われもまた天に

著者 :
  • 新潮社
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本棚登録 : 79
感想 : 10
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  • Amazon.co.jp ・本 (139ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103192121

作品紹介・あらすじ

自分が何処の何者であるかは、先祖たちに起こった厄災を我身内に負うことではないのか。インフルエンザの流行下、幾度目かの入院。雛の節句にあった厄災の記憶。改元の初夏、山で危ない道を渡った若かりし日が甦る。梅雨さなか、次兄の訃報に去来する亡き母と父。そして術後の30年前と同じく並木路をめぐった数日後、またも病院のベッドにいた。未完の「遺稿」収録。現代日本文学をはるかに照らす作家、最後の小説集。

感想・レビュー・書評

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  •  古井由吉さんがなくなって1年がたちました。生前「新潮」紙上に掲載されていた作品と、絶筆となった「遺稿」が一冊の本になっています。作品の内容は、「生」と「死」の境界を越えているといってもいい場所を見事に描き出したもので、読みながら、その場所に連れていかれる感動に言葉を失うような気がしました。
     昭和から、平成、令和と書き続けることをやめなかった作家が、空襲で焼ける町と、インフルエンザの流行する街を同時に描き出きながら「老い」を見つ付ける日々の、すぐ向うに「死」があると思って読んでいると、「死」は向こうにではなく、こちらにあるという「古井由吉」の世界でした。
     ブログに、一作づつ感想を書こうとしていますが難儀しています。よければ覗いてみてください。
       https://plaza.rakuten.co.jp/simakumakun/diary/202102230000/

  • 古井由吉の遺作を含む四篇を収めた単行本。

    収録作はいずれも一見すると身辺雑記のようで、テンポの良い文体もあいまって、すいすい読めてしまうのだが、気が付くと語り手の想念の迷宮に入り込んでいて、読み進むほどに、ちょうど真っ直ぐに進んでいたはずなのに迷子になってしまったような不安を覚えさせられた。

    「その晦渋な意味がようやく読み取れそうで、こんなに端的なことだったのか、と安堵の息を吐くと、束ねたつもりの意味がばらばらに散ってしまい、そんなことを幾度かくりかえした末に、眼も頭も疲れはてて目を覚ます。」(「遺稿」より)

    「読み取るように誘いながら、もうひと掴みのところで散乱する」(同上)

    これらのフレーズは、そのまま古井由吉の文章を表したもののように読めた。

    夢幻的といえば良いのだろうか。
    現実のこととも思えず、さりとて夢と割り切るには明晰な、奇しい世界。
    それをこんな風に描き出せる作家はそうそういないと思う。

    古井由吉の本を日本語で読めることのいかに恵まれていることか、そんなことを思わされる一冊だった。

    ***

    最後に菊地信義の装丁の素晴らしさについても。

    本体は薄いグレーとクリーム色のツートンカラー。そこに梗概が印字されたビニールカバーがかけられている。

    このビニールカバー、少し手擦れるとカバーに印字された文字が本体に影を作り、ちょうど水面にゆらゆら揺れる葉陰のように見えるようにできている。

    夢と現のあわいを漂うような作品と絶妙にマッチした秀逸な装丁で、何度眺めても飽きることがない。

    絶対に単行本で持つべき一冊。

  • 「われもまた天に」(古井由吉)を読んだ。
    矯めつ眇めつするほどの人生など生きてこなかった私ではあるけれど、還暦を過ぎてから殊更に古井由吉の文章が沁みてくる。

    『ほんとうのことは、それ自体埒もない言葉の、取りとめもないつぶやき返しによってしか、表わせないものなのか。』(本文より)

  • 私の読書レベルが低いこともあり内容を味わうまではいかなかったが、死が近づいている人の心情の描写は興味深いものがあった。

  • もっと時間をかけて読むべきなのだろうけど、自分の生活リズムとあわず、駆け足で読んでしまった。表面的なことでしかないけど、老いてゆく、病んでいく体との付き合いかたがつたわる。

  • 肉体的に衰弱していく自分自身の姿を、巧みな表現力で書き表したユニークに著作だ.頭は活発に活動しているなかで、身体の動きは儘にならないもどかしさがよく分かる.小生より10歳上だが、語彙が豊富で流石に一流作家だと感じた.表題作で地下鉄を降りて方角を間違える場面は、自分がコントロールできない歯がゆさがよく描写されていると感じた.

  • 最後の小説集。

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著者プロフィール

作家

「2017年 『現代作家アーカイヴ1』 で使われていた紹介文から引用しています。」

古井由吉の作品

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