ルポ 筋肉と脂肪 アスリートに訊け

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103064756

作品紹介・あらすじ

食と暮らしエッセイの第一人者が辿り着いた究極のテーマ――「身体」の謎に迫る! 最高のパフォーマンスと勝利は、食べなくては獲得できない。大相撲の親方、新日本プロレスの逸材、箱根駅伝常勝チームの寮母、サッカー日本代表の料理人、東京五輪でメダルをもたらした栄養士らにインタビューし、筋トレや体脂肪、腸内環境などのメカニズムを探る。誰もが有し、このふたつなしでは生きられないものに肉迫する唯一無二のルポルタージュ。

感想・レビュー・書評

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  • 今年2月に岡山県立図書館で平松洋子の講演会があり、聴いた。その場で彼女は自分でいうのもなんですが、と断りながらも「この新刊、ものすごく面白いんですよ。読んでください」と激推しをした。直ぐに図書館に予約した。やっと読むことができた。彼女は「アスリートは、食事とトレーニングが全く一緒。食事が成立していなければ、トレーニングが無駄になる。スポーツで全部食事が違う。最前線の言葉をきっちり入れたかった」と、本書の狙いを言った。スポーツ選手のルポは数多あれど、その食事に特化したルポは多分初めてだろうし、平松洋子だから書けたルポだろうと思う。

    相撲とちゃんこの関係、見せる筋肉としてのプロレスラーの食事管理、サプリメントの開発者、体脂肪計を作ったタニタの歴史、公認スポーツ栄養士、その他アスリートを支える食のプロフェッショナル、コーチと信頼関係を築けなかった陸上選手、引退して却って不調になった元バスケット選手‥‥。食のエッセイは読んだ事はあったけど、ここまで巧者のノンフィクション作家とは知らなかった。郷里倉敷市出身(しかも歳も2才しか離れていない)の作家です。お勧めです。

    相撲はもはや「バカ喰い」で身体を作ってゆく時代じゃない。新しく部屋を起こした元豪風(たけかぜ)、押尾川親方はとっても科学的だった。「(相撲を取る上で理想的な体脂肪率は)30%。でも自分らは除脂肪体重、筋肉や骨量を見る。これが100キロというのは凄まじく優秀な身体なんです。相撲取りの身体は筋肉の上にちょっと脂肪が乗っているというのが理想的です」脂肪はある程度なければならない。ぶつかり合う時に怪我をするからだ。

    棚橋弘至。新日本プロレスをV字回復させた立役者。平松洋子が初めて見かけた時、棚橋は髪はボサボサで完全にこの人誰?という感じだったが、寮のちゃんこの鶏から一つひとつ皮や脂肪を指で取り除いているのを見る。「皮や脂肪を一緒に食べちゃうと30分余計に練習しなくちゃいけないから効率が悪いんですよ。食べ物のカロリー数はだいたい頭にはいっています。今日の昼メシは脂質全部で200カロリーぐらいだと思います。カッコいい身体になりたかったから、ずっとこういうふうにしてきました」。棚橋は猪木のストロングスタイルを方向転換させ、ハッピーエンドのプロレスをつくった。そのために理想的な逆三角形の身体を作るために意識的なタンパク質摂取を自己管理していた。「筋肉はドレスですから」次に会った時、完全にスターのオーラを纏っていた。

    桑原弘樹。江崎グリコがプロテインの健康食ブームを作った時の立役者。自身も筋トレにハマっている。筋肉は年齢に関わらず成長する。この事実が「筋肉は裏切らない」という言葉を流行らした彼の根拠だ。「筋トレを始めた最初の動機は『モテたい』だったのに、筋トレを続けていたら(重いダンベルを)『モチたい』に変わるんです」

    95年、日本初、世界初の製品として体脂肪計を作ったのに、タニタは敢えて「体脂肪」「体脂肪率」などの商標登録申請を行っていない(←コレ、タニタの命名だったんだ!)。脂肪率ではなくて体脂肪率。その健康的な意味を含めた言葉を日本中に浸透させた。

    平松洋子。起床、午前4時半。睡眠時間6時間。朝の散歩は往復5キロ。折り返し点でスクワット20-30回。1日の平均歩数、約8,500歩。体重53キロ前後。体脂肪率20%後半をうろちょろ。人間ドック(かなり詳しいやつ)で「経過観察」は骨密度のみ。この人の身体管理もすごい。作家とはこうあるべきなのか。

    岡山県総社市出身の新谷仁美選手。2013年の世界陸上モスクワ一万mレースで5位入賞を果たした後、25歳で彼女は1度引退し、4年間会社員生活をする。後にその理由を「メンタルを破壊して無月経になるまで身体を追い込むことが本当にカッコいいものなのか。女子選手は考えてほしい」と発信する。その時の監督は小出義雄だった。ガリガリに痩せる方が一時的にはスピードは上がる。しかしそれは選手のためにも記録のためにもならない。「選手と指導者は同等なんです。何か問題が起こった時、とかく指導者が責められがちですが、実は選手の問題でもあるんです」平松洋子はいまだに指導者が男に偏っていることも問題だと提起する。

    講演会で「インタビュアーとして、どういう準備をしていくのか?」との質問に、平松洋子はこの様に答えた。

    「プロのアスリートだといっぱい取材を受けています。この人に話したいと思わせないと、言葉は出てこない。そのための準備をします。(記録、勝敗、を調べる。著書を読む。)彼等は直ぐに「準備してきたな」と分かります」
    「それと「見逃さない」ことですね。プロレスの寮で若手の食事準備のとき、お鍋の蓋をキッチンペーパーで拭いている、盛り付けさがとっても繊細、お鍋のニラ・キャベツの入れ方、切り方も見た目が綺麗なんです。エンタメの練習の場なんだな、と理解しました。若手の方が長州力さんから「豚肉の細切れ、固まっているのをものすごく怒られる」と言われたと。気遣いができないこと、試合会場で、お客さんに何を求められているのか、瞬時に理解する練習なんだな!とわかるんです。
    取材は想定したものの先がある。そこが面白いのです」

  • ひとくくりにアスリートと言いましても
    その使う筋肉は全然違うもので
    求められる栄養にも緻密に考えられてるんですね
    すごくストイックでびっくりします

    ある意味 体をコントロールするって
    自分の意思が反映される
    こうなりたい と思う自分になる
    某番組ではないけれど
    「筋肉は裏切らない」
    その意思が見えるだけに
    美しいと感じるんだろうな

  • さまざまなスポーツで活躍するアスリートたちの食生活や
    彼らをサポートする栄養士など
    とても興味のある分野なので楽しく読めました。

    数日前にちょっと思い悩むことがあって
    読書で気がまぎれるのはいいなと思いました。
    そうだ、こういうときは読書するのがいいって
    かねてから思っていたんだ。

    そして意外にも十章「弱さとスポーツ」で
    女子アスリート二人の思いが今の自分と重なって。

    新谷仁美さんは小出監督(もう亡くなっているから書けるんですね)とは信頼関係が築けなかった。「もし世界的な実力者であったとしても~」
    でも彼女はその後復活します。そのことが私にとって励みになりました。私の周囲もいつかまた状況が変わるかもしれないと。希望をもってもいいかな。

    もう一人小磯(旧姓濱口)典子さん。バスケでトップアスリートだったのに、引退後、精神的な不調に追い込まれる。苦しかった選手生活や試合がフラッシュバック。周囲への申し訳なさや後悔が募り、自分を責めるあまり、想像もしなかった絶望感や自己嫌悪に苛まれ続けた。
    現在「新しい出会いに恵まれ、やりがいのある日々を送っています。まだ女子バスケの試合を見るのはむずかしいですが、仕事上必要であれば見られるようになりました」

    平松さんはこういいます
    〈スポーツのよさは、自分でも想像できない自分に出会えること。そのいっぽう、弱さに打ち勝つことは、自己否定と背中合わせになることがあります。だから、やみくもに弱さを否定するのではなく、弱さを認め合い、共有することができたら、といま思うのです〉

  • 筋トレ、サプリ、腸内細菌。
    私が、ん?と気になったワードが次々に繰り出された。
    これさえ何とかすれば、私の身体もどうにかなるんじゃないかと魔法の切り札みたいに思ってきたワード。
    でも、筋肉は筋肉だけじゃないし、
    同じ物を食べて同じトレーニングをしても、
    同じ結果になるわけじゃないんだね。
    自分はどうなの?を細かく意識出来て、
    ためらわず変化を受け入れて、
    よい、と思う事は継続出来る事が一流の証なのかな。

    相撲取りやプロレスラーになりたいわけじゃない、
    健康で毎日を気持ちよく過ごせる身体が欲しいだけ、
    と思いながらも読み進めてしまって、
    自分自身の事は自分ごととして考えなきゃダメなのかなと思った。マインドフルネス的な?

    「偏りなくその子を見て、しっかり責任を持って導く指導者が求められていると思います」
    失礼ながら相撲の世界の指導者からこんな言葉が出てくるとは思っていませんでした。

  • 『#ルポ 筋肉と脂肪 アスリートに訊け』

    ほぼ日書評 Day705

    タイトルだけ見ると、どういう内容なのか首を傾げたくなるが、いたって真面目な本。
    アスリートによる食に焦点を当てた体の作り方から始まり、それを支える人たちを含めたコンディションの作り方全般に話が展開する。本書で扱うのはスポーツ競技および競技者の話だが、ビジネスパーソンにとっても大いに参考になると思う。

    マッスルメモリー、初めて聞く言葉。怪我の手術等でいったん衰えても、鍛えた筋肉を脳が記憶していて、元に戻すことができる。頭での記憶に体がどこまでついていけるか、キャリアハイの記録更新と加齢による衰えは、表裏一体だ。

    相撲力士の体重、ストレスのかかる新入幕等では、初日と千秋楽で10kgくらい減るのはよくあること。朝は体重を測らない。減っていて普通(それがストレスになる)だから。朝稽古し飯を食ってプロテインも飲んだところで、今日は何キロになったかな?と体重計に乗るというようなモチベーションコントロール術も。
    その体を支えるのが「ちゃんこ」、材料のバランスに加えて、米を沢山食べられる汁物であること、さらに原価を抑えられるのも重要と。
    埼玉栄高校相撲部(豪栄道関等を輩出する強豪校)は練習時間が短いが成績の良いことで定評がある。同校の食事もちゃんこ中心で、1日の栄養はは7000kcalに達する!
    海外のアスリートからも注目されるが、逆に最近の若い力士は、コンビニやファストフードに走りがちという指摘もされるという。

    第二章はプロレスラー。防御ではなく、受け身を身につける。試合に勝つだけではなく、エンターテナーとしての要素を求められる彼等の食事を中心とする私生活(寮生活)も興味深い。
    そうして培われた素養は、引退後に飲食店経営(キラー・カーン氏などが有名)で成功例が多いことにもつながるという。
    プロレスラー棚橋弘至の体の作り方。血中アミノ酸濃度が下がると筋肉をエネルギーに変えようとするカタボリック(異化)な状態になる。これを避けるために常に2〜3時間おきにプロテインとアミノ酸を摂取する。寝る前に少し多めにプロテインと水を飲み、深夜3時頃に敢えて尿意で目を覚させ、そこで改めて枕元で冷やしておいたプロテインを飲む。と、そこまでやっているのか!

    扱われるエピソードは、そんな驚きの連続である。

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  • 相撲部屋やプロレスラーに取材したルポルタージュ。
    それぞれ体づくりへの取り組み方が千差万別なのが面白い。
    とにかく筋肉は裏切らないということだけは間違いない。

  • 図書館がおくる、「クラブ・サークル向けおすすめ図書」

    クラブ・サークル名 剣道部

    請求記号 780.19/Hi
    所蔵館 2号館図書館

  • 相撲、プロレス、長距離ランナーというアスリート視点。栄養士、タニタ体組成計開発者、サプリメント開発者などのアスリートを支える人たちの視点で、筋肉と脂肪というより、筋肉と食について書かれている。

    アスリートの生命線でもあり、商売道具でもある身体は当然食べたものでできており、やはり一流になる方は頭が良くて自分を作り、守る食に対してストイックだった。
    お腹出てるイメージの落合さんも、食に一過言あって驚き。

    長距離の女性ランナーからの問題提起。
    女性としての身体とアスリートの身体が同時並立するためにどうするのか。

  • 食についての書籍を多数出版している著者が、アスリートの食と体についてせまった本。ノウハウではなく、アスリートが何を考えて食事をしているか、そして体はどう変わるかを取材している。その他アスリートを食で支える管理栄養士やコーチなどスタッフの取材もあり、読みごたえがあった。
    [NDC] 780.4[情報入手先] Web[テーマ] フリーテーマ

  • 食に関するエッセイの名手。今回は食からスポーツ、トレーニングにまで話題が発展。記録を追究するアスリートの食とトレーニングの実態に迫る。

    相撲部屋、駅伝の実業団チームと大学選手寮、プロレスラーなど、食と競技との繋がりについて丹念に取材を重ねた一冊。

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著者プロフィール

平松洋子=1958年、倉敷生まれ。東京女子大学卒業。エッセイスト。食文化、暮らし、本のことをテーマに執筆をしている。『買えない味』でBunkamura ドゥマゴ文学賞受賞。著書に『夜中にジャムを煮る』『平松洋子の台所』『食べる私』『忘れない味』『下着の捨どき』など。

「2021年 『東海林さだおアンソロジー 人間は哀れである』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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