- Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
- / ISBN・EAN: 9784103536512
作品紹介・あらすじ
そこでは子供が、妊婦が、故国を追われた数多くの人々が息絶えてゆく――。米国とメキシコを隔てる3200キロの国境に世界中の移民が集まっている。中南米のみならず、アジア、アフリカからもやって来るのはなぜか? 麻薬組織が支配する砂漠、猛獣が棲むジャングルを越えて向かう理由の中に、私たちが知るべき世界の真実がある。2019年度ボーン・上田記念国際記者賞受賞の迫真ルポルタージュ。
感想・レビュー・書評
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【まとめ】
1 エクソダスの出現
2018年10月13日、中米ホンジュラスから「キャラバン」と呼ばれる移民集団が、幹線道路を占拠しつつ北上を始めた。はじめは1,300人から始まった隊列が、メキシコに入ってからは7,000人規模にまで膨らんだ。サンペドロスーラから20日に第2陣が、サンサルバドルからも29日に第3陣、31日に第4陣が出発した。人数も広がりも空前の規模になった。
これに対し、トランプはツイッターで「我が国に対する侵略だ」と非難し、中米3カ国に援助停止を突き付けてキャラバンの阻止を要求する。「軍が待っているぞ!」と投稿し、実際に5,000人を超す兵士を米国とメキシコの国境に派遣した。
彼らは圧政と不平等のために国を逃れた移民だ。
移民は普通目立たないよう行動する。コヨーテと呼ばれる仲介人に金を渡し、メキシコや米国へ不法侵入する。その間、当局の検問を避けるために山道に入り、強盗や性的暴行に遭う被害が後を絶たない。しかし、このキャラバンはわざと目立つように行動し、集団で進みながら、警察と堂々と渡り合っている。権利を主張しながら堂々と行進することで、世界の目が自分たちに向くようにしたのだ。
しかし、彼らの存在は沿道の住民の反発を招いた。彼らは不衛生で、物乞いをし、ゴミを辺りに捨てる。周辺地域の治安が急激に悪化したことで、近隣住民には激しい反発と警戒、不安が渦巻いていた。
移民への支援活動をしてきたサンチェスはこう語る。
「グアテマラに入ったところから手に負えなくなり始めた。制御も、指示も、組織化も、誰も何もできない状態だった。我々も助けようとしたが、あまりにも、あまりにも人数が多すぎた」
キャラバンの先導者であったフェンテが逮捕されたことで、「生みの親」の手を離れ、突然変異して巨大化し、自らの意思で行動する。これまでとは異質で規格外の新たな移民集団は、「約束の地」を求めて大量脱出した旧約聖書の出エジプト記になぞらえて、「エクソダス」と呼ばれるようになった。
2 壁を築くことに意味はあるのか?
筆者は、移民問題の専門家、カリフォルニア大学教授のデビッド・フィッツジェラルドに、「どこに行けば壁支持者に会えるのか」と疑問をぶつけた。
彼の答えはシンプルだった。「まずは国境から離れなければなりません」。国境から遠く、白人が多数を占める田舎町に行け、というのだ。
「国境のそばに住む人たちは、壁が交易や家族の再会を妨げ、米国とメキシコを敵対させてしまうことを知っています。でも、遠くの人は移民とつきあいもなく、あらゆる不満のはけ口にしがちです。反移民感情が最も強いのは、移民が最も少ない地域なのです」
米国際平和研究所上級客員研究員のアレクサンドラ・ノヴォスロフは、現代世界で急増している壁を「グローバル化した世界のパラドックス」と表現する。
「グローバル化で、国や暮らしが変わってしまうという不安が生まれました。国境を開いていく自分たちの独自性が失われてしまうと考える人たちは、目に見える堅牢な建設物である『壁』で国境に再び印をつけて、自分たちの伝統に回帰したいと考えたのです」
しかし、国境を越えるあらゆる難題が壁で解決できるというのは幻想ではないのか。
「政治家は、移民などの問題の複雑さを説明したがりません。国民が理解できないと思っているからです。そして、最も簡単な答えが壁を建てることなのです。安全になった感覚をもたらし、政府が国民に対して、問題に取り組んでいる印象も持たせられます」
その先に何があるのか。
「壁で問題は解決しないので、人々の怒りが増幅する悪循環が生まれます。感情的に怒れば怒るほど、真の問題解決は遠のいていくのです。最もしわ寄せを受けるのは、移民と壁の近くで暮らす人々です。行き来が難しくなり、家族が分断されて、あらゆる問題が生み出されます」
3 暴力によって、壁に向かう難民が生み出される
若者たちで構成されるギャング組織『マラス』は、中南米を中心に拡大を続けている。
エルサルバドルでは、マラスの犯罪に手が負えなくなった警察当局が、マラスと直接取引を行った。
「警察内にも反対意見はありましたが、強硬策の失敗もあって、当時のフネス政権の政策として停戦することになりました。政府とMS13、18番街の間で、2012年から1年半です。非常に短期的な成果を狙ったもので、犯罪を抑える効果は長続きしませんでした」
「マラスが殺人事件の件数を減らす見返りに、刑務所に入っているリーダーが外部と連絡をとれるよう政府が便宜を図ったのです。マラスにとっては、リーダーが刑務所内からみかじめ料徴収の指示を出せるメリットがありました」
犯罪組織の優遇に市民の反発は大きく、14年に発足したセレン政権は方針を転換し、停戦を破棄した。すると途端に殺人発生率は60人台に跳ね上がった。米国とメキシコの国境に家族連れや子どもの移民が殺到し始めたのもこの年だった。翌15年の殺人発生率は一気に100人を超え、断トツで世界最悪の数字となった。
そして政府は再び力ずくで押さえ込む姿勢を強める。16年に非常事態を宣言し、治安特別措置を発動して軍の投入に踏み切った。
「マラスを全員スタジアムに詰め込んで、皆殺しにしても問題は解決しません。社会的不平等や貧困、教育機会の欠如といった、マラスを生み出す要因は変わっていないからです」
ではいったいどうすればいいのか。
「必要なのは、貧困地域に投資することです。教育と医療の質を向上させ、雇用機会をつくる。政府がすべきことをするのです。投資をしなければ何も変わりません。お金を選挙運動にばかり投じるのは無意味です。不平等に立ち向かう必要があるのです」
そして、この国の現状に耐えかねた人々は、暴力を恐れて米国へ逃げる。移民の多くは、家庭や地域社会の中核を担うはずだった働き盛りの世代だ。両親が米国に去った家には子どもと祖父母だけが残され、家庭や地域社会の「空洞化」が進んでいく。
あらゆる問題をたちどころに解決する「特効薬」などは存在しない。港ができればシンガポールになれると夢見たエルサル。壁ができれば治安も麻薬も雇用も、問題はすべて解決すると説くトランプ。ともに考え方の根っこは同じだ。
目の前の現実は、複雑で根深くて、変えるには気の遠くなるような努力の積み重ねが必要で、頑張っても解決できないかもしれない。だからと言って、特効薬幻想にすがったり、それをふりまいたりするのは、現実逃避をしているだけだ。目を背けている間に問題はさらに深まっていく。目の前の小さな一歩を踏み出すことからこそ、現実は変わり始める。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
移民たちが母国を去り、米国で難民申請をするまでの果てしない道のりと、大量の移民が生まれる原因を綴った渾身のルポ。
移民にとって、越境は命懸けだ。
例えばメキシコの南、グアテマラやホンジュラスやエルサルバドルから米国境を目指す移民たちは、家庭内暴力やマラスという青少年ギャング集団、そして貧困を理由に母国を離れる。だが、米国境までの道中は恐ろしい。犯罪組織に狙われ、「野獣」と呼ばれる列車に必死にしがみつき、国境には命を奪う砂漠と川、そしてトランプが建設を強調した壁が立ちふさがっている。
もっと南下すると、その危険性は想像を絶する。
コロンビアとパナマの間には、地図上の空白地帯「ダリエンギャップ」が存在する。双方の国立公園がある密林で、その密林をガーナやハイチ、バングラデシュ、パキスタン、カメルーン、ペルー、ブラジル、チリ、インドなど世界中の移民が命がけで越境する。マラリア、毒蛇、麻薬密輸組織などに襲われ、命を落とす人も大勢いる。それでも多くの人が、母国で殺されるのを待つより、密林で死ぬほうを選ぶという。
次元が違いすぎて、身の毛がよだった。
日本列島の端から端より長い距離を歩き、米国境を目指す移民たちと、生まれながらにして世界最強とも言われるパスポートを持っているわたしたち日本人。
地球の裏側の彼らの存在が、多くの人々の目に触れ、関心を持たれるようになってほしいし、ならなくてはならない。
難民問題解決の糸口は、頑丈な壁を建設することでも、国境警備や麻薬取り締まりを強化することでもない。
貧困対策と教育支援だ。
世界中の格差に通じるその根本的な原因に、またここでもぶつかったと思った。
p1
どのパスポートを持っているかは、ときに人の命をも左右する。
(中略)
それを見せつけられたのが、米国とメキシコの国境だった。
p35
民主党が共和党の主張をのみ込む形でいったん国政での争点化が「封印」され、党派を超えて支持されてきた国策だったのだ。グローバル化への不満が再び鬱積する時代の空気を読んで、その封印をわざわざ解き放ち、主要争点として初めて大統領選に持ち込んだのがトランプだった。
それは、勝負師が持つ天性の「嗅覚」とでも言うべきものだったのかもしれない。
p44
話は米南西部が元々メキシコ領だった19世紀前半までさかのぼる。
テキサスの帰属を巡って米国がメキシコに侵攻した1846〜48年の米墨戦争の結果、当時のメキシコ国土の半分にあたる広大な地域が米国に割譲された。それを境に、カリフォルニア州などに住んでいたメキシコ人は「メキシコ系米国人」になった。
「自分たちが国境を越えたのではなく、『国境が自分たちを越えていった』わけです。動いたのは国境であって、メキシコ系米国人ではない。それが出発点です。米国による侵略と略奪の歴史と、メキシコ人に対する人種差別に対して、私たちは強い反米感情を抱いています。それと同時に、米国の文化や商品、政治制度を愛しています。米国とメキシコの関係を考える時、この愛憎感情を忘れないでください」
p74
米国の1人当たりの国内総生産(GDP)はメキシコの約6倍。賃金にはもっと差がある。
p99
米大統領選では毎回、共和、民主両党が激戦を演じる「スイングステート」以外の州の勝敗はほとんど変わらない。16年の大統領選で、オハイオ州やミシガン州、ペンシルベニア州など、「ラストベルト」(さびついた工業地帯)お呼ばれる北東部にあるスイングステートを手中にして勝利を収めたのがトランプだった。
メキシコと国境を接する南部4州では、保守的なテキサス州は共和党が強い「レッドステート」で、リベラルなカリフォルニア州は民主党が優勢の「ブルーステート」。16年の大統領選でま、トランプがテキサス州と共和党候補が連勝してきたアリゾナ州を、対抗馬のヒラリー・クリントンがカリフォルニア州と民主党が獲得してきたニューメキシコ州を順当に押さえていた。
p110
国連麻薬犯罪事務所の統計を見ると、エルサルバドルの2017年の10万人当たりの殺人発生率は61.7人。15年の105.2人より下がったとはいえ、データのある国では3年連続で世界最悪だ。日本は世界最低レベルの0.2人。単純計算で、殺される率は日本の300倍ほどということになる。
ホンジュラスが41.0人で世界4位、グアテマラは26.1人で11位と、いずれも世界で指折りの危険地帯になっていた。
治安の悪化で、「来たの三角地帯」から米国に逃げる家族連れや子どもも急増していた。
p142
マラスに追われ、貧しさに絶望して国を逃れ、道中も犯罪組織に狙われる。「野獣」の背に必死にしがみついて向かう先の米国境には、命を奪う砂漠と川、そして壁が立ちふさがる。
p189
国づくりのあてが外れて経済は低迷し、親は仕事を求めて「野獣」で米国へ。柱を失った家族や地域社会の揺らぎにマラスが巣くい、命を狙われた子どもたちまで米国へー。
p209
メキシコの市民団体「治安と刑事犯罪のための市民評議会」が毎年発表する「世界で最も治安が悪い都市トップ50」で、サンペドロスーラは2011年から4年連続で世界ワースト1になった。マラスによる殺人が蔓延し、10万人当たりの殺人発生率が13年は187人、14年が171人に達し、いずれも2位だったベネズエラの首都カラカスの1.5倍に近い、断トツのワーストだった。この時期、殺人発生率が国全体として高かったのはエルサルバドルだったが、一都市として突出していたのがこの街だった。
p235
フエンテが添付した呼びかけ画像がソーシャルメディアを通じて拡散し、初めてキャラバンというものを知ったホンジュラスの人たちは、「米国行きのチャンス」と受け止めた。出発時に約1300人だった参加者は翌日に約2千人、グアテマラ入国時に3千人規模となり、メキシコ入国時には4千人と、雪だるま式に増えていった。
参加者はメキシコを北上する間も増え続け、7千人規模にまで膨らんだ。
これまでとは異質で規格外の新たな移民集団は、「約束の地」を求めて大量脱出した旧約聖書の出エジプト記になぞらえて、「エクソダス」と呼ばれるようになった。
p258
私の知っている限り、南米コロンビアと中米パナマを結ぶ国境地帯は、人が通ることはできなかったはずなのだ。
「ダリエンギャップ」
直線で100キロほど。北米アラスカから南米パタゴニアまで縦断する「パンアメリカンハイウェー」が唯一途切れる地図上の「空白地帯」は、そう呼ばれていた。
密林と湿地帯。
マラリアや毒蛇。
麻薬密輸組織と左翼ゲリラ。
いくつもの危険が人の往来を拒み、ダリエンギャップは貧しい南米から豊かな北米への道を閉ざす「壁」になってきた。
p266
ハイウェーが開通すれば、コロンビアのゲリラや武装集団が国境を越えて影響力を強めて治安が悪化したり、麻薬の密輸が一段と増えたりしかねない。口蹄疫などの疫病が持ち込まれたり、移民が急増したりする不安も根強い。人口約400万人のパナマが約5千万人の隣国コロンビアにのみ込まれ、ダリエンが「コロンビア化」しかねないと心配する声もあった。
ともにユネスコの世界自然遺産に登録されているパナマ側のダリエン国立公園、コロンビア側のロスカティオス国立公園にある動植物の生態系や森林など、自然環境の破壊に拍車がかかることも懸念された。湿地と沼が多い熱帯雨林を切り開くのは工費や維持費用がかさむうえ、先住民の文化や暮らしへの悪影響も心配された。
たかが100キロとはいえ、国際情勢から内政、経済、環境、麻薬、ゲリラ、移民、疫病、先住民保護といった、おおよそ考えうるあらゆる難問が集中する「されど100キロ」だった。
p275
世界中から南米大陸に入り、多くはエクアドルを経てコロンビア北部の港町トゥルボへ。ボートでカリブ海の国境の町カプルガナ、あるいはパナマ側の村プエルトオバルディアへ。数ヵ国、数十人の集団になって密林を数日がかりで踏破して、この最奥の村バホチキトへ。そしてさらに約6300キロ先の米国境を目指す-。
p309
ダリエン湾を渡るボートの出発地トゥルボから、米国境に面したメキシコ・ティフアナまで、飛行時間でわずか10時間。移民たちが命懸けでたどる約7千キロの道のりを、私は安全に、軽々と、飛び越えていくことができる。
道中にあるコロンビアもパナマも、エルサルバドルもホンジュラスも、彼らが目指す米国へも、私は自由に入国できる。ビザを取る必要すらない。当たり前だと思っていたが、それは命をも左右する「特権」だったことに気づかされた。彼らと私の違いは、どの国のパスポートを持っているかに過ぎない。
それは生まれた時点ですでに決まっていたことだ。
それがダリエンギャップに身を投じる彼らと、機上の私という決定的な格差になっていることが、とてつもない不条理に思えた。 -
米国とメキシコ国境を仕切る「壁」の建設は、ベルリンの壁崩壊直後から始まったという。移民(不法入国)とは、政情不安・治安の悪化・貧困と様々な事情を抱えた人々が母国で生きることに絶望し、残された唯一の選択肢が命を懸けて国境を超えることにある。密入国者を検挙する側の「壁」の論理と相容れない難民問題を、経済格差と犯罪発生率が著しく際立つ中南米諸国の現状を人道的な視点からルポしている。つくるべきは「壁」ではなく「国境を越えなくても生きていける世界」だと著者は言う。そのためには何をすべきなのか、道程は遠く険しい。
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多くの国や地域から、様々な方法でアメリカに入国しようとする人々。彼らを阻むために、メキシコとの国境に巨大な壁を建設すると公約し当選した大統領。だが、国境にはすでに壁が存在していた──。
そんな基本的な事実も知らずに、なぜ中南米やアフリカ、はたまたアジアから大勢が国境を目指すのかを理解できるはずもない。本書はその“なぜ”に迫る骨太なノンフィクションだ。生ぬるい日本に暮らす我々には決して理解できない厳しい現実が描かれている。
第43回講談社本田靖春ノンフィクション賞受賞作。 -
アメリカ前大統領のトランプは以前、メキシコとの国境に壁を作ると宣言した。国境の壁といえばベルリンの壁であり、もはや冷戦時代の遺物というイメージ。
結局、様々な批判や問題があふれ、壁はできないまま、トランプは失職した。が、この壁発言によって、移民たちの侵入はアメリカ国内の大きな問題となっていることを世界中が知ることになる。それどころか、中南米諸国で暴力と貧困から逃れたい人々にとって、壁ができる前に行動を起こさなければと、アメリカへの移住を後押しする結果となった。なんとも皮肉だ。
著者は何度も中南米を訪れ、徒歩やヒッチハイク、列車でアメリカを目指す移民たちの行動を取材。移民たちは入国審査がずさんな国に入り、そこから陸路でアメリカやメキシコなどの豊かで平和な国を目指していた。
そして、2018年。これまで国境を越えようとする人々は少数でひっそりと移動することが当然だったのに、1000人を超える人数が集団で行進をはじめた。それは聖書に記されるエジプト脱出の民「エクソダス」に例えられる。
今後、アメリカには、より多くの移民が堂々とやってくるのだろう。おそらく壁や軍隊などのリアルな力は役に立たない。「国境のない世界」を本気で考えるときなのかもしれない。 -
朝日新聞をお辞めになって、そのあとのコロナ禍でどうしておられるのかと気になったら、なんとウクライナ取材をしておられた。なんとすごい!
戦時下の国で、自分の身を守りながら取材するためには、資金がかかるだろう、会社持ちでなくなってどうされているのだろうと心配になる。
地中海を小さなボートで渡るシリア難民の人々の記事などは読んでも、中南米からアメリカに行く移民、難民の人のことは、「トランプの壁」まではあまりにも無関心、この本を読むまではあまり考えたことがなかった。
自分の国、自分の家に安心して家族と住めない、殺される、選択肢なく、命懸けで国境を越えようとする人の姿は、そこまでの危機ではない日本の私には想像がつかない。だからこそ綿密な取材をし、記事
や本にしてくださるジャーナリストの方には感謝するしかない。取材するのも命懸けだ。
確かにどこの国に生まれたかどうかで、人生が違いすぎるのはあまりにも不条理だ。
どの国に生まれても、母国で安定して家族と住めるように世界は進んでいかなければいけない。お金の問題なのだが、いくらお金を援助しても、お金だけではどうしようもない例がこの本にも出てきた。アフリカ等でも同じことが言えるのだろう。
そのお金を使って、その国の人たちが働く場所を作る、仕事を作る、子供たちが安心して教育を受ける環境を作る等、いっときではなく、継続的に、発展的に生きるお金の使い方をしていかなければならないと思う。
お金、お金と言ってるのが自分でどうなのかと思うが、貧困、富の偏りによる問題が世界中であまりにも多い。使いきれないほどのお金を持ってマネーゲームをしている人たちのお金が、こういうところに回っていかないのかなぁ。だって使いきれないでしょうよ、自分だけでは、と思う。
この私に何ができるのかと考えるべきところを、お金持ちのせいにしてしまったぞ、私。 -
体当たりのレポというしかない。
アメリカという巨大な経済に吸い込まれる移民たちの命がけの道のりを、著者も命がけで辿る。
本書を読むと難民と移民の区別がむなしくなる。 -
南米からの移民の話と思って読み始めたが、アメリカを目指して世界中から移民が押し寄せていることなど、自分がいかに無知だったかを認識させられた。
より豊かな生活を求めて、という経済的移民はわずかで、文字通り生きるために命を賭して、危険な道行きを重ねる追い詰められた移民たちの姿に、胸が痛む。 -
2023年1月19日読了