カデナ (新潮文庫 い 41-11)

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (574ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101318219

感想・レビュー・書評

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  • 大学生の頃に好きだったのに、一度離れてからはなかなか再会できずにいた作家。
    約10年前に「アトミック・ボックス」を読んで、意外と娯楽小説も行けるんじゃんと少し驚いた。
    それからまた縁遠くなってしまっていたが、せっかく縁のある土地の小説なのだからと、まさにコザで読んだ。
    で、やっぱり読んでよかった。

    まずは時代背景。
    1968年夏……まだ復帰前で、ベトナム戦争の時代。
    1968年11月19日のB52大爆発事故や、
    1970年12月20日のコザ暴動も描かれる。
    (沖縄県の日本復帰は、1972年5月15日)

    それらのど真ん中ではなく、傍流にいる人々の視点で語られる。
    みなマージナルな状況にある人で、しかもそれを恥じたり鬱屈したりしない、割とカラッとした造詣で、これもよかった。
    もちろん地獄を体験している、一皮むけば……なところもあるのだけれど。
    個人的には嘉手苅朝栄の、自分と世界に線を引いている生き方や姿勢が、とても好もしく感じられた。

    東大全共闘(1969年)や
    三島由紀夫の事件(1970年)や
    連合赤軍のあさま山荘事件(1972年)……、あるいは、
    高野悦子「ニ十歳の原点」(1969年6月)、
    森田童子、
    大江健三郎とか中上健次の若書き「日本語について」、
    などなど思い出し、
    本作がハブになって立体化してくれた。



    ■007 フリーダ=ジェイン
    ■038 フリーダ=ジェイン
    ■074 嘉手苅朝栄(かでかるちょーえー)
    ■106 嘉手苅朝栄
    ■141 フリーダ=ジェイン
    ■173 フリーダ=ジェイン
    ■208 タカ
    ■243 タカ
    ■277 タカ
    ■301 フリーダ=ジェイン
    ■334 嘉手苅朝栄
    ■364 タカ
    ■401 フリーダ=ジェイン
    ■434 タカ
    ■466 フリーダ=ジェイン
    ■502 タカ
    ■536 嘉手苅朝栄
    ◇解説 佐々木譲

  • ものすごくおもしろかった、
    この小説、もっともっと評判になってもいいのに! いま読まれるべき本ではー?

    沖縄の基地だし、ベトナム戦争だし、でもっと硬くて小難しい暗い感じかと思っていたら、まったく違って、すごく読みやすくてエンターテイメントで、青春モノだし恋愛モノだった。
    沖縄の人々や生活、米軍基地、アメリカの軍人、戦争、そういうなんとなく知っているというレベルだったいろいろなことを、情報じゃなくて、身近なことという感じで小説をとおして知ることができるというか。
    ごく普通の人々がスパイ活動にかかわって脱走兵を逃がす、という小説の主軸となる話も、純粋にサスペンスフルだったし。
    あらためて、池澤夏樹さんて、ほかの著作を読んでわかっているはずなんだけど、人々を、女性や若者を描くのがうまいなあと。登場人物それぞれの語りで話がすすむのだけれど、その語り口調が読みやすいうえにそれぞれ「らしく」(らしい、とかいうのも失礼な感じだけど)てすばらしい。
    そして、声高になにかを主張するんじゃなくて、エンターテイメントな小説という形にして楽しませつつ、いろいろ考えさせるところがすばらしい。
    脱走兵を逃がす組織について、一致団結して、とかではなく、ひとりひとりが自分で考えてゆるく集まる、やめるのも自由、っていう考えにはなんだか感動すらした。

  • 小説としての出来はそんなに良いとは思わない。池澤夏樹はもっともっと良い小説をほかに書いている。だけど、わたしはこれをコザで読んだ。コザ十字路を歩いた日に、プラザ・ハウスをバスの中から眺めた日に、米軍基地で機械工として働くおっちゃんと話した日に、沖縄民謡を三線で弾き語りしてもらった日に、この小説を読んでいた。体験知と、小説から得たものが自分のなかで一体化していく実感を生々しく感じながら読めたこと。この小説を読むうえで最上の読み方だったと思います。一度あたまに入れた知識を、歩いて食べて話して聞いて得た体験を、大事にかかえて考えていかなければならない。

  • タイトルのカデナは「嘉手納」、現在も米軍基地がある町。終戦からベトナム戦争の期間、戦争や差別を目の当たりにする市井の人々が、危険な反抗に取り組む状況が展開する。池澤夏樹さんらしい、ちょっと遠い世界の出来事のような進め方なのに、なぜか近所の人の話を聞いているような感覚。国籍、家族、恋人や友人、信仰など、何か一つだけに立脚している人はなく、それが主義主張を複雑にすることになるが、どこかでつながることもある訳で、それが救いなのかと思う。

  • 「宝島」が評判になって、大いに喜んでいますが、これもあります。ネタバレとかも含めて、ブログに書きました。覗いてみてください。
    https://plaza.rakuten.co.jp/simakumakun/diary/201905150000/

  • ベトナム戦争中の沖縄、嘉手納。
    そこには、米軍基地があり、そこには、米軍で働くフィリピンとアメリカのハーフ・フリーダ、米軍基地にも出入りするロックバンドのドラマー・タカ、太平洋戦争時のサイパンで家族をなくし一人で戦後の沖縄に暮らした朝栄、がいた。

    ある日、朝栄はサイパンでの知り合いであるベトナム人安南さんに出会い、ベトナムに住む人々のためにスパイをしてみないかと持ちかけられる。

    それは米軍の爆撃計画を入手し、ベトナムへ知らせると言うものだった...


    戦時中の沖縄についての小説はいくつか読んだが、戦後の米軍基地ができ、そこから各地の戦地へ出撃もする沖縄については、知らないことが多かった。
    戦争は全体ではなく、一人一人の行為や恐怖、悲しみに繋がってしまう。そんな状況でどうやって生きていくかが大切。

  • ベトナム戦争末期の沖縄を舞台に米軍基地内と外を結ぶスパイ組織とともに日常を送る見ず知らずの4名の物語。沖縄現代史とともに戦争と平和の本質を問う。メッセージ性の強い青春小説といった風情。

  • 池澤夏樹氏の中で初めて読んだ作品。
    読み応えがあり、スピード感もあって、最後まで飽きさせなかった。

  • 舞台は、1960年代後半、B52が配備された沖縄。米軍高官の秘書のフィリピン人女性、模型屋の店主、そしてドラマーの少年。アメリカ施政権下の沖縄で、それぞれが戦う”戦争”。それぞれが遠い彼の国を思い繫ぐそれぞれの闘い。そして最後に訪れた出来事――。
    置かれた環境に安住しながらも抱えるジレンマと、それに合抗い生きる術を見つけた彼らの闘い。当時の沖縄に、静かながらも、でも確かに存在したと思う意識感情。自分がその時代を生きてたら、どう生きてただろうか。そして変わらぬ沖縄。どう生きるか、は不変のテーマだと感じた本。ありがとう!

  • 限りなく☆5に近い☆4。池澤夏樹のある方面における最高傑作だと思う。

    沖縄人から語られた話というのは読んだことがない。でも、沖縄人の感覚は沖縄人にしか分からないし、本土の人間はそれを知る術がない。伝え聞くことはできるが、感じることはできない。なぜなら、自分たちは沖縄人じゃないから。そういう意味ではすごく濃密に沖縄の目線で書かれた話だった。

    昨年、沖縄に行った。きっかけはcoyoteの沖縄号と探検バクモンとCocco。

    coyoteは、沖縄とアメリカの関係を深く切り取った上、沖縄人のアイデンティティにも切り込んでいた。

    探検バクモンでは、嘉手納基地の中にあるアメリカタウンを取材していた。小波津という沖縄の芸人がこんなことを言っていた。「沖縄人は基地をなくしたいと思ってる。でも、沖縄は米軍による収入が多くを占めていて、アメリカは生活の中にある。基地をなくしたいと思いながらも、若者は基地の中で働くことをステータスのように感じることもある。アメリカはすぐ傍にあって、沖縄人はいつも矛盾の中に生きている」

    あとはCocco。慰霊の日に出演したNews23での筑紫哲也との会談や、めざましテレビのインタビュー。「沖縄人はいつも自分たちの願いは叶わないものだと思ってきた。ずーっとなんくるないさと言い続けてきた。でも、基地移設の話が挙がったとき、いままでなんくるないさーと言い続けていた沖縄人が、初めて自分たちの願いが叶うかもしれないってことを信じた。でも、最後にはやっぱりダメだった。」

    ずっと負け続けてきた沖縄。自己矛盾の沖縄。アメリカの沖縄。そんな沖縄に触れたくて、去年生まれて初めて沖縄に行った。

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著者プロフィール

1945年生まれ。作家・詩人。88年『スティル・ライフ』で芥川賞、93年『マシアス・ギリの失脚』で谷崎潤一郎賞、2010年「池澤夏樹=個人編集 世界文学全集」で毎日出版文化賞、11年朝日賞、ほか多数受賞。他の著書に『カデナ』『砂浜に坐り込んだ船』『キトラ・ボックス』など。

「2020年 『【一括購入特典つき】池澤夏樹=個人編集 日本文学全集【全30巻】』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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