蛍の森 (新潮文庫 い 99-6)

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (550ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101325361

作品紹介・あらすじ

ある者は朝食を用意している最中に或いは風呂を沸かしたまま、忽然と姿を消した。四国山間部の集落で発生した老人の連続失踪事件。重要参考人となった父に真相を質すべく現地に赴いた医師は、村人が隠蔽する陰惨な事件に辿り着く。理不尽な差別が横行した60年前の狂気が、恨みを増幅して暴れ出す――。ハンセン病差別の闇をえぐる慟哭の長編小説。

感想・レビュー・書評

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  • ハンセン病患者の辛い歴史はニュースなどで知っている気になっていたけれどフィクションとは言え、この小説は衝撃的だった。かつて四国遍路に出かけ弘法大師のおられた久遠の昔には思いを馳せたけれど、初めて知った裏遍路道なるもの。そしてそこでは病で命を果てる人々、悲惨な事件で闇から闇に葬られていった人々の存在があったかもしれない。
    (らい予防法)改廃のニュースが流れたのは21世紀に入ってからではなかったか?私達はもっと関心を持つべきだった。

  • まずは、石井光太が社会派ミステリー小説を書いたことに驚いたのだが、読んでみると、ノンフィクション以上に強いメッセージ性があり、非常に読み応えがあった。

    四国の山間部で発生した老人の連続失踪事件に端を発した物語は意外な展開を見せていき、心が抉られるような悲惨な過去が描かれていく。そして、ラストの畳み掛けるような驚愕と感動の渦。

    さすがはノンフィクション作家だけのことはあり、ハンセン病差別の闇という難しいテーマを下地に本当に見事なミステリー小説を描いたものだ。

  • 9割くらい読んだ。ハンセン病差別の闇を探る長編、よく出来ていたのだが、550ページは長すぎて挫折。

  • 一気に読み終えた。
    初めて読んだ作者の本だけど、書いてある内容に引き込まれたし、文章も読みやすかった。
    とても、深く、重いテーマで読んでいてつらくなる所もしばしばあったけど、これは読んで良かったと思える本でした。

    主人公は医師の男性。
    彼は父親に殺人容疑がかかった事により、仕事と家庭をいっぺんに失った。
    父は本当に犯罪を犯したのか、その事件を追う現在の話と、父親の過去が語られる話が入れ替わり立ち替り進んでいく。
    その中で見えてきたのは60年ほど前にあった、らい病患者への壮絶な差別と暴力だった。

    昔、四国八十八か所遍路をする人々の中には犯罪者や訳ありの人々がいた。
    その中に、迫害され、集落から追い出された、らい病の人々がいて、彼らは帰る家もなく、ずっとお遍路を続けていた。
    そして、そんな、らい病を患うお遍路さんは「ヘンド」という蔑称で呼ばれていた。
    そんな事はこの本で初めて知った。
    お遍路さんというと、信仰をしている人々だけがする、というイメージはなく、むしろ暗く、過酷なものというイメージはあったけれど、そんな中にこんな人々がいたなんて・・・。
    それでも、当時の療養所に入るよりはマシだったというんだから、どれだけ療養所とは非人道的な所だったのか・・・と思う。

    最近、私は小説の暴行シーンとか、虐待シーンとかに食傷気味になっていたが、この本では読んでいて本当に苦しくなって痛みを感じた。
    これを読むと人間はどこまで残酷になれるんだろう・・・と思う。
    ・・・というか、ここに出てくる、笑いながら女子供に暴行したり、らい病の人々を平気で殺すのは人間なんかじゃないと思う。
    見た目だけ人間の形をした獣。
    彼らの暴力の矛先は常に自分より弱い者に向かう。
    どこまでも徹底的に。
    罪悪感の欠片もなく。

    彼らのしている事も発する言葉も言葉遣いも全てが下品で暴力的で、読んでいるだけで虫唾が走るぐらい醜悪だった。
    そんな中、ホッとできたのは、主人公の男性の父親が少年だった頃、そして彼を救った少女の言葉遣い。
    彼らはまともな教育も受けてなくて、貧しい劣悪な環境で生きてきた訳だけど、言葉遣いが優し気で可愛らしい。
    実際はそうならないかもしれないけど、そこに環境に左右されない人間性とか知性みたいなのを感じて読んでいて心がゆるんだ。

    主人公の父親の大事な人々は、ずっと暗い闇の中、泥の中を生きてきた。
    そんな中で、見えるという光は本当に、本当に微かなもの。
    そうか。
    これに幸せを感じるのか。
    これさえも幸せなのか。
    その生き方を見てグッときた。

    こういう話だとタイトルの蛍をやたら場面で出すというのがあるけど、この本ではほんのちょっと触れているだけ。
    そのほんのちょっとが、より一層効果的だった。
    ちゃんと私にも見えた。

  • 家や故郷を追われたハンセン病の人たちが行く当てもなく四国遍路を延々と続ける過去があったことは知っていた。しかしそれは一般の遍路道ではない。カッタイと呼ばれ蔑まれながら人目につかないように移動したり、死体の処理など人々が嫌がる裏方仕事をすることでしのいでいかなければならなかったとは。信仰や発願成就の意味合い以上に、どこにも行けず堂々巡りをしていた人たちが、ほんの最近ともいえる昭和30年代くらいまで存在していた。
    物語はハンセン病の人たちが受けた苦しみ、不条理を色濃く描き出す。現代の失踪・殺人事件に過去が絡んでくるミステリー小説の体だが、ミステリーの色よりハンセン病の人たちが苦しむ姿にうまく焦点が当たっている。
    そんななか、主人公の父が幼い頃過ごしたカッタイ寺での日々は浄土のような桃源郷のような別世界の様相。そして山奥の集落の異常さも印象に残る。小さな共同体を平穏に営むために目をつぶっている異常の数々。民俗学的な視点からも興味深いありようが描かれる。嘘のような現実がつい最近まであったという驚き。
    一方で、ハンセン病の人々以上に不条理を感じたのが男と女のあり方。ハンセン病患者として社会から低く見られている患者たちのなかで、さらに男たちが女を低くみたり慰み者にする。著者が意図しているかはわからないけれど、男たちのうっぷんの晴らしどころとしての性欲の発露、それが女性であったりいたいけなものに向けられる姿に、気分が悪くなる、怒りがわいてくる、悲しくなる。
    著者はドキュメンタリーやルポルタージュ作家として高名。当初はノンフィクションとしてまとめようとしていたが、その限界や関係者の心情に配慮することでこういう小説としてまとまった。取材したなかには真実として表すには難しいものがあったということ。事実は小説より奇なりということか。

  • 山奥の集落で起きた老人たちの失踪事件。養父の殺人未遂で服役経験のある父が関わっているのか、60年前の悲劇との関係は。
    ハンセン病患者が隔離され、差別されていた時代の患者たちの苦しみや悲しみが重い。伝染力の強い病気だと思われていたことや患者の症状が外見に出やすいこと、国の政策であったことから、本当にどれだけ大変だっただろうと思うと辛い気持ちになる。話自体はフィクションとはいえ、同じ過ちは繰り返さないようにしないとと思う。
    ミステリとしては、殺人のくだりがちょっと安易すぎる気もするが、最後のサプライズは何だか府に落ちて、よかった。ミステリ好きだけでなく、ハンセン病について知りたい人にも読んでもらいたい本。

  •  ハンセン病差別の闇について書かれた小説である。石井光太は迫害されるマイノリティーのノンフィクション作家という認識から、さほどの期待をせずに読みすすめる。文末には「すべてはフィクションである」という但し書きが添えられていた。

     そうは言っても、あの石井光太が元ネタの取材なしにこれだけリアリティのある小説を書いたとは到底思えない、それほど弱者(ハンセン病患者)への迫害の描写が真実を語らせる。住職の言葉が印象的だ「感情をもって生きていけることがどれだけ幸せで尊いことか・・・それはお前の宝なのだ・・・」(P297)

  • 裏表紙に書いてある物語の概要を見て、妻がこういったもの好きかなと購入。軽い気持ちで読み始めた本作。

    ハンセン病を題材にして描かれているフィクションということだが、作中の事実があったかのような描かれ方であり、ノンフィクションのように感じた。物語のどこにも読み手である自分を見つけることができなかったからかもしれないかな。
    ただ、プロローグとエピローグで話が纏められていたので、読み終わりはとてもスッキリしていたなと感じる。

    内容としては、[とても勉強になった]と言えば薄っぺらく感じるかもしれないが、やはり勉強になったと言わざるを得ない。
    ハンセン病や、それに纏わるその当時の日本。今の日本から考えると嫌悪感しか沸いてこないし、蓋をしたくなるような事柄ばかりだった。適した言葉が分からないが、人が分別されていたように思う。

    何よりも当時から70年も経ってないという事に驚かされる。戦争もそうだけど。
    日本は急激に豊かになって、水洗トイレのように汚いものから目を背けるようになったのかもしれない。
    だから、こういった歴史も知らなければ、昔を知ろうとする人も多くない。自分の生まれ育った地域の歴史すら知らない人も少なくないと思う。しっかりと日本人として学ばなきゃいけないな。

    ハンセン病を通じて、少し前の日本を垣間見れる良著。
    多くの人に見てもらいたい。

  • 2018.03.01読了
    最後は泣けました。涙が出るのではなく心が泣く感じです。本当に悲しい。
    60年前なんてほんとにほんとに最近なのです。
    戦後ですし、信じられない思いで読み進めました。
    人間は残酷です。全員ではありませんが昔も今も何ら変わらない。究極のイジメ。
    自分たちと見かけが違う、出自が違う、病気である。
    そうやって何か理由をつけて誰かを人身御供に仕立て上げる。
    人間は多分すごく不安でそれを紛らわすために他者を傷つけるのでしょうか?しかも1人じゃできずに同じように不安な仲間を募って大勢でやる。
    たくさんの大人や子供がこういう作品を読んで考えるべきなんですね、自分の心の中に不安の悪魔が潜んでいるのかいないのかを。私自身も含めて。

  • フィクションではあるが内容は数多の取材による真実の結晶である。昨今、日本人は素晴らしいというTV番組が多い。誇らしい気持ちもある(過熱気味で気味悪さも感じているが・・・)。そんな日本人も鬼になるし、鬼畜の所業の過去がある。現代を生きる僕らに出来ることは、過去を知り、絶対に鬼にならないという固い決意。ぜひ本書を手に取ってほしいと思う。
    あらすじ(背表紙より)
    ある者は朝食を用意している最中に、或いは風呂を沸かしたまま、忽然と姿を消した。四国山間部の集落で発生した老人の連続失踪事件。重要参考人となった父に真相を質すべく現地に赴いた医師は、村人が隠蔽する陰惨な事件に辿り着く。奇妙な風習に囚われた村で起る凶事。理不尽な差別が横行した60年前の狂気が、恨みを増幅して暴れ出す―。ハンセン病差別の闇を抉る慟哭の長編小説。

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著者プロフィール

1977(昭和52)年、東京生れ。国内外の文化、歴史、医療などをテーマに取材、執筆活動を行っている。ノンフィクション作品に『物乞う仏陀』『神の棄てた裸体』『絶対貧困』『遺体』『浮浪児1945-』『「鬼畜」の家』『43回の殺意』『本当の貧困の話をしよう』『こどもホスピスの奇跡』など多数。また、小説や児童書も手掛けている。

「2022年 『ルポ 自助2020-』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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