- Amazon.co.jp ・本 (397ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101373317
作品紹介・あらすじ
十代の頃から、大切な時間を共有してきた女友達、千波、牧子、美々。人生の苛酷な試練のなかで、千波は思う。「人が生きていく時、力になるのは自分が生きていることを切実に願う誰かが、いるかどうか」なのだと。幼い頃、人の形に作った紙に願い事を書いて、母と共に川に流した…流れゆく人生の時間のなかで祈り願う想いが重なりあう-人と人の絆に深く心揺さぶられる長編小説。
感想・レビュー・書評
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「どんなお話?」と聞かれたとき、言葉に詰まる本というものがある。
とてもじゃないけど、ひと言では到底言い表せない、そんな本。
語れば語るほどに空虚な言葉が宙を飛んでいく、そんな錯覚に囚われる。
話せば話すほど、その本が詰まらなく感じてしまう、そんな本。
説明すればするほど、空虚でグダグダになってしまうような、そんな本。
けれど、間違いなく、自信を持って名著であると言い切れる、そんな本。
読書中には、ぐいぐい引き込まれてページを繰る手が止まらない。
読後には、心に豊かな感情が湧き起こる。
ああ、この本と出会えてよかったな―、と幸福を噛み締められる。
本書は、そういう作品です。
「良かったよね」「うん、とても良かった」
「素敵な作品だよね」「うん、本当に素敵」
そんな会話を、ぽつぽつと誰かと交わしたい。
そして、互いの間に交わされる、目に見えない共感の糸を感じていたい。
緩やかで暖かい雰囲気を感じながら、互いを包み込んでいる幸福感に身を委ねたい。
そんな、至福の時間を誰かと共有したい。
なんとなく、人恋しくなる。そんな作品です。
北村薫氏は、やはり天才なのだなあと思いました。 -
北村薫さんの作品一冊目。スキップ同様、中盤までなかなか読み進めることができなかったけれど、だんだん味がついてくる。事件やどんでん返しがあるわけではないけれど、登場人物一人一人がすごく魅力的で見守っていたくなる作品。あ〜こういうの好きだなぁ。
《二回目追記》2016/03/19
初めて読んでから約10年くらい経ち、一回しか目を通していないのにわたしの1番好きな小説と周りに言いふらしてました。
今年二回目で再度読み、やっぱりこれだなって思うくらい、暖かいものがあるとおもいます。
すっかり忘れていたけど、病院での千波と牧子が夕日を眺めているところ。本当に涙が止まらない。 -
三人それぞれの考え、矜持、スタンスがありながらも、何十年も続いていく絆にしんみりと浸ることができる。「思い出すたびに、トムさんが帰って来る」(p.384) の台詞は、寂しくもあり、温かくもある。
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"円紫"シリーズといい、北村薫は女性の心情を描くのが本当にうまい。
何気ないエピソードの積み重ねが心情を紡ぎ、危機に直面して結びつきが強まる。
友情や愛情の本質を見せつけられる思いがする。
こういう友情は女性ならではだろうか。
新潮文庫版は詩人佐藤正子の解説がすばらしい。言語感覚、表現力に優れた評者にかかると、かくも的確な評論が書けるのか。 -
自分の本棚にあったから2度目のはずなんだけど、今回全くストーリーにはいれなかったのはなぜ…?
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切なさで胸が痛いです。人々が皆、幸せであってほしいと祈るような気持ちになりました。
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2020.3 課題本
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これが「月の砂漠をさばさばと」の続編だと知らなかった。NHKでドラマになっていたのも知らなかった。
読むに連れてあのほのぼのとした母と娘の暮らしを思い出した。あ~いい本だったな。
この本は作者と題名が気になったので手に取った。流れると言う言葉に少し拘って、というより生きていくことは言葉にすればそういうことだと日ごろから思っているし。「ひとがた流し」いい題名だと思った。
今度はお母さんの牧子さんと二人の親友の話になる。
メインは、独身のままアラフォーを迎えている千波。二人からは「トムさん」と呼ばれている。
駆け出しの報道時代を経て念願のメインキャスターの席を得た。そこで悪性の腫瘍が見つかる(胸の悪い病気と書いてある)
もう一人美々は子連れで離婚、今は写真家と結婚している。結婚したときはまだ物心ついていなかった子供は実の父親だと思っている。この親子関係が実に温かく、高校生になった娘が父の写真を理解して同じ目で写真を写し始めている。このあたり、優しさとともに、実子でない親子にある現実が少し重荷であって、どう解決しようかというあたり、心温まる結末がジンとくる。
サバの味噌煮を作りながら歌っていたお母さんの牧子さんと、大学受験前のさきちゃん、時間は流れ、それぞれ三組の家庭の話も、あたたかいふれあいの中で時が過ぎている。
千波は局で知り合った後輩のイチョーヤさん(君)と最後の時間をすごすことになる、このあたりは出来すぎかもしれないが、事実は小説よりも危なり。そういうこともありかもしれず。大きな試練を越える千波に最後の贈り物は哀しくて美しい。
そんな、目の前の厳しさも包み込むようないい本だった。