異郷の友人

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (156ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103367338

作品紹介・あらすじ

ねえ、神様。あんたにやってもらいたいことがある。世界を正しいあり方に戻すんだ。阪神大震災を予言し、信者を増やす淡路島の新興宗教。教祖Sはイザナキ、イザナミの国生みの地で、新たな世界創世を説いていた。ある日、アメリカ西海岸の秘密組織から男たちが訪ねてくる。彼らは何を企んでいるのか。すべてを見通す僕とは、いったい何者か? 世界のひずみが臨界点に達したとき、それは起きた――。大注目の芥川賞候補作。

感想・レビュー・書評

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  • 転生の記憶が消えないうえに複数の他人の記憶をリアルタイムで知ることができる男と、淡路島の新興宗教と、アメリカの天才ハッカー集団が絡まる。

    読み始めてすぐ「ああ、これは好きなやつだ」と思ったのだけど、進むにつれて難解で諦めそうになった。
    どこまでが真実で妄想なのだ。

  • 語り手は「私」と「吾輩」という2つの一人称を同時に使い、
    しかも今は「ヤマガミ」という青年であるがかつては石原寛治でありフロイトでありテレンティウスであったといい、
    その上ほかの登場人物の意識を覗いて記述することも出来るという。

    なんだかわけのわからないメタメタな構成である。

    けれど「語り手」のその立ち位置というのは要するに、
    登場人物に憑依してその視点で物語世界を見るという「書き手」、すなわち小説家自身のことを、
    SF的に、もしくは寓話的にとらえ直した私小説なのではないか、とも思う。

    「中二の時に他人の意識が流れ込んでくるのを感じるようになった」というようなくだりはつまり、
    「このころから妄想と自意識の線引きが出来るようになって、自分でない別の人格としての物語を造り始めた」という「書き手」自身の独白であって、また、
    「吾輩に起きていることは全て私の妄想なわけだ」という一文は、
    「吾輩」を「語り手」に、「私」を「書き手」に読み変えることも出来る。すると、そのあとの御託云々はそのまま、書き手の「意識の流れ」そのものだ。

    物語を産む「書き手」とは、その世界においては創造主なのである。神なのである。
    しかしこの世界の「神」は自分自身が物語の中に入り込んでしまっていて、「語り手」たる主人公に「語られて」しまってもいる。

    「私」が溢れまくっている。「私」があり余る。「私」以外にも「私」はいるの。
    という、そんな「私」小説である。

    主人公は「私」という概念そのものなのかもしれない。

    文学の世界の中で「私」はこれから、どこに行けばいいのだ。どこに行くのだ。

  • 芥川賞候補作。

    選考委員の山田詠美の評が、的を得ている。

    「いかすアイディアがいくつも出て来る。」「知識も豊富っぽいし、頭のいい人が書いた小説なんだなーっ。でも、そんな頭のいい人が、何故それらの締めに津波を使ってしまうのか。」


    震災はこんな軽々しい作品に用いるべきでは無いし、震災で亡くなった方に対する冒瀆に他ならない。

  • 阪神淡路大震災の記憶はない。1歳にもなっていなかった。でも兵庫の出身の作家は軒並みこの1995年のことを覚えていて表現している。朝吹真理子が東日本大震災を語るのと同じようにやる。なにかが失われる。なにかは街の中にあったもので、そのなにかが取り返されることは二度とない。私の喪失は梅田駅が大阪梅田駅になった頃に始まっている。コロナも然りである。
    ここまでかと感じる日々を送る。Eのあの心境になる。もう「見る」以外ない、と感じる。やったところで何もない。個体が個体として存在する意味もないからただ受け流していく作業になる。神が与えた領域の限界を越えようともしてみるが結局最終死ぬのが行き着く罰の臨界点、しょうもないと言えばしょうもない。で、どうしたよ、と返す早乙女ちゃんの無味乾燥加減もわからなくはない。組み立てることを常日頃から考えながら生きていくとそうなる。メタく生きるのは面白いが抽象以外に興味がなくなる瞬間がある。具体である必要は果たしてあるのか私にもわからない。
    暇だ。自己実現だのキャリアだのストレングスだの忙しくするのも暇潰しの一種で仮初のものだ。素敵なものも見て回ってみる。やってもみるが虚無感はなかなか拭えない。本当のところ、やることはない。やり過ごすためのツールをたまに揃えてみたりする。やり過ごす。やり過ごせない時が出てくる予感がしてまた揃える。やり過ごす。以下ループ。
    ないまぜになっても特段問題ない。私以外はだけど。 

  • 読書開始日:2022年1月28日
    読書終了日:2022年1月29日
    所感
    良くも悪くも限界、頂上が見えてしまうと極論に走る。
    極論に走った行き止まりを見たが最後。
    だがその最後を見れば、急き立てる怯えから解放される。
    Eも早乙女も山上も、津波に立ち向かうことで解放された。
    早乙女は、まだ行き止まりを見るには早いと思えたことこそがある意味での解放であった。
    Sは本当の意味で悟りを開いていた。
    EMJ早乙女山上集結の飲み会は良かった。
    Eは会話がしたかった。
    この怯えを共有しあえる仲間と。
    意見なんか合わなくてよかった。
    本当の会話ができればそれでよかった。
    神は孤独、Eも有能故孤独、世界一すらも無意味で孤独わかってしまうところも孤独。だが目指すところはもうそこしかないという悲劇
    つまるところ人間は偶然の奴隷。なぞるべきをなぞるだけの明るい諦念で繋がれた奴隷

    リビドー=快感を満たすための原動力となる仮想エネルギー。または性欲の意
    生命とは物質が羅漢した病
    エスタブリッシュメント=支配階級者
    敵愾心
    一旦リセットだ。さて、俺は何をやる?

    濃縮した暴力
    荒唐無稽
    怯えて待ってはいけない。怯えるのは、本当に恐ろしいことが起きてからで間に合う
    煎じ詰めたら最悪の場合、死ぬだけ、だけ
    時間軸をとっぱらった世界はモンスターエンジンのコントをするだけの退屈な日々
    つまるところ人間は偶然の奴隷
    カタストロフィ=突然変異、大破壊
    人間の生は悲劇でなく喜劇
    ディストピア=暗黒世界
    デファクト=事実上の
    趨勢
    この世の全てがフィクション。そのフィクションをとっぱらって何も拠り所ない世界を作る。その世界を作ることによって人間は真に寄り添い合う。そんな世界をEはつくるため、山上に礎になる様願う
    メランコリック=憂鬱
    神は孤独、Eも有能故孤独、世界一すらも無意味で孤独わかってしまうところも孤独。だが目指すところはもうそこしかないという悲劇
    つまるところ人間は偶然の奴隷。なぞるべきをなぞるだけの明るい諦念で繋がれた奴隷
    Eは神の友達が欲しかった。自分くらい全知全能な
    次の処理へ、次の処理へ、
    体の組成のほとんどが水、いわば海
    Eは人間の現在地を見たかったそこでの津波
    大再現がおきた。
    山上の成仏

  • お友達の薦めでよんだ。
    感じ方は人それぞれなんだなと思った…全体を通して何を伝えたかったのか、よくわからなかった。
    でも、全員が集まっていくとこはワクワクしたし、異郷の設定も新鮮味があって良かった。

  • 久々にめちゃめちゃ合わない本やった。しかも落としどころが東日本大震災とか。これが芥川賞候補かー・・・

  •  設定はまさしく上田岳弘だと思わせるし、作中の展開も悪くはない。
     ただ、ユーモアのつもりか何なのかお笑いコンビのモンスターエンジンを出すのは良くないだろう、そういう流行り廃りの早いネタを作中に出すと、今よりのち、それこそ10年、20年後の若者たちには理解できなくなってしまう。自ら賞味期限を縮めて何がしたかったのか。
     それとオチ。こうでもしないともう収集がつかないからとでも言わんばかりに、流行りの3.11に落ち着いてしまった。
     初出は群像の2015年12月号とある。2010年代の純文学方面で震災文学が流行したが、全部ハズレだとしか思えないものばかりで、本作もそれに該当すると言ってよかろう。
     上田岳弘には確かな才能がある。それは芥川賞をのちのち受賞する事からも明らかなわけで、だからこそ安直な解決法として震災に頼ってしまったことに不満を覚えた。非常にもったいない小説だと思う。

  • 芥川賞候補?
    やっぱり面白くないな。

  • 遠くに居る他人の意識そのものが侵入してくる、意識にアクセスする。その意識を俯瞰し、特定する。さらにその特定する意識に感想する。というふうに、一見新しい展開やけど、メタ認識が進むことを目指すのが小説の近代化なら、「他人の意識の侵入」はその逆に向かう。神話の類いだ。ホメロスを思い出した。
    後半、まるで、誤解を、最も最適化した解釈を被せることで理解として受け入れ、そのせいで理解の質が下がってしまうが、話は通じる、というよくある混沌飲み会のような場面が好き。

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著者プロフィール

作家

「2023年 『ベスト・エッセイ2023』 で使われていた紹介文から引用しています。」

上田岳弘の作品

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