あとかた

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (186ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103341918

作品紹介・あらすじ

きれいに洗っても、忘れようとしても、まだ残っているもの。それで、人生は満ちている――。結婚直前の不実も、不倫も、自分の体を傷つけてしまうのも、ここにずっといて欲しいとうまく言えないのも、ぜんぶ同じ。怖いから。抗いたいから。体と心が触れあった痕跡を遺すことだけが、私たちの唯一の寄る辺なのです――言葉にしたら消えてしまうかもしれない感情の奥底まで踏み込んで描ききった、痛くて優しい連作小説。

感想・レビュー・書評

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  • 6編の連作恋愛短編集…様々な恋愛の形が描かれている…。結婚を控える身でありながら婚約者とは別の男性のと関係にのめり込んむ女性、家族がありながら不倫する妻、愛することと傷つくことは同義であると疑わない女性、素直になれない女性…。また、そのパートナーである男性からの視点も収められている…。

    直木賞候補に選ばれていたんですね…!この作品では叶わなかったけれど最新作では直木賞を見事受賞されました!!

    この作品は、オトナの恋愛集って感じでしょうね…。印象的な登場人物は、イナダと水草くんかな…2人ともなんとも可愛く思えちゃったりして!水草くんの「多分、この世は不安定で、何もかもが簡単に壊れてしまう。変わらないものなんかないし、何か遺せたとしても一瞬で消えてしまうかもしれない。それでも誰かを好きになって生きていくのはすごいことなんだって、おれは思うよ。」に、この作品の全てが網羅されているように感じました。切なくそれでいて優しい気持ちを余韻に残した読後感を得られるのも、千早先生ならではです。

  • 各章で登場人物がリンクしている短編集で、『正しい女たち』と似た形式。章立ては『ほむら』『てがた』『ゆびわ』『やけど』『うろこ』『ねいろ』の計6章から成る。

    不倫、自殺、DV、恋人とのすれ違いと、恋愛の闇の部分が炙り出ていて、千早茜さんワールド全開。

    個人的に一番刺さったのは、最終章の『ねいろ』。
    恋人に迷惑はかけられまいと、流産したことすら打ち明けられずにいる千影さん。わがままに生きたいけれど、そうしたら嫌われてしまうのではないか、離れていかないで欲しいと思い、強がり、一人でも大丈夫なフリをしてしまう…。
    物分かりがいい人に対して、周りはとことん漬け込んで、甘い蜜だけ貪って、そして離れていく。とても切ない。
    千影さんのギリギリまで我慢して爆発してしまう感じや、尊敬する人=恋愛的感情で好きと錯覚してしまう感じ、痛いほどわかる。
    千影さんがありのままの姿で、一緒にいて安心できる人と巡り会えますように…。

  • ほむら てがた ゆびわ やけど うろこ ねいろ の6つの短編集作品だが、各々は少しずつリンクしている短編連作。それぞれの語り手の男女を問わず、かなりの過激な登場人物もいるのですが皆が痛みや哀しみや辛さに不器用だけど自分なりに付き合って行く様が結構静かにしんみり伝わってきます。

  • 直木賞ノミネート作。
    惜しくも落選したけれど、個人的には割と好きな部類。

    作品全体を覆う、淋しさや孤独。
    誰かと繋がりたいけれど繋がれない。
    誰かに伝えたいけれど伝えられない。
    そんな不器用な人達に共感せずにはいられようか。
    いや、むしろ同情に近いかもしれない。

    6編それぞれに登場する主人公は、それぞれが心の隙間を抱えているように見えた。
    素直に感情を伝えられず、まるで何でもないように淡々と日常を生きる姿は痛々しい。
    あと一歩踏み込めば何かが変わるかもしれないのに。

    「うろこ」は良かったな~。
    松本君のキャラがたまらん。
    大学デビューする姿も、自分の気持ちを素直に認められない幼さも。唯一、ほっとできる一編かも。

    またしても初読の作家さんだけれど、なかなか良かった。
    他の作品はどうなんだろう。
    この本だけだとちと個性に欠けるか。
    最近女流作家の本が続いていて、食傷気味だったのもあるかも。
    今後が楽しみな作家であることは間違いない。

  • 少しずつ登場人物の人生が重なっている連作短編集。出てくるどの人も、もちろん程度の差はあるものの、重いものを背負って生きている。
    日常で出会う、飄々とそつなく生きて見える人たちにもこんな部分があるのかもと考えると、気持ちが少し楽になる。

  • 直木賞候補作ということで、初読みの作家さん。
    6編入った短編集。
    関連する人物で、作品ごとに視点が変わっていきます。
    丁寧な文章で雰囲気があり、後半がよかったです。

    「ほむら」
    結婚を前に、心が揺れる女性。
    5年も一緒に暮らしてきたのに、急に結婚を決めた相手に違和感を覚えてしまう。
    ふと出合った年上の男性に誘われるままに何度か会う。
    どこか虚無的なような、すぐ別れるとお互いにわかっているはずの、でも付き合うにはそれだけの密度もある‥

    「てがた」
    上司の男性が飛び降り自殺をしたと聞く会社員の木田。
    飄々とした余裕のある態度だった黒崎副部長は、何か重い病があって移動してきたのだという。
    副部長は何を思っていたのかと、付き合っていたらしい女性に聞く。
    家庭では幼い子供の世話も出来ず、妻の明美に任せ切りの木田だが‥

    「ゆびわ」
    幸せな結婚をして子供も二人、努力が実って勝ったのだと感じている妻。ささやかな不満は押さえ込んでいればいいのだと。
    ふとしたことから、年下の愛人が出来る。子供がいることまでは相手に言えないでいた‥

    「やけど」
    家を出て、高校の同級生だった松本の部屋に転がり込んでいるサキ。
    ハーフで目立つ外見だが、背中にはひどい傷跡がある。
    アイリッュパブでフィドルを演奏する千影に憧れ、泊まりに行ったりもしていた。

    「うろこ」
    居候のサキが落としていったコンタクトレンズ。
    松本は、がり勉としか言いようのない外見の高校生だった。
    藤森サキにはとかくの噂があり、見かけたときもボロボロ。それでも綺麗という。
    互いにただ一時期の同居人と思っていたが、大学の友人に正直じゃないなと言われ‥

    「ねいろ」
    尊敬できる医師と付き合っている千影。
    だが国際的に派遣される仕事をしている彼は、結婚を望まない。
    半ばはそれでいいと理解しつつ、内心複雑な千影。
    サキに貰った金魚に困って店に行き、店番の男の子に出会う。ゲイとわかった彼を水草くんと呼び、いつしか打ち明け話を‥

    空しさや行き詰まり、ささやかでも解決できそうもない重ったるい感覚。
    最初はややねっとりした暗さがありますが、少しずつほどけて来て、悪くない展開に。
    作り話めいた部分も、総合すると説得力がありました。
    予想よりも救いがあって、よかったです。

  • 連続する短編。
    自殺した家電メーカーの副部長、黒崎さんに関係のある人やあんまり関係ない人たちの視点で見た世界。

    結婚前に”その男”と身体を重ねていたデザイン会社の女性。
    ”その男”の隣の席で働いていた、子育てに積極的でない男性。
    不倫行為に溺れる、子育てに積極的でない男性の妻。
    かつて”その男”の部屋に住んでいたが、いまは高校の同級生の部屋にいる女性。
    同級生の女性を部屋に止め続ける、有名大学に通う男性。
    ”その男”の部屋に住んでいた女性に慕われている、フィドル弾きの女性。

    全部の話が繋がっているようで、そうでもないような、曖昧な世界だった。
    ”その男”がなぜ飛び降り自殺したのかは結局わからないし、そんなことは他の人たちからしてみれば問題にすらならないのかもしれない。
    ”その男”の行動によって他の人たちにどんな影響が出たのかもわからない。世の中の人たちは繋がっているのか、繋がっていないのか、よくわからないまま、社会のなかで生きている。

    誰もが美人だと認めるような、藤森サキさんの背中に、自分のイニシャルを刻んだ男の気持ちについて考える。
    綺麗な女の子を自分のものにしたい! 自分のものだからナイフで背中にイニシャル掘っちゃう! という心理はなかなかの変態だとは思うけど、なんとなく理解できる部分もある気がした。
    痕跡を残したい、という気持ち。
    それはわかりやすく傷跡だったりする。あるいは飛び降り自殺するときに、手をついた跡が意図せず残っていたりもする。
    死んでしまった人や、いなくなってしまった人の気持ちを知ることはできない。けれど、その人が残したものから、推測したりすることはできる。

    世の中の人たちが繋がっているかなんてわからないし、結局のところ、そんなのはどうでもいいことだ。
    ただ、我々は常に何かしらの痕跡を残しながら生きている。あるいは、死んでいく。

  • 「鏡の花」のあとに読んだら
    ストーリーはもちろん全く違うけれど重なった。

    違う場面で登場する「男」が同一人物だったのだ。
    (「あとかた」のなかで)
    「あれ?」が「・・・え?」になり、「あ!」と変化する。
    そんな感覚が「鏡の花」のときとどこか似ていた。

    わたしは千早さんの本をなにかを受け入れる世に読んでいく。
    大きな感情の波がなくても
    ページをめくる手は先が読みたいといっているかのように止まらない。
    けっこう深いところをついているのに
    淡々と読んでしまうのはどうしてだろう。
    けれどそれがとても心地いいのだ。

  • 『逃げないで。千影さん、どうせ、とか、なんか、とか言って、どうして自分を卑下するの?
    子どもは可哀想だったけど、千影さんだって苦しんでいる。二人の子どもだったなら、2人で抱き合って慰め合えばいいじゃない。辛い時にそばにいてほしかったでしょう。その気持ちに、大義名分はいらないよ。』
    『そんな気持ちを罪悪感で覆い隠していたのかもしれない。』

  • それぞれの登場人物が少しだけ繋がってる短編小説。

    みんな、すっごく不幸ってわけではないけど、
    人にぶつけることができない闇を抱えてる。

    ちょっと物思いにふけるのが好きな人は好きな雰囲気かも。
    私の感想は、
    「もっと気楽に考えて生きていけばいいのに!」かな。

    この人たちはみーんな生きづらそうだ。

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著者プロフィール

1979年北海道生まれ。2008年『魚神』で小説すばる新人賞を受賞し、デビュー。09年に同作で泉鏡花文学賞を、13年『あとかた』で島清恋愛文学賞、21年『透明な夜の香り』で渡辺淳一賞を受賞。他の著書に『からまる』『眠りの庭』『男ともだち』『クローゼット』『正しい女たち』『犬も食わない』(尾崎世界観と共著)『鳥籠の小娘』(絵・宇野亞喜良)、エッセイに『わるい食べもの』などがある。

「2021年 『ひきなみ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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