インスマスの影 :クトゥルー神話傑作選 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (544ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784102401415

作品紹介・あらすじ

ラヴクラフトは不遇のままその生涯を閉じた。だが、彼の創造したクトゥルー神話は没後高く評価され、時代を越えて世界の読者を虜にしている──。頽廃した港町インスマスを訪れた私は、魚類を思わせる人々の容貌の恐るべき秘密を知る(表題作)。漂流船で唯一生き残った男が握りしめていた奇怪な石像とは(「クトゥルーの呼び声」)。英文学者にして小説家、南條竹則が選び抜いた、七篇の傑作小説。

感想・レビュー・書評

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  • 最近ではTRPGなどサブカル界隈でよく知られている〈クトゥルフ神話〉。ラヴクラフトの作品群は、その原典だ。あの奇怪な架空の神話体系は、ひとりの男のパラノイア的妄想に端を発しているのである。

    …人類の誕生よりはるか昔、宇宙の彼方から地球に降り立った異形のモノたち。その存在は謎に包まれており、彼らの正体を暴こうとする者には死が待ち受けている。〈Cthulhu〉ーークトゥルフ或いはクトゥルーと仮称される、〈それ〉は人外の秘境に身をひそめ、復活の時を待っている。〈大いなるクトゥルー〉が目覚める時、地上には災いが満ち人類は滅亡するという…

    …こう書くとB級SFホラー感満載だが、実際に読んでみるとSFというよりは、ポーやドイルの怪奇小説の雰囲気に近く、もっと言えば聖書に出てくる黙示録のようでもある。太古から存在する人智を超えた絶対者と、それに翻弄され滅ぼされる宿命の人類ーー。評論家の諏訪哲史先生が、書評集『偏愛蔵書室』の中で、CTHULHU(クトゥルフ)とYHWH(ヤハウェ)の類似性について言及していたのを思い出す。

    舞台設定や登場人物は作品ごとに異なるが、全編を通して執拗に描かれるのは、未知なる絶対者への畏怖と、人間という存在の寄る辺なさだ。主人公は絶対者に抗うものの、最終的には抹殺されるか、彼らに取り込まれてしまう。この絶対的な無力感、〈存在すること〉に対する根源的な恐怖。或いはそれは、あらゆる神話や宗教に伏流する通奏低音であるのかもしれない。

    • 佐藤史緒さん
      猫丸さん
      猫はもっとふわふわした読み物を読みましょう!
      猫丸さん
      猫はもっとふわふわした読み物を読みましょう!
      2020/10/12
    • 猫丸(nyancomaru)さん
      佐藤史緒さん
      猫は「今日の早川さん」で間に合わせてます、、、
      佐藤史緒さん
      猫は「今日の早川さん」で間に合わせてます、、、
      2020/10/13
    • 佐藤史緒さん
      猫丸さん
      good cat!
      猫丸さん
      good cat!
      2020/10/13
  • 掘り出し物。
    ラブクラフトは読んでみたかった作家だった。
    すべてクトゥルーに関する恐怖小説。
    怖い、すごい、忘れられない。
    この本を読む時は、グーグルで航空地図を見ながら読むことを進める。
    特に「インスマスの影」はマサチューセッツの地図でグロテスクな海岸沿いを見ながら読むと恐怖が倍増する。

  • 小説家・翻訳家の南條竹則=編、新訳ラヴクラフト選集、全7編。
    旧約と比べて遙かに文章がこなれていて読みやすいが、
    そこはやはりラヴクラフト、
    少しページを捲ると眠気を催すことに変わりはなかった(笑)。
    しかし、ゆっくり時間をかけて満喫。

    ■異次元の色彩【既読】
     「宇宙からの色」の邦題で知られる
     "The Colour out of Space"(1927年)。
     語り手はボストンの測量士。
     派遣先の荒廃ぶりに驚き、地元の老人から話を聞き出すと、
     事件は1882年に起こったとの答え。
     農夫ガードナー家の井戸の傍に隕石が落下したのが発端で……。
     我々が知っている「神」の叡智が及ばない
     外宇宙から飛来した物体によって水が汚染され、
     それを吸い上げた植物・農作物も、
     その水を飲んだ人間も
     本来の姿とは違う存在になっていくというホラー。
     後年の部外者による聞き書きという体裁のため、
     冷静かつ淡々とした筆致で、
     それが却って読者の恐怖感を煽る。

    ■ダンウィッチの怪 "The Dunwich Horror"(1929年)【既読】
     マサチューセッツ州の農村部、
     ダンウィッチ村に生まれたウィルバー・ウェイトリーは
     異様に成長が速く、一族秘蔵の魔術書を耽読したため、
     周囲から気味悪がられていた。
     彼はミスカトニック大学図書館の蔵書である
     『ネクロノミコン』ラテン語版に執心し……。
     ウィルバーの日記を読んだ大学教授らが、
     ウェイトリー家の屋根裏で育った彼の「弟」の正体を暴く。
     最初にこのストーリーに触れたのは、
     ダニエル・ホラー監督の同タイトルの映画でだった。
     映画ではウィルバーが原作とは大違いのイケメンで(笑)
     彼と交際することになった女子大生が頼まれて
     『ネクロノミコン』を持ち出すという流れになっていた。
     面白かったが、かなり違う話(ぐぬぬ)。
     https://booklog.jp/item/1/B073Q5BQGQ
     2017年にDVD化されたので喜び勇んで購入したが、
     まだ鑑賞していない(ぐぬぬぬ)。
     品川亮監督の画ニメ
     『H.P.ラヴクラフトのダニッチ・ホラーその他の物語』
     もシブい。
     https://booklog.jp/item/1/B000SKNPSG
     ちなみに、水木しげる大先生も舞台を鳥取県に移した
     翻案マンガ「地底の足音」を描かれた。
     https://booklog.jp/item/1/4834274586
     こちらも一種の「珍品」として愛読している。

    ■クトゥルーの呼び声 "The Call of Cthulhu"(1928年)【既読】
     故人の手記が開陳されるという体裁の短編。
     フランシス・ウェイランド・サーストンは
     大伯父である故ジョージ・ギャマル・エインジェル教授の
     遺品の謎を解くべく、関係先を飛び回った。
     若き彫刻家ヘンリー・アンソニー・ウィルコックスが、
     さながらオートマティスム(自動書記)のような調子で
     彫り上げた粘土板と、
     ジョン・レイモンド・ルグラース警部が
     捜査の過程で押収した石像の共通点、
     遭難した船から救出された
     グスタフ・ヨハンセンが書き残した、未確認の島の話――
     それらを突き合わせたフランシスは、
     太古の邪神の秘密を知ってしまい……。

    ■ニャルラトホテプ "Nyarlathotep"(1920年)【既読】
     またの名を「ナイアルラトホテップ」。
     幻想的な掌編。
     エジプトからやって来たという
     ニャルラトホテプの科学的な見世物に魅了される人々。
     旧約よりも滑らかな文章で、幻惑的。

    ■闇にささやくもの "The Whisperer in Darkness"(1931年)
     【既読】
     ウィルマース教授はバーモント州の怪物伝説を蒐集していて、
     現地在住の老民俗学者エイクリーと文通することに。
     エイクリーは、
     バーモントの深山には宇宙から来訪した生物の
     拠点があると述べ、また、物的証拠を得た自分は
     何ものかにつけ狙われていると伝えてきた。
     郵便物の不配や偽の電報など、不審な出来事を経て、
     事態が好転したから来てくれと告げるエイクリーだったが……。
     クライド・トンボーが冥王星を発見した翌年に、
     それをモチーフ(の一つ)として書かれた作品で、
     謎めいた天体に、地球人と接触しようとする
     外宇宙生命体の前線基地のイメージを付与。
     周囲の怪事に怯え、必死で身を守ろうとしていた人物が、
     ある日不意に「もう大丈夫」と、
     それまでの肉筆の手紙とは違う
     タイプライターの文書を送付してきて、しかも、
     自身のサインの綴りを誤っている――という、
     別人格に肉体を乗っ取られたかと受け取れる条(くだり)が、
     個人的に最も怖い。
     ずっと後に出た作品だが、先に読んだブラッドベリ
     「ぼくの地下室へおいで」を連想してしまう。

    ■暗闇の出没者 "The Haunter of the Dark"(1936年)【初】
     ロードアイランド州プロヴィデンスに部屋を借り、
     由緒ある大学街の風情を楽しんでいた
     小説家兼画家のロバート・ブレイクは、
     フェデラル・ヒルの廃教会の威容に惹かれ、
     足を踏み入れたが……。
     ラヴクラフトの生涯で最後に発表された作品で、
     旧来「闇の跳梁者」あるいは「闇をさまようもの」の
     邦題で知られてきた小説。
     年少の友人ロバート・ブロックに
     作中で自分を殺すことについて許可を与えたラヴクラフトが、
     お返しに彼になぞらえたキャラクターを登場させたが、
     ブレイクの人物造形はラヴクラフトの自画像に近いらしい。
     古代に地球を訪れた異星生命体によってもたらされた、
     暗黒神を召喚する力を持つ物質
     「輝くトラペゾヘドロン(Shining Trapezohedron)」が登場。

    ■インスマスの影 "The Shadow Over Innsmouth"
     (1936年)【既読】
     一人旅を楽しむ語り手の青年は、
     興味本位で退廃した港町インスマスへ。
     漂う腐臭、陰鬱な雰囲気、敵意の籠もった住民の視線を受け、
     早々に立ち去るつもりだったが、
     泥酔した老人に街の来歴を聞く。
     バスの故障でその日のうちに出発できなくなった青年は、
     やむなく見すぼらしいホテルに宿泊。
     深夜、何故か自分を襲おうとする者たちの気配を察して
     脱出したが……。
     ラヴクラフト創作活動末期の一編で、
     読者によって好みの違いはあるだろうが、
     他の作品と比べて明らかに、数をこなし、書き慣れて、
     技術が向上したかに見える佳品。
     サスペンスフル、かつ、読みやすくて面白い。
     旧訳で二度読んでいたが、今回の新訳読了で、
     この作品の舞台を日本に移したドラマ、
     佐野史郎主演『インスマスを覆う影』を、
     また鑑賞したくなった。

    長い時間をかけてシェアワールド化し、
    二次創作、三次創作(?)の人気も高いクトゥルー神話だが、
    それらに夢中な人たちの原典既読率が低い印象を受ける。
    大体どういう話かわかっているし、
    全体のムードや邪神のキャラクターが
    好きなだけだから別に構わない――という言い分も
    もっともだけれども、
    せっかくどこかで取っ掛かりを掴んだのなら、
    ラヴクラフト本体も読まなければもったいないよ、
    面白いんだから、と言ってあげたい。
    その際は是非、取っつきやすい翻訳になった
    このニューバージョンで……と、お勧めしておく。

    • 深川夏眠さん
      おこんばんはー♥です。
      南條竹則先生は、
      恥ずかしながら小説を拝読したことはないのですが、
      翻訳作品がとても読みやすくて好きなのです。...
      おこんばんはー♥です。
      南條竹則先生は、
      恥ずかしながら小説を拝読したことはないのですが、
      翻訳作品がとても読みやすくて好きなのです。
      この本は、キングof 代表作という感じの
      ラヴクラフト選集で、多分、ほどほどの長さで
      有名な邪神が登場する作品を
      チョイスしたのではないかと思われます。
      個人的には特に好きな「闇にささやくもの」が
      収録されていて嬉しかったです……けれど、
      創元推理文庫の全集は1~6巻まで読んだのですが、
      実はかなり記憶は曖昧というか
      朦朧としています。
      どれがどれやら(笑)で。
      2019/08/10
    • 佐藤史緒さん
      いえいえ、あの全集をお読みになってるだけで凄いです!
      私は確か2巻だったか、『インスマウス』狙いで読もうとしたのだけどダメでした。
      で...
      いえいえ、あの全集をお読みになってるだけで凄いです!
      私は確か2巻だったか、『インスマウス』狙いで読もうとしたのだけどダメでした。
      でもこの版は旧訳より読みやすいようですし、コンパクトに有名な作品が揃ってそうなので期待度大です♡
      レビュー拝読した感じでは、私も『闇にささやくもの』が面白そー、と思いました。あらすじだけてゾクッときます。

      いつも読みごたえあるおすすめレビュー、ありがとうございます♪
      2019/08/10
    • 深川夏眠さん
      いえいえ、お恥ずかしい(ポッ♥)

      ラヴクラフト作品は、ちゃんと読んだら結構面白いけど、
      「なるほど」という結末に辿り着くまでが「無駄...
      いえいえ、お恥ずかしい(ポッ♥)

      ラヴクラフト作品は、ちゃんと読んだら結構面白いけど、
      「なるほど」という結末に辿り着くまでが「無駄に長い!」と
      言った人もいました。
      確かに、そうなんですよね。
      眠気を催しやすいので、おやすみ前がお勧めかも……です(笑)
      2019/08/11
  • ■「異次元の色彩」
    ・他の邦題に「宇宙からの色」。
    ・ニコラス・ケイジ主演の「カラー・アウト・オブ・スペース-遭遇-」はバカ風味も程よい映像化だった。
    ・モノそのものの恐さだけでなく、怖いのに離れられないという姿勢もまた、怖い。
    https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%AE%87%E5%AE%99%E3%81%8B%E3%82%89%E3%81%AE%E8%89%B2

    ■「ダンウィッチの怪」
    ・他の邦題に「ダニッチの怪」。
    ・かなり面白い。
    ・成長の具合がおかしい少年?のウィルバーが魅力的で、伊藤潤二が漫画化すればコワカワだろう。場面も映像的。
    https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%80%E3%83%B3%E3%82%A6%E3%82%A3%E3%83%83%E3%83%81%E3%81%AE%E6%80%AA

    ■「クトゥルーの呼び声」
    ・他の邦題に「クトゥルフの呼び声」。というかラヴクラフト作品全般に、発音が不明瞭(人間の文化の外)ということの面白みがあるんだと今回知った(CTHULHU……YHWH)。
    ・調査するという小説の面白み。
    ・文書や文字やへの偏愛からは、ボルヘスを連想。
    https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AF%E3%83%88%E3%82%A5%E3%83%AB%E3%83%95%E3%81%AE%E5%91%BC%E3%81%B3%E5%A3%B0_(%E5%B0%8F%E8%AA%AC)

    ■「ニャルラトホテプ」
    ・他の邦題に「ナイアーラソテップ」「ナイアルラトホテップ」。
    ・「這いよれ!ニャル子さん」(阿澄佳奈)だ!
    ・短い散文詩のような美しい文章。
    ・にして、人間に化けるという点で、面白いキャラクターを知る事もできた。
    https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8A%E3%82%A4%E3%82%A2%E3%83%BC%E3%83%A9%E3%82%BD%E3%83%86%E3%83%83%E3%83%97_(%E5%B0%8F%E8%AA%AC)

    ■「闇にささやくもの」
    ・さすが文通魔の著者だけあって、文通を通じて相手のことを想像することの面白さがあって、かなり好き。
    ・実際に会いに来るよう誘われるときの、罠にハメられそうな感じもまた、いい。
    ・動きの少ない相手の絵は、またも伊藤潤二っぽく再生されたが、作品名を思い出せず。
    ・水槽の中の脳という面白ギミックにも漫画っぽさを感じたが、90年前の読者はどう感じたのだろう。
    https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%97%87%E3%81%AB%E5%9B%81%E3%81%8F%E3%82%82%E3%81%AE

    ■「暗闇の出没者」
    ・他の邦題に「闇をさまようもの」。
    ・作家仲間に似た名前のキャラクターを出して殺す、という身内ネタでもある。短め。
    https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%97%87%E3%82%92%E3%81%95%E3%81%BE%E3%82%88%E3%81%86%E3%82%82%E3%81%AE

    ■「インスマスの影」
    ・他の邦題に「インスマウスを覆う影」。
    ・ポッドキャスト番組「ハードボイルド読書探偵局」にて、本作品と、佐野史郎主演「インスマスを覆う影」(原作は小中千昭「蔭洲升を覆う影」)の特集あり。
    ・超傑作。
    ・前半で街の細かい描写がかったるいが、地図ができているからこそ後半の脱出劇が活きる(宮崎駿「魔女の宅急便」でも時計台が序盤にキチンと描かれていた)。その上ツイストもある。
    https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%82%B9%E3%83%9E%E3%82%A6%E3%82%B9%E3%81%AE%E5%BD%B1

    ◇編訳者解説 南條竹則

  • 暗黒神話クトゥルー初体験。少し古すぎるのか、怪奇文化の違いか、怖くない。さあ、これ怖いでしょって、差し出されている感じ。
    著者が、自分の創作を神話と表現している事は、アメリカの歴史が神話世界まで遡れない葛藤があったのかなあ。

  • クトゥルー神話(クトゥルフ、ク・リトル・リトルなどの表記もあり)で知られるH.P.ラヴクラフト(1890-1937)作品の新訳版。
    「神話」を象徴する7篇(「異次元の色彩」、「ダンウィッチの怪」、「クトゥルーの呼び声」、「ニャルラトホテプ」、「闇にささやくもの」、「暗闇の出没者」、「インスマスの影」)を収める。

    生前は不遇であり、存命中に出た単行本はわずかに1冊。
    だが、彼の描く独特の怪奇世界は、死後、徐々に受け入れられ、多くの作家にも影響を与えた。クトゥルーの名はゲームやアニメなどにも取り入れられ、予想外の広がりを持つことになった。

    普通の町、普通の村に、不吉と捉えられる場所がある。そこに近づいてはならない。そこは危険だ。けれども必ず、誰かが近寄ってしまう。
    不吉な影の気配は次第に濃くなり、やがて闇は姿を現す。
    黒々とした奇怪な形。蠢く多数の脚。ぬめぬめとしたゼリー状の肉。「千の墓をあばいた」ような悪臭。
    それは時に空から、時に地中から来る。
    太古の邪悪なもの。禁断の書から呼び出されたもの。宇宙から召喚されたもの。
    邪悪なものが現れた恐怖の極限で、物語はぷつりと終わる。
    こんなものが現れたら世界は終わるだろう。その恐怖の崖っぷちで、作品世界はぴたりと止まる。だからこの恐怖はある意味、永遠に続く。

    邪悪なものは、クトゥルー(Cthuluh)、ニャルラトホテプ(Nyarlathotep)、ヨグ・ソトホート(Yog-Sothoth)などと呼ばれる。どう読むのかには諸説あるのだが、巻末解説によると、そもそもラヴクラフトは、これらの名前を「人間には発音できない、音声かどうかさえ定かでないものを便宜的に表記しているだけ」なのだという。

    真の闇の中、人は叫ぶ。
    怪物の、ごつごつとした、読めない名を呼ぶ。
    深く黒い闇はその声も飲み込んでしまう。
    闇はどこから来るのか。闇に飲まれた世界はどうなるのか。

  • ラヴクラフトは若い頃に創元推理文庫の全集を制覇しようとして1冊で挫折したのだけど(シンプルに怖い=グロさの種類が苦手系)こちらの新訳は南條竹則だし装丁も好みだしシリーズ化されたようなので改めて手を出してみることに。

    怖さのジャンル的にはやっぱり苦手で、とにかく見た目グロテスクな生きものがやたらと出てきて、それらが古代からの(宇宙からの?)存在だということに根源的な不気味さを感じさせらえてぞわぞわしてしまう。ある種、怪獣ものになりかねないところを、ホラーとして昇華されているのはすごいなと思う。

    収録作は似た展開と設定のものが多く(辺鄙な田舎の港町もしくは農村などで怪奇な事件が起こり、偶然秘密を知ってしまった人物が手記を残す系みたいな)、どれがどれだったかすでに混乱気味。オタク気質の人間としては、年表作りたい誘惑には駆られました(笑)きっとネット検索したら誰かが作ってくれてるだろうと思うので自分ではやらないけど。

    ※収録
    異次元の色彩/ダンウィッチの怪/クトゥルーの呼び声/ニャルラトホテプ/闇にささやくもの/暗闇の出没者/インスマスの影

  • 宇宙的恐怖(コズミックホラー)の始祖
    売れ出したのは死後らしいですが、
    他の作家たちが、話を広げていったエピソードが、ファンが2次創作で広がっていったスターウォーズの流れにも似てます。
    そんな、作家の入門編

    表現しづらい見えない怪物(蟹、鳥、烏賊蛸、菌、山のキメラっぽいやつなど様々)、怪奇現象に気づいてしまった、巻き込まれてしまった人々の恐怖を様々なパターンで描きます。
    暗躍する怪物の名から「クトゥルフ神話」と呼ばれているシリーズ

    キングやクーンツなどのモダンホラー(古!)を読んでる私としては、どの話も真面目に「ボブは自分の体が、首の無い状態で倒れかかってくるのを見る羽目になった。何故なら、首から上は地面に転げ落ちて自分の体を見上げていたからだ…」みたいなふざげた描写は皆無

    で、ビシビシ恐怖が描かれていく感じが新鮮でした。そしてやや退屈でもある。

    何篇かありますが「ダンウィッチの怪」なんか、これを映像化するとやはりどうしても恐怖感よりB級ホラー感が強くなるんだろうな…という印象

    よくある映画の流れなんだけど面白かったです。
    上記のはラヴクラフト作品としては珍しいほうで…基本的にX-ファイルの様に、うやむやか最悪の結末で終わる話が多かった,

    恐怖から生き延びれない限りは語ることもできず物語にもならない。形に残って語り継がれることがない。
    または語ったとしても狂人の扱いを受けて消えてしまう。
    なので、本当は記録には残らないもっと多くの犠牲者が歴史上に悍ましい量いたのではないか?などど妄想してしまう。おすすめ。

    たぶんこのラヴクラフトの築いた
    真面目なコズミックホラーに、どんどん下品な要素を足してエンタメにしてったのが今のホラーモノなんだろうなぁ…それにしても哲学的な言い回しや、難しい表現も多く、真面目に話してんだけど度が過ぎてて「狂ってる?」って聞きたくなるくらい。

    追記:脳が何者かに支配されているのか読書中、無意識に昼食に「げそ天そば」を頼んでしまい
    神話に出てくる怪物達が頭をよぎり
    なんか後悔…

  •  初出1920-1936年のラヴクラフト短編小説を集めたもの。昨年読んだ『狂気の山脈にて』と同じく新潮文庫版「クトゥルー神話傑作選」。
     ラヴクラフトの文章はどこか変で、つながりが悪く、明らかにおかしな箇所もあったがそれは原文のせいか翻訳のせいか分からない。いずれにせよ悪文に属する文体だろう。読みにくいし、エンタメ系小説ではこんにちのものならことさらそうであるように、登場人物たち相互の会話で話がどんどん進んでいくのが定石なのに、ラヴクラフトにおいては、人物同士の会話が極度に少ないか、あるいは皆無である。その分、叙事的な文体なのだと受け止められる。
     悪文にもかかわらず、本書中の作品には、「ホラー」のプロトタイプと呼びうるような、非常に優れたものが感じられた。
     特に「異次元の色彩」(1927)、「ダンウィッチの怪」(1929)はホラーの範とすべき傑作と思う。「クトゥルーの呼び声」(1928)と「インスマンスの影」(1936)は後半部分がやはりホラーとして傑出していた。
     いったいに、クトゥルー神話という「体系」には私は全く興味が無いので、単にホラー小説としてどうか、と言う点に着目している。上述の作品は、最近のマンネリすぎる欧米ホラー映画なんぞより数段上にある。
     物語の「先」の方に、忌むべき全容=「不在のシーニュ」が控えていることを、語り手主体は予感している。それはおぞましく不快極まりないものと思われるので、当然拒絶したいところだが、その一方で、何となくそんなカタストロフを待望する欲動も密かに底流している。
     おぞましさに向けて、奇異な事象が次々と現れてくる時、観察者主体の情動の「ストッパー」が漸次的に外れてゆく。この情動のストッパーということを、私は読みながら考えていた。
     おおむね怪奇・ホラー小説は最初から暗澹としていて、音楽で言えばマイナー・キーのロマン派音楽の様相を呈している。が、無意識のバランスを取っているべき情動のストッパーが、恐怖の対象であるような事象の積み重ねによって解除され、怒濤のような情動の嵐が現出してくる。ここまで来ると、ロマン派音楽の枠を超えて「表現主義音楽」に至る。ホラー小説とは、表現主義音楽への到達を目指す情動的記号論理の組成体である。
     文字通り血みどろのショッキングな映像を重ねてゆく近年のスプラッター系ホラー映画では、生理的な不快さを突き詰めてゆく表現主義-情動論理であろう。いっぽうラヴクラフト作品のような古典的小説においては、「おぞましいもの」と主体が規定した「不在のシーニュ」を目指して、想像上の恐怖・不安のストッパーが外されてゆくのだが、それは語り手主体が不快と定義しているだけであって、読者にとってただちに生理的に不快であるわけではない。直接的な生理的反応ではなく、あくまでも想像上・意味論上の記号が追求されていくわけだから、これは記号論的な世界構築に属している。ホラー文学は、記号論的に理解しうるはずなのだ。
     ただし、凡庸でつまらないホラー小説では、この記号論組成がうまくいかず、どんな小説にも増してくだらない、無残な結果に終わってしまう。この場合は、表現主義音楽が聞こえてこないのである。
     ラヴクラフトは悪文にもかかわらず、ホラー小説として理想的な達成をしばしば成し遂げている。三十数年前に創元推理文庫で3冊のラヴクラフトを読んだ時、読みにくさでつかえてしまい私はその良さに気づくことができなかった。現在の私は、ラヴクラフトをこのように把握することが可能になったようだ。

  • 南條竹則編訳のラヴクラフト選集。
    創元版の全集は持っているのだが、ラヴクラフトと書かれているとつい買ってしまう……。収録作も名作と言われているものばかりで、入門編としても再読編としてもお買い得な1冊だろう。南條竹則訳でもう1組、全集出して欲しいぐらいだ。

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H・P・ラヴクラフトの作品

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