塑する思考

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (264ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103510710

感想・レビュー・書評

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  • 中盤にあるような、クールミントガムや明治おいしい牛乳、ニッカウヰスキーのデザインを思考プロセスと併せてひも解く部分は読みごたえがあり面白い。佐藤さんのデザインは、一言で言うならオリジナリティの探究だと私は理解した。どうオリジナリティを出すかの研究ではなく、あるものだとして対象を多くの視点から観察することで隠れたオリジナリティを見つけだす探究から、フォルムや表面のアウトプットに繋げていく。今の時代だと良くも悪くも表面的なものに成り下がった引き算のデザインが多いが、真の引き算のデザインはおそらく著者のような思想を持って取り組まれているモノを指すべきだと思う。

    反面残念なのは、全編通し細かい部分で思い込みや極度に単純化された知識を元に論理を展開している点が多かったことだ。出典の記載もなく、信頼して読めない印象を持つにいたる。具体的には、進化論の誤用やカロリーベースの自給率で日本はもっと貯水機能を持つべきだ等と批判につなげているところ等で、後者に関してはチェリーピッキングの代表事例のような展開だ。比較対象国との年間降水量の差や、小麦など日本の土壌に適していない穀類がカウントされやすいカロリーベースで自国を批判しつつ重量/金額ベース自給率といった指標には一切触れないのは主観的と言わざるを得ない。また自国の自給率が40%だから単純計算60%他国の貯水機能に頼ってしまっているとし、だから自国でもっと貯水機能を持つべきなのだと言うが、これに関してはもはや何から突っ込んでいいのか、話にならないレベルで論理破綻している。

    私は何も偏った言動を慎んでほしいとは言うつもりはない。しかし情報の精度に注意を傾けられないのであれば教育に関わらないでいただきたい、と思う。著者の言う未来を考える場を持つためにはまずフラットな視点で一次情報にあたり適切な発信を努めることからすべきではないだろうか。

  • どこで「弾性」を使い、
    どこで「塑性」を使うのか、

    自我を削り取って削り取って、
    最終、譲れないものはなんなのか、

    知っていきたい。

  • 物をつくるなかでデザインが大きく誤解されている。カッコよくすることではない。既存のものとものをつなぐ、物の本質を知る。著者が伝えたいデザインと世間一般で思われているデザインは大きく違う。
    物を深く掘り下げてその背景に思いをはせることで、もっと気づかいの出来る世界になるのでは。
    塑する思考とはそんな考え方だと思った。

  • ・元電通のアートディレクター佐藤卓の著書
    ・「分からない」から全てがはじまる。ニッカウィスキーの自主プレゼン
    ・柔らかさには2通りあり、弾力性と塑性。外部から力が加わった後のあり方が違う。塑性は粘土のように、力を加えたら戻らない。
    ・自分の意識がどこから来るのか、その基礎となる自分すら分かっていない中で、自我や自己を固めるよりも、その場に応じて柔軟に変えていく方がよい。
    ・発想とは、ある目的のために今まで繋がっていなかった事物同士を繋げる試みである。
    すでにあるのに気づかずにいた関係を発見して繋ぐ営為とも言える。
    ・あらゆる仕事の基本は「間に入って繋ぐこと」
    ・明治牛乳のパッケージ。技術者の牛乳「そのまま」を味わって欲しい想いから「デザインをできるだけしないデザイン」の方向性。
    ・サーフィン。どれだけ海に通っても、なかなか上達しないが、波に乗り自然と一体になる感覚を味わうだけで充分すぎる。
    ・サーフィンはあまりに多くのことを教えてくれる。自分の無力さをまざまざと見せつけられ、自分と環境との関係を把握する力も鍛えられる。大きな波が立っている時の海は河のように流れているので、どれだけ自分が知らぬ間に流されているのかを気づかずにいる場合がよくある。ところが岸の景色を冷静に見ていれば、すごいスピードで流されていると気づく。
    常に冷静に、できるだけ客観的に自分の置かれている状態を把握していなければ、たちまち危険な状態に至る。

  • 養老孟司先生が新聞の書評で「この本を読んで、自分もデザイナーになってみたくなった」と書かれていたのを読み、自分もこの本を読んでみたくなった。
    これは、ニッカウィスキーの「ピュアモルト」明治の「明治おいしい牛乳」ロッテの「クールミントガム」などのデザインを手がけ、日本を代表するグラフィックデザイナーの一人である著者が(私は門外漢でお名前を存じませんでしたが)、それらの仕事を通じて思考し、たどり着いたデザイン論である。そのポイントを一言で表すとすれば題名にあるとおり「塑する思考」という著作オリジナルの言葉になるのだろう。「塑」とは、外部からの力に従ってどのような型にもなるが、決して元の型に戻ろうとしない、そもそも元の型というものがないという意味で、同じ「柔軟」ではあっても絶えず元の型に戻ろうとする「弾力」とは分けて考えるべきだという。柔軟に思考することは大切だが、デザインにおいては「塑する思考」すなわち、自分とか個性を表現しようとするのではなく、そのものに内在する価値を引き出すこと、いわゆる付加価値とは逆の発想こそが大切だというのである。和食の職人が素材の味を引き出すとか、仏師が仏様を彫るのではなく、木の中から仏様が現れる、などと語られることがあるように、いわゆる達人が語る言葉には分野を超えて通じるものがあるようだ。そもそもデザインとは絵画とか工芸とかいわゆる芸術の一分野に分類されるものではなく、人が生み出すあらゆるものに関わっており、その意味で人と物を仲介する「水」みたいなものだという。水は方形の器に隨う、たしかに「塑」だし、この惑星では普遍的に存在する生命の源でもあるから、デザインを論じるととても深い世界のことまで想像力が働いてしまう。養老先生がデザイナーになってみたくなったというのも、あながちお世辞ではないと思える。
    この本にはグラフィックスという2次元の世界を超えて、奥行きと含蓄に満ちた言葉が溢れている。

  • 21_21 DESIGN SIGHTのショップでたくさん並べてあったのと、この間までの「グラフィック展」で少し触れられていたので気になって読んでみました。

    おいしい牛乳の人だとは知らず、読んで初めて知りました。
    デザインを通して仕事、人生、生き方を視ていて気付かされることが多かったです

  • すっごい面白かった。というより、とても重要な視座と言葉をいただいた、という感覚が強いかも。
    まさに実用的な視座「構造」と、染み込む言葉の綺麗さ「意匠」を兼ね揃えた本。

    物事の本質を「問い」から見出すこと。おそらくそれが、良い意味で自我と戦う一番の術なのかも。

  • 本館 県立

  • 塑は「そ」と読む。力を加えても元に戻る「弾性」に対して、相手によって自在に形を変える「塑性」。著者はデザインというものを「塑」であるべきだと考える。
    私もデザイナーの端くれなので、著者の言いたいことはよくわかる。著者が自分と同じような考えであることを知って、嬉しくなった。
    デザインは自己表現の場ではない。たとえば、商品のデザインを考えてみる。消費者はお店に並んだ商品の中から気に入ったものを選んで買っていく。ならば、商品のデザインは「自分がどうしたいか」ではなく、「みんながどう思うか」が大事である。
    この「塑である自我」という考え方が、養老孟司先生の個性に対する考え方とよく似ている。押さえつけていても出てきてしまうのが自我や個性で、そういうものはいい仕事の邪魔になる。なぜなら、仕事は世の中のニーズに合わせて存在するもので、あなたの欲求を満たすために存在しているのではないから。
    この本はデザインの本ではなく、デザインそのものについて考えた本である。豆腐屋が「なぜ豆腐を作るのか」と考えるような本である。養老先生も解剖学者でありながら、「解剖とは何か」を考え続けた。そういう意味では、のちにお二人が「虫展」で一緒に仕事をされたのは、必然という気がする。

  • 養老ブックガイドから。簡単に使うとたしなめられそうだけど、デザイン職者の手になる読みものを味わう機会はこれまで殆どなかったから、だいぶ新鮮な読書体験となった。

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著者プロフィール

佐藤卓
妖怪収集家。1996年、山形県生まれ。宮城県在住。大学在学中にブログ『宮城妖怪事典(仮)』を開設。県内各地の民話や郷土史に眠る妖怪を発掘し、その魅力を広めるために活動中。本事典の表紙イラスト担当、妖怪掛け軸作家「大蛇堂」氏の個展『宮城の妖怪展』(2020年、2021年)には情報提供を行い、同イベント中の対談トークショーにも出演した。

「2022年 『日本怪異妖怪事典 東北』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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