浮浪児1945‐: 戦争が生んだ子供たち (新潮文庫)

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (345ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101325378

作品紹介・あらすじ

1945年の終戦直後、焦土と化した東京では、家も家族もなくした浮浪児が野に放り出されていた。その数、全国で 3 万以上。金もなければ食べ物もない。物乞い、窃盗、スリ……生きるためにあらゆることをした。時に野良犬を殺して食べ、握り飯一個と引き換えに体を売ってまで――。残された資料と当事者の証言から、元浮浪児の十字架を背負った者たちの人生を追う。戦後裏面史に切り込む問題作。

感想・レビュー・書評

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  • 太平洋戦争の戦災孤児。
    空襲などで焼け野原になり、家族を失った孤児たち。
    インタビューを通じて、その当時のことを洗い出したルポ。

    上野「ノガミ」に集まってくる孤児たち。
    寒さをしのぐため駅の地下道に集まり寝る場所もないなか過ごす。トイレに立ったら自分の場所はなくなる。

    上野の繁栄は、闇市。
    テキヤ、ヤクザ、愚連隊の暗躍。生活のためのパンパン。
    彼ら、彼女らは、戦災孤児にやさしい。
    孤児たちを手なづけたスリの親分は、金持ち。

    戦中よりも戦後がより厳しさを増す。
    戦場から兵士が戻ってきて人口は増えるのに、農作物などの生産は減っており、輸入も滞るなか、物資不足が発生。戦中に助けてくれた人々にも余裕がなくなっていく。

    そんな過酷な中、子どもだけで生きていくことの悲惨さ。
    戦争は戦場だけではなく、生活する弱者も徹底的に苦しめる。

    孤児院に保護されても、そこでは食糧不足している中、朝から晩までの労働をさせられる過酷な環境が多かったという。
    皆、施設に入らないように抜け出て、路上生活に戻る。

    今現在の概念から想像できる範囲を大きく超える状況。
    筆者がインタビューで掘り起こしたところに大きな価値を感じる。

    後半は、女手一つで運営した「愛児の家」を中心にインタビューされる。
    資金もない中、孤児たちのために奔走するママさん(石綿さたよ)。
    その信念に感服。
    子供たちがいまだに施設を運営している。

    元孤児のその後も多種多様。
    成功した者、アメリカに行ったもの、行方知らずのもの。

    元浮浪児へのインタビューの以下のフレーズが印象に残った。
    _________________
    「あの時代に上野で生きた子どもはみんな、生きることへのがむしゃらさを持っとったわ。俺みたいな浮浪児は弱かったから、そうやって生きていくしかなかった。それが良いことにもなれば、悪いことにもなるけど、学もなければ、体力もない俺たちにはそれしか生きる術がなかった」
    上羽の言う「がむしゃらさ」には様々な意味があるにちがいない。
    「若い人は、がむしゃらっていうのは格好悪いと思っとるのかもしれんね。でも、本当はそうじゃない。人が生きるっていうのはしんどいことなんやわ。しんどいことの連続。次から次にに大変なことばっかりやってくる。やで、人間はがむしゃらになんなきゃ、それを超えていくことができんの。その時に必要なのは、仲間への信頼や、へこたれない心なの。それが大切なんやわ」
    私は話を聞きながら、これまで元浮浪児たちから聞いた話を思い出していた。上野の町で、子どもたちは生きるためにあらゆることをしなければならなかった。仲間との助け合い、窃盗やスリといった犯罪、施設の大人たちへの抵抗、パンパンへの愛情……そこには良いことも悪いこともすべてひっくるめた、地べたを這いつくばるようなむき出しの人生があった。
    __________________

  • ここ数年、毎年8月には先の大戦に関する書籍を手にするようになりました。

    8月6日、そう1945年(昭和20年)の今日、まさに戦争末期の時代にアメリカが広島に世界で初めて原子爆弾を投下し約14万人とも言われる方々が亡くなられた悲しい歴史の日。

    そんな日に戦争が生んだ浮浪児達のドキュメンタリーを読み終えました。

    まさに戦争が生んだ惨劇。

    しかし、決して表舞台で語られる事のなかった影の歴史。

    私自身も著書と同年代で、両親も戦後生まれでもあり実体験として戦争の悲惨さや史実を直接的に聞いた事はありません。

    今となっては亡き祖父から話を聞いておきたかったという思いがありますが、その時代を生き残った人たちは必ずしも自ら語りたいと思う人ばかりでは無い事ぐらいは理解出来ます。

    私の祖父がどちらであったのかは、今となっては知りようもありませんが、直接聞くことが出来ない事実は変わりません。

    戦争により、親兄弟を亡くし、幼くして突如たった1人で生き抜いていかなければならない状況に放り出された多くの戦争孤児。

    住むところを失い、着る物も、食べる物も無い中で生きていかねばならない状態。

    私にはとてもでないが想像することすら出来ない悲しき史実。

    著書の作品は何冊か手にしてきましたが、その全てが闇に僅かなライトを当てて我々にも教えてくれる。

    それは日本人として、今を生きる人間として、決して目を背けてはならない事実。



    説明
    内容紹介
    残された資料と当事者の証言から、
    戦後史の闇に葬られた元浮浪児たちの過酷な人生を追う。

    1945年の終戦直後、焦土と化した東京では、家も家族もなくした浮浪児が野に放り出されていた。その数、全国で3万以上。金もなければ食べ物もない。物乞い、窃盗、スリ……生きるためにあらゆることをした。時に野良犬を殺して食べ、握り飯一個と引き換えに体を売ってまで――。
    残された資料と当事者の証言から、元浮浪児の十字架を背負った者たちの人生を追う。戦後裏面史に切り込む問題作。

    【目次】

    序章 遺書

    第一章 上野と飢餓
    東京大空襲/終戦と飢餓/闇市の幕開け/商売の開始/女の子

    第二章 弱肉強食
    上野の支配者たち/不良少年/パンパンとの交友/列島流浪

    第三章 上野の浄化作戦
    狩り込み/闇市からマーケットへ/パンパン狩り/子供たちの行方

    第四章 孤児院
    愛児の家/施設に入る/日常生活/教育と仕事/子供たちの闇/社会へ

    第五章 六十余年の後
    現在の上野にて/億万長者/僕って誰?/初孫/生きることの本質/人間としての芯

    あとがき
    主要参考文献
    解説:石綿裕

    石井光太
    1977(昭和52)年、東京生れ。日本大学芸術学部文芸学科卒業。国内外の文化、歴史、医療などをテーマに取材、執筆活動を行っている。著書に『物乞う仏陀』『神の棄てた裸体』『絶対貧困』『レンタルチャイルド』『ルポ 餓死現場で生きる』『遺体』『蛍の森』『浮浪児1945-』『「鬼畜」の家―わが子を殺す親たち』などがある。


    内容(「BOOK」データベースより)
    1945年の終戦直後、焦土と化した東京では、家も家族もなくした浮浪児が野に放り出されていた。その数、全国で3万以上。金もなければ食べ物もない。物乞い、窃盗、スリ…生きるためにあらゆることをした。時に野良犬を殺して食べ、握り飯一個と引き換えに体を売ってまで―。残された資料と当事者の証言から、元浮浪児の十字架を背負った者たちの人生を追う。戦後裏面史に切り込む問題作。
    著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
    石井/光太
    1977(昭和52)年、東京生れ。日本大学芸術学部文芸学科卒業。国内外の文化、歴史、医療などをテーマに取材、執筆活動を行っている(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

  • 石井光太『浮浪児1945‐ 戦争が生んだ子供たち』新潮文庫。

    1945年の終戦直後、焦土と化した東京にあふれ出た浮浪児たちの軌跡を追ったノンフィクション。日本の暗黒史とも言うべき、暗澹たる時代に真っ向から対峙し、当時の浮浪児たちの姿を描き切った取材力と筆力に脱帽。

    読みながら歴史は繰り返すという言葉の通り、我々も近い将来、終戦直後の浮浪児たちと同じように、毎日毎日を衣食住の心配をしながらやっと暮らすことになりかねないのではないかと思った。

    終戦直後は政府や行政の混乱と敗戦による経済的な影響などから、こうした事態に陥るのはやむを得ないと思う部分もあるが、現在の政府や行政のやり方を見ている限り、我々は社会から切り捨てられ、あの時代の浮浪児たちと同じような状況を迎えるのではないかと不安になる。

  • 戦後、多くの孤児はどうやって生き延びたんだろう、という疑問から読み始めた。
    調査対象が上野周辺で東京の限定された地域であることから、わたしの疑問はすべては解決しなかったけれど、東京で子供たちがどうしぶとく生きていたのか、なぜ孤児院から脱走する子が多かったかなど、深く理解できた。
    せっかく生き延びて親と再会しても、すでに1度自立(というのが的確かわからないけれど)してしまった子供は、他人になってしまった親と一緒にもう住めないというのが印象深かった。
    石井さんの文章は読みやすいので、ほかの作品も読んでみたい。

  •  年端もいかぬ小学生、恐らく10歳にもならない子が煙草を吸っている。
     そんな衝撃的な表紙とタイトルに惹かれ、購入。一気に読みました。

     私も、1970年代生まれの筆者と同世代。戦後世代です。生まれた時から戦争の雰囲気は周囲にありませんでした。学校や親から、戦争はよくないとか、食料の大切さをアフリカの難民等を引き合いに出して諭されてもピンときませんでした。頭では理解しますが実感・共感できない。

     今、親となり子供を育てるにあたり、平和の有難みや食べ物の大切さを、空疎ではない言葉で語ろうとした時、このような本を読ませたら実にリアリティをもって子供に伝わるのではないかと思いました。それくらいビビッドに当時の浮浪児たちの厳しい境遇が描かれています。

     そこには犯罪があり、売春があり、強盗があり、飢餓があり、死が満ち溢れていました。米軍がいて、テキヤがいて、ヤクザがいて、在日外国人グループがいました。今の尺度や道徳観でいう”良くないこと”にも手を染めなければ生きていけない状況がそこにはありました。ただ、それを批判することは簡単ではありません。彼らも生きるためにそうしていたからです。そうしなければ死ぬのです。

     当書は、戦後混乱期にあった日本で、東京は上野を根城にしていた浮浪児たちの体験を聞き込み、これを淡々と記録に残しています。特段の道徳的教訓を引き出すわけでもなく、戦争を大表に批判するわけでもありません。当時浮浪児として蔑まれた子供たち、そして成長し老いた彼らの現在の心境、彼らを支え囲んだ人々のインタビューです。

     そうした様子が淡々と映し出されれば映し出されるほど、彼らの境遇の厳しさを感じずにはいられませんでした。同じ日本人として彼らに共感し憐憫の情を持たざるを得ませんでした。他方でこうした悲惨な境遇は今も世界のどこまでいまだに起きており、援助の手が差し伸べられるのを待っている子供たちがいるはずだと思います。

     人は必ず死にます。それでも、親を突然失う悲しさ、子を一瞬にして失う悲惨さ、こうした悲しみは容易に想像がつきます。こうした悲しみが少しでもこの世から消えてなくなることを祈ってやみません。

  • この時の孤児がシワの刻まれたお爺さんお婆さんになっているのかと思うと不思議でならない。
    戦争の実態を知れば知るほど自分はわがままで甘い人間だなとつくづく思い知らされた。毎日を生き続けるってこんなにもしんどいものなのかと当たり前のことを思い知らされた。与えられた命震わせながらがむしゃらに生きなきゃな。

  • 朝ドラのなつぞらを思いながら読みました。社会の貧しさやひずみの一番の犠牲になるのは、弱い存在である子供たち。

  • 石井光太氏の書かれるノンフィクションは紛いも無い。
    常に取材する人の側に寄り添うような
    一切の感情を交えない簡潔な文章が好きだ。

    第二次大戦が落とした様々な影をメディアが扱い
    語り継がれていく中で、何も無かったかのように
    葬り去られるのが、戦後の『浮浪児』について。
    空襲によって、家を無くし、家族を無くし
    1人で生きていくこととなった浮浪児たち。
    わずか5歳から12歳ぐらいまでの子どもたち。

    養護施設『愛児の家』の裕さんが語られた
    戦後、浮浪児となり施設に入った子どもと
    現在、施設に入っている子どもの強さの違い。

    がむしゃらという尊い言葉。生き方。

  • 単行本が出たときから読もうか読むまいかずーっと迷っていた一冊。
    ずっしり重たいし、つらい描写もあるけど、やっぱり読んでよかった。
    この国に戦争がもたらした現実を知っている人が残っているうちに、たくさんの本がまとめられることを願います。

  • 戦後の福祉を研究する人間として読んでて良かった本です。浮浪児、パンパンと呼ばれた売春婦、障害児。すべてが戦後にうごめいていて、それらは助け合っていたこと。いずれも戦後の回復過程で、差別されクリアランスすべき対象も捉えられたこと。それらを有機的に理解するために必読だと思います。

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著者プロフィール

1977(昭和52)年、東京生れ。国内外の文化、歴史、医療などをテーマに取材、執筆活動を行っている。ノンフィクション作品に『物乞う仏陀』『神の棄てた裸体』『絶対貧困』『遺体』『浮浪児1945-』『「鬼畜」の家』『43回の殺意』『本当の貧困の話をしよう』『こどもホスピスの奇跡』など多数。また、小説や児童書も手掛けている。

「2022年 『ルポ 自助2020-』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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