- Amazon.co.jp ・本 (416ページ)
- / ISBN・EAN: 9784103096405
作品紹介・あらすじ
アテネに栄光をもたらした民主政の最大の敵は〝ポピュリズム〞だった――。国内の力を結集することで大国ペルシアを打破した民主政アテネ。不世出の指導者ペリクレスの手腕により、エーゲ海の盟主として君臨し、その栄光は絶頂をむかえた。しかし、ペリクレス亡き後、デマゴーグが民衆を煽動するポピュリズムが台頭、アテネはスパルタとの不毛きわまる泥沼の戦争へと突き進んでしまうのだった――。
感想・レビュー・書評
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人でも国でも、ゆっくりと破滅に向かっていく姿を見るのはつらい。それが、自らの選択による、無意識でゆっくりとした自殺的行為なら、なおのこと。
ローマのように一千年の時を享受した巨大帝国にはなれずに衰退してしまったけど、ローマ人が傾倒し、後世から「ギリシア・ローマ時代」と呼ばれるほどの影響力を持った古代ギリシア。
シリーズ第2巻は、ギリシア最大の都市国家アテネに民主政と海軍を確立したテミストクレス亡き後の、アテネの束の間の繁栄とギリシア世界全体の衰退に向かった約六十年が、テミストクレスの政策を踏襲しながら民主政を最も良く機能させたペリクレス統治時代以前・以後として描かれています。
「形は民主政だが実態はただ一人が統治した」と言われた、ペリクレス統治時代。
彼は、「貴族的」な精神と合理性、巧みな演説を武器に、ペルシア戦争に勝利し自信に満ちていたアテネ市民たちの要求と国益を両立させ、近隣の国家ともバランスをとりながら、三十年もの間、「非民主的」に、民主政の指導者として君臨します。
しかし、長年のライヴァルであったスパルタとの間で起こったペロポネソス戦役の半ばで彼が死ぬと、アテネは「民主政」から「衆愚政」へと陥ってしまいます。
そして、スパルタも、アテネとは異なるその国体によって、硬直化と迷走の時代を迎えており…。
第1巻の、ギリシア世界一丸となりながら大国ペルシアに勝利し、興隆期を築いた姿とは対照的に、第2巻は、繁栄を極めながらもギリシア人同士で争い自滅していく姿を描いています。
第2巻には、第1巻のような、稀代の武人たちによる知略や胆力を尽くした劇的な一大決戦の描写もなければ、人を喰った天才テミストクレスのような大胆で愉快な描写もありません。
それまで栄華を誇っていたのに、些細な不安と扇動から、自らを傷つけ弱っていくばかりのアテネを含むギリシア世界の姿を読むのはつらかったですが、塩野さんの、情熱的ではあっても、直情的ではない、冷静な書き方のおかげで、読み切ることができました。
第3巻では、ついにギリシア世界の滅亡が描かれるとのことで、なんだか悲しい気持ちながらもファンとしては楽しみで、複雑です。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
第II巻はペロポネソス戦役。
デロス同盟のアテネ 対 ペロポネソス同盟のスパルタで、
国、民衆としてすぐれていた(先進的だった)と思われるアテネが敗れてしまう。民主制の自壊。
スパルタの意固地さ、頑なさ、融通の無さは笑ってしまうが勝利するもはスパルタ。
I巻は少々飽きたところもあったが、II巻は面白く、一気に読んだ。ギリシャ人の名前が覚えづらいのは変わらないが。
第3巻はアレクサンダー大王だ。 -
民主政が機能した黄金の五十年間と
衆愚政治を経た敗北までの二十五年間
どちらも主権者は市民という名のデモス
民主(衆)政治と衆愚政治はコインの表裏
今の日本は 表か裏か
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ソクラテスやプラトンの時代は、アテネが衰退した時代。パルテノン宮殿もアテネが成熟したペリクレスの時代に建立されたわけだから、芸術や文化は、国の成熟期から衰退期に花開くというのは古代ギリシャも同じということです。
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民主政って脆い。デマゴーグという人間の脆いところに抵抗力がないですね。諸刃。制度と人の両方が大切なことを再認識。昔も今も変わらない。残念だけど。今を見てるようで怖い。
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いやぁ~面白かった。
人の不幸は蜜の味。
ギリシャの中で中心的な位置を占めるアテネ人の滅亡部分が語られています。
ローマ人の物語でもローマは滅亡するのですが、何しろ長い。
第1巻でペルシャ戦役に勝って盟主の地位を得たアテネが第2巻では滅亡しちゃうんですから、途中で飽きる暇もない。^m^
例によって例のごとく、塩野女史の個人的な好みがベッタリ加わっての記述だけど、その徹底振りが却って微笑ましく読めます。
彼女が大好きなペリクレスで終始するのかと思いきや、存外にあっさり描いていますね。
哲学科卒業だから、ソクラテスにも入れ込むのかと思いきや、これも淡白な描写。
結局のところ、イケメンのアルキビアデスに浮気しちゃったのね。
彼女の言わんとするところは明快。
どんな政体を取ろうとも、必ずリーダーが不可欠なこと。
そのリーダーによって、国家の幸不幸が大きく左右されてしまうこと。
民主主義の最大の欠点である、衆愚政治はいつの時代にも避けられないこと。
これは、その後に続いたローマでも、そして現代も変わらない真実ですね。
あと、気になったのが塩野女史も歳をとったなぁ~という点。
同じことを必要以上に繰り返すことが目に付きました。
しかし、図表をケチらずに載せてくれるのは大変助かります。 -
ペルシア戦役後のペリクレス時代から、まさに地獄のペロポネソス戦役までが綴られています。
ペリクレスが腕、いや口を振るった時代のアテネは黄金期を謳歌します。
ペルシアとスパルタの二国とも平和を取り決め、経済と文化の発展が止まりません。
その最中、ペロポネソス戦役の火種が燻り始めます。
アテネとスパルタの長は、お互いに辺境の略奪というちょっかいで国内の不満を解消しようと努力します。
しかしその消耗戦も長くは続かず、悪いことに二人の長はほぼ同時期に亡くなります。
斯くして、デロス同盟とペロポネソス同盟は水と油の存在となり、講和の機会を逃し続けて27年の歳月を戦争に捧げることになります。
アテネだけでなくギリシア世界の繁栄と衰退の大きな波が、2巻のお話でした。
3巻にも期待します。 -
全三巻になる予定の塩野七生の『ギリシア人の物語』の第二巻。この巻では、ペリクレス時代(現代からは「民主政が最も良く機能していたとされる時代)とそれ以後、アテネがペロポネソス戦役といわれる泥沼の戦争にはいっていき、敗北するところまでが描かれている。それは、まるで明治維新に成功し、日清、日露の両戦争に勝利し、帝国化した日本が第二次大戦で破れ、解体されていく過程と重なってしまうのだった。
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ペリクレスの時代とその後。
ペリクレスの基でのアテネの繁栄とその死後の衆愚政の時代の衰退の落差が酷く、後半は呆れつつ読み最後は悲しくなるほどでした。
施政者の資質次第で国は簡単に傾くのだと改めて付き付けられた気分です。
扇動者によって左右され、声の大きな者の意見に引き摺られる人々は現代でも何ら変わらないように思えます。
アテネでの民主制の利点と欠点が書かれているのにいつの間にか現代と重ねて読んでしまいました。 -
「ギリシア人の物語Ⅱ」
民主政とは何かを考えるに良い題材だ。
スパルタでは寡頭制を取り市民=軍人の陸軍国家で、農業に従事するヘロットや商工業が仕事のペリオイコイには市民権はない。そして最強の陸軍が自国の体制を守り、体制維持を重要視しそれほど覇権を求めなかった。
一方、アテネは海洋国家で、奴隷を除けば資産の違いで身分の違いはあったもののすべての市民が市民権を持つ民主政を取り、最強の海軍が同盟国を率いて大きな貿易経済圏を持つ覇権国家だったといえる。
当然のようにアテネは反映し、アテネの民主政がスパルタに影響を与え体制維持に影響すると考えたスパルタは、最強の陸軍を持つとはいえアテネは鬱陶しい存在であったに違いない。
アテネの民主政が最もうまくいっていたペリクレスの時代は民主政とはいえ、民衆を把握しコントロールして内実はたった一人、すなわちペリクレスがすべてを決めていたという点は興味深い。
そして民主政である以上選挙で選ばれる必要があるが、ペリクレスの選挙区では必ずペリクレスが選ばれており、まさに田中角栄を彷彿とさせる。
民衆の期待と政策が一致し、おそらく経済が上向いているときは民主政は放っておいてもうまくいくのだろう。
しかし、ペリクレスの死後、市民が扇動者煽られて政治家が政争に走り、政権が安定しなくなると、民主政は衆愚制に陥る。
海外覇権のための海戦でスパルタに敗北したアテネは一時深刻な状態に陥るが、市民が団結できる間は持ち直す。しかし、政局が安定せず強力な指導者が不在のアテネでは、アテネ市民がスパルタの海軍に高額な給料で引き抜かれて頼みの海軍が弱体化しどうにもならなくなってしまう。
アテネの派遣同盟であるデロス同盟は解体し、その経済圏がなくなってしまえばもはやどうしようもない。
アテネも何度か改革をするものの、うまくいかず衰退が進んでしまう。
ペリクレスの死後25年で覇権国家ではなくなってしまい、都市国家としては存在したが昔の栄光はなくなってしまう。たった25年、一世代である。
現代と状況はかなり違うと思うが、民主的に権力を持ち民衆を満足させて率いていくことの難しさを考えさせられる。一体何が問題で民主政が衆愚制になってしまうのかがいまひとつよくわからない。独裁にならない強力な指導者というのは実現できるのだろうか。