1R1分34秒

著者 :
  • 新潮社
3.01
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本棚登録 : 1170
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  • Amazon.co.jp ・本 (140ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103522713

作品紹介・あらすじ

なんでおまえはボクシングやってんの? 青春小説の新鋭が放つ渾身の一撃。デビュー戦を初回KOで飾ってから三敗一分。当たったかもしれないパンチ、これをしておけば勝てたかもしれない練習。考えすぎてばかりいる21歳プロボクサーのぼくは自分の弱さに、その人生に厭きていた。長年のトレーナーにも見捨てられ、変わり者のウメキチとの練習の日々が、ぼくを、その心身を、世界を変えていく――。

感想・レビュー・書評

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  • R4.10.11 読了。

     読み始めてすぐに主人公のたられば思考に嫌気がさして、読むのをやめてしまいそうになった。
     トレーナーがウメキチに変わってからは、徐々に主人公のボクシングに対する姿勢にも良い変化が見られ始めたあたりから、面白くなってきた。
     主人公が次戦に向けて10キロの減量に挑んでいる過程で、空腹感などの身体的苦痛だけではなくて、次戦で敗戦するのではないかという不安、試合当日までに体重が目標値まで減量できないのではないかという不安、空腹などによるイライラ、気分の浮き沈みが激しい精神状態などにも悩まされることを知った。そんな主人公を支えてくれたウメキチの存在は大きかった。
     エンディングはあっさりとしており、それだけに個人的に主人公とウメキチのその後が気になります。
     スポ根ものとも違ったボクシングの派手さのない作品でしたが、途中で読むのをやめなくて良かった。

    ・「勝った要因は皆ひとつに絞りたがり、大抵は間違っている。敗けた要因は皆百個も二百個もおもいつき、すべて正しい。これが勝負ということだ。」
    ・「どこへむかい、いつ着き、なにをめざして生きているの?そういうことをいいそうになると友だちは『すぐに人生に喩えるクソフィクションはやめろ』と怒る。」

  • 第160回芥川賞受賞作品

    「ぼく」と、木と、女の子と、ともだちと、ウメキチ。
    いつも不思議なのは、ボクシングと決して相思相愛でない、そんなボクサーもなぜ、過酷な減量に耐えられるのかということ。
    「ぼく」の気持ちの乱高下や、ミットやスパー、美術館や試合、そして減量。全て「ぼく」の目線をそのまま追っているようなのに、なぜか客観的に俯瞰的に見えギリ読み手としてはヒリヒリしない。

    無駄な描写はひとつもなく、様々なシーンがギュッとひとつに凝縮されたものを読んだような不思議な読後感。
    わたしは凄く好きだった。

    感じと平仮名の使い方のクセが強かった。

  • これまで自分が触れてきたボクシングのマンガや小説は、比較的ストレートな熱さを持つ作品が多かったので、純文学的視点からボクシングを描いた作品は新鮮だった。中途半端な戦績で、自分自身も周囲もその中途半端さに倦んでいる状況が妙にリアルで、そんな「ぼく」が先輩ボクサーであり駆け出しのトレーナーの「ウメキチ」と組んでからの日々は、読んでいて少しわくわくした。
    とはいってもウメキチは変わり者だし、そんな彼の方針に納得できず噛み合わないことも。決してわかりやすくストーリーが進むわけではないので…独特の空気感が受け入れにくいと感じる人もいるかもしれないが、一進一退しつつもじわじわと変わっていくぼくの日常が気になり、一気読みしてしまった。
    減量の壮絶さはわかっていたつもりだったけど、こうやってその過程を活字で追うと、極限状態で体重を落としていくことのシビアさが生々しく伝わってくる。「言語化できる地獄に地獄はない」の表現にドキッとする。アップダウンする心模様の描写は凄みを感じた。
    華々しい活躍だけがボクサーではない。今いち勝ち切れない、冴えない、情けない日々はボクサーじゃなくても共感できる部分がある。分かり易いカタルシスではないかもしれないけど、個人的には胸に刺さった作品だった。

  • 冴えない四回戦ボクサーが主人公。ボクシングの練習をしたり、美術館に通ったり、セックスフレンドと逢瀬を重ねたりする。まだプロとしての自覚が足りない四回戦ボクサーの心理をうまく表している。着眼点としては素晴らしいと思った。ただ主人公が情緒不安定すぎるというか、精神的ホモで少々鼻白んでしまった。ポエムのような語り自体は面白かった。

  • 4回戦ボクサーの独白形式の純文学。
    芥川賞受賞作品ということで、読んでみた。

    ボクシングのことがよく知らないとあまり面白くないかもしれない。ただ、試合前の緊張感や壮絶な減量など、自分が経験しているかのように感じられるほど臨場感があった。

    結構面白かった。
    1冊の単行本だけど、短編ですね。

  • 「当たったかも知れないパンチ、これをしておけば勝てたかも知れない練習。どれだけ自問自答できるか」
    「友達の才能を喜べないボクは最低だ」
    友達は本当に才能なのか。地道な練習の積み重ねによるものなのか。後者であれば、才能という言葉で片付けようとするボクはもっと最低だ。

  • 第160回芥川賞受賞。デビュー戦を勝利で収めた後、負けが続いているボクシング青年。負けを引きずり、トレーナーにも見捨てられる。新しいトレーナーと練習を始め、変わってゆく、前に進んでゆく。
    ボクシングについてはわからないけれど、青年の心、心が折れてるところ読み込みました。若い人の文章って感じ、ボクシングを通じた青春ってところ、「人生は長い」なんてね。信頼のゲームとか、「裏切りなんてのはない〜生理的ペースが合わなかっただけ」とか若者にしては大人だなあなんて。

  • 第160回芥川賞受賞作

    ニムロッドに比べたらすごくわかりやすい。普通に読みやすいし、感情移入もしやすい。
    ともだちが映画で賞をとったっていったときに嫉妬が勝ったっていうシーンがすごくすき。そのあとともだちが嘘だよっていうのも、どっちが本当かわからないけど、きっととったのかもしれないっていう嘘だよって切なくて、すごく好き。
    ガールフレンドの描写もいい。
    自分の弱さに、人生という儚さに、日々にげんなりしている方へ。

  • 途中から一気に、ページを捲る手が加速した

  • 最近、ジョッキーが過酷な減量に苦しむ物語を読んで辟易気味だったので今回「またか…」と思ったが、これは違った。こちらは、作品そのものが、よけいなものを一切そぎ落として「減量」したかのような読後感だった。

    少し「落ち目」のボクサーが、次の試合に向かう過程の行動、思い、そして人間関係を気の赴くままに綴っているようなのだが、そこには緻密に計算された言葉の配置があると感じた。わざわざひらがなを多用したり、だらだらと心の奥を吐露したり、けだるさが充満しているのは、尺の長い映像を観ているのと同じだ。つまりこれは、彼の友達がiPhoneで撮っているムービーではないのか?ウメキチとのやりとりは、アドリブ入りの演出に見えてしまった。

    ボクシングのことは全く分からないが、明るい終わり方でよかった。

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著者プロフィール

1983年生まれ。2016年『青が破れる』で第53回文藝賞を受賞。2019年『1R1分34秒』で芥川龍之介賞受賞。その他の著書に『しき』、『ぼくはきっとやさしい』、『愛が嫌い』など。最新刊は『坂下あたるとしじょうの宇宙』。

「2020年 『ランバーロール 03』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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