宰相A

著者 :
  • 新潮社
2.73
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本棚登録 : 234
感想 : 40
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  • Amazon.co.jp ・本 (202ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103041344

作品紹介・あらすじ

おまえは日本人じゃない、旧日本人だ。そして我が国は今も世界中で戦争中なのだ! 小説の書けない作家Tが母の墓参りに向かっている途中で迷い込んだのは、国民は制服を着用し、平和的民主主義的戦争を行い、戦争こそ平和の基盤だと宰相Aが煽る「もう一つの日本」だった。作家Tは反体制運動のリーダーと崇められ、日本軍との闘いに巻き込まれるが……。獰猛な想像力が現実を食い破る怪物的野心作!

感想・レビュー・書評

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  • 「宰相A」とは、アドルフ・ヒトラーのAであり、また安倍晋三のAであると、著者本人の口から既に説明されている(朝日新聞3月24日夕刊)。ちなみに、著者の住む下関市は、安倍晋三の選挙区「山口4区」にある。
     戦後、アメリカ人が支配し、日本人が差別・抑圧される「もう一つの日本」。公用語は英語、国民は制服着用、出生時から番号で管理され、芸術活動は認可制の全体主義社会。首相は日本人から選ばれるが実権はなく、「戦争主義的世界的平和主義」を掲げて、アメリカとともに世界中で戦争を続けている。おかしな言葉使いが安倍政権の「積極的平和主義」等々を想起させるが、現実政治への単なる批判や嘲笑では終わらない。
    このパラレルワールドに迷い込んだ主人公Tは小説家で、不条理な展開、不自由な状況下でも自らの物語を書こうとする。小説では作家の想像や思考が言葉になり、世界を創る。では、このおかしな世界は誰が想像したものか、と問う。
    作家の想像力は現実世界に対峙できているか。状況に流されない言葉の力を保持しているか。文学論としても切っ先鋭く、特に終盤は、読者もまた挑発される。笙野頼子による文学の定義を思い出す。「極私的言語の戦闘的保持」。
    来年の本屋大賞には、この作品を推したい。

  • 小説という虚構の中で偽の世界に迷い込んだ私小説家が偽の世界に戸惑いつつ日本の現実を物語るという入れ子構造の小説。

    直接言及されなかったし名も登場しなかったが、ジョージ・オーウェルの「1984年」の影響を受けて小説は書かれたのではないかと思った。テレスクリーンや二重思考やニュースピークの類似やアイデアが所々にある。

    偽の日本に迷い込んでも紙と鉛筆を執拗に欲しがっていた私小説家・Tが、拷問や洗脳(細かな描写はない)の末に偽の世界で日本に忠誠を誓い、国に監視されながら作家活動している。この上なく自由だと宣う。このラストの反転が唐突過ぎて、もう少しその過程を描いてほしかった。
    しかし、読み終えて考えを巡らす。
    自由、ってなんだ?

  • つまらない話。多々文学賞を取った作者の評価を下げる陳腐さ。一番盛り上がる最後は苦痛の流し読み。

  • 図書館借り出し

    ぶっとんでますねー
    まあ、こちらの理解力読解力が足りてない

  • 目が覚めるとそこは異世界だった。

    母親の夢を見ながら電車に乗っていた小説家。墓参りに訪れたO町には欧米系の人ばかり。誰もが英語を話している。太平洋戦争後、アメリカによる統治が進み、従来の日本人は旧日本人として肩身の狭い思いをして、英語を話す欧米人が日本人となっている異世界に小説家は迷い込んでいた。

    小説家は旧日本人の伝説的な存在、反逆者Jにそっくりらしい。旧日本人からは過剰に期待され、日本軍からは狙われる小説家だったが、紙と鉛筆がないから小説を書くことはできない。

    日本軍にいる旧日本人の女と小説家は性行為をする。それが原因で、女は軍で拷問される。小説家は通電される。記憶を絶たれた小説家は当局に都合のいいものしか書かない日本人作家となり、性的にも不能になった。

    ---------------------------------------

    太平洋戦争の後、日本がアメリカに乗っ取られた、という異世界に迷い込む話だった。

    反逆者Jの悲しい手記、小説家と女の唐突な性行為、そして理不尽な拷問。
    何かの暗示、あるいは問題提議のような小説だったのかもしれないけれど、自分にとっては非常に難しい作品だった。

    第二次世界大戦を「お話の主人公になりたい男たちのための乱暴な催し物」と表現する箇所くらいしか共感できる部分がなくて辛かった。
    何のための異世界なのか。何のための小説家なのか。何のための母親との記憶なのか。
    最後までわからなくて悲しい。

  • プチSF?
    遺言が長すぎる
    面白さが私には・・・

  • 発売当時すぐに読み、また読み直したくなり読んでみた。改めて思うのが寓話的作品だということ。お伽話のような世界なのだけど、それだからこそ今の日本をぐっと風刺している。

  • 今ひとつ入り込めなかった。途中でやめた。

  • 著者の目に映る現在の日本を描いていて、そこに男性性と女性性みたいなのが絡められて独特の世界が広がっています。〈もうひとつの日本〉は、アメリカと共に世界中で戦争をしているのだけど、どこでどんな戦争をしているのかが全く判らないという…。これはすごくリアルな気がするな。「制服」と、それに対する人々の矛盾する反応も、現在の日本人を象徴するものとしてものすごく不気味に映ります。これまでの作品とは違う雰囲気も感じたけど、やっぱり田中さんらしくて、大好きだと思う表現がこの作品にもたくさんありました。

  • 文学

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著者プロフィール

小説家

「2023年 『ベスト・エッセイ2023』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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