日本人はなぜ戦争へと向かったのか: 果てしなき戦線拡大編 (新潮文庫)

  • 新潮社
3.71
  • (4)
  • (15)
  • (11)
  • (1)
  • (0)
本棚登録 : 182
感想 : 10
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (206ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101283760

作品紹介・あらすじ

1941年12月8日。真珠湾を急襲し、ついに対米戦争に突入した日本。ミッドウェー海戦、ガダルカナル島の戦いを境に戦況が悪化するなか、なぜ戦線は拡大する一方だったのか。戦争方針すら集約できなかった陸海軍の対立、軍と一体化して戦争方針に混乱をもたらした経済界の利権構造・・・・・・開戦から半年間の日本の歩み、知られざる歴史の転換点を徹底検証。副題「戦中編」改題。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • なぜ日本は太平洋戦争という無謀な戦いに突っ込んでいってしまったのかを考察したNHKの5本の特集番組を書籍化したもの。3冊セットの、本書は3冊目。
    緒戦の真珠湾奇襲攻撃に成功した後の戦い方の基本的な考え方が、陸軍と海軍では全く異なっていたことが本書で示されている。陸軍が資源獲得を目的に占領した南方領土をベースに、いったん戦線を落ち着かせることを考えていたのに対して、海軍は、いずれ来るアメリカ軍の反撃を想定し、勝てる間に出来るだけ南太平洋地域に戦線を拡大するべきと考えていた。陸軍がいったん現状維持、海軍が戦線拡大である。両者は戦略として相容れない。現状維持しつつ拡大ということは不可能な訳であり、現状維持なのか、拡大なのか、あるいは、それ以外の方策をとるのかを、日本の「国」としては決めないといけない。
    当然、陸軍と海軍の間では、現状維持なのか戦線拡大なのかの大きな議論・論争が起こる。そして、最終的に「長期不敗の政戦態勢を整えつつ、機を見て積極的方策を講ず」という内容、すなわち、足場を固めことに注力し、かつ、戦線拡大する、という不可能な方針が、公式に打ち出される。結局は、陸軍は陸軍の方針に従い、海軍は海軍の方針に従うという意味であり、「国」としての方針は打ち出されなかったということである。かつ、陸軍はその後ビルマに攻め入るなど、方針に反する戦線拡大も行っている。
    戦争をすること自体がどうなのか、という議論は置いておき、この状態は、いったん始めてしまった戦争の戦い方がなかったということを示している。フォーメーションを決めずにサッカーの試合を始める、バッテリー間のサインを決めずに野球の試合を始めるというような話であり、これでは戦いにならない。
    本書では、なぜ、そのようなことが起こり得るのかということが考察されている。陸軍と海軍それぞれの部分最適思考、陸軍と海軍を統合できる組織の実態的な不在、日本全体のことを考えるリーダーの不在といったようなことが挙げられている。それは、今の日本の、例えばコロナ対応の際の政治のリーダーシップの不在によく似ているなという感想を持った。

  • 最後の記述が、今にも通じているように思い怖くなった。
    「国民の命に驚くほど無関心だったことです」(204ページ)

  • 対等な陸海軍を調整できる機構を持たないため、両論併記の戦略となり、それを現場部隊も都合よく解釈して動くため、方向性が一本化出来なかった。
    戦線拡大の停止の機運もあったが、チャンスを活かせなかった経緯は興味深い。

  • NHKスペシャルを書籍化した「日本人はなぜ戦争へと向かったのか」の果てしなき戦線拡大編。
    前半は戦中日本の概要が書かれ、四人の専門家への質問といったことがまとめられている。

    陸軍、海軍の統一がなく、また、軍部の暴走を制御出来ない政府ということもあり、国自体の方向性が定まらぬまま戦争に突入し、責任を負うことの出来るひとがいないためズルズルと戦争しつづける。
    こういう国のために犠牲になるのは駒のように使われる一般国民だ。
    勿論、国民は被害者という側面と、疑問を持たず言いなりになり戦果に沸いて躍らされた共犯者という側面を併せ持つ。

    わたしの学生の頃社会の授業では、近代史は殆ど学んでいない。サラッと読んでおけと言われた。
    学生の頃は、言われるままサラッと読んで終わったけれど、社会の授業で本当に学ぶべきことは近代史ではないかと思う。もっと時間をさいて知り、考えさせ、討論させてくれたら良かっただろうと思う。
    大人になって随分経つまで、何故戦争が起き、多くの犠牲を生んだのか、戦争から日本はどう変わったのか、何を得たのか何も知らなかったことが恥ずかしい。

    おわりに、にもあるように、戦前戦中の日本は国民の命に無関心だった。他人の犠牲に無感覚だった。
    国のため国のためと言いつつ国民が次々死んでいくことには何も感じない。
    この傾向は、最近の日本にも言えないだろうか。
    自分さえ良ければいい。
    自分の生活さえ安定しているのなら、他人は、他国はどうでもいい。
    悪いのは誰か一部のひと、と誰かに責任を押し付けてる。
    自分の平穏を乱す他人を厳しく弾劾する。
    そんな気がしてならない。
    それは日本だけでなく、一部の外国にも感じられる。

    日本も世界の国々も、今こそ戦争の悲惨さを考えるとき。
    ひとりでは生きていけない。
    ひとつの国だけでは存続出来ない。
    この当たり前で忘れがちな事実を、ひとりひとりが念頭に置いていればと思う。
    こんな簡単なことを、すぐに忘れてしまうのが人間ではあるけれど。

  • リーダーシップが欠如したまま、定見なく、
    ひたすら戦線を拡大してゆく・・・

    この組織的な問題は、現代においても変わらないと思う。
    それが多くの人の直接的な死を伴わないだけで。

    たとえば、ある企業が経営難に陥った原因が、
    経営者のリーダーシップの欠如に由来するのであれば、
    その会社の倒産によって多くの社員は路頭に迷う。

    もちろん、すべてをリーダーの責任にするのは酷かもしれないが、
    誰かが決めなければならない状況があれば、
    それはやはり、リーダーの最たる仕事だと思う。

  • 山本五十六がバミューダ海戦で大敗を喫する失敗をしても責任を問われることなく、うやむやになる。2011年でも同じことが見られた。これって日本独特の役人体質なんだろうか。

  • 陸軍と海軍の方針が一致していない矛盾を抱えながら、漫然と戦争が継続され、拡大していった。当初の戦果が予想外に高かったことも災いした。

  • 太平洋戦争開始後、なぜ戦禍に突き進んでいったのかがテーマ。統帥権と軍、陸軍と海軍の不仲、意味不明な戦争方針の策定。歴史を知り、教訓今後に生かさねばならない。2015.10.19

全10件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

長年「ひきこもり」をテーマに取材を続けてきたメンバーを中心とする、全国で広がる「ひきこもり死」の実態を調査・取材するプロジェクトチーム。2020年11月に放送されたNHKスペシャル「ある、ひきこもりの死 扉の向こうの家族」の制作およびドラマ「こもりびと」の取材を担当。中高年ひきこもりの実像を伝え、大きな反響を呼んだ。

「2021年 『NHKスペシャル ルポ 中高年ひきこもり 親亡き後の現実』 で使われていた紹介文から引用しています。」

NHKスペシャル取材班の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×