殺人者たちの午後 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (375ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784102200315

作品紹介・あらすじ

「あなたはなぜ、人を殺したのですか?」死刑制度のないイギリスで、殺人を犯したのち、仮釈放され社会のなかで罪を償うことになった終身刑受刑者たちに取材した驚異の告白録。息子を殺し、自らの狂気におびえ続ける男。祖父をハサミで刺し殺し、刑務官になることを夢見る青年。人を殺めたのち、奇妙な自由のなかで生き続けることを命じられた10人の魂の独白を、沢木耕太郎が訳出。

感想・レビュー・書評

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  •  英国のジャーナリストが、10人の殺人者たちに話を聞いてまとめたインタビュー・ノンフィクション集。

     英国には死刑制度がなく、登場する10人はいずれも終身刑を宣告された身。服役中の者もいれば、仮釈放でシャバに出ている者もいる。男もいれば女もいる。

     著者のトニー・パーカー(故人)は、優れた聞き書きの技術から「テープレコーダーの魔術師」とも呼ばれた人なのだそうだ。
     
     テーマとは裏腹に静謐な印象の本である。10編はいずれもモノローグ形式で構成され、読者は2人きりの部屋で殺人者たちの話を聞いているような気分になる。

     殺人者を主人公にしたノンフィクションは日本にもよくあるが、その多くは煽情的で(※)、当の殺人者がいかに人でなしであるかをこれでもかとばかりに強調する。本書のアプローチはまったく逆で、少しも煽情的ではない。殺人者たちを我々と地続きの存在として、その等身大の人間像をリアルに描き出したものなのだ。

    ※「殺人ポルノ」という呼び方があるのを最近知った。戦場で人が殺される様子を撮影したグロ映像などを、「ポルノを楽しむように」楽しんでしまう(!)ことを指したもの。『新潮45』とかがやっている煽情的な犯罪ドキュメントも、一種の「殺人ポルノ」だと思う。

     さりとて、「殺人者にも人権がある!」と声高に訴えるようなものとも違う。著者は、ヘンに身構えることなく、虚心坦懐に殺人者たちのライフストーリーに耳を傾ける。それも、1人に対して何度もくり返し取材をつづけて……。その結果、訳者の沢木耕太郎が言うように、「取材された殺人者たちの心の奥に触れているような感じがする」本になっている。

     登場する殺人者の中には同情の余地があるケースもあれば、ないケースもある。見るからに粗暴な者もいれば、「なぜこの人が殺人を?」と不思議になるような者もいる。しかし、どのケースでも、一個の人間としての像が鮮やかに心に浮かぶ。「人間が描かれている」のである。

     唾棄すべき殺人者の人生にすら、胸を震わせる一幕がある。
     私が本書で最も強い印象を受けたのは、幼い息子を虐待の果てに殺してしまった男――すなわち一片の同情の余地もない殺人者が漏らした、次のような言葉。

    《あのタンスの一番上の引き出しには靴下やハンカチが入っている。そこに敷いてある新聞紙の下には、小さな封筒がある。セロテープで封をした茶色の封筒だ。もし火事になってすぐ逃げなきゃならなくなったら、あれだけはどんなことがあっても持って行く。この部屋にある物すべてを諦めても、あれだけは持って行く。
    (中略)
     でも、その封筒を開けたことも中身を見たこともない。ただの一度もないし、これから先も開けるつもりはない。俺が刑務所を出たとき、封をしたままローナがくれたんだ。受け取るとき、何が入っているのか訊ねると、教えてくれた。
     その中身は、俺がジャックを殺してしまう二週間くらい前に、公園でローナが撮った俺とジャックの写真なんだ。》

  • "インタビューで、それぞれの人生を紐解いていく。
    インタビューの相手は全員殺人の罪で終身刑となった人々。
    イギリスは死刑がない。長期間刑務所で過ごすことになる。仮保釈になり、一般的な生活を送るようになれる人もいる。
    こんな経験をしている10人にインタビューし、殺人に至った経緯を語ってもらっている。
    明確な動機があるようなものは少なく、偶発的なものが多いことに驚く。"

  • 【LIFEとは?】
    “LIFE”という単語は「生」に1番近いと思う。「人生」であったり「生活」であったりするからである。
    しかし今回は全く違い『終身刑』である。英国では殺人者は終身刑になる。その上で仮釈放になり保護観察を受け続けるのだ。

    終身刑を受けた人達へのインタビューである。獄中の人もいれば保護観察中の人もいる。様々な人達からそれぞれの思いを感じることができる。共通することは「生きることは簡単ではない」といとことで言えば簡単だが、物凄く大きな負のエネルギーである。
    この本は負のエネルギーを受けとめる訓練だ、読む人を選ぶ。人に寄り添うことを仕事とする人達にはぜひ読んで欲しい。

  • 「俺には過去というものがない」という『過去のない男』他。殺人者たちへのインタビュー内容。

  • 死刑制度のないイギリスで、殺人の罪を犯し終身刑に処せられた人達へのインタビューを集めた本。
    その人達は人を殺したという事実以外には何も共通点がなく、年齢も性別もバラバラですが、その淡々と進められていくインタビューの中から何か浮かび上がってくるようなものを感じます。
    巻末の訳者あとがきと解説も読み応えがあります。
    考えても考えても分からない“人間”について考えさせられる不思議な本でした。

  • 自分の罪について話すとき、もし私だったら、どうしたって見栄や、よく思われたい気持ちから主観と異なることを言ってしまうんじゃないだろうか、と思う。10人の殺人者の告白を読みながら、この中にはどれだけの嘘が含まれるだろうか、と考えていた。嘘というか、彼らが、そうは思ってないけどそう言ったことというか。あるんじゃないかなと思う。
    死刑のないイギリスで、終身刑になった殺人犯が10年、20年経って仮釈放され、社会で生きている。仕事をしたり、お酒を飲んだり、勉強したり結婚したりしている。日本には死刑がある。この本に出てくる殺人者たちが、もし日本人で日本で殺人を犯していたら、死刑になっていたかもしれない。そうしたら、ここに書かれている人生はなかったはずだ。当たり前のことなんだけど、なんだか不思議な気がした。刑罰が国によって違うこと、殺人者がふつうに生きていること、それを不思議だと思っている自分。もっと言うと、なんで生きてるんだよ、と思うこと。反面、こうやって物語で読んでしまうと、人殺したんだから死刑でいいじゃん、と一言では済ませられなくなること。
    重たいのに、読んでいる間は、何度か現実の話じゃないような気持ちにもなった。面白い短編を読んでるみたいな。フィクションを読んでるときのテンションになった。それから、あ、これ、本当にあった話なんだった、と我にかえった。今もイギリスのどこかにいる、10人の殺人者が、たったいま、何してるんだろう、と彼らの生に思いを馳せた。

  • 沢木の訳がいい。
    加害者にしかインタビューしてないから鵜呑みにはできないが、、。

  • 死刑制度の無いイギリスで、仮釈放された殺人犯10人へのインタビュー記録。沢木耕太郎の訳というのが珍しい。

    あまりにも淡々と自分の過去と殺人の瞬間を語る殺人犯たちに恐怖を覚えた。また、読みながら、フェルディナント・フォン・シーラッハの『犯罪』『罪悪』を読んだ時の何とも言えない奇妙な感覚を思い出した。

    原書には全12話が収録されているようだが、沢木耕太郎の判断で2話をカットしたようだ。

  • イギリスのジャーナリスト「トニー・パーカー」のノンフィクション作品『殺人者たちの午後(原題:Life after life)』を読みました。

    「沢木耕太郎」のエッセイ集『ポーカー・フェース』で、本作品が紹介されており、興味が沸いて購入した作品です。

    -----story-------------
    殺人を犯したのち、「奇妙な自由」のなかで生きることを運命づけられた10人の告白録。

    「あなたはなぜ、人を殺したのですか?」死刑制度のないイギリスで、殺人事件を犯した後、仮釈放され社会のなかで罪を償うことになった終身刑受刑者たちに取材した驚愕の告白録。
    息子を殺し、自らの狂気におびえ続ける男。
    祖父をハサミで刺殺し、刑務官になることを夢見る青年。
    人を殺(あや)めたのち、奇妙な自由のうちに生き続けることを命じられた10人の魂の独白を、「沢木耕太郎」が訳出。
    -----------------------

    死刑制度のないイギリスで、終身刑を宣告された殺人者たちを個別に取材した内容を、インタビュー形式で綴った作品、、、

    ジャーナリストの「トニー・パーカー」が殺人者たちと向きあい、犯罪に至るまでの人生や殺人の動機、そして、いま何を考えているのか等を巧みに引き出して、まるで自ら証言しているかのようにドキュメント化されています… 原作は12篇だったようですが、他のものと類似性が高い1篇と、面白さを日本語で伝えることが難しい1篇は「沢木耕太郎」の判断でカットされたようです。

     ■第1話 過去のない男
     ■第2話 ノー・プロブレム!
     ■第3話 とんでもないことが起きてしまった
     ■第4話 涙なんて流しても
     ■第5話 マラソン・マン
     ■第6話 恋に落ちて
     ■第7話 記憶の闇
     ■第8話 サイコパス
     ■第9話 この胸の深い穴
     ■第10話 神様と一緒に
     ■耳を澄ます 訳者あとがき 沢木耕太郎
     ■解説―殺人者という誘惑 高村薫

    人はなぜ人を殺すのか? 殺したあと、人はどう生きるのか? イギリスの殺人者たちを個別に取材し、心の奥底までを濃密に描き出す優れたノンフィクションでした、、、

    「沢木耕太郎」の翻訳が巧くて、とても読みやすかったですね… 自分が直接、インタビューしたような気持ちを感じながら読み進めました。

    十人十色というか… それぞれ、人を殺すに至った個別の事情があるのですが、どの殺人も発作的・衝動的なので、ドラマ性はありませんでした、、、

    実際の殺人って、計画的なものは少ないものなんでしょうね… 気が付いたら目の前に死体があり、自分でさえも動機を明確に説明できないような殺人、日常と非日常の境目、被害者になる人と被害者にならなかった人の境目って、明確な線なんてないんだなぁ、いつでも、被害者になる危険が潜んでいるんだよなぁ、と感じましたね。

    特に印象に残ったのは、自らの幼い息子を殺めてしまった『第3話 とんでもないことが起きてしまった』ですね… 夫婦喧嘩の末なんて理由にならないし、自身の狂暴さに怯えるという精神状態も理解し難いなぁ、、、

    両親からの愛情を受けずに育ったとか、暴力や盗み、酒が中心の生活だったとか、若くして結婚・出産をしたとか… 殺人者に共通するバックボーンがあるようですが、やはり、その心理状況は理解できないですね。

    興味深い内容でしたが… そんな人間か身近に潜んでいる可能性があると思うと、ちょっと怖くなりました。

  • 【紙の本】金城学院大学図書館の検索はこちら↓
    https://opc.kinjo-u.ac.jp/

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