シズコさん (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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感想 : 122
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  • Amazon.co.jp ・本 (248ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101354156

作品紹介・あらすじ

四歳の頃、つなごうとした手をふりはらわれた時から、母と私のきつい関係がはじまった。終戦後、五人の子を抱えて中国から引き揚げ、その後三人の子を亡くした母。父の死後、女手一つで家を建て、子供を大学までやったたくましい母。それでも私は母が嫌いだった。やがて老いた母に呆けのきざしが-。母を愛せなかった自責、母を見捨てた罪悪感、そして訪れたゆるしを見つめる物語。

感想・レビュー・書評

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  • ブクログレビューを拝見すると、最後まで読めば事態も変わっていき感動もするらしいのだが、文章が読みにくいのと、内容が(洋子さんの感情がよく理解できるだけに)読んでいて辛過ぎるのとで断念。

    誰のセリフだかわかりにくかったり、弟のヒロシが亡くなったという表記が無いうちに、いつの間にか男兄弟3人が亡くなったと書いてあったり。

  • 「私は母をなぐったりつねったりしたのではない。愛してなかったのだ。」

    「100万回生きたねこ」なとで知られる絵本作家の佐野洋子さんの、時にぎょっとしてしまうほどに率直な言葉で、実母への愛憎と罪悪感、そして、贖罪という、家族だからこその割り切れない関係を綴ったエッセイ集。

    終戦後、五人の幼い子供を連れて中国から引き上げ、三人の幼い息子を亡くし、夫の死後は、戦後に生まれた子供を含め、完璧なまでの家事と仕事で、四人の子を大学まで行かせた母。
    その実、ヒステリックで身勝手で、子供を支配下に置く毒親的側面を確かに持ち、今の時代ならば児童相談所通報案件ではと思うような虐待に近いこともしていた人。

    佐野さんは、進学を機に家を出た後、「愛していない」母とは距離を置きながら付き合っていたのに、老いて痴呆の症状が見え始めた母と訳あって一時の同居をして疲弊を覚え、老人ホームへ入れたことを、「金で母を捨てた」と罪悪感で胸をいっぱいにし、そして、長い長い葛藤を経て…。

    正直、今の時代を生きる私には、佐野さんの選択は、佐野さんの人生を守るためにも間違ってないし、現実的な選択だった、と思います。
    私自身、誰がなんと言おうと、一緒にいないほうがよほど平和で穏やかな均衡を保てる家族は絶対にあると思っているので。

    佐野さんも、きっと、それは分かっているのだけど、それでも割り切れない家族の情や、消えない幸福な記憶、そして、最終的に佐野さんが得た「許し」の瞬間まで、余すところなく書ききっています。

    読んでいる途中は、気が張っていたのか、けっして泣かなかったのだけど、読み終わって、もう一度冒頭からパラパラとめくって拾い読みしながら全体を把握していたら、私もいつか、佐野さんが体験したようなことを体験し、佐野さんの境地に立つことがあるのだろうかと思い、まとまらない感情が溢れて号泣してしまいました。

    両親との関係に少なからずひずみを感じている人は、一度読んでみると、色々と想いを馳せることがあるのでは、思う作品です。

    この作品を読んでみて、佐野さんの代表作「100万回生きたねこ」はまさに、人間のあらゆる面を直視して言葉にすることを選んだ佐野さんが描いた作品だなあ、としみじみと思わされました。セットで読むと、より一層奥深さを感じると思います。

    • nejidonさん
      hotaruさんも読まれたのですね・・
      終盤に来る頃ようやくほっとするものの、読んでいて胸が苦しくなる本でした。
      親の虐待のニュースが耳...
      hotaruさんも読まれたのですね・・
      終盤に来る頃ようやくほっとするものの、読んでいて胸が苦しくなる本でした。
      親の虐待のニュースが耳に入ると、この本を思い出すほどです。
      佐野さんはたぶん、お母さんと似ていたのかも知れませんね。
      しかし親の立場から見て佐野さんはどんな子だったのだろう?と、考えます。
      答えのない問いです。

      ところで、私も5人きょうだいです。
      穏やかな両親でしたが姉はしょっちゅう本気で言い争っていました。
      傍で聞いていて苦しくなるほどのケンカでした。
      でも私はただの一度も言い合ったことなし。腹も立てたことなし。
      でも両親は姉の方にはるかに信頼を置いていたのです。そんなものです。
      葛藤が生じるのも、肉親への愛情ゆえかもしれませんね。
      2017/06/25
    • hotaruさん
      nejidon さん、こんばんは。
      そうか…私は子供がいないので、親の立場から考えたことがなかったです。親御さんにも思ったことや苦しんだこと...
      nejidon さん、こんばんは。
      そうか…私は子供がいないので、親の立場から考えたことがなかったです。親御さんにも思ったことや苦しんだことがあったのかもしれませんね…。

      五人きょうだい!すごいですね。
      お姉様ばかりが争われたのも、それでも信頼されていたのも、個々人の相性とは別の次元で一生付き合う家族は、より複雑で難しいから葛藤も出てしまうってことなのかもしれませんね…。
      いろいろ考えさせられます…。
      私は兄と二人だけの兄妹ですが、争う程のエネルギーはないけど、二人とも、両親とは距離を保ってしかいられない…という状態で、これからどうすべきかなぁ、という感じで、この本を読んで色々考えてしまいました。
      2017/06/26
  • ■ネタバレがあります

    佐野さんが、お母様とご本人の一生に渡る関係を書き切った自伝的なエッセイ。
    佐野さんは、お母様からの愛情を感じない。ご自身も、お母様をはっきりと嫌っていて、その嫌っていること自体に強い自己嫌悪を感じている。お母様の晩年、老人施設に預けることになったが、それを佐野さんは、お金で母親を捨てたという、これも強い自己嫌悪を感じてしまう。
    佐野さん一家は戦前、北京に住み、戦争が終わってから、日本に引き揚げてくる。結局、お母様は7人の子供を産み、うち、3人の男の子を亡くしてしまう。話は、佐野さんの幼少時代から始まり、引き揚げ後の一家の生活ぶりを描く。その中に、自分と母親との関係を織り込みながら。描写は事細かく、繰り返しの多い執拗なものだ。
    母親を嫌っていることに自己嫌悪を感じている人間にとって、そういう風に母親のこと、母親との関係を事細かに描くことは、とても辛い作業だと思う。佐野さんが、自分を切り刻みながら書いていることを感じてしまう。
    しかし、最後に救いがやってくる。
    それは、施設のお母様の部屋で2人で子守唄を歌い母親の白い髪の頭をなでている時に、突然やってきた。
    少し長いけれども、この部分を引用する。

    そして思ってもいない言葉が出て来た。
    「ごめんね、母さん、ごめんね」
    号泣と云ってもよかった。
    「私悪い子だったね、ごめんね」
    母さんは、正気に戻ったのだろうか。
    「私の方こそごめんなさい。あんたが悪いんじゃないのよ」
    【中略】
    何十年も私の中でこりかたまっていた嫌悪感が、氷山にお湯をぶっかけた様にとけていった。湯気が果てしなく湧いてゆく様だった。

    本書には圧倒されたが、特にこの部分には言葉もなくなった。
    お母様との関係を考えることは、自分を見つめ直すことだと思う。それを考えながら、佐野さんは、自分自身の嫌なところ、とった行動に対する後悔などと向き合ってきたのだろう。
    だから、最後に、この救いを得ることができたのだと思う。

    • nejidonさん
      sagami246さん、良いレビューですねぇ!
      思い出してちょっとほろっとしてしまいました。
      一時期佐野さんと一緒に暮らしていた谷川俊太...
      sagami246さん、良いレビューですねぇ!
      思い出してちょっとほろっとしてしまいました。
      一時期佐野さんと一緒に暮らしていた谷川俊太郎さんが、佐野さんのことをこう言ってました。
      「どこにでもいるごく普通のお母さんなのに、どうして洋子さんはあんなに嫌うんだろう」
      傍からは見えないからこそ親子関係って難しいんでしょうね。
      憎んだまま亡くなってしまったら、どれほど後悔したことでしょう。
      この本は色々なひとにお勧めしてきました。
      sagami246さんにも読んでいただけて本当に良かったです!
      2020/10/06
    • sagami246さん
      nejidonさん、おはようございます。
      コメントありがとうございます。
      強烈な本でした。最後の和解の部分の記述は、佐野さんの感情に圧倒され...
      nejidonさん、おはようございます。
      コメントありがとうございます。
      強烈な本でした。最後の和解の部分の記述は、佐野さんの感情に圧倒されました。
      私の気持ちを中和する意味で、内田洋子さんの軽く洒落たエッセイを読み始めました。
      佐野さんも、内田さんも、nejidonさんにお勧めいただいた作家です。ありがとうございます。
      nejidonさんのレビューも、楽しみに読ませていただいています。
      2020/10/07
  • 時々胸が痛くなる直球な言葉たち。
    その度悲しく切なるのは私の中にも多少なりとも同じ感情があって、そう思った瞬間に罪悪感が襲ってくるからだろうか?
    母娘の関係は年齢や状況によってどんどん変わっていく。でも母は母で、娘は娘なんだと思う。

  • 母と娘の関係は難しいと言われる。
    母娘に限らず、肉親には、共に過ごした時間と、良くも悪くも、深い愛情や期待がある。
    簡単に好いたり嫌ったりできるものではない。親子とて他人だと分かっているけど、そうそう割り切れるものではない。

    著者も幼い頃から母親に虐待まがいの扱いを受け続け、母親が認知症を患うまてでは母親を嫌う気持ちを抱き続けていた。
    一方で、家族の記憶を反芻する中で、激動の時代を力強く生きて、物理的に家族を支え続けてきた母親への尊敬と同情の念を抱いていることも再認識する。
    ときに同じシーンの記憶を二度三度と繰り返し思い返しながら、許せない気持ちと許したい気持ちを行ったり来たりするのはとてもリアルだった。

    そして最後のベットで、ごめんなさいを伝えあう場面は思わず涙が出そうになった。
    認知症の影響とはいえ、心を溶かした状態で母の死を迎えられたのはとても幸福なことなんじゃないだろうか。



  •  佐野さん自身と母親との関係を描いた生々しいエッセイ。呆けた現在の母と、苦しみを与えた過去の母を行ったり来たりするような構成が、その切実さをいや増している。

     終戦後、5人の子を抱えて中国から引き揚げ、その後3人の子を亡くした母。さらに夫(佐野さんの父)も亡くなり、女手一つ、完璧な家事と仕事で4人の子供を大学まで行かせた母。一方、ヒステリックで子どもに虐待の様なこともし、見栄と自尊心をこじらせていた母。どちらも同じ母で、すべてを嫌いになれなかったからこそ、佐野さんはさんざん苦しめられたんだろうなと思う。

     問題を起こす家族は、物理的に離れること、これが一番なんだと思う。親を捨てたという思いはいつまでもつきまとうかもしれない。けど罪悪感と生きてゆく重い覚悟なんてせずに、「とりあえず離れる」という選択があってもよいのでは。佐野さんのように、いつか許せる日が来るかもしれないんだから。

     生後33日でコーヒーの様な血を鼻から出して死んだ赤ん坊や、脱腸していた近所の同級生の母親の描写など、戦後の貧しい日本にはキョウボウな匂いが漂っていたんだなあとしみじみ感じた。死が遠いものになり、ある意味「無菌状態」な今の日本で、「百万回生きたねこ」のような作品は生まれないのかもしれない。

  • 母親を憎んでいても、母親が呆けてから愛することができるようになることもある。
    呆けてから「ごめんなさい、ありがとう」を言えるようになった というのが印象的

  • 苦しい。
    自分の心の汚いところ、目を逸らしたいところを、
    これでもかと書こうとする佐野さんが痛くて。
    それでも読み進めようとする自分は、この作品の外側の
    人間なんだなと痛感します。

    拒絶しながらも母を恋う。
    自伝的なこの本から、佐野さんの強さ・優しさ・哀しさ
    全て、透けてみえる。

    神様、わたしはゆるされたのですか。
    神様にゆるされるより、自分にゆるされることがずっと難しいことだった。
    (本文中より)

    母に対する自責の念から書かれた、一文。
    肉親だからこそ、赦せなくて、それだからこそ赦される、
    感情の揺れが、心にぐーっと入り込んできて、
    最終章は、涙が止まらなかった。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「ずっと難しいことだった」
      率直な物言いの底にあるのが、こう言ったストイックさだと判る一文ですね。
      「ずっと難しいことだった」
      率直な物言いの底にあるのが、こう言ったストイックさだと判る一文ですね。
      2012/09/12
  • 母娘の不仲の話が読みたくて。大陸からの引き上げに始まる子ども時代はなかなか壮絶で、時代の違いもあって身近には感じられなかった。佐野さんは母が好きになれない自分を自覚しながら、それに罪悪感を覚えていて、なんならえらいなと思う。母のすごいところは素直に認め、自分の難点も素直に認める。公平な目線だ。時系列が前後し、同じ話が何度もくり返されるのだけ気になった。

  • こんな時代だったわねと思いながら読みました。自分の母のことをちょっとだけ思い出しました。反面教師にしてきた母のことを。

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著者プロフィール

1938年、北京生まれ。絵本作家。ベストセラー『100万回生きたねこ』のほか『おじさんのかさ』、『ねえ とうさん』(日本絵本賞/小学館児童出版文化賞)など多数の絵本をのこした。
主なエッセイ集に、『私はそうは思わない』、『ふつうがえらい』、『シズコさん』、『神も仏もありませぬ』(小林秀雄賞)、『死ぬ気まんまん』などがある。
2010年11月逝去。

「2021年 『佐野洋子とっておき作品集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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