- Amazon.co.jp ・本 (592ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101362557
作品紹介・あらすじ
同じような部品や機械を使っても、できあがった自動車の性能はまったく違うものになる。その違いを生むのは生産方式だ。「ジャスト・イン・タイム」「かんばん方式」――トヨタ自動車は「トヨタ生産方式(TPS)」に則り優れた自動車を作り続けてきた。「日本人が作った車で生活が豊かになる」と夢見た三河の自動織機会社が世界のトヨタになるまで。TPSの最深部を描き切った巨編ノンフィクション。
感想・レビュー・書評
-
野地秩嘉『トヨタ物語』新潮文庫。
トヨタの創業から『トヨタ生産方式(TPS)』誕生の系譜とその真髄に迫るノンフィクション。
トヨタ生産方式を少し噛じったことのある自分には非常に興味深く、大変面白いノンフィクションだった。しかし、惜しむらくはエピローグのやたらと豊田章男を持ち上げる記述が余りにもわざとらしく、それまでの面白いドラマを台無しにしているように感じた。
ものづくりは事務作業とは異なり、製品という形でQCDの結果が直ぐに見えるというのが面白い。反面、直ぐに結果が見えるということは、ものづくりの方は手を抜けないということにもなる。それは決して事務作業が手を抜いているということではなく、ものづくりは製品という成果物で簡単に評価されてしまうということだ。
当時は無謀とも言われた国産の自動車製造に手を出し、アメリカの三大自動車会社を追い抜くためにトヨタが独自に造り上げ、延々と深化させて来た『トヨタ生産方式』。ジャスト・イン・タイムと自働化を二本柱とするこの生産方式は簡潔に言えば、つくり過ぎに代表されるムダを徹底的に排除し、不良が造られそうになったらラインを停める仕組みである。
そして、この生産方式を維持し、進化・深化させていくためには作業者の知恵が必要不可欠となる。トヨタの生産工場に行くと『よい品、よい考え』という垂れ幕が掲げられているが、これはまさに作業者の知恵が生産性や品質の向上につながることを知らしめているのだ。
世界一に登り詰めても歩みを止めないトヨタにも苦難の時代があり、新しい生産方式を定着させるまでには先人たちの知恵と並々ならぬ努力があったのだ。
本体価格900円
★★★★★詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
文庫本に収録されるにしては、トヨタ生産方式についての説明が異常に詳しく、大野耐一のカリスマ逸話と合わせて、何度も何度も出てくる。もちろん、もともと興味があって手にとり読むぶんには、やはり、そこはそうなんだよなあ、とひとりごちながら「信念」を強化するのに役立ちそうだ。その意味ではトヨタ教の聖典とは言わないが、副読本といってもよいでしょう。(大野耐一の言っていたこと、やってきたことには、とても共感します)
-
私は2019年よりトヨタ系部品メーカー様の営業担当をしており、これまでもいくつかのトヨタ関連の本は読んできた。お客様の考え方の根底にあるものを知ることにより、真の意味でお客様のためになれるご提案ができると考えるからだ。「トヨタの未来生きるか死ぬか」、「豊田章男」、そして昨年では「This is LEAN」、そして古くは「ザ・ゴール」「ザ・ゴール2」ほか。 ほかにも数多くあるが紙面の都合上この程度にしておく。自分が名古屋出身であるということもあって、三河の一ベンチャーが世界のトヨタになっていくまでのストーリーは純粋に読み物として面白いのであるが、それと同時に著者の徹底的な調査に裏付けられている厚み、が、真に重厚さを与えている。事実を精緻に積み上げた長編ドキュメンタリー、ただただ敬意を払いたい。
最近ひょんな機会で「アメリカでの丸亀製麺」の事例を読んだことがあり、トヨタ生産方式というか大野耐一さんが「考える作業者を育てる」とおっしゃられたことがものすごく身に染みた。
これまで複数の本を読んできたこともあってトヨタの歴史に残された数多くの方々のお名前があがり、それぞれの方々が本当に生き生きと描かれている。彼らの考え方や行動を読むだけでも勉強になるわけだが、せっかくなので個人的に気になった部分を抜粋してみることによって自分としての理解を深めたいと思う。(分量が多いがご容赦いただきたい)
=======
P27 「考えることを楽しいと思う作業者には向いている。現場でカイゼンできることはアメリカの作業者にはなかった経験だから。ただし、時間を切り売りするだけの作業者には適応できないだろう。これまでの生産方式は、人間に考えなくともいい、手や身体を動かしておけばいいというシステムでした。しかしオーノさんは考えて仕事をしろと言ったわけです。それがシステムの特徴です。」
P103 飛行機用エンジンを作るためには工作機械がいる。そこで、すでに自動車用の工作機械を作っていた豊田自動織機内の工機工場を独立させ、豊田工機という会社にした。豊田工機は飛行機、自動車用部品を作る工作機械会社となり、2006年光洋精工と合併、ジェイテクトとなった。トヨタ向けだけでなく、他の自動車会社にも機械類を販売している。こうしてトヨタは戦争中に今も残る関連会社の原型を設立した。
P139 「国産車が進歩したのは飛行機のエンジニアが入ってきたからだよ。スカイラインのエンジンを作ったのは元ゼロ戦のエンジニアだし、モノコックボディを自動車に持ち込んだのも飛行機の技術者だった。考えてごらん。イギリス、ドイツ、アメリカ、フランス、スウェーデン、イタリア、日本…。飛行機を作った国の自動車と中国、韓国など飛行機を作ったことがない国の自動車はまったく違うんだ。設計思想が違う。それはね、空を飛ぼうと思ったことがない男が作った車なんて、まったく魅力がないからだよ。」
P146 「人間は自分がいまやっていることがいちばんいいと思っている。オレがやることは、やつらに『いまやっていることを疑え』ということだろう。それは簡単ではない。そんなことができる人間はなかなかいない。考える人間を作る…。それがオレの仕事だ。」
P178 大野は管理職に「アンドンのひもを引っ張った作業者には、どんな時でも、ありがとうと言え」と命じたのである。
ランプが黄色に変わる。管理職が飛んでいく。
「すみません、トイレ行ってきます」
すると、管理職は、「おお、行ってこい。呼んでくれてありがとう」と返事をする。また、作業者が自分のミスで呼んだとしても、それでもなおかつ、呼ばれた上司は「ありがとう」と言わなければならない。
もし、管理職が「忙しい時に、オレを呼ぶな」とでも言おうものなら、アンドンは無用の長物となってしまう。大野はラインで働く者の心理を深いところまで読んでいた。
P229 「トヨタがやることは、考える人間を育てることだ。上から押しつけても生産性は上がらない。現場からくふうが上がってこなければならない。私の仕事はそれだ。
また、見ていると、アメリカ人の経営者や管理職は現場に降りてきて、ワーカーと話をすることはない。計画を伝えるだけだ。その点、私らは喜一郎のように現場の作業者と話をしている。みんな平等だ。うちがフォードに勝とうとするなら経営者も作業者もない。みんな一緒に考えることだ。」
P262 「できあがった部品にはこのかんばんを付けておく。すると後の工程の人間が取りに来る」
後の工程の人間は部品をもらったらかんばんだけを外して、前の工程に戻す。前の工程は、かんばんが戻ってきたら、そこに書いてある数量だけ部品を作る。部品ができたら、かんばんを付けて後の工程が取りに来るのを待つ。
P303 張が覚えているのは珍しく鈴村が大野の前で弱音を吐いたことだ。
「大野さん、オレたちは一生懸命、会社のためにやっている。ですが、大野の一派は会社をつぶすと言われました」
よほど悔しい思いをしたのだろう、鈴村の目には涙が光っていた。大野は「そうか」と鈴村の肩に手をかける。
「鈴村、お前は泣けばそれで済む。しかし、わしはどうすればいいんだ。泣くこともできんぞ」
P309 7つのムダ
ひとつ つくりすぎのムダ
ふたつ 手待ちのムダ
三つ 運搬のムダ
四つ 加工そのもののムダ
五つ 在庫のムダ
六つ 動作のムダ
七つ 不良をつくるムダ
P316
わたし自身、7年の間に70回、トヨタの工場を見学し、ラインを見つめた。では、何かムダを発見できたかと問われたら、まったくできなかったと答えるほかない。ひとつくらい見つけられるんじゃないかと思って、現場に立ったけれど、現実は甘くなかった。いつ見ても、現場のライン作業は同じように見えたし、たとえ、ラインが止まったとしても、そこで何が起こったかは、作業者に聞いてみない限り、まったくわからなかった。
ある時、生産調査室室長だった二之夕裕美(現・東海理化社長)と一緒に元町工場の組み立てラインを見ていたことがある。
見学コースからラインを眺めていたのだが、二之夕は突然、立ち止まり、「あそこを変えなきゃ」とつぶやいた。
えっ、どこですかと訊ねたら、「あの作業者が見えますか?」と言った。
「ほら、彼です。バンパーを取りつけつ前に包装のセロファンを外しているでしょう?」
確かに、その作業者はいちいちセロファンをはずしてからバンパーを車体に取り付けていた。
「張りついたセロファンをひきはがすのは面倒です。一日に何度もやっていると嫌になる。あれはセロファンを外す工程をどこかに作らなきゃいけない。もしくはセロファンではない包装材に変えることも考えなくてはならない」
二之夕はラインを一瞥しただけで、問題点を発見し、同時に改善案を考え出し、次の瞬間には部下を呼んで、すぐに実現化するように言い渡していた。もっと言えば、カイゼンが進んでいる現在でさえ、ラインを見つめればムダを発見することができるわけだ。
トヨタ生産方式を定着させる仕事とは、つまりこういうことだ。見る目をもったプロが、人がやりにくそうにしているところを探し、ひとつずつ、その場で解決する。
P508
「実際に営業マンの仕事を見ると、お客さんと接している時間は意外に短い。おそらくどんな職種でも一緒ですよ。自分では長く感じているかもしれないけれど、セールストークをしている時間なんてあっという間なんです。
それには原因があって、ひとつは事務の仕事や車の査定をしている時間が長くなってしまうから、接客の時間が物理的に短くなる。
ある時、私たちがやったのは、接客する時間を最大限に増やすためのサポートでした。接客以外の仕事のムダを切り詰め、余裕のある接客をしてもらうことが目的でした。それが今ではもっと進んでいて、成約率をあげて、見込み客の開拓に時間をかけるといったことまでやっています。」
=======
以上 -
以前から「トヨタ生産方式とは何か?」という本質を理解できていない感覚があり、その気持ち悪さを少しでもクリアにできそうだと思い読了。時代背景や登場人物の来歴などは読み飛ばしたものの、なぜ自分が今まで調べど調べど理解できなかったのかという理由も含めて学びが多かった。より効率的に価値を生み、かつ作業者が楽になる生産方式を当時トヨタが必要とした背景やその際の衝突、競合他社との比較など細かく描かれていたため内容が濃く面白い本だった。
-
トヨタの「カイゼン」がこれ程大変で、ずっと続いていることに驚いた。長編で読み終えるのに苦労したけど、読んで良かった。
-
トヨタについて、創業から現在までを俯瞰したもの。研究者が書いた本ではないため、客観的な分析をしているわけではないが、トヨタの歴史を概観することができる。トヨタについてどのような分析がなされているかを知りたいのであれば、研究者が書いた本や論文を読めばいい。
トヨタといえばその生産方式であるが、本書を読むと単なる生産ラインの効率化だけでないことが分かる。それは研究開発から物流、販売に至るまで、それぞれに関わる全ての人の意識も関係している。
これらはトヨタの企業文化によるものであり、表面をなぞっただけでは決して真似できないだろう。 -
小説のような躍動感があり、
金言に溢れている啓発書であり、
仕事の本質に迫るビジネス書でもある。
かつてトヨタ系の会社で働いていた際、
耳にタコができるほど聞いた言葉の生立ちがわかる。
それだけでも読む価値は大いにある。
昨日よりも今日、今日よりも明日。
終わることのないカイゼン魂を口だけにしたくない。 -
エピローグがいい
そして 解説が さらに良い -
会社で大事なのは「人」「金」「物」って言うけど、やはり「人」だろう。
大野耐一がいなかったら今のトヨタはないだろう。