悲素

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (544ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103314226

作品紹介・あらすじ

タリウム、サリン、そして砒素――。「毒」はなぜ、人の心を闇の世界に引きずり込むのか? 悲劇は、夏祭りから始まった――。多くの犠牲者を出した砒素中毒事件。地元の刑事の要請を受け、ひとりの医師が、九州からその地へと向かった。医師と刑事は地を這うように、真実へと近づいていくが――。「毒」とは何か、「罪」とは何か。現役医師の著者が、実在の事件を題材に描いた「怒り」と「鎮魂」の医学ミステリー。

感想・レビュー・書評

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  •  1998年、和歌山県において夏祭りで提供されたヒ素入りのカレーを食べた60人以上の地域住民が次々に中毒症状を呈し、4名の尊い命が犠牲となった…。県警からの捜査協力依頼を受けて、九州大学医学部衛生学教授で国内毒物中毒の第一人者でもある沢井教授が立ち上がる…。沢井教授は、カレー事件以前の事件化していない保険金詐欺事件についても、被害者のカルテや検査結果をもとに自ら診察も行い再検証します。そしてその症状はヒ素中毒に違いないとの真相を導きます…。

     帚木蓬生さんの作品。ちょっと前に「沙林」を読んで感銘を受け、この作品も読まなきゃって手にしました。「沙林」同様、ノンフィクションとは感じられない内容で、医学的な考察も満載です!なので難しく感じる部分はありましたが、それでも引き込まれました。医学的に理論づけられても、証拠を示すことはできない…そんな理不尽さを感じました。また、この作品にはヒ素だけではなく数々の毒物について、過去から現在、日本に留まらず海外にまで視野を広げて触れられています。

     保険金詐欺事件に関してははっきりした動機がある、でも証拠がない…。カレー事件に関しては実際のところはどうなのか…毒物に魅入られてしまった結果の惨事なのか…でも、近年このヒ素が別のものかもという疑惑もあるようです…。この事件の被害者のためにも、事件からもうだいぶ経過していますが、真相が明らかになることを祈っています。最後、沢井教授が和歌山に出向くために必要な段取りを命じられていた、光山刑事から沢井教授の退官にあてて送られてきた手紙には胸が震えました…。

    • ヒボさん
      そう言えば…

      医療系で昔読んだ「ノーフォールト」って作品も良かったですよ。

      さて、そろそろ読みかけの本を読みながら寝ますね☆

      夜中に失...
      そう言えば…

      医療系で昔読んだ「ノーフォールト」って作品も良かったですよ。

      さて、そろそろ読みかけの本を読みながら寝ますね☆

      夜中に失礼しました。
      2023/07/13
    • かなさん
      ヒボさん
      ですね!そんなの理解しようと思うほうが間違い(^-^;)
      理解できたら逆にスゴイっ!!

      「ファルマーの最終定理」??
      ...
      ヒボさん
      ですね!そんなの理解しようと思うほうが間違い(^-^;)
      理解できたら逆にスゴイっ!!

      「ファルマーの最終定理」??
      わぁ…私のとってもとっても苦手分野っ!
      ヒボさん、すごい!!尊敬しますっ。
      物語としても私だったら楽しめないかも(^-^;)

      「臓器農場」なら、私でも楽しめたりするかもっ!
      2023/07/13
    • かなさん
      ヒボさん
      「ノーフォールト」ですか?
      あとで、チェックしてします(^O^)/

      ヒボさん、こちらこそ、遅い時間にありがとうございます...
      ヒボさん
      「ノーフォールト」ですか?
      あとで、チェックしてします(^O^)/

      ヒボさん、こちらこそ、遅い時間にありがとうございます。
      おやすみなさい!
      また明日も暑いようなので、あ…今日だ(^-^;
      熱中症対策、お互いにしましょう。
      2023/07/13
  • 「カレー事件に関して、どうしても沢井先生のお力を借りなければなりません」

    1998年7月25日。
    犠牲者4人、そして63人の被害者を出した和歌山毒物カレー事件が発生。

    犠牲者と被害者の数だけとっても、人類史上最大の人為的な砒素中毒事件となってしまった。

    和歌山県警は、砒素の研究の第一人者である九州大学の沢井直尚に協力を依頼する。

    「本物の医学の力で犯罪をあぶり出す」

    沢井は仲間たちの協力も得て、静かに被害者の診察そして、調査に携わる。

    「マスコミが掴んでいる情報と、捜査本部が握っている情報の差は、何だと思われますか」

    「それは、沢井先生の存在です。先生がおられなかったら、捜査本部もマスコミと同じになっていました。事件後、こうやって四回も和歌山まで足を運んでいただき、カルテを検討していただいたからこそ、私どもは自信を深め、昼夜の区別なく捜査を続けられたのです」(光山刑事)

    「犯人は、用意周到だった。だが、その計算が及ばなかったのは医学的知識だったのかもしれない。医学の力、化学の力を見くびっていたのだ」(沢井)

    著者は、本件に携わった医師仲間から貴重な資料を託され、小説として事件や裁判の経緯を克明に再現した。

    「私は小説を、自分や世の中の不明に怒りながら書いとっとです。こんちきしょう、このバカタレがってね」(著者)

    真相を究明したいという熱い情熱と、冷静な英知。

    貴重な研究と調査で、事件の真実に、人間の本質に迫っていく快作。

  • 和歌山カレー事件についてのフィクション。帚木さんは、カレー事件に捜査協力した井上尚英と医師仲間であり、井上から鑑定資料一式をもらってこの本を書いたとのこと。だからこそのリアリティ。人物の名前を変えただけで、あとはノンフィクションなのではと感じられる。帚木さん自身が医師であるため、患者の症例や毒物についてやたら詳しく書かれていて、後半は飛ばし読みしてしまった。 人の命を金になる道具だとしか思わない犯人の異常さが怖ろしい。尼崎の連続殺人事件を思い出す。判決に対する帚木さんの怒りが感じられた。

  • 力作だ。
    力業といってもよい。
    本書を書くためにどれだけの資料に当たったのか。

    かの事件をこれほどの緻密さで再構築するには、作者を以ってする他なかったろう。

    作者はなぜここまで没頭したのか。

    主人公のモデルである大学教授を労うためではあるまい。
    中毒学の啓蒙か?それも違うだろう。
    医学研究の実社会への貢献の実例を示したかったのか。

    本書一番の謎である。

  • この筆者は久々に読んだ。最近、老眼が進み、読書からかけ離れている生活でのいきなりの大作。
    しかし、読み出してしまうとグイグイ引き込まれた。
    言わずと知れた和歌山のカレー事件が題材。
    実際は九州大学の井上教授がなされた仕事を詳細に記している。
    チーム九州大学が、各々の仕事もあるだろうに、医学界を代表して闘っているシーンは思わず涙ぐんでしまった。

    そして最後の警部補からの手紙。こういう警官もいるのだ。

    我々はこういった事件をマスメディアを通じてしか知る由がない。
    けれどもこうやって事実を文章に残してくれることによって、真実を知ることができる。

    ありがたいことだ。

  • 和歌山毒物カレー混入事件が題材の医学ミステリー。化学や医学の専門用語が多用されているがストーリー上 理解出来なくても問題無し。毒物学という分野はこの本を読まないと一生お目にかからない学問かも。最後の米山刑事からの手紙には確かに涙ぐみました…良作です。

  • 和歌山カレー事件のことを書いた本。

    それなのに、地下鉄サリン事件など、毒物を扱った色々な事件の話も入っています。

    和歌山カレー事件のことだけを書けばいいのにと思って読んでましたが、最後になんで他の事件のことも書いたのか納得しました。


    毒は、盛られた方はもちろん、盛った方も毒にやられてしまうのだなぁと思いました。

  • 警察でも、犯人でも、遺族でもない、ひ素の専門家の目線というのが良かった。

  • どこまで現実で、どこまで創り話かわからないけど、物語としては熱中して読めた。医学的な部分は難しくて読み飛ばしたところもあった。

  • +++
    悲劇は、夏祭りから始まった―。多くの犠牲者を出した砒素中毒事件。地元刑事の要請を受け、ひとりの医師が、九州から和歌山へと向かった。医師と刑事たちは地を這うように、真実へと近づいていくが―。現役医師の著者にしか描きえない、「鎮魂」と「怒り」に満ちた医学ミステリーの最高峰!
    +++

    まるでノンフィクションのような小説である。丁寧に取材され、おそらく限りなく事実に忠実な形に仕上げられているのだと思われる。読みながら、事件当時毎日のようにテレビ画面から見せつけられていた挑発的な態度がまざまざと思い出された。そしてその裏に、これほど真剣に、自らの時間を捧げるようにして、診察し、検証し、捜査する人々がいたことに改めて思いを致すのである。個人が起こしたとは思えないほどの被害者の数とその後も続く苦しみを思うと、忘れてはいけない事件だと改めて思う。周到なようで杜撰でもあり、事実は小説よりも奇なりを地で行くような事件でもある。息詰まるような緊張感とやり切れなさ、そして感謝の気持ちに満たされた一冊である。

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著者プロフィール

1947年、福岡県小郡市生まれ。東京大学文学部仏文科卒業後、TBSに勤務。退職後、九州大学医学部に学び、精神科医に。’93年に『三たびの海峡』(新潮社)で第14回吉川英治文学新人賞、’95年『閉鎖病棟』(新潮社)で第8回山本周五郎賞、’97年『逃亡』(新潮社)で第10回柴田錬三郎賞、’10年『水神』(新潮社)で第29回新田次郎文学賞、’11年『ソルハ』(あかね書房)で第60回小学館児童出版文化賞、12年『蠅の帝国』『蛍の航跡』(ともに新潮社)で第1回日本医療小説大賞、13年『日御子』(講談社)で第2回歴史時代作家クラブ賞作品賞、2018年『守教』(新潮社)で第52回吉川英治文学賞および第24回中山義秀文学賞を受賞。近著に『天に星 地に花』(集英社)、『悲素』(新潮社)、『受難』(KADOKAWA)など。

「2020年 『襲来 下』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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