猫を拾いに (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101292441

作品紹介・あらすじ

誕生日の夜、プレーリードッグや地球外生物が集い、老婦人は可愛い息子の将来を案じた日々を懐かしむ。年寄りだらけになった日本では誰もが贈り物のアイデアに心悩ませ、愛を語る掌サイズのおじさんの頭上に しぐれが降りそそぐ。不思議な人々と気になる恋。不機嫌上機嫌の風にあおられながら、それでも手に手をとって、つるつるごつごつ恋の悪路に素足でふみこむ女たちを慈しむ21篇。

感想・レビュー・書評

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  • 川上さんならではの不可思議な世界と、レンアイの話を、一つ一つ丁寧に読むのが楽しかった。
    恋人の弟、丹二さんを好きになってしまった衣世の、せつない恋の話 「ぞうげ色で、つめたくて」
    地球外生物が出てくる不思議な話 「誕生日の夜」
    修三の母の心の内を綴った「はにわ」
    気持ちが動くたびに、カウンター機をカチカチと押している女の子の話 「真面目な二人」等々、21篇が収められている。
    それぞれ深く考えさせられたり、最後まで飽きることなく楽しめました。
    川上さんの掌小説、好きです。

  • 試験前で読書を控えていた先月、ちまちま家にある"センセイの鞄"を読み、川上弘美欲が高まってしまった。

    21の短編から成るこちらの作品は、どれも川上さん節が強く、みょうちくりんで魅力的な小説ばかりで心が満たされた…!
    このくらいなら書けそうだと思わせてくる。だけど、絶対に書けないユニークな表現や世界観たち。高等テクや…!


    お気に入りは"誕生日の夜"。
    いつも通りナナの部屋で、のぞみとナナにお祝いされる誕生日。にぎやかな誕生日にするため、知り合いや、知りあいの知りあいもどんどん招待した結果、昌子たちや、のぞみの恋人の国枝くんとその友達、見知らぬおばあさんとおじいさん、タヌキのつがいと鶴にプレーリードッグ、そして地球外生命体のゆむ°て、どんどん参加者が増えていくカオスなのに穏やかで楽しそうな誕生日会。


    出来すぎている息子の、性的嗜好だけが母である"私"を悩ませる"はにわ"も素敵。

    交通調査で使うカウンター機で感情が揺さぶられた数を数える同級生に出会う"真面目な二人"。

    女の阿部さんと男の阿部さんが出てくる"ラッキーカラーは黄"。

    どれも最高にふにゃふにゃしていて、優しい夢みたいな物語で大好き。

  • 随分久しぶりに川上弘美さんの小説を読みました。
    10年ほど前にも好んで読んでいた時期があったのですが、安心感のある文章と不思議な雰囲気のストーリーに再びはまりそうです。

    本書に収められた21編の短編、どれも身体の芯の部分をくすぐられたような、さわさわとした感触を残します。
    …が、1編だけ、「なんだこれは」という鳥肌の立つ読後感のあった「ハイム鯖」の印象強し。
    1回読み終えて「え?」と思い、慌ててもう1度読み直してやっぱり「え?え?」となる、不気味さの配分が絶妙です。

    解説はタレントの壇蜜さん。
    「恋をすると、誰でも少し不幸になる」という川上さんの物語が、壇蜜さんによってより艶っぽくなる感じが素敵でした。

  • 川上弘美さんの本は6冊目。
    以前、こちらでも書いたことがありますが、「川上弘美の文章は美しい」
    どこかでどなたかが書いていたこの一文がずっと頭の片隅に。
    実際に読んでみると、川上さんの文章はとても優しく、心地よい。
    お気に入りは『これでよろしくて』

    この【猫を拾いに】はちょっと不思議な短編集。
    時々、あたまのなかに”?????”の嵐が巻き起こる物語もあるけれど (笑)

  • 祝文庫化!

    新潮社のPR 未掲載
    http://www.shinchosha.co.jp/book/129244/

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    川上マジックがいっぱいの最新短篇集はたとえばこんな話が21篇も収められている。
    《好きになった時には、好きは永遠につづくはずだったのに、いつの間にか恋はさめ、ひとときも離れたくなかった男はただのかさばる存在になり、そのたびにわたしは率直に、前向きに、「別れよう」と宣言した。》――〈わたし〉の新しい旅立ちを描く「旅は、無料」。
         *
    《日本の人口が減りはじめたのは五十年ほど前のことだ。それまでにもすでに少子高齢化が進み、生殖可能な人口の絶対数が減ってしまっていたので、減りかたは急激だった。》
    ――若い人が激減した近未来の日本を描くSF風味の「猫を拾いに」。
         *
    《私の人生で、最大の悔恨。それは、息子がゲイになってしまった、ということなのである。》――川上ファンならおなじみの〈ゲイの修三くん〉の母が登場する「はにわ」。
         *
    《結婚なんてさ、脳天がしびれる感じでばかになってなきゃ、できないことだよ。きちんと考え始めちゃったら、怖くてできないでしょ。》――優しくって顔も声もいい、清潔で趣味もいい。そんな言うことなしの恋人と別れた〈あたし〉の心の底を描いた「ホットココアにチョコレート」。
         *
    《そのお店はとても不思議なお店なのだと桐谷さんは言う。お店に入れるのは、恋の悩みを持つ人間だけ。悩みをうちあけると、店主が必ず解決してくれる。》――日常とファンタジーが入り混じる「まっさおな部屋」。
         *
    《マルイさんは、僕の両のてのひらをあわせた上に乗っかってしまうくらい小さいけれど、れっきとした人間である。》――少年と〈小さい人〉の交流を描く「ミンミン」。
         *
    《たぬきのつがいと鶴が三羽、くだをまきながらビールを飲んでいる。キッチンでは地球外生物らしき浅葱色のぼやけた存在が、よごれものをていねいに洗っていた。》――わたしの誕生日のパーティにはいろんな人がやってきた。地球外生物も現われる「誕生日の夜」。
         *
    《なにしろ、京都は怨霊のメッカだから、と新田義雄は言うのだ》――あたしの同僚の新田は霊能者らしい。信長の怨霊とふたりの絶叫がこだまする「信長、よーじや、阿闍梨餅」。 

    技巧をこらしたヴァラエティ豊かな傑作が21篇――贅沢で楽しい短篇小説集。
    https://magazineworld.jp/books/paper/2619/

  • 「地球上の生活には金がかかるかもしれないけど、太陽のまわりを年に一周する旅が無料でついてくる、って」(p.187)

    川上ワールドにとっぷり浸かれる21篇。
    肉体は太陽のまわりを旅しながら、精神は本のなかへと旅に出る。同時に2つの旅ができるのは、読書家の特権だと思った。
    一番好きだったのは、「誕生日の夜」の、のぞみの台詞。「2000年は20世紀だったわけだから、31歳になってはじめて20代の世紀が終わる」という言葉が、ちょうど先日31歳になったばかりの自分にがつんと響いた。悦子に倣って、わたしも何かをひとつ、新しくしてみようかな。

  • つかめそうで、つかめない。それが心地良いと思う。
    現実と非現実の間を描くのが本当に巧みだと感じる。
    どちらかと言えば、今までも、これからも、この短編に出てくるような不思議なことが、私に起きることはないだろうけど、似たようなやりとりはするんだろうなっていう、身近な感じというか、親近感がある。
    川上弘美さんの作品は、いつも夢の中みたいで、目が覚めたら夢のことなんか忘れてしまうみたいに、読み終わったら詳細に思い出せない。でも、夢で見た一場面とか、言葉とか、小さな要素は頭の片隅にちゃんと保管されていて、ふとした時に思い出す。これを思い出したときがまた不思議な感覚になって、読んで良かったなあとしみじみ思う。
    表題作は、まさかのディストピアで面白かった。こういう世界も書く人だったのか!
    私もどこかでカウンター機を見つけたら、物語の2人みたいに持ち歩いてカウントしたいなと思った。

    個人的に、解説の壇蜜さんの文章が面白くてとても好みで、壇蜜さんの本も読んでみたいなと思った。解説も読む価値大アリです。

  • 詩のようなちょっと余白のある川上弘美さんの文章が相当好きです。
    しかも不思議なお話が多いところも個人的にとても好みです。
    何度読んでもまた新たな感想が生まれそう。

  • 掴めそうで掴めない、ほんわか優しい短編集。
    小人だったり、お盆からずれて帰ってくる霊だったり、人の色が見えたり、カチカチ感情の数を数えたり。不思議なはずなのに、さも「日常のストーリですけど?」という感じで普通に書かれているストーリーだらけで、現実世界でも、私の知らないところでこんな世界が実は繰り広げられているのではないか、と思えてしまう。

    お気に入りは「ぞうげ色で、つめたくて」「クリスマス・コンサート」「9月の精霊」。

  • 自分の中の星新一はこういうお話を書きそうだなあと勝手に思ってしまうような、ひとつひとつの話が不思議でふわふわしていた。

    詩集みたいな、突拍子もないけどそういう世界なんだなと納得してしまう馴染み深い味わいがあった。

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著者プロフィール

作家。
1958年東京生まれ。1994年「神様」で第1回パスカル短編文学新人賞を受賞しデビュー。この文学賞に応募したパソコン通信仲間に誘われ俳句をつくり始める。句集に『機嫌のいい犬』。小説「蛇を踏む」(芥川賞)『神様』(紫式部文学賞、Bunkamuraドゥマゴ文学賞)『溺レる』(伊藤整文学賞、女流文学賞)『センセイの鞄』(谷崎潤一郎賞)『真鶴』(芸術選奨文部科学大臣賞)『水声』(読売文学賞)『大きな鳥にさらわれないよう』(泉鏡花賞)などのほか著書多数。2019年紫綬褒章を受章。

「2020年 『わたしの好きな季語』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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