パスタマシーンの幽霊 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (296ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101292427

作品紹介・あらすじ

恋をしたとき、女の準備は千差万別。海の穴に住む女は、男をすりつぶす丈夫な奥歯を磨き、OLの誠子さんは、コロボックルの山口さんを隠すせんべいの空き箱を用意する。おかまの修三ちゃんに叱られ通しのだめなアン子は、ふたまた男の誘いの電話にうっかり喜ばない強い心を忘れぬように。掌小説集『ざらざら』からさらに。女たちが足をとられた恋の深みの居心地を描く22の情景。

感想・レビュー・書評

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  • なんとまぁ
    贅沢な短編集だこと。

    やっぱ川上弘美好きやわぁ〜♪


    美しく官能的な文体が織りなす
    切なくも心地良い世界観、

    あの独特な言い回し、

    そして川上さんお得意の
    物語を彩り
    主人公たちの心情に寄り添う
    たくさんの料理や食べ物の描写の素晴らしいこと。

    久々にハズレのない短編集に
    何度も読み返してしまったなぁ(^O^)
    (この一遍の短さで
    この味わい深さと完成度の高さは
    もはや職人技!)


    個人的に気に入った話を挙げると、

    『古道具 中野商店』のヒトミさんとタケオのじれったい恋を思い出した
    「銀の指輪」、

    親の再婚に揺れる
    中学生のリアルな心情と
    クロスワードパズルを組み合わせた構成が見事な
    心に残る一遍
    「すき・きらい・らーめん」、

    料理下手な女の葛藤と
    ばあちゃん幽霊との出会いを描いたユニークな表題作
    「パスタマシーンの幽霊」、

    人を好きになる不思議を
    思春期の淡い恋心と併せて教えてくれる
    「ほねとたね」、

    コロボックルの男性に恋した奥手な女性の
    揺れ動く心情を綴った
    「ナツツバキ」、

    オカマの修三ちゃんと
    ダメな男を忘れられないアン子との
    性別を越えた絆の話
    「修三ちゃんの黒豆」、

    コロボックルが再び登場し
    一人ぼっちの中年女性との心の触れ合いを描く
    「庭のくちぶえ」、

    甘ざみしくて物憂い片思いと
    おむすびに込められた恋情が切ない
    「少し曇った朝」が
    オススメ。


    しかし恋とは
    なんて報われないものなんだろ。

    それでも人は恋に落ちるし、
    誰かとの明日を夢に見る。


    映像喚起力の高い
    それぞれの話を読んでると
    村下孝蔵の「初恋」や
    オリジナル・ラヴの「プライマル」や
    YOSHII LOVINSONの「CALL ME」や
    山崎まさよしの「振り向かない」などの名曲が
    脳内再生されて流れてゆく。
    (さてどれがどの話でしょう笑)


    切なくて可笑しくて
    シュールでいて
    読む者に小さな勇気を与えてくれる一冊!


    しかし、コロボックルと人間の女性との恋の行方が無性に気になるし、

    バターとお醤油とケチャップが
    三位一体となった
    ケチャップごはんの威力には
    胃袋掴まれましたよ(笑)(>_<)
    (いつか川上作品の料理本出ないかな〜)

  • ずっと前、居たなそういう人、原田聖子のような理解できなかった存在の人。(ゴーヤの育て方)
    「ねえ、大学時代はさあ、会社に入って働くとか、考えてもなかったよね」「いろんな女や男やおっさんやおばさんがいるところで、自分も働いていることが、まだ信じれん」
    不特定多数の人と、誰もが良い人間関係を結ぶのは難しいと学んだ自分の「お勤め」のころを思い出した。
    輪ゴム、はよかった(全部よかったけど)。どのお話も哀愁が漂って、ふわふわしてるのにせつなくて、だけど穏やかになる。

  • 恋っていう名前のものじゃなかった。でも、知らんふりは、できないものだった。
    知らんふりできなかった想いは「あたし」の中に確かにずっと残ってる。

    雑誌『クウネル』に連載された22の短編集第2弾。
    今回も様々な「あたし」達の揺れ動く想いに、私の気持ちも揺さぶられっぱなし。
    第1弾から続く修三ちゃんとアン子の親友コンビに加え、初登場の誠子さんと山口さんコンビもとてもいい。
    この二組は長編にしてほしい。

    この他印象的だったのは『海石』。川上さんの不思議ワールド全開の話で初っぱなからやられた。
    どうして「陸のいきもの」は相手を好きになると混じり合わないようにしてしまうのだろう。
    「海のいきもの」のように好きと好きが引き合ってくっついちゃうといいのにね。

    また今回は美味しそうな料理も印象的。
    ケチャップごはんに、修三ちゃんお手製の黒豆、アン子お手製のはまぐりずし、鶏のまるごと煮込み、ブイヤベース…。
    料理と一緒に、作った時食べた時の想いも伝わってきた。
    このシリーズはこの先もずっと続けていってほしい。

  • 川上さんの本を開くといつも、同じ活字なのに、活字を見ただけで、あっ川上さんだって思ってしまう。
    「ざらざら」の続編。
    不器用でどうしようもない、女という厄介な生き物について書かれている。
    厄介だけど、恋するって幸せなんだよね。

    修三ちゃんとアン子と中林さんの登場する長編が読みたくなってしまった。
    あと、コロボックルの山口さんも。

  •  休日のちょっとした遠出の電車と喫茶店とで読みきった。
     川上さんの文章、気持ちがすかすかして好き。別れる話がなんとなく多い気がしてつっかかったけれど、別れなかったとしても別れたとしても、川上さんの描く人たちはみんな清々してて好き。あと、ちょっと不思議でほんわかしてて、切ないのに、傷を知らないふりして、涼しい顔するのも好き。川上弘美の読後感が好きなのかもしれない。
     少し不憫なこととか、ありえないことが起きても、まあしょうがないよねって受け止める。恋をしてじたばたして、恋にならなくてざわざわしても、そのあとはさっぱりしてる。どの短編のみんなもきっと、この先をずーっと進んでいけばどこかでハッピーエンドが待ってるんだろうなって思える。 
     修三ちゃんに叱られたいし、染谷さんと河原で石拾いしたいし、山口さんが口笛を吹いて部屋に遊びにきてほしい。

     川上弘美、さすがにそろそろ飽きてきたかな?と思ったけど、全然良くて、ぐんぐん読んじゃった。

  • 短い短編が沢山入っているので、ちょっとずつ読むのもいいかもね。一気に読み終わりましたが。
    あまりにも沢山入っているのですぐ忘れてしまいますが、3編出てくるコロポックルの山口さんと、OLの誠子との淡い恋の話がとてもよかった。これだけ中編にして欲しい。
    種族を超えての恋も良いし、どちらも憎からず思っているのに、控えめで歩み寄れない切なさもよい。読んだ後もふと思い出すこの感覚が「余韻」っていうんだろうなあ。

  • このお話が好き、こっちがいちばん、

    と心でしるしをつけながらひとつひとつ読み進めたら、

    最後にはいちばんがなくなってしまった。

    ひとつ読むと、それがいちばんになる。

    そして、左手で挟むページが薄くなってくると

    かなしくて、

    あとひとつ?まだある?と、

    そわそわした。


    読んでしまうのが勿体ない。

    けど、もっと欲しい。まだまだ食べたい。

    だから、川上さんの短いお話はだいすきなのだ。

  • いくつかの短編は、ドキドキするほど自分のことが書いてある…と思い、
    自分のこの恋も、もしかしてこの小説の登場人物たちみたいに終わっちゃったりするのかなとか、
    本気で心配しちゃうくらい、気持ちの中で重なるところが大きくて、
    小説は小説なんだろうけど、どうにも繊細にあたしの胸をついてくるものだから、
    読みやすいんだけど、数編読むと疲れて先に進めないのでした。

    今はいくつかの短編にビビっと反応して、
    きっとまた違う恋をしたら違う短編にビビっと反応して。

    川上弘美さん、もてるんだろうな。
    良い恋も悪い恋も、たくさんして来たに違いない。
    良い恋も悪い恋も、どれもたぶん良い恋なんだ。

  • 一遍一遍読むたびに、はぁとひと息ついて、余韻に浸りたくなる。なんだかわからないけど、噛み締めたくなる。

    この短編集を手に取る前に、『ざらざら』『ぼくの死体をよろしくたのむ』を読んでいたので、リンクするお話を見つけるたびに感動していた。もちろん、この短編集から読んでも十二分に楽しめると思う。
    『ざらざら』よりかはソフトな恋模様だった。
    それぞれ異なる恋愛をしていて、チープな言い方になってしまうが、面白い。

    表題作『パスタマシーンの幽霊』が特に大好きで、料理の不得意な主人公がケチャップごはんをつくるシーンが一番のお気に入りだ。短編集を読み終わってからも、この部分は何回も読み返しているし、実際に真似して作ってみたりもした。本文のかわいい言い回しを思い出しながら、それにしたがって。それで、結構おいしかったので、適当にごはんを食べたいときはこれを作るようになりました。本当に好きな短編、というか、レシピの書き方。がさつで適当なご飯なのに、主人公の説明口調が丁寧でかわいらしいんです。

    「炊きたてのごはん(炊飯器があるので、ごはんだけはふつうに炊ける。なんてありがたいことなんだろう)を茶碗によそって、バターをひとかけ、ごはんのてっぺんに落とす。……………(続く)」

    どうでしょう、ここまででも既にかわいいですよね。
    「おしょうゆ」「お箸」と丁寧に言ってるのが良い。
    「そまったへん」と適当なのも良い。
    これだけで、なんとなくの主人公の性格とかバックグラウンドが見えてくるような気がする…大袈裟だけど。
    ひらがなの使いどころと、擬音の使い方、説明の仕方が絶妙で、胸を掴まれた。暗記したいレベルで好き。
    これってもしかして、詩なの?
    このレシピ、みんなに読んでほしい…!!!!!

    まだこのケチャップごはんをつくったことがない方には、一度ぜひつくってみてほしい。おいしいから。

  • 久しぶりに川上弘美の作品を読んだ。
    川上弘美作品に出てくるちょっと行儀が悪かったり、性格に難アリというような主人公をチャーミングに描いているところが好きだ。作品内の他キャラクターには「チャーミングですね」とは認識されていなくとも読者にはどこか可愛く思えるし、そういう少しの「難」を抱えた読者をちょっと救う話ばかりだ。

    物語そのものは大きく変化していなくて、問題に対する心持ちだけがギュンと変わりましたよというお話が大好きなのでかなり良い作品集だったなあと感じた。

    特に表題作の「パスタマシーンの幽霊」で主人公が披露するケチャップごはん(ほかほかごはんにバターと醤油、ケチャップを回しかけて適当にぐちゃぐちゃ混ぜるもの。混ざりきってない方がケチャップだけが濃い部分とかがあって美味しい。)がめちゃくちゃわかりすぎてニヤニヤしながら読んだ。あれだよね、このごはん好きな人絶対ピザポテトとかコンソメパンチ好きだよね。

    本当にこのレシピを見て欲しいがばかりにこの本を人に薦めたい気持ちがある。私たぶんこの雑なケチャップごはんの良さをわかる人としか友達になれない。

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著者プロフィール

作家。
1958年東京生まれ。1994年「神様」で第1回パスカル短編文学新人賞を受賞しデビュー。この文学賞に応募したパソコン通信仲間に誘われ俳句をつくり始める。句集に『機嫌のいい犬』。小説「蛇を踏む」(芥川賞)『神様』(紫式部文学賞、Bunkamuraドゥマゴ文学賞)『溺レる』(伊藤整文学賞、女流文学賞)『センセイの鞄』(谷崎潤一郎賞)『真鶴』(芸術選奨文部科学大臣賞)『水声』(読売文学賞)『大きな鳥にさらわれないよう』(泉鏡花賞)などのほか著書多数。2019年紫綬褒章を受章。

「2020年 『わたしの好きな季語』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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