星夜航行 上巻

著者 :
  • 新潮社
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感想 : 27
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  • Amazon.co.jp ・本 (533ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103519416

作品紹介・あらすじ

その男は決して屈しなかった。人が一生に一度出会えるかどうかの大傑作。徳川家に取り立てられるも、罪なくして徳川家を追われた沢瀬甚五郎は堺、薩摩、博多、呂宋の地を転々とする。海外交易の隆盛、秀吉の天下統一の激動の時代の波に飲まれ、やがて朝鮮出兵の暴挙が甚五郎の身にも襲いかかる。史料の中に埋もれていた実在の人物を掘り起こし、刊行までに九年の歳月を費やした著者最高傑作の誕生。

感想・レビュー・書評

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  • 沢瀬甚五郎は徳川家を出奔する。
    家康の長男信康付の小姓となるも、家康の命により主君は自害。追腹を切った同朋追善の為に出家するが、後に商人となって堺、薩摩、博多へと変転の人生を送る。しかし、天下統一を成し遂げた秀吉の政略が、甚五郎のみならず日本中の人々を、やがて朝鮮やフィリピンの人々までも飲み込んでいく。
    物語は、沢瀬甚五郎を主軸としつつ朝鮮と日本の間で翻弄される対馬島主宗氏や、阿蘇大宮司家を主君と仰ぐ肥後国人衆、日本との貿易で利益をあげるポルトガル人、ひたすら神の教えを伝えようとする修道士など、多彩な人々の生き様を描いていく。

    絶対的な権力を手中にし、朝鮮と明を服属•支配するという秀吉の無謀な夢が、数多の命を死と荒廃の坩堝の中に投げ込む様はまるで悪夢だ。だがふと振り返れば、私たちは同じ悪夢をウクライナの地で見せられているのかもしれない。

  •  前作「狗賓童子の島」から3年の歳月をへて上梓された歴史巨編。あの傑作「始祖鳥記」から数えて著者5作目の長編になる。帯の惹句によると「飯嶋和一にハズレなし」が定説なんだそうだ。たしかにそう思う。ぼくもそう思って読み、毎回感動を新たにしてきた。前作までは。だから本作も期待して読んだ。刊行と同時に買い込んで読んでしまうのが惜しくて温めて温めてようやく読んだ。で、期待が裏切られなかったかというと...。誤解のないようにいえば、悪くはない。並の作家にはない力量だし、歴史ものとしては出色の出来だとは思う。秀吉の無謀ともいえる朝鮮出兵のあまり知られていない実情が、精緻な筆致で克明に描かれ、目を見開かされた。しかしだ。読み手がこの著者に期待するのはそこだろうか。主人公沢瀬甚五郎。徳川家康の嫡男信康の小姓に取り立てられ、信康の失脚とともに一転流浪の生涯へと投げ出される。そのドラマチックな筋書きはどこへ行ってしまったのだろう。堺で商人になり、薩摩や博多、長崎へと身を移して成功し、最後に朝鮮で捕らわれるものの、それまでは順風満帆としかいえない人生行路を送る。緊張感は最初と最後だけで、大部分の中心部は単なる朝鮮出兵物語でしかない。沢瀬甚五郎の物語にこの上下二冊もの分量が必要とは思えない。朝鮮出兵を書きたかったのであれば、小西行長か対馬藩の誰かを主人公にすべきだったのではないだろうか。

  • 歴史は勝者の視点で語られがちであり、大河ドラマやゲームだけで歴史を知ったつもりになってはいけない。謀反を企てたとして死んだ家康の嫡男に仕えていた主人公の甚五郎から見た、歴史の勝者による愚挙の数々がこの小説からは語られる。特に第二部での朝鮮出兵のきっかけからの下りには、こんなことでいいのかと頭を抱えたくなる。ボリュームのある物語の半分が終わったばかりで、この後は一体何が語られるというのか。頑張って読もう。

  • <広>
    数多ある歴史小説の中で幾度も幾度も読んできた筈の物語なのだけれどいちいち知らないことばかりで驚く。そういう小説です。ただ云えるのは少しでも気を抜くと字面を追いかけるだけになってしまうって事。読んんでみよう!という方はくれぐれも準備を整えてからが良いでしょう。そして当然下巻へつづく,のです!

  • 処分

  • とても長い作品だが飽きることなく読める。時代小説は初めて読んだが面白いと思った。

  • 飯嶋和一の「星夜航行」を読み終えました。
    ハードカバーの本をベッドで読むのは難しいですね。
    でも、読み進めるうち、そんなこと言ってられないくらいひきづりこまれました。
    会話部分も極端に少なく、硬い文章で森鷗外の読んでいるような気がしました。

    舞台は戦国、徳川家康の長男・信康の小姓として側そばに仕えた沢瀬甚五郎は
    罪無くして故郷を追われ、堺、薩摩、博多、呂宋の地を転々とする。
    海商人として一家を成した頃、秀吉の朝鮮・明国への無謀な侵略に否応なく巻き込まれる。

    この本ではかなりの部分をさいて小西行長、加藤清正ら秀吉軍の
    傍若無人な侵略も様子が丁寧に描かれている。
    『この戦乱で最も苦しんでいるのは、衆生、下々の民である。この朝鮮でも、日本でも、
    恐らく明国でも、最も厄災をこうむるのは、いずこによらず民草なのだ。
    この秀吉が起こした戦乱によって、親兄弟を殺され、夫や妻や子をうしない、
    疫病は蔓延して皆飢餓に瀕している。』

    九年の歳月を費やして書かれたこの小説は飯嶋和一の代表作になったことに間違いない。
    近年の作家の中では出色の作家だと思う。

  • 著者インタビューによると、主人公の沢瀬甚五郎は実在の人物らしい。信康切腹を機に出奔した男が、20年後に再び、重要な使者として堂々と家康の前に現れ、駿府の人びとを大いに驚かせたという記述を資料から見つけ、今回の小説のイメージを膨らませたのだろう。「是非、この時代を追体験してほしい」と語る通り、構築された物語世界は細部にわたって精緻を極め、主人公の目に映る光景がリアリティを伴ってまざまざと蘇るようだ。戦国における様々な史実も、通史的な理解を超えた意外な解釈が加えられているので、歴史家の感想を聞きたいところだ。

    信康切腹にからんで武田家滅亡の過程の記述は外せないが、勝頼の能力を超えたところで、謙信急死に伴う上杉家の内紛が遠因としてあったこと、さらには信康による武田家仲介疑惑についても、義兄である織田信忠への嫉妬や焦燥が引き金になっていたことなど、著者の硬質な文体で淡々と記され、なかなかに説得力がある。実は双方とも、狭い視野では大義があり合理的な選択を下しているのだが、大きな視野ではその正反対の結果になるという点が共通していて面白い。

    武田勝頼にしてみれば、上杉景虎を支援しないのは北条氏の影響力が越後にまで及ぶことを警戒したためだし、徳川信康にしてみれば、勝頼と信長の間を仲介するのも、それが一人の将兵を失うことなく武田を屈服させる好機と考えたからであった。しかし後代の人間が、彼らの決断を愚かだと断じるのも如何なものか。本書でも、秀吉の朝鮮出兵について、交渉役の小西行長や対島藩だけでなく、主人公の甚五郎を含む回船業に携わる商人まで、この戦いは無謀だと戦前から分かっていた風に書かれているが、本当だろうか?

    本書はこれまでとかく悪評の多かった小西行長の汚名をそそぐことも意図して書かれているが、共感が集まったかどうか疑わしい。出兵が無謀であると直接進言することなしに、小手先で秀吉を欺き続けることがこれまでの大恩に報いることだと心情を吐露させているが、倒錯し過ぎだ。漢城撤退を拒み、平壌死守を声高に主張した背景については、この選択が講和の早期妥結につながると彼が信じたからだとしているが、それならもっと手前のところで秀吉に出陣を要請し戦禍の現状を知らしめ戦の無益を悟らせることの方が合理的だ。

    下巻への不安は、主人公の甚五郎があまりにスーパースターすぎること。一介の馬飼いが、信康の小姓として取り立てられ、剣術や算術を徹底的に仕込まれ、出奔する頃には追手を何人も倒すほどの使い手に成長し、廻船業では商才を発揮して名士に認められ、朝鮮との交渉にも着いて来てほしいと頼まれるほど。さらには、重病人に医師負けの漢方の処方を行なったりと出来過ぎ君だ。その割に逐電理由がよくわからず、大恩のある主人の死を契機として何もかも嫌になり、無限地獄の鐘をもつ寺に身を寄せる。賊徒の遺児として苦楽を共にした母親はどうした?

    徳川家内に新しく生まれた「吏僚」として、本多正信が本書でも切れ者として登場するが、さしもの彼も、信康切腹に絡んで小姓の自死までは予期していなかったとあって、ずっこけた。そりゃ最後まで帯同させておいて、「これまでの主君はさきほど自死した」と告げられた小姓たちが、追い腹もせず「はいそうですか」と納得して帰参するはずもあるまいに。

    暴徒と化し蜂起した民衆の襲来を、急遽雇い入れた地元の若者たちと撃退したあとの描写が著者らしいと思った。普通なら自信をつけた若衆の高揚感が描かれそうだが、著者は「これで彼らも帰る場所を失った」と人を殺し地元でこれまでの生活を営めなくなった若衆の今後を思いやる。一人の会話が時にものすごく長くなるのも著者の特徴か。不自然な感じを読者に抱かせないように工夫はしてあるが、ナレーションのように説明的で、繰り返しの表現も多くなる。寡作ながら良作を連発する割に映像化された作品が少ないのも、こうした点が瑕疵になってるのかも。

  • 2019.4 冗長すぎる。最後は斜め読みではなく5段飛ばしで読了。まぁ秀吉の朝鮮出兵の酷さははじめて読みましたが、これだけくどいと半減ですね。

  • 上巻は戦国時代から秀吉の朝鮮出兵まで。物語の目線は、秀吉や家康ではなく、戦国武将でもなく、元信康に仕えた一介の男なので、時代のうねりに巻き込まれる側の歴史を知ることができます。また、朝鮮出兵の内実も知れました。俺が俺がの戦いぶりは酷いし、韓国人はみんな逃げちゃうんですね。戦線が伸びきって補給がヤバイというのはデジャヴか?下巻に向かいます。

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著者プロフィール

小説家。1952年山形県生まれ。1983年「プロミスト・ランド」で小説現代新人賞を受賞しデビュー。88年「汝ふたたび故郷へ帰れず」で文藝賞受賞。(上記の二作は小学館文庫版『汝ふたたび故郷へ帰れず』に収録)2008年に刊行した単行本『出星前夜』は、同年のキノベス1位と、第35回大佛次郎賞を受賞している。この他、94年『雷電本紀』、97年『神無き月十番目の夜』、2000年『始祖鳥記』、04年『黄金旅風』(いずれも小学館文庫)がある。寡作で知られるが、傑作揃いの作家として評価はきわめて高い。

「2013年 『STORY BOX 44』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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