玄鳥さりて

著者 :
  • 新潮社
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感想 : 19
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  • Amazon.co.jp ・本 (246ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103280156

作品紹介・あらすじ

武士の刀は殿のためにあるのではない。命にかえても守りたい者のためにあるのです。富商の娘を娶り、藩の有力派閥の後継者として出世を遂げる三浦圭吾。しかしその陰には遠島を引き受けてまで彼を守ろうとした剣客・樋口六郎兵衛の献身と犠牲があった。時が過ぎ、藩に戻った六郎兵衛は静かな余生を望むが、愚昧な藩主の企てにより二人は敵同士に仕立てられていく――剣が結ぶ男と男の絆を端然と描く傑作時代長編。

感想・レビュー・書評

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  • 「武士であることを捨てればよいだけのことです」気のせいか、最近読む本には「逃げろ」というフレーズが良く出てくる気がする。立ち向かうには敵が巨大過ぎるから、きっと三十六計逃げるに…、か。

    沼田が奇しくも圭吾に語る「お主はもともと政に向かぬ男であったのだ」。藩政を握ることは、単に実力だけではなく、裏の駆け引きが必要だったと。そして、生真面目に出世街道を上ってきた(帯刀から譲られた)圭吾を引きずり下ろすのは、藩主・利景にとっては簡単なことだった。
    そして、武士の世界では、上意は絶対でもあった。”政”とは、権力とはかくも怖い・無慈悲な欲望の世界でしょうか。

    綺麗ごとだけではないとか、長い物には巻かれろとか、虎の威を借るとか。世の中を上手く回すには、悪徳なんとかとか、袖の下とか、パワーバランスとかさじ加減をするとか。そういう世界に無縁の私には、摩訶不思議な感じがして匙を投げる他ない。

    樋口六郎兵衛という剣客がいる。あたかも、何処かへ飛び立っていきたい燕のように。翼のざわめきが聞こえると妻・千佳は語る。そして、大切な者を守るために己を犠牲にできる。

    武士の刀は主君であれ、家族であれ、己の命にかえても守りたい大切な人のために振るうのだと語る。必ずしも主君である必要がないと。
    「優しい心は言葉にならずともわかります。そして優しい心のそばにいれば、不幸せということはございません」と語る美津の姿が愛おしい。

  • 2022.01.24

  • 2020.09.13
    やはり「恩は忘れてはならぬ」と改めて思った。どんなことを言われようと自分の思いを信じて迷ってはならない、と。

  • 内容(「BOOK」データベースより)
    互いを思いやりながらも、藩政に翻弄される男たちの葛藤と覚悟。富商の娘を娶り、藩内で出世を遂げる三浦圭吾。しかしその陰には彼を慈しみ、遠島を引き受けてまで守ろうとした剣の達人・樋口六郎兵衛の献身があった。十年を経て罪を赦された六郎兵衛は静かな暮しを望むが、親政を目論む藩主の企てにより圭吾に敵対するよう仕立てられていく―。

    令和2年7月10日~13日

  • 葉室さんの作品はいつも切ない。
    人の愚かさを突きつけながら、それでも、最後は人を信じようとする。

  • 三浦圭吾は正木道場筆頭の樋口六郎兵衛に何故か優しく守られる。
    圭吾は先輩であり見事な腕前を持ち人格者の六郎兵衛を慕う。
    けれど、藩内の勢力争い、自分の保身や出世のため圭吾は六郎兵衛を利用する。
    人は自分を守るために尊敬をし慕っていた人までも利用するようになるのか。
    自身をかえりみず人のために尽くすことのできる者などいようか。
    けれど六郎兵衛は自分が圭吾に利用されていると知りながら彼を守り通す。

    六郎兵衛は圭吾に諭す。武士の刀はおのれの命をかけても守りたい大切な人のために振るう物と。
    六郎兵衛にとって圭吾は命を賭しても守るべき大切な友であった。
    彼を守ると決めたからには裏切られたとしても守り通す事が自分の存在価値を認める手段であったのだろう。

  • 三浦圭吾と樋口六郎兵衛は同じ道場で稽古相手だったが、豪商津島屋の娘・美津を助けた事件で圭吾は主役の樋口から手柄をもらった.身分を弁えた樋口の配慮から出た措置だったが、これを縁に圭吾は家老今村帯刀の派閥に入り出世し始める.対立する沼田嘉右衛門との抗争で、今村の隠居に合わせて圭吾は勘定奉行になる.樋口は事件の責任をとって島流しになったが、その期間が終わり郷里に帰還した.圭吾の屋敷に逗留した樋口から藩政の裏を伝授されその内容を次第に知るようになった圭吾は、殿の利景から裏幕の梟衆の頭を紹介される.最終的には利景の企みで樋口と果し合いを迫られた圭吾は、事前に妻の美津と樋口が策略した奇抜な策で奔走する.樋口の生い立ちの様々なエピソードが物語に深みを与えている感じだ.

  • この作品も読後感に心に沁みるものがある。思うようになりならない宿命もしくは、組織の中で権力や思惑が渦巻く中で友情や大切な人を思う心がしっかりと著されており葉室文学を堪能できる作品だと感じた。

  • 思い思われる関係なのに、悲しい結末。
    権力を握ると人は変わるのか。変わった姿に悲しさを覚えるのか。思い人のために死ぬことは幸せなのか。遺された者は
    罪を背負い続ける。意図せず思い続けることになるのかも。
    暗躍する藩主。強がりと慢心が死を招いた。
    読み手としては少しだけ気が晴れた。

  • じわっとくる。泣けた。

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著者プロフィール

1951年、北九州市小倉生まれ。西南学院大学卒業後、地方紙記者などを経て、2005年、「乾山晩愁」で歴史文学賞を受賞しデビュー。07年『銀漢の賦』で松本清張賞を受賞し絶賛を浴びる。09年『いのちなりけり』と『秋月記』で、10年『花や散るらん』で、11年『恋しぐれ』で、それぞれ直木賞候補となり、12年『蜩ノ記』で直木賞を受賞。著書は他に『実朝の首』『橘花抄』『川あかり』『散り椿』『さわらびの譜』『風花帖』『峠しぐれ』『春雷』『蒼天見ゆ』『天翔ける』『青嵐の坂』など。2017年12月、惜しまれつつ逝去。

「2023年 『神剣 人斬り彦斎』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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