- Amazon.co.jp ・本 (634ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101482217
作品紹介・あらすじ
青いバラは、「不可能の花」といわれつづけてきた幻の花だが、遺伝子組み換えによって、実現間近だという-。科学の進歩と人間の夢が結び合う、青いバラの創造。「青いバラ」の夢に憑かれた園芸家鈴木省三の熱情、バラの花市場の研究開発、科学者たちの論争…。バイオテクノロジー最新事情を網羅しつつ、人間の欲望と科学の未来が結びあうバラ作りの夢を追う渾身のノンフィクション。
感想・レビュー・書評
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最相葉月(1963年~)氏は、関西学院大学法学部卒、広告会社、出版社、PR誌編集事務所勤務を経て、フリーのノンフィクションライター。『絶対音感』で小学館ノンフィクション大賞(1998年)、『星新一 一〇〇一話をつくった人』で講談社ノンフィクション賞(2007年)を受賞。そのほか、大佛次郎賞、日本SF大賞等を受賞。
本書は2001年に出版、2004年に新潮文庫で文庫化、2014年に岩波現代文庫で復刊された。
私はこれまで、著者のエッセイ集『なんといふ空』、『れるられる』、ノンフィクション作品『絶対音感』、『東京大学応援部物語』、『セラピスト』を読んできたが、その感性と徹底した取材スタイルが好きで、本書についても新古書店で目にして手に取った。
本書は、西洋において“不可能なことのシンボル”とされる「青いバラ」を巡って、バラが登場する古今の文学作品、遺伝子組み換え等のバイオテクノロジーの技術、近現代日本のバラをはじめとする花卉産業の歴史、青いバラを作るための様々な取り組み等を記したノンフィクションである。また、生涯で100を超えるバラの品種を作出し、数々の国際的な賞を受賞した、「ミスターローズ」とも称される鈴木省三(1913~2000年)氏に繰り返し行ったインタビューの内容が随所に挿入されている。
私は、「青いバラ」が不可能のシンボルであることは知っていたし、そう言われる以上は、相当昔から、人々は青いバラを求めて様々な努力をしてきた(探すなり、作ろうとするなり)のだろうと漠然と思ってはいたのだが、遡ると、既にギリシア・ローマ神話の中に記述があるのだという。
ところが一方で、(私は、バラに限らず、花について特段の知識も関心もあるわけではない)青いバラを思い浮かべてみると、既にどこかで見たことがあるような気がして、ネットで検索すると、実に鮮やかな(りんどうのような)青いバラがいくつも出て来る。しかし、これは白いバラの茎の部分から青い染料の入った水を吸い上げさせて作ったもので、本来の青いバラとは呼ばないのだという。そして、本物の青いバラというのは、本書にも登場するサントリーが、2004年に、世界で初めて、遺伝子組み換えにより「アプローズ」(青というより紫に近い)を作ることに成功したとあった。
鈴木省三氏は「青いバラができたとして、さて、それが本当に美しいと思いますか」と語ったというが、その言葉には様々な意味、複雑な思いが含まれているのだろう。ミスターローズと呼ばれた男が、もう少し「遅く」生まれていれば、自分の手で青いバラを作ることができたかもしれない。。。しかし、遺伝子組み換えによって作られたバラは、本当のバラと言えるのか。。。
私は、基本的にバイオテクノロジー(の行き過ぎ)に対して疑問を持っており、青いバラくらいならと思う一方で、人間の欲望がどこかで留まり得るのか、非常に強い懸念を抱いている。
著者は本書の中で、「青いバラ」をテーマに実に幅広い分野を行き来し、それが本書の面白さであることは論を俟たない。が、冒頭の「問い」の章には、著者が本書を書くに至ったきっかけ・問題意識が明確に書かれており、それこそが著者が本書により最も提示したかったことではないかとも思うのである。
(2024年1月了)詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
この本は青いバラを作ることに情熱を燃やす人々について書いたノンフィクションである。
青いバラを作ろうという数々の試みを伝説、品種改良に情熱を燃やす育種家たちとそれに関わったプラントハンターやパトロン、バイオテクノロジー(ここにサントリーについても出てくる)、日本の園芸など幅広く取り扱っているので、歴史的な背景も現状についても丹念に把握できる。
バラにかける人々の喜怒哀楽に心打たれた。
コレクターの嫌な側面も多く書かれていた『蘭に魅せられた男 驚くべき蘭コレクターの世界』と比べてみると、この本はバラに捧げる人々の情熱をきれいに昇華している。
育種家の情熱の成果である数々のバラの実物を見たくなってバラ園に行きたくなったり、自分でもバラを育ててみたいと思ってみたり。
中心にすえられた人物の違いがそのまま雰囲気の違いになっているんだろうけど、もちろんどちらが優れているというわけではなく、それぞれの側面があるからいいんじゃないかと。 -
「青いバラ」最相 葉月
ジャーナリズム、倫理、思索。ライトシアン。
第8回さいたま読書会課題図書。
棚分類…ohd
読了。マラソンでした。
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@全体として、[バラ交配の歴史]に関する本
@[不可能と呼ばれた青いバラの交配へのチャレンジ]について、[戦後日本のバラ育種家、鈴木省三の功績を振り返りながら]詳しく述べている
@[構成] 中世から連綿と青いバラ=不可能というイメージが醸成されている → 具体的に青いバラを作るための技術 → 「ミスター・ローズ」鈴木省三の生涯 → 青いバラ作出の最新の展望と、遺伝子組換えに対する心理的抵抗の問いかけ -
ロマンチストでセンチメンタルなプロジェクトX、様々な角度からの青いバラの話。
すでにほかのかたのレビューにもあるように、サイエンス系の解説はレポートめいてしまっている。おそらくは著者が科学を専門とするわけではないから、聞いたことをまとめるだけになってしまっているからだろうと推測する。
反面、ミスター・ローズと呼ばれた鈴木省三との対話のくだりは「偉大なる育種家」の経歴と現在、そして終わりに立ち会った記録として、著者の感性と視点にぐっと来る。
読者の前に鈴木省三は最初は人のよい寛大な老人として現れ、やがて学生時代は不器用だと言われていたこと、一度は遺伝工学の道へいったこと、戦時中の秘密研究に関わったこと、政治へも関わったこと、日本と世界のバラへの功績、それでも晩年の「まだやれることをやっていない」とする悔恨、主軸と傍系の構成がすさまじいノンフィクションだった。 -
薔薇の育成にマンネリ感を感じる方は、一度読んでみては。
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「絶対音感」の最相葉月のノンフィクション。
ひとつの問いかけに始まり、終わる。
つまり「本当に青いバラがあったとして、美しいと思いますか」
遺伝子操作により、青いバラが誕生するかもしれないと言われはじめた頃、その問いかけによって、彼女はバラの育種という迷宮にはいりこむ。
読んでいて、ずっと眠れる森の美女のイメージがつきまとっていた。青いバラは、果てしない茨の向こうの高い塔の中でひっそりと眠っている…。
基本的に、ロマンチストなんだと思う、最相葉月。
そして、もうひとりのロマンチスト、日本のバラの名品をいくつも誕生させたミスターローズ、鈴木省三。
老いて、床に伏せがちの鈴木を最相が訪ねて話を聞くという形で進む。まるで、「モリー先生との火曜日」のようだと思いつつ読んでいた。
それにしても、考えてみたら戦争中、バラは敵国の花だったのだ。
つまり、バラがまともに育てられるようになって、まだ60年ぐらいなのだ。そして、戦争中もこっそりとバラを守り育てていた人がいて、そういう人がいたからこその今日なのだ。
これがロマンでなくてなになのだ。
最相葉月は、青いバラを語ることで、鈴木省三を語りたかったのだ。
バラに魅せられた、とんでもないロマンチストの話を。
文中に「聖火」というバラの話が出てくる。
花弁の先はピンクで根本が白いバラだ。蕾ですくっとたっていると、本当に炎のように見える。
昔、うちの家にあった。
うちの市で開催されたバラ展で買って、大事に育てていた。花が咲くと母と、その美しさに見惚れていた。
読んでいて、その記憶がとても鮮明に浮かんできた。
こんな優しい綺麗な思い出をくれた人なのだと思うと、胸が熱くなった。
鈴木省三さん、どうもありがとうm(__)m
バラ展は、毎年開催されている。
今年は、母と一緒にいってみようかと、思う今日この頃。 -
交配では不可能だった「青いバラ」が遺伝子組換によって可能になろうとしている。そのニュースを聞いたときに感じた時に違和感を感じたという著者に、「ミスター・ローズ」こと鈴木省三は「青いバラができたとして、それが本当に美しいと思いますか」と問う。この晩年の鈴木省三との会話から、歴史上バラがどれだけ人に愛されてきた花だったのか、どんな風に交配されてきたのか、そして人々はなぜ「青いバラ」を求めるのかなどあらゆる方向から著者はバラという植物と人間との関係を追及していきます。植物の専門家ではない著者が膨大な資料を集め、専門家達とも対等に話をしていることに感嘆します。それでもまだ見ぬ「青いバラ」よりも、いくつものバラを世に送り出し、この本の完成を待たずに亡くなった鈴木省三という人間の人生の方が強烈に心に残りました。
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『絶対音感』でも感じたが、緻密な取材と取材対象に対する愛情を感じる。
文体も好み。 -
新規購入ではなく、積読状態のもの。
2009/6/27〜7/8
長らくの積読本を読了。
英英辞典には\"blue rose\" =\"an impossibility\"と記載される「青いバラ」について人類の挑戦の歴史が日本のバラ業界の大家鈴木省三氏を中心に語られる。実務家の鈴木氏に対し、学術的アプローチで迫る多くの研究者。また、バイオテクノロジーを武器に青いバラを商売にしようとする企業。それぞれの立場での「青いバラ」へのアプローチが綿密な調査、取材をもとに綴られる(巻末の参考文献の山はその証)。最相氏のデビュー作「絶対音感」で見せた抜群の切り口は今回も健在であるが、今作はちょっと話を広げすぎたような気がする。イイタイコトがぼやけてしまった感じでそこが残念。また、タイトルは「青いバラ」であるが、内容とは少しずれてしまっている印象がある。
「青いバラ」があったとしてそれを美しいと思うのか? 私は思えないだろう。科学を生業とする身ではあるが、人間は自然をいじりすぎてはいけないと思うのだ。 -
薔薇に一生を捧げた男。サントリーがバラを研究していたんですね。鈴木さんが産み出した『芳純』、『パパメイアン』。
私もいつか育ててみたいなと思う。
千葉県の京成ばら園には、このバラがあります。資生堂から出ていたこの香水は廃盤になってしまったけれど、ほんとにいい香り。鈴木さんが亡くなった後に、青いばらは最近発表されたと新聞で読みましたが、、、。う〜ん。灰味がかったばらです。