- Amazon.co.jp ・本 (368ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101357782
作品紹介・あらすじ
錺職の老舗「椋屋」の娘・お凜は、女だてらに密かに銀線細工の修行をしている。跡目争いでざわめくなか現れた謎の男・時蔵は、江戸では見られない技で簪をつくり、一門に波紋を呼ぶ。天保の改革で贅沢品が禁じられ商いが難渋する店に、驚天動地の大注文が入る。江戸の町に活気を与えたいと、時蔵とお凜はこころをひとつにするが──。職人世界の粋と人情を描く本格時代小説。『恋細工』改題。
感想・レビュー・書評
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時は江戸時代、天保の改革のころ。主人公は女錺職人・お凛。錺職の老舗・椋屋の四代目だった義兄が若くして亡くなり、五代目選びに巻き込まれる。四代目の指示に従い雇い入れた職人・時蔵への恋心。その恋は実らず、予想外の事態となるが、最後はほのぼの。読後感はとても良かった。
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思わず惚れ惚れしてしまう作品というべきか。いい小説を読んだなあ、としみじみと振り返ることのできる温かく爽やかな時代小説です。
ヒロインとなるのは飾り職の老舗「椋屋」の娘・お凛。若いながらも椋屋をおかみさんのように切り盛りしていたお凜は、次代の椋屋主人を決めるよう託されます。そして椋屋に先代口利きの新たな職人がやってくるのですが、これがなかなかのくせ者で……
とにかく人物描写が巧み。女性ながら細工に幼いころから情熱を注ぎ、一方で女性ゆえ男社会である職人の世界では自らの腕を発揮する機会のないお凛。そんな彼女の葛藤とそれでも断ち切れない細工への思い。そうした複雑な感情を巧みに描きます。
そして後継者争いのさなか椋屋に現れた謎の職人・時蔵。技術こそ間違いはないものの、性格に難ありで椋屋の職人たちの間には徐々に亀裂が入り始める。
椋屋をまとめなければいけないという責任のもと、時蔵に振り回されながらも奔走するお凛。一方でその卓越した技術や謎めいた人間性に徐々にお凜は惹かれ始める。
この恋愛感情の初々しさやみずみずしさも読んでいて非常によかった!
お凛以外の登場人物もそれぞれがとても人間味があって生き生きしています。お凜の友人であるお千賀との信頼関係と友情も心が温かくなる。職人たちであったりお凜の仕事相手や仲のいい同心であったり、それぞれに思いや葛藤というものが描かれていて、そして見せ場がある。それが小説の中身をより強固にしていく。
天保の改革により芸術品がぜいたく品として取り締まられ窮地に立たされる椋屋。そこを乗り越えようとする職人たちの矜持!
小説の一番の魅力としてあるのは、やはりお凛の懸命さによるものと思います。後継者問題。職人たちの派閥争い。改革による仕事への締め付け。そして自分の細工の腕が認められることの喜びと挫折。女職人としての孤独。そして恋心。
様々なトラブルに対しお凜は懸命に真っ直ぐに挑む。NHKの朝ドラのようなヒロインの爽やかさと一生懸命さにまず共感し、そしてお凛以外の魅力的な登場人物たちにも心つかまれ、権力や社会の規範と対峙し職人としての矜持を貫く姿に思わず心打たれる。
時代小説らしい人情と矜持を真っ直ぐに描いた、心に爽やかな風が吹く見事な一作でした! -
じっくり読めた。沁みた。険しい先行きに主人公が女性ってもの凄い応援した。物語が与一からどんどん繋がり、大事な後目を決めるという大きな舞台でした。ただでさえ癖が凄い職人の世界で、最初の紛争から心を一つにして行く、祭りも交えて気持ちがよくて粋ですね。なんか親方も出来ると思うけど、職人になって秋田に毎年行くとかいう、やっぱり粋なのかな。2人は夫婦になって欲しかったです。続けて2冊読んだし、満足の読書でした
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恋であり恋でなく、仕事に打ち込み、細工に没頭する職人の魂の触れ合いという絆を結んだのかな、と。
最後に訪れた人との会話に私は涙した。
読む人によってまた別の場面で泣くのだろう。
胸に来るポイントが多くて、読み応えがあった。
お千賀がすごく良い。応援したくなる人物が多かった。 -
2023.3.3 読了。
錺職の老舗「椋屋」の娘・お凜は密かに銀線細工の修行をしていたが、跡目争いのなか現れた謎の男・時蔵が江戸では見られない技で簪をつくり椋屋の職人たちに波紋を呼ぶ。天保の改革で贅沢品が禁じられる中、お凜や時蔵、椋屋の職人たちや取引先の生駒屋の娘・お千賀などと江戸の町に活気を与えようと悪戦苦闘する、職人世界の粋と人情を描く本格時代小説。
女性が修行などしないものと考えられていた時代に錺職に魅せられ細工に励むお凜が凛々しく、その友人である生駒屋のお千賀が一番にお凜の才能に気づき認めること、そしてお凜もお千賀の持っているセンスが世間より群を抜いていることを認め合い、精神的にも支えあっている姿に心惹かれた。
勿論お凜と時蔵が互いに錺師としての才能を認めだんだんと惹かれあっていくラブストーリーとしての面も面白かった。(そしてそういえばお凜はモテモテでした。才能も器量もあって気配りもできるこんな女性、現代でも絶対モテモテ!)
話は少しズレるが天保の改革で江戸の住民が息苦しい生活を余儀なくされる描写はコロナ禍で様々な職種が営業を続けるのが厳しくなり生活苦になったり人々との間がギスギスするようになったりする様に少し似ているように感じられた。
様々な登場人物の抱える事情や考え方の違い、切ない思いも交差していて読み応えたっぷりでした。
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千両かざり 女細工師お凛(新潮文庫)
著作者:西條奈加
発行者:新潮社
タイムライン
http://booklog.jp/timeline/users/collabo39698
職人世界の粋と人情を描く時代小説 -
時代とか環境とか、思うに任せない中で、やりたいことを貫いていく主人公もいい。
周りの人の理解や関わりで、人はどんな過去を背負ってても、変われるんだっていうところもいい。
その人の中にあるものを、誰が見つけてくれるのか。そういう出会いが全ての人に訪れますように…。 -
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錺職の老舗「椋屋」の娘・お凜は、女だてらに密かに銀線細工の修行をしている。跡目争いでざわめくなか現れた謎の男・時蔵は、江戸では見られない技で簪をつくり、一門に波紋を呼ぶ。天保の改革で贅沢品が禁じられ商いが難渋する店に、驚天動地の大注文が入る。江戸の町に活気を与えたいと、時蔵とお凛はこころをひとつにするが―。職人世界の粋と人情を描く本格時代小説。
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奢侈禁止のご時世と、そこに生きる錺職人たちの気概、店の跡取り問題、などなどさまざまな要素が織り込まれ、細工への情熱や恋心と言ったスパイスも加えて、一筋縄ではいかないなかせる物語である。病で早世した椋屋の四代目・宇一の深慮遠謀がなんとも見事としか言いようがない。時蔵のことは残念でたまらないが、その分お凛が輝く明日が待っているのだろう。江戸の世に迷い込んだような心地にさせてくれる一冊だった。