経済学者、待機児童ゼロに挑む

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103517115

作品紹介・あらすじ

大問題の真の原因は、保育士不足でも、都市部への人口集中でもなかった! 全国で20万人ともみられる社会問題には、あなたの知らない根本原因があった。官に甘く民に厳しい許認可、税金漬けの公立保育所、財政難から保育士に寿退社を促す私立保育所、そして「保育の質を守れ」にひそむ大ウソ――。保育歴16年、東京で対策の陣頭に立つ異端の学者が、待機児童ゼロを阻む「真犯人」を炙り出す改革戦記。

感想・レビュー・書評

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  • 2019/01/23

  • ふむ

  • 著者自身が待機児童問題を体感し自身で試行錯誤してきてその上で東京都のブレーンとして待機児童問題に携わっている。
    机上の学術論ではなく実際に動いているので非常に現実的で問題が明らかに伝わってくる。
    本書で重要なのは政策として実際にどう実現できるかということをに重点が置かれていること。
    綺麗事をいくら言っていても政策として実行できなければどうしようもない。
    著者はこの点も考慮されている。
    ただ東京在住ではないので実際のところはどうなのかはわからない。
    小池知事推しが若干目につくのでその点は冷静に見なければならない。

  • 前作「経済学者 日本の最貧困地域に挑む」では大阪・西成地区の再生に挑んだ著者が、東京都の顧問として待機児童問題に取り組んだもの。前作の様な身体を張ったような場面こそないものの、本書でも一般的な経済学者のイメージとは異なる現場主義に徹した活躍ぶりが光る。
    幼少保育はいまでは日常的な課題であるのに、中途半端に社会福祉として位置づけられている故に、既得権益に阻まれ、なすべき改革がなされていないという。大手マスコミ報道だけ追っていても理解できない根の深い課題がよく分かる。
    一方で小池知事の取り組みや実績は著者が称賛するようなことばかりなのか。この課題は市場に委ねればよりよく解決できるのか。異論・反論もありそうで、本書だけでは判断がつかなかった。

  • 今作も圧倒的な面白さ。
    政策は立案だけじゃない。実施が大事なのだと教えてくれる。
    特に面白いのが第四章 「小池流改革の舞台裏」。
    政策の「実行プロセス」こそが大事という筆者の本領が発揮されている。


    【問題】
    東京都の待機児童が多い構造的問題
    ①地方分権化が行き過ぎている面があり、自治体間でスクラムを組んで共同歩調をとる「広域調整」が難しいこと
    ②歴代の首長や区議会市議会が人気取りのために認可保育所の保育料を大幅にディスカウントしてきたこと
    ③ これまた歴代の首長や区議会市議会が人気取りのために国が定める認可保育所の基準(面積基準うん、保育士の配置基準)を超える独自の「上乗せ基準」を設定してきたこと。贅沢な上乗せをするほど、認可保育所の定員が少なくなるため、待機児童数が増加する
    ④東京都が私立幼稚園を財政的に優遇しすぎていること
    これらに加えて、東京都への一極集中で人口流入が進み、東京に住む女性の就業率も高まっている。

    【方針】実行プロセスこそが重要

    「私は、「政治的に実行可能な対策」に絞り、どこからどう手を付けていくかという手順を含めて進言しました。」

    【対策】良く効く早く効く
    供給側
    ①フットワークの軽い株式会社やNPO法人の認可保育所新設を集中的に支援。更に認可保育所よりも早く新設可能な東京都認証保育所や小規模保育、事業所内保育にも重点
    ②用地取得プロセスを短くするために、都庁が持っている土地を提供したり、国家戦略特区制度を使って都市公園内に保育所を設置。更に土地や施設の借り上げを早めるために、賃貸料賃借料の補助拡大や固定資産税の引き下げを実施。また、既に着手している物件の完成を急がせるため、年度内にできた場合の補助率を高める。

    需要側
    ③認可保育所への申し込み集中を緩和
    ・直接補助の拡大
    ・育休2年まで延長できる法改正を国に働きかける
    ※保育料引き上げは現時点で政治的に困難なため棚上げ。

    などなど。

  • 認可保育所が社会主義的な発想で運営されており,それに係る個人や組織がそのぬるま湯から出ることに激しく抵抗する.これが待機児童問題の本質だと著者は論破している.さらに保育という事象を70年前から変わらない現象ととらえている官僚たちのかたくなな発想も問題だ.市場経済の原理に沿った形での変革を実施することで,財政的問題や対象の両親も満足できる手法があることを強調している.保育士国家試験を養成校にも義務付けるアイデアは成功間違いなしと思った.

  • 最初は、経済学者である著者の保活経験を通じた、保育所の現況がまとめられていて、とてもわかりやすく導入部分としてはとても読み進めやすかったです。

    中盤~後半は、著者が関わった東京都の保育に関わる施策内容及びその立案から実施に係るプロセスなどが長く書かれてありました。
    個人としては、仕事内容に関連性があったので興味深く読むことが出来ましたが、
    東京近郊にお住いでない方や、その他あまり関連のない方には、施策重視な内容なので、若干他人事な内容に聞こえてしまうのではないかと思いました。

  • 東京都で小池知事とともに待機児童解消に向けて活動中の経済学者の活動。大学教授なんて理論ばかりと思っていたが、実務層との対話などかなり地道な活動を行っている。噂には聞いていたが、0歳育児には一人あたり月に四十万掛かるという事実には驚愕。既得利権が大きく、抵抗勢力も多いだろうが、改革に向けて進んで頂きたい。

  • 東2法経図・6F開架 369.4A/Su96k//K

  • 自らが東京都での政策に関わっているせいか、小池知事や自分の実績についての評価が甘い感はあるが、前例や既得権益を崩しつつ、合理的かつ可能な限り全体最適に解決していくしかない。

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著者プロフィール

1991年生まれ。現在、東京大学大学院人文社会系研究科助教。専門は美学。主な論文に、「ランシエールの政治的テクスト読解の諸相──フロベール論に基づいて」(『表象』第15号、2021年)、「ランシエール美学におけるマラルメの地位変化──『マラルメ』から『アイステーシス』まで 」(『美学』第256号、2020年)。他に、「おしゃべりな小三治──柳家の美学について 」(『ユリイカ』2022年1月号、特集:柳家小三治)など。訳書に、ジョルジュ・ディディ=ユベルマン『受肉した絵画』(水声社、2021年、共訳)など。

「2024年 『声なきものの声を聴く』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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