世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (618ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103534174

作品紹介・あらすじ

村上春樹、80年代の記念碑的長編。

感想・レビュー・書評

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  • 最初は2つの物語の繋がりがわからないまま、何かあるはずだけど一体なんなんだろう…と思いながら、ハードボイルド〜の世界ではスピード感やハラハラドキドキを感じながら、世界の終わりの世界ではゆったりとしたファンタジー世界を味わいながら、読み進めていました。
    博士からの種明かし後、2つの世界が見事にシンクロし始めて興奮しました。
    また百科事典棒はミクロの中の無限な世界に惹き込まれてしばらく思い巡らせてしまいました。
    あと24時間ほどで心を失ってしまう主人公(in ハードボイルド)の、自分の運命についての考え方や受け入れ方、残された時間の行動はとても丁寧で好感が持てました。
    私だったら限られた時間で何をすれば良いのかわからずパニックになると思います。
    "「人間の行動の多くは、自分がこの先もずっと生き続けるという前提から発しているものなのであって、その前提をとり去ってしまうと、あとにはほとんど何も残らないのだ。」"
    と思いつつも、彼は彼なりの無駄のない素晴らしい最後のときを過ごしたと思います。
    また自分を失うことや死を近くに感じると、人間は無意識のうちに、幸せ探しをして些細なことにも感動するのかもしれないなと感じました。
    "「ボブディランって少し聴くとすぐにわかるんです。」
    「ハーモニカがスティービーワンダーより下手だから?」彼女は笑った。…
    「そうじゃなくて声が特別なの。」
    「まるで小さな子が窓に立って雨降りをじっと見つめているような声なんです。」
    「良い表現だ」"

    いよいよ残り時間あとわずかとなったとき、日比谷公園でビールを飲んで芝生の上で過ごして、自然の美しさに触れたとき、初めてこの世界に未練を感じていたのは切なかったです。

    一方で、世界の終わりの僕は、影と一緒に街からの脱出計画を企て、この街から出て本来の自分を取り戻し、正しい世界で生きて死ぬんだと決心します。ただ、彼はこの街に居心地の良さを感じて好きになっており、それに何より愛する彼女と離れなければならないことに苦悩します。
    彼女の心を取り戻すためのキーが、音楽だったこと、手に入れた手風琴で音を探し続けて、探し出したメロディが『ダニー・ボーイ』だったところは素敵だなと思いました。
    "「ここには何もかもがあるし、何もかもがない。そして僕は僕の求めているものをきっとみつけだすことができる」
    「私の心をみつけて」"

    その後、ハードボイルドの主人公が晴海へ移動し、海の見える人気の少ない場所に車を止めて、ボブディランをリピート再生し、自分の人生に祝福を与えるところ、彼が出会った人々にも祝福を与えようとするところ、目を閉じて最後の瞬間を迎えるところには美しさを感じました。
    "「太陽の光が長い道のりを辿ってこのささやかな惑星に到着し、その力の一端を使って私の瞼をあたためてくれていることを思うと、私は不思議な感動に打たれた。宇宙の摂理は私の瞼ひとつないがしろにしてはいけないのだ。
    私はアリョーシャカラマーゾフの気持ちがほんの少しだけわかるような気がした。おそらく限定された人生には限定された祝福が与えられるのだ。」"

    博士は主人公に、新しい世界には彼が失ったものがあり、それを取り戻すことができると伝えます。
    彼が失ったものとはなんなのか、それは愛だと思いました。
    世界の終わりの主人公は、図書館の彼女に向かって真っ直ぐに、愛していると告白し、彼女が居ない世界で生きる意味はないと感じて、街から出ることを拒否しました。
    愛の力は偉大です。人は愛のある世界で幸せを感じ、愛の中に生きる希望を見出すのだと思います。
    "「君は今、心というものを失うことに怯えておるかもしれん。私だって怯えた。それは何も恥ずかしいことではない」
    「しかしあんたはその世界で、あんたがここで失ったものを取り戻すことができるでしょう。あんたの失ったものや、失いつつあるものを」
    「あんたが失ったもののすべてをです。それはそこにあるのです」"
    "「私はこれで私の失ったものを取り戻すことができるのだ、と思った。それは一度失われたにせよ、決して損なわれてはいけないのだ。私は目を閉じて、その深い眠りに身をまかせた。ボブディランは『激しい雨』を唄いつづけていた。」"

    この作品に限らずですが、村上春樹作品は、ストーリーだけではなくて、表現力と言葉の丁寧さに魅了されます。
    読み終わったあと、良い時間をもらえたなぁと思いました。

  • ストーリー云々以前に、やはり表現の一つ一つがいちいち面白い。
    余りある表現の中から自分の好きな表現をいくつかでも心に留めておけば、それだけで村上春樹の小説を読んだ意味があるんじゃないかと思う。

    個人的には〈世界の終わり〉の僕が心の存在や影の意味を知り始めてからの話や〈ハードボイルドワンダーランド〉の私が自分の生の終わりを意識して最後の1日を過ごすシーンが素敵だった。
    2人の主人公が自分の殻を突き破って世界の美しさをしっかり見つけている様子がよく描かれていて、そうなる前と後で世界は変わっていないのに見え方がこんなにも違うのかと考えさせられた。
    世界が変わらなくても自分の考え1つで捉え方がこんなにも変わる、というのは現実でも案外そうなのかもしれない。

    また、〈ハードボイルドワンダーランド〉の地下で繰り広げられる場面などは、暗闇という他の情報がなく表現が難しいだろう状況をよくもまあここまで文章で伝えることができるなあと感嘆としてしまう。
    どんなに突拍子のないシーンでも表現の多様さでありありとシーンが思い浮かべられる凄さが村上春樹がファンを熱狂させる理由の1つだと思う。

  • 何が何だかわからない感じ、ファンタジーのような現実的なような、突拍子もないような、、でも心地よく、引き込まれていくかんじ。
    最後まで読み切れた達成感。でも感想といわれると難しい~

    以下、なぜか気に入った会話───────
    「今日は何曜日だっけ?」と私は娘に訊いてみた。
    「わからないわ。曜日のことなんて考えたことないもの」と娘は言った。 「平日にしてはどうも乗客が少なすぎる」と私は言って首をひねった。「ひょっとして日曜日かもし れない」
    「日曜日だとどうなるの?」
    「どうにもならない。ただ日曜日だっていうことだけさ」と私は言った。
    ────────────────────

    1文でも心に留まる文があると、読んだ甲斐が有るなぁと思える。
    自分は毎日毎日、一日に何度も今日何曜日だっけ。と思ったり口にしたりしてるなぁ。そして休日までカウントダウンするように生きていて、なんかそれってもったいないよなぁ。と思った。

  • 完読したのは20年振り。
    どうでもいいディティールしか覚えていなかったので、かなり新鮮に読んだ。

    まずは、この2つの物語の主人公、私と僕が、同じ人物だってこと、すっかり忘れていた。
    だって、ねじまき鳥クロニクルも、カフカも、1Q84も、いくつかの物語が交錯したイメージだったから。。

    それから、博士の言ってることがよく分からなくて手こずったww

    どちらの世界も素敵なエピソードと、困難に溢れているけれど、やはり世界の終わりの、美しさは特別かしら。図書館の彼女の夢が優しく光るシーン、そしてその夢を読む所は美しかったなぁ。

    春樹節と、スプートニク並の素敵かつエキセントリックな比喩の数々に惚れ惚れする。以下

    *夏の朝のメロン畑に立っているようなにおいだった。

    *サンドウィッチを食べているときの老人はどことなく礼儀正しいコオロギのように見えた。

    *わたしはたまに街に出るたびに、十一月のリスみたいにこまごまとしたものを山ほど買いあつめてしまうのだ。

    *私は地球がマイケル・ジャクソンみたいにくるりと一回転するくらいの時間はぐっすりと眠りたかった。

    *私はだいたいにおいて春の熊のように健康なのだ。

    *海底の岩にはりついたなまこのように、私はひとりぼっちで年をとりつづけるのだ

    *私は水路標識灯の底についたおもりのように暗く愚かなのだ。

    *時間のことを考えると私の頭は夜明けの鶏小屋のように混乱した。

    *洋菓子屋の店員はもみの木のように背の高い女の子

    *「まるで小さな子が窓にたって雨ふりをじっと見つめているような声なんです」

    *ウエイターがやってきて宮廷の専属接骨医が皇太子の脱臼をなおすときのような格好でうやうやしくワインの栓を抜きラグラスに注いでくれた。

    * 誰も彼もが秋のいなごのように私の豊潤な眠りを奪っていくのだ。


    サリンジャー。
    ツルゲーネフ、ドストエフスキー、サマセット・モーム。
    音楽。
    ボブ・ディラン、ダニー・ボーイ

    やれやれ は、たぶん13回。

  • ⚫︎受け取ったメッセージ


    ⚫︎あらすじ(本概要より転載)
    高い壁に囲まれ、外界との接触がまるでない街で、そこに住む一角獣たちの頭骨から夢を読んで暮らす〈僕〉の物語、〔世界の終り〕。老科学者により意識の核に或る思考回路を組み込まれた〈私〉が、その回路に隠された秘密を巡って活躍する〔ハードボイルド・ワンダーランド〕。静寂な幻想世界と波瀾万丈の冒険活劇の二つの物語が同時進行して織りなす、村上春樹の不思議の国。

    〈私〉の意識の核に思考回路を組み込んだ老博士と再会した〈私〉は、回路の秘密を聞いて愕然とする。私の知らない内に世界は始まり、知らない内に終わろうとしているのだ。残された時間はわずか。〈私〉の行く先は永遠の生か、それとも死か?そして又、“世界の終り”の街から〈僕〉は脱出できるのか?同時進行する二つの物語を結ぶ、意外な結末。村上春樹のメッセージが、君に届くか?

    ⚫︎感想
    異世界へ連れて行ってくれる。
    世界の終わりは無意識世界、ハードボイルドワンダーランドでは意識的世界を描いている。
    二つの世界を科学技術「シャッフル」で行き来する。そして意識世界において、自己を受け入れ、世界の終わりで生きることを選び、新たな一歩を踏み出す。

    意識と無意識に等価を置いて物語が紡がれていく。モチーフが魅力的。

  • 物語の終わり、世界の終りに窓の外を見ると雨が降っていた。

  • 新作「街とその不確かな壁」を読んでしまったので、まだ読み残していた姉妹作とも言える本作も読まざるを得ないだろう。世界の終りの街の設定は両作とも一緒だが、物語は違う、本作では相容れない物語が進行して行き交わることもなくその終焉は絶望に満ちている、本作でも影が現実世界に戻り生活して行くと解釈して良いのだろうか。小説的には新作の方が面白いと言って良いだろうが、本作は形而上学的小説とも言えるのだろうか、しかし最後読ませる力は流石だと思った。

  • 「街とその不確かな壁」を読んで、再読せざるを得なかった一冊。数十年前に読んだ時より楽しめたと思うのは、おそらく誰もがそうであるように、長い間には個人的に私も自分の意識とか心の在りようとかを考えざるを得ない状況というのが、何度もあったからだろうと思う。

    弱い人間だから、環境とか周囲の意見、雰囲気に流されることも少なくないけれど、それでも「心の持ちよう」や自分なりの確固たる考え方を、面倒を避けるために無視しないこと、自由であるために背負わねばならない重荷や苦痛を受け入れること、など、初読の時よりはるかに明確に、自分の経験に照らして考えさせられることが多かった。

    「街とその不確かな…」に比べてスピード感がある。二作を読み比べると、著者が歳を重ねたことも何となく感じられて面白い。

  • 初村上春樹にこれを選んで良かった...
    凄く余韻に残る重厚な童話的ミステリ(?)だった...
    序盤は三体(1,2)に似てる(面壁者part,VRによる仮想世界part)な...など謎なことを思っていたが、後半からは惹き込まれてなんとも言えない感情になっていた.結局、世界の終りの時系列も構造もいまいちハッキリはしないし、ハードボイルドワンダーランド側の結末も残さない感じで終ったがそれで良いと思う.ここでしっかりと終らせてしまうと陳腐になるのだろう..ところで、やはり「カラマーゾフの兄弟」は読まなければになった(1度挫折しているので読むのがかなり辛いが...)
    思っていたより「純文学」をしていなかったし、エンタメなんだなと感じた.各章のタイトルも特異感が出ていたし、文章も独特でこの空気に中毒になる人がいるのも納得の最高傑作だった.なんならオールタイムベストでもあるかもしれない

  • 街とその不確かな壁のあとに読んだ。面白かった!!

    ハードボイルド・ワンダーランドの、地下の暗闇をひたすらに歩く場面で私の頭の中がつらつらと描かれてる文章がわたしは特に面白かった。
    他も全部、ずっと読んでいたいような文章。比喩がすごい。

    街とその不確かな壁よりも、疾走感があって冒険チックだったなと思う。

    あと、村上春樹さんの本はわたしはワインやビールを飲みながら読みたくなる。

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著者プロフィール

1949年京都府生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。79年『風の歌を聴け』で「群像新人文学賞」を受賞し、デビュー。82年『羊をめぐる冒険』で、「野間文芸新人賞」受賞する。87年に刊行した『ノルウェイの森』が、累計1000万部超えのベストセラーとなる。海外でも高く評価され、06年「フランツ・カフカ賞」、09年「エルサレム賞」、11年「カタルーニャ国際賞」等を受賞する。その他長編作に、『ねじまき鳥クロニクル』『海辺のカフカ』『1Q84』『騎士団長殺し』『街とその不確かな壁』、短編小説集に、『神の子どもたちはみな踊る』『東京奇譚集』『一人称単数』、訳書に、『キャッチャー・イン・ザ・ライ』『フラニーとズーイ』『ティファニーで朝食を』『バット・ビューティフル』等がある。

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