朗読者 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (258ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784102007112

作品紹介・あらすじ

15歳のぼくは、母親といってもおかしくないほど年上の女性と恋に落ちた。「なにか朗読してよ、坊や!」-ハンナは、なぜかいつも本を朗読して聞かせて欲しいと求める。人知れず逢瀬を重ねる二人。だが、ハンナは突然失踪してしまう。彼女の隠していた秘密とは何か。二人の愛に、終わったはずの戦争が影を落していた。現代ドイツ文学の旗手による、世界中を感動させた大ベストセラー。

感想・レビュー・書評

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  • 再読。
    15歳の少年が、母親ほど年上の女性に恋をする。
    彼女が、隠していたのは、文盲だということ。
    どうしても言えない…その気持ちがなんとも切ない。
    朗読してもらうという、そのことに喜びを感じていたのか。
    別れ、出会いは、裁判所。
    やはり、何度読んでも救われない。
    残酷な愛…と感じてしまう。

  • 1960年代のドイツを舞台に、少年と大人の女性の恋愛から、彼女の失踪、そして明らかになる過去。といっても陳腐な恋愛小説ではない。
    15歳の少年に36歳の女性が手を出すことについて思うところもあるけれど、彼女の過去と、それを知った彼の考え続ける姿勢は、二人が同世代ではないからこそと思うから、倫理的なことは意識の外に追いやってしまった。

    戦争の当事者と、戦後教育を受けた世代。
    断罪するばかりで、本当に知ろうとしただろうか。彼はそう考えて、知ろうとする。
    彼女のある秘密についても、考えるしかない。
    隠したい気持ちは理解できる。でも人生がかかる局面でも隠さなければならないのか。
    彼女の選択が、その秘密の重さが、私には分からない。

    過去、秘密、その後の交流から結末まで、答えの出ない問いを投げかけられて、いくつもの「どうしたらよかった?」を考え続けている。

    • Kidomiiiさん
      コメント失礼致します。
      レビュー拝読致しました。

      私も今作を読んで「どうすれば良かった?」の疑問符に追われ続けています。その一方で、「どう...
      コメント失礼致します。
      レビュー拝読致しました。

      私も今作を読んで「どうすれば良かった?」の疑問符に追われ続けています。その一方で、「どうしたとしても、二人は一緒に居られなかった」という結末に辿り着いてしまう感じがしています。

      今作の魅力を上手くまとめてくださっている素敵なレビューと思っていいねしました。
      ありがとうございます。
      2022/12/12
    • さっささん
      Kidomiiiさん

      はじめまして。
      コメントありがとうございます。

      答えがないからこそ、考え続けてしまいますよね。
      私も二人の間には隔...
      Kidomiiiさん

      はじめまして。
      コメントありがとうございます。

      答えがないからこそ、考え続けてしまいますよね。
      私も二人の間には隔たりがあると感じて、どんなに相手を思いやっても、戦争がもたらしたものは拭い去れないのかもしれないと思いました。

      Kidomiiiさんのレビューの、「先の見えない中で選択をし続けなければならない、"人生そのもの"のようなこの小説」という表現が、まさにという感じがします。
      何度も振り返って、「どうすれば」という問いを繰り返してしまうのですから。
      2022/12/14
  • 15才の少年と36才の女性の激しくそして儚い恋を描いた小説。先がまったく読めず、中盤からガラッと雰囲気が変わる。単なる恋愛小説にとどまらず、戦時下で行われたある歴史的な出来事にまで足を踏み入れることになる。そしてラストは衝撃的な展開でさらに心を揺さぶられる。世界的に有名なベストセラーだけあって読者を唸らせる場面はたくさんあった。タイトルにもある「朗読」は、二人を繋ぐ大きな意味をもつところが読みどころでもある。衝撃的な展開に目が奪われがちだが、何度も読むことで深い味わいが出る作品ではないだろうか。

  • 本書は、長らく私のアマゾンのほしい物リストに置かれていた。この本をほしい物リストに加えた経緯は忘れてしまった。表題に引かれたからなのか?今となってはわからない。

    3部構成の本書は、各部で大きな展開があり、今まで読んできた世界がガラリとその景色を変えるほどのインパクトがある。第二次世界大戦を経験したドイツの文学作品。
    静かな語り口であり、テーマも重厚だが、読み手にはあまり堅苦しさを感じさせない。若かりし頃に本書に出会っていたら、また違った印象を持ったかもしれない。何度も読み返すであろう好きな作品に出会えた。

  • 「あなただったら何をしましたか?」
    「あなただったらどうしましたか?」
    ハンナのこの問いかけに正々堂々と答えられる人間はいるのでしょうか。わたしには無理です。わからない。わからないのです。けれど、そんなわたしには考える時間というものが残されています。時間を有するものの使命として、わたしは過去からのこの問いかけの答えを、意味を考えていかなければならないのです。

    15歳の少年と母親ほど年の離れたハンナとの恋愛から始まった物語。最初わたしには、ハンナが一生逃れることの出来ない影に捕まってしまうまでの、ほんのひとときの幸せのために、少年との恋愛にのめり込んでいったような気がしてたまりませんでした。それはまるで、人生の終焉が近づいているのを分かっていて、生き急いでいるかのように見えたのです。彼女にとって纏わりつく恐ろしいものを忘れられたのは、少年と愛し合っているときだけだったのかもしれません。そして『朗読』という形で、彼女は彼に愛以上の何かを求めていたように思えました。
    少年はハンナとの愛を心の奥底から信じていたのだろうけど、彼女は決して秘密を明かすことはありませんでした。その秘密が明かされないことによって、ハンナの運命は悲劇的な方向へ転がっていってしまうのだけれども。
    他人からすれば、そんなことくらいと思うようなことでも本人にとっては許し難いモノ、守り通したいモノ、譲れないモノというものがありますよね。いいじゃないか、その秘密を明かせば未来は少しは良い方向へ向かうのだからと説得されたとしても、決して首を縦に振らなかっただろうハンナのプライドと、とある施設の中でその秘密からやっと解放されたであろうハンナの行動。他人から見れば彼女は、ちっぽけなプライドの為に人生を棒に振ったのではないかなんて思ってしまうのだけれど、どちらが幸せだったのかは他人が決めるものではないのでしょう。

    結局のところ、わたしは彼女が歩んだ人生の傍観者でしかないということを思い知らされました。けれどもハンナとミヒャエルとの時の流れを追いながら戦争とは、教育とは、道徳とは、愛とは、いろんなことを考えることがわたしには出来るのです。そのことをわたしは忘れてはいけないのです。

  • 甘くて酸っぱい青春と、その後に待ち受ける戸惑いや隠された秘密。

    主人公を通して、罪と償い、良心、疎外感などを考えさせられます。ラストがハッピーかバッドかは、読む人によっても読むタイミングや回数によっても変わると思います。

    三部にわかれています。おおよそ、一部は主人公とハンナの出会い、二部は主人公の学生時代、三部は大人になってからのお話です。


  • 個人的に推しているイラストレーターさんが、この作品から着想を得て漫画を描いたと言っていたのを見て、気になって軽い気持ちで手に取ってみたのだけど、
    朝の通勤電車や会社のお昼休憩や、家で寝る前のベッドの上で、何度涙を堪えながら読んだことか。

    【いつか終わりが来る】と心のどこかで気づいていても、その人を愛さずにはいられない。
    そんな無防備で、無垢で、純真そのものだった恋心を丸ごと想起させられ、
    自分の中に仕舞い込んでいた過去の苦い体験が、感情ごと引っ張り上げられてきてしまう。
    それだけではなく、ここで扱われているユダヤ人迫害の歴史やその事実の悲惨さに、心が耐えられず潰されそうになる。
    まさに感情のジェットコースター。


    15歳のミヒャエルが36歳のハンナと出逢って関係を持った事。
    彼女が彼にした事。
    ミヒャエルが彼女の過去を知らなかった事。
    ハンナが自分の"ある秘密"とプライドを守り続けた事や、
    その為に自分の人生をも台無しにしてしまった事。

    どれもこれもが正しかったのかどうか誰にも答えが分からない。
    まるで先の見えない中で選択をし続けなければならない、"人生そのもの"のようなこの小説について、しばらく私も考え続ける事だろう。

    あなたの愛した人が戦争犯罪者だったらどうしますか?

  • 圧巻のドイツ文学。素晴らしいの一言。
    やるせない気持ちになる。

    何の予備知識もなく読みはじめ、前半の倒錯的な恋愛模様に困惑しつつも読み進めていくと……中盤以降、やられた。
    今まで第二次世界大戦のドイツやドイツ国民の心情について、知識としてはそれとなく知っていてまあナチス関連はけっこう敏感になっているらしいなあ程度に思っていた。でもナチス時代はともかく「その後」のドイツに焦点を当てられることってほとんどないので、全然、わかってなかった。彼ら特有の苦しみや罪責感や憤りを。

    ユダヤ人迫害、ホロコーストについても日本でもがっつり勉強させられるし、テレビでもけっこう特集組まれるし、映像や写真で何度も見たことあるし、私は『ライフイズビューティフル』とかを観て泣いたり憤ったりしたし……でも、特に戦争世代じゃない日本人にとっては「教科書に載っている歴史」という感覚で、実感をもってそういった歴史的事実に触れることは全然できない。それどころか小説中でも、主人公は親が戦争世代のドイツ人で私たちよりずっと距離が近いところにいるはずなのに、「書割的な空想」しかできない場面が描写されている。今は資料が充実してきたとはいえ、あの時代が遠ざかっていくほどに現実感のない空想しかできなくなっていくと思う。

    ドイツの戦争世代、その子ども世代は相当に特殊だと思う。歴史上彼らのように集団として一人の例外もなく罪を負わされることとなった国民はいただろうか? 直接酷い行いに手を染めていなくたって、「ナチスを支持したじゃないか」「止められなかったじゃないか」と。
    (日本も敗戦国で戦争責任云々についてはいろいろ議論が交わされているけれど、ドイツとは雰囲気が違うように感じられる)
    でも私はただ戦争世代を責めたり過去の残虐な行為を糾弾するだけじゃ思考停止だと思う。
    小説中のハンナの言葉、
    「あなただったらどうしましたか?」
    これを考えなくてはならない。正直、あの当時あの状況において「正しい」行動をとれる人は全人類の1%もいないんじゃないかと思う。
    そして難しいのは、だからといって罪が罪じゃなくなるわけではないということ。

    主人公がハンナを「理解したい」という気持ちだけではなく彼女を「裁きたい」という気持ちを持っていたこと、これは今まで読んだどのような物語にもなく新鮮だった。このあたりがドイツの戦争子ども世代(しかもインテリ)が抱く精神の特殊性なのだと思った。
    激しく葛藤し、何かをしようとして何もしないことを選んで、その末に辿り着いた彼女との心地良い距離が「朗読者」であったこと……涙を禁じ得ない。

  •  ホロコーストに関連した小説ですが、ホロコーストに加担した者を一方的に断罪するような単純な作品ではありません。また、戦時の行為を特殊な状況下であったことを理由に安易に正当化しようとするものでもありません。いろんな理解の仕方があると思いますが、大きな不幸に不可抗力的に巻き込まれた人の悲劇、加害者の側に立ってしまった人が背負う罪の意識、人が人を裁くことなどできるのか、そもそも何のために人は人を裁かねばならないのかといったことをテーマとした作品といえば当たらずとも遠からずだと思います。

     第一部がかなりショッキングな内容なので嫌悪感を持つ人がいるかもしれません。しかし、主人公のミハエル・ベルクがハンナ・シュミッツの人生(あるいは心の問題)に深く関わっていく必然性を導き出すには、このような物語の設定が必要だったのでしょう。

     作者のベルンハルト・シュリンクは法学者だそうで、いかにもドイツ人の学者らしい明晰な言葉で、主人公の複雑な心の内面を細かく描いていきます。結末は悲劇的であり、決して心地よいお話でもありませんが、読み終えてから暫くするともう一度読み返して意味を確かめたくなるような本だと思います。

  • めちゃくちゃ深い本でした。
    序盤の恋愛話からの急展開、、最後の結末!へと続くストーリーにハマり、先が気になって、一気読みしてしましました。
    再読したくなる深い本でした!!
    ぜひぜひ読んでみて下さい。

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著者プロフィール

ベルンハルト・シュリンク(ドイツ:ベルリン・フンボルト大学教授)

「2019年 『現代ドイツ基本権〔第2版〕』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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