ワンダフル・ワールド

著者 :
  • 新潮社
3.23
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本棚登録 : 400
感想 : 67
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  • Amazon.co.jp ・本 (183ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103399513

作品紹介・あらすじ

世界はこんなにも美しく、かぐわしい――運命の出会いを彩る香りの物語。かつての恋人との再会で芽生えた新たな感情、「愛人」という言葉では割り切れない関係、久しぶりの恋を捨てても守りたいもの――普通の恋愛とは呼べない。でも混じり気ない愛情と絶対的な安心感を与えてくれる存在を、特別な香りとともに描く全五篇。もうときめきだけでは満たされない大人に贈る、究極の恋愛小説。

感想・レビュー・書評

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  • 香りを巡る恋愛。プールの塩素臭,原生林の匂いなど,匂いで記憶が蘇る。気になる3編。
    バタフライ:恋人契約,期間限定の理由
    サンサーラ:骨董白蛇洞の店主の秘密
    tsunami:震災と猫の看取り

  • 楽しみにしていた村山さんの新刊。
    早速発売日に買いました。
    すべての章に香りが漂う、喪失と大人の恋が入り混じった5つの短編集でした。

    ファンの間では、デビュー作「天使の卵」などの純心な作品を生み出す白村山と、「ダブル・ファンタジー」のような官能的で深みのある作品を描き出す黒村山とに呼び名が分かれるところですが、もはや今はそういった区分けすら不要なものだ、と感じさせるくらい白も黒をも内包した作品でした。

    酸いも甘いも知り尽くした大人だからこそ書ける魅力がまたたまらないです。いくつになっても恋に生きる純真さを残しつつ、年齢とともに変化していくものが作品には映し出されていて、これだからこそ追いかけるのをやめられない、と思わされます。

    さて、肝心の作品ですが、描かれている大人の恋は、とても現実的でした。
    ある程度生きているとそれなりに経験を積むから、夢を見にくくなっている部分がある。それと同時に、だからこそ焦がれるように夢を見たい気持ちもあって。
    ふと気付けばしっかり予防線を張っていたり、冷静に自分の手綱を握りしめていたりするのを自覚すると、自分も大人になったものだ、と少し寂しさを覚えます。

    大人になると既婚者率が高くなるとはいえ、不倫という呼び名を自覚することなく既婚者と関係を持つ人が多いことが、なんだか残念なような、それでいてすごく自然なような、苦い気持ちになります。
    もちろん、しっかりわかっている、と不倫をしている人たちは言うけれど、甘い言葉で誘う男性も、妻の存在に蓋をして誘いに乗る女性も、同罪ですよね。なにも、わかってない。
    とはいえ、私も感性の部分では、まあそんなこともあるよね、と自然に受け入れてしまいそうだからこそ、理性の部分で必要以上に自分を諫めてるのかもしれませんが。

    読んでいて感じたのは、人は必ず失うもので、失われようとしているものを止めることはできない、ということ。それは命にしかり、恋心にしかり。
    いつかはすべてが失われるのだから、その前にきちんと大切にしないといけない、ですね。

    老猫の話は、私も昔大事にしていたハムスターを、それこそ全身の毛が抜けるくらいまで長く生きた子が息を引き取る最期の瞬間を、自分の両手の上で見たという経験を思い出させるのと同時に、うちの愛猫の最期を想像せずにはいられませんでした。

  • 【あらすじ】
    アロマオイルを纏った肌をぶつけ合い、のぼり立つ匂い。調香師との情事は、私に長い愛人生活を終わらせる予感を抱かせた。あの光景を目にするまでは──(「アンビバレンス」)。年上の人妻経営者に持ちかけられた三か月間の恋人契約。俺に抱かれ、女の喜びを感じると話していた彼女は、なぜ突然いなくなったのだろう(「バタフライ」)。記憶と熱を一瞬で呼び覚ます特別な香り。五編の恋愛小説集。

    《オー・ヴェルト》
    ・田代くんが、思ったことは何も我慢せずぽんぽん言ってしまう性格の万実に言った「表裏がないってことだから。万実ちゃんといると、言葉に隠された意味とか本音とか建前とか、色々考えなくて良いから楽だよ」が私も田代くんと同じですごくしっくりきた。

    《TSUNAMI》
    ・なんの前触れもなく、突然の波に呑まれて奪われていく命があることを思うと、こうして死の訪れまでの間に心の準備のための猶予が用意されているのは、残酷なのか、それとも幸福なのだろうか。

    ・生と死とを分かつ境界線は、人が思うほど太くはない。死は、つねに生のすぐそばにある。それは同時にこうも言い換えられはしないだろうか。死せる者は、生ける者のすぐそばに在り続けるのだ、と。

    ・この子もまた、きっと見守ってくれるだろう。最愛のものをなくした私が、それでも懸命に日々を生きてゆこうとするのを。自分のいないこの世界が、それでもなお、愛しく眩しく輝き続けるのを。

    【個人的な感想】
    五編の短編すべてに途中に性的な表現もあるが、最後の短編の『TSUNAMI』が2週間前に愛犬を失った私に響きすぎて号泣したので★5にした。
    『TSUNAMI』では17年間共に生きた猫と飼い主の女性の最後のお別れを描いた話。
    大切な家族である猫や犬を亡くした方に読んでみてほしい。

  • 『匂い』に関連した短編集。
    登場人物が次の短編にサラッと出てくるけどさほど深くは関わらない。
    5編あるうち、もしかしたら人間よりも愛している動物と関わる主人公が3編。
    この子は私がいないと…!と思える対象がいることで救われる一瞬が描かれているのが好き。
    読みやすく、あっという間に読めた。

  • かけがえのない存在との出会いと別れを特別な香りとともに描く短編集。
    全体的に大人の色気があった。
    一気によみおわった。

    ①アンビバレンス
    顔が良くてセックスが上手くて色気があっても、飼ってるインコを初対面で雑に扱った事で一気に全てが終わる…私も犬を飼ってるので、自分のペットを大事にしてくれない人は絶対に無理だって気持ちはよくわかる。
    比嘉さんとの関係性が好きで、もっと2人を見ていたいと思った。

    ②オー・ヴェルト
    正論で相手を追い詰めすぎる。言いたい事を言ってしまう。
    私も友達に言われた事があるし自覚もあるので耳が痛かった…。
    ただそういう人が合うと思ってくれる人、裏表がない、言葉の裏に隠された本音や建前を考えなくていいから楽って思ってくれる人も、いるんだろうなと思えた。

    ③バタフライ
    男性目線で物語が進み、志織さんの事は大人の余裕があるかっこいい女性に見えていたけど、最後に真相を知って切なくなった。
    不倫関係だけど、この2人はすごくお互いを想いあってる感じがして、燃えるような恋ではないかもしれないけどすごく素敵な関係性に見えた。

    ④サンサーラ
    これが1番好きかも?
    いわゆる毒親ってやつですね。
    子犬を勝手に取り替えたくだりは、ありえなすぎて引いた。
    主人公が守るものができて強くなっていくのが良かった。
    何度死んでもいい。その度に生まれ変わってこの人を探し、可愛い豆太郎を見つけようと躍起になるだろう。もしかしたら既に何度か生まれ変わってるんだろうか。その度に香りを頼りにこの人を探していたのでは…
    いや、素敵でした。好きです。

    ⑤TSUNAMI
    震災の余震の最中、17年間一緒だった猫を看取る話。
    隣にいる愛犬を何度も撫でながら読みました。
    間違いなくタビは幸せだったと思う。

  • 村山ワールドの恋愛小説は、恋愛以外の所で泣かされる。一人一人何かを抱えて生きているのよね、きっと。

  • なんか、大人らしい雰囲気を感じる…。

  • タイトルとは裏腹に、わりとバッドエンド多めな希ガス

  • 「香り」で綴った5編の短編小説。感情を揺さぶられる香りは人それぞれ。「バタフライ」が切なかったな。

  • *世界はこんなにも美しく、かぐわしい――運命の出会いを彩る香りの物語。かつての恋人との再会で芽生えた新たな感情、「愛人」という言葉では割り切れない関係、久しぶりの恋を捨てても守りたいもの――普通の恋愛とは呼べない。でも混じり気ない愛情と絶対的な安心感を与えてくれる存在を、特別な香りとともに描く全五篇。もうときめきだけでは満たされない大人に贈る、究極の恋愛小説*

    まさしく、濃厚な女の香りが匂い立つような短編集。激情と冷静さ、柔らかな寛容と決して譲れない自分の中の何か、そんな相反する感情が背中合わせになっている大人の女の恋愛模様。退廃的なのにほろ苦い甘さを含んだこんな恋慕が味わえるのは、大人の特権なのでしょう。意外な結末も併せて、独特の余韻を残す短編集。

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著者プロフィール

村山由佳
1964年、東京都生まれ。立教大学卒。93年『天使の卵――エンジェルス・エッグ』で小説すばる新人賞を受賞しデビュー。2003年『星々の舟』で直木賞を受賞。09年『ダブル・ファンタジー』で中央公論文芸賞、島清恋愛文学賞、柴田錬三郎賞をトリプル受賞。『風よ あらしよ』で吉川英治文学賞受賞。著書多数。近著に『雪のなまえ』『星屑』がある。Twitter公式アカウント @yukamurayama710

「2022年 『ロマンチック・ポルノグラフィー』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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