かつ、そのことが、心に悩みを抱える個々人の問題のためにありながらも、広く資本主義が徹底された現代の問題と連動していることを示唆する。

    読み物としての本書の重要な性質として挙げられるのは何といっても、わかりやすさへの工夫だろう。具体的にはまず、全体をゆるく包む寓話仕立てのストーリーにあり、夜の荒海に放り出された「小舟」に付き添う著者が、私たちに「7つの補助線」を手渡すことで、無事に心の危機を脱出するまでをサポートする展開が導入を助ける。次に、「7つの補助線」とマッチする形で提示される、著者のカウンセリング経験をもとにしたクライアントの経験が、具体的な問題や「補助線」の利用法へのイメージを促す。もうひとつは、専門用語の抑制や丁寧語による語り口調、改行の多様を選択したことによる読みやすさにある。部分的に「心理学では」「社会学では」といった形で補足することはあっても最低限にとどめ、広い読者と向き合うことを何よりも優先する。

    終盤で著者は、本書を貫くのは「も」の思想だと明かす。

    「それは現実の複雑さを切り捨てて、シンプルにするためではありません。白と黒に分けるのは、黒を捨て、白にしがみつくためではない。
    「も」の一文字を堅持し続けるためです。」

    この思想と呼応して、七つの補助線のうちのひとつは、実は紹介される以前の本書の初期から登場している。それは「複雑な現実を複雑に受け止めることを可能」にするものであり、「七つの補助線」は「複雑な現実にケース・バイ・ケースで折り合うためのやり方を見つけ」て実現するために用いられる。
    そして、「7つの補助線」を使用することの最終的な目的は「幸福」にある。
    本書では、「幸福とは何か」という問いへの回答までもを用意して、読み手に応えようとする。

    『居るのはつらいよ』に感銘を受けての本書だった。読みやすさと一般への意識でいえば、フランクでコミカルに書かれていた『居るのはつらいよ』よりもさらにリーダブルである。かつそのうえで、即効性に訴えるわけではなく(むしろその対極にありながら)、できるだけ多くの読者にとって実践的であろうとする徹底した意志がうかがえる。期待を裏切らない内容だった。

  •  臨床心理士である著者は、本書の中で語っています。自己啓発本(処方箋)は万人受けしないし、限界がある、と。
     こんな著者が、クライエント(読者も含めて)を夜の航海に漕ぎ出した小舟、自らを「心に補助線を引く」補助船に例え、事例を交えながら敬体文体で分かりやすく助言を与えてくれます。
     個人的に自己啓発本の類はほとんど読みませんが、本書の中には頷ける部分やストンと腑に落ちる箇所もあり、優れた著作であると思います。
     ただ、もちろん自分も様々な悩みを抱えながら生活しているものの、冒頭の通り、なかなか自分事として捉えられません。私が単純におめでたいのか、本書に求めていることを根本的に誤っているからでしょうか? 確かに、困り事解決へ示唆を得たくて読んだのではなかったのですが…。
     しかしながら、生き苦しさを抱えている人にとって、正解・最善策を与えてくれるものではなくとも、最適解のヒントや心のもち様は得られるのではと思います。

  • 「人間の悩みは、すべて対人関係の悩みである」
    『嫌われる勇気』にあったアドラーの言葉。
    でも時代とともに変わっているのだということが
    この本ですごく納得です。

    〈心と社会はどのような関係にあるのか。
    資本主義が徹底され、「小舟化」
    ー社会学がいうところの「個人化」ー
    が極限まで進行しようとしている私たちの社会にあって、
    心はどのように病み、
    そしてどうなったら回復したといえるのか〉
    それが東畑開人さんの研究テーマでした。

    大海原に放り出された小舟一艘で私たちは航海しなければなりません。
    いかにして方向を見出し、いかにして航海をしていくのか。
    言い換えるならこの自由で過酷な社会を「いかに生きるか」

    いろいろな悩みを抱えている人にヒントになるのではないでしょうか。

  • P123 僕らは孤独になりやすい、一人で食事をしたくない時、誰かを誘いたくなるのだけど、そんなことしたら相手に迷惑をかけている気がしてしまう。困った時、誰にSOSを送っていいのかわからない。
    *調子が悪くなればなるほど、人に会いたくなくなる。

    「つながり」という言葉、良きニュアンス。実のところつながりをひどく恐れている。
    僕らの抱えている傷つきの多くはつながりからやってきたものではなかったか、人間関係では時に手酷い攻撃が起こり、深刻な裏切りが生じます。確かだと思っていたつながりは、あっという間に壊れたり失われたりしてしまう。
    「つながり」は危うくはかない。

    色々なテーマの中で一番分かりやすかったというか納得できた?内容を引用してみました。
    大勢の人たちと「つながり」ながら生活している日々、それはかなりのストレスに…納得。
    世の中 大分 小舟化(孤独)になってきているのは実感できます。いざという時頼れるものが無い不安。

    色々な本を読み私のいき着いた答えが、起こってもいないことを不安に思わない事!です(笑)

  • 東畑さんの本をちゃんと読めたためしがない

    この社会の中で、人間関係の中で、うまく泳いでいくのは難しい。

    昔のとにかく団体で、集団で、まとまっていた大船(おおぶね)ではなくて、最近は個人を大切にするっていう甘い言葉で、我々は小舟を乗りこなすようになった。荒波に耐えるのもひとり。美しい景色に感動するのもひとり。

    この生きづらい社会で小舟をこいで、いかにして航海していくのか。いかに生きるか。

    とある物語を事例として、こころのことを少しずつ知っていく。この本の進め方はとてもわかりやすい。



    私は読んでいて、途中で「!」と、全然物語とは関係のない、自分のことがハッキリと見えた。

    これが私の悩みだったのか!

    ここしばらく納得があんまりできなくて、保留にし続けていたことがあった。どうも腑に落ちないんだけど、それをどうしたらいいのかわからない。もたもたと先延ばしにしてるだけで、さっさと片付けちゃいなよ、という私もいた。

    それでも、雑に解決しようとしなかった自分を褒めたい。

    いったい、私は心のどこに補助線を引いたのか

    東畑さんの本をちゃんと読めたためしがない

    読んでるうちに、色んなことが頭の中に浮かんできちゃって、集中できない。

    どこか、もんやりしているアナタにおすすめです

  • ここには明確な答えはなかったかもしれません。
    しかし、なるほどなと考えさせられることがたくさんありました。


    私は「シェア」することができる友達のグループを持っていないことに気づきました。
    複数人のグループに属して、それぞれの人に気を遣うことを避けているのかもしれません。
    そのような場が私にも必要なのだろうなと思いました。


    We have to voyage on our small boat in this society.
    We are lonely instead of getting free.
    I want to go back to this book when I lost my way.

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著者プロフィール

1983年東京生まれ。京都大学大学院教育学研究科博士後期課程修了。博士(教育学)・臨床心理士。専門は、臨床心理学・精神分析・医療人類学。白金高輪カウンセリングルーム主宰。著書に『野の医者は笑う―心の治療とは何か?』(誠信書房)『居るのはつらいよ―ケアとセラピーについての覚書』(医学書院)『心はどこへ消えた?』(文藝春秋 2021)『なんでも見つかる夜に、こころだけが見つからない』(新潮社)など。『居るのはつらいよ』で第19回(2019年)大佛次郎論壇賞受賞、紀伊國屋じんぶん大賞2020受賞。

「2022年 『聞く技術 聞いてもらう技術』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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