日本海軍400時間の証言: 軍令部・参謀たちが語った敗戦 (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (508ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101283739

作品紹介・あらすじ

軍令部に在籍したかつての参謀を中心として戦後に開かれた「海軍反省会」。その録音が現存することが判明し、NHKスペシャルの企画はスタートした。発掘された元エリート軍人たちの赤裸々な発言が、開戦の真相、特攻作戦に至る道程、東京裁判の裏面史を浮かび上がらせる。やがて、彼らの姿は現代に生きる我々と重なってゆく。同名番組取材班6名による、渾身のノンフィクション。

感想・レビュー・書評

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  • 8月6日は広島原爆忌。9日の長崎原爆忌、15日終戦記念日と、蝉しぐれのなか戦争と平和について考えることが増える。この70有余年、日本は幸いにも戦争することがなかった。これからも平和を享受するためには、平和の有難さを噛みしめることが大切だけれど、戦争へ至る道を自覚的に認識することもそれに劣らず必要だと思う。

    海軍軍令部に在籍した参謀たちが戦後35年をへて集まり、自らの敗戦について振り返っていた。計131回、延べ400時間にのぼる通称「海軍反省会」。
    本書は、この大スクープを3回のNHKスペシャルにまとめたスタッフの取材記録。
    太平洋戦争の戦闘に関する分析では野中郁次郎さんらの『失敗の本質』が名著の誉れ高いが、本書はいわば、当事者が語る『失敗の本質』。

    対米戦争は必敗とわかっていながら、陸軍との予算獲得競争や組織の対面のため、対米強硬論を主張し、開戦不可避のところまで持っていってしまった「開戦 海軍あって国家なし」。
    人命を人類史上最も粗末に扱った特攻作戦。参謀ひとりひとりは、決して命じてはいけない、間違った作戦だとわかっていても口には出せず、そうした空気に個人が呑み込まれていく「特攻 やましき沈黙」。
    敗戦後、天皇に戦犯の累が及ばないよう、親補職であった高官たちの極刑回避に動く第二復員省。その陰で現場の指揮者たちがBC級戦犯として命を失っていった「戦犯裁判 第二の戦争」。

    現在地点から彼らを批判することは易しいし、非難することも可能だろう。
    しかし一方で、彼らはきわめて優秀な組織人であり、よき家庭人だった。一緒に仕事すれば気持ちのいい人たちだったろう。

    もし、自分が彼らの立場だったら、どうだったろうか?
    その場の空気に流されず、合理的な判断、政策立案しただろうか?
    職を賭して「その作戦は間違ってます」と言えただろうか?

    これは、過去の彼らの問題ではない。
    現在の私たちの問題だ。

  • 東京裁判の記録からも明らかなように、戦争犯罪人として海軍からは一人も裁かれていない。しかしこの著書のもととなった証言、記録からは悍ましい事実が如実に晒されている。
    職務に忠実な将校たち。忠実ゆえそれぞれの仕事に埋没し、やがて国民ひとりひとりの命が見えなくなっていく。このことはドキュメンタリー第1回のタイトル「開戦 海軍あって国家なし」にすべて凝縮されている。
    戦術も非道である。百田直樹の著書「永遠のゼロ」でも有名になった人間爆弾「回天」「桜花」。これらは神風特攻隊よりも早く実戦投入されている。それが何を意味するのか?第2回のタイトル「特攻 やましき沈黙」はそれを教えてくれている。
    海軍は他国での活動でも大罪を犯している。第3回のタイトル「戦犯裁判 第二の戦争」とは、そうした大罪をいかに隠ぺいし、陸軍に罪をなすりつけて逃亡を図ったか。また、そこまでして逃げなければならない非道さとは何だったのかが深堀りされている。
    つまり海軍は、自分で引き金を引いて、自国を地獄へと突き落とし、敗戦という結果を招きながら中心人物は逃亡した。そして組織をあげて事実を隠ぺいし、組織を守るために裁判対策を実施し、多くの事実を闇に葬った。まとめるとそういう組織だったということになる。
    エピローグの一言が忘れ割れない。「本当に大切なことは記録には残らないし、残さない。残された記録や資料には残した人間の意図が必ずある。残っている資料だけに捉われてはだめだ」我々は戦争の歴史をどうやったら正しく後世に伝えていけるのだろう?また日本海軍という組織が存在したという事実に、我々日本人はどう向き合ったらいいのだろう?

  • XでLINEヤフーの川邊さんが若手におすすめしたいビジネス書以外の本として取り上げていたので読んでみた。

    正直こういうドキュメンタリー系の本は苦手であまり読んでこなかったけど、これは読まないといけなかった本だと感じた。

    第三章の”やましい沈黙”がまさに今の日本社会でも起こり続けていることだと思う。
    自分も社会人になって上がNOと言ったらNOだし、上がGOと言ったらGOというのはひしひしと感じる。
    結局自分も”やましい沈黙”をしていると感じたし、たまたま戦後の時代に生まれたというだけで、
    当時だったら同じように行動してしまってたかもしれない。

    もしまた同じ状況になったら容易に同じような結果を繰り返してしまう可能性は十分にあると思うと他人事じゃないと感じた。

    軍令部や海軍の上層部の責任を問う内容だったけど、
    当時責任を取らなかった人たちが無責任だったわけではなく、誰でもその立場になったら同じ行動をとってしまう可能性があるという人間の弱さを忘れないでいることが大事なのだと解釈した。

    当事者ではないので、感想を書くのも難しかったけど、読み切って良かった。

  • 2009年8月に全3回で放送された同タイトルのNHKスペシャルの取材記録。

    戦後非公開で行われていた海軍反省会が記録されたテープの存在を知るところから始まるが、それだけに留まらずそこからさらに綿密な取材をし、また反省会テープに戻って更に取材をする…
    と読みながらこれぞジャーナリズムという思いがした。

    また、ありがちな「戦争という特殊な時代、あるいは軍隊という特殊な組織が悪いんだ」あるいは「国民が犠牲になった」というオチにはせず、常に客観的でどちらかの立場に入り込みすぎない視点が続くのが良かった。

    「やましい沈黙」
    「加害者からの視点」

    被害者の立場に居るのは楽で、ただ加害者や強いものを叩いていればいい。
    あの戦争ですら、本当に自分が100%加害者だ、と考えている人は少なく、やらされた物だと考える人が多かったんじゃないかと本を読んでいて感じる。
    自分が間違いを犯す、また、自分が行動したことの結果が他人に絶大な被害を与える、という謙虚さと誠実さを何をするにしても持ち続けなければならないんじゃないか。
    例えそれが不服ながら沈黙した事であっても、結局沈黙した事で結局手を貸した事になるんじゃないか。


    色々と自分に置き換えて考えられる良書だと思ったし、これからもこのNHKスペシャルは再放送を続けてほしいなぁ…。
    (あと電子化されるといいなぁ…。)

  • 各章取材が始まる際のそれぞれの思いから始まるのが若干くどいが、この反省会に対する取材アプローチは良かったし、本当に今にも通ずることが多すぎました。

  • 戦後行われた軍令部等の海軍士官による反省会。400時間の記録。非公開の会合で明かされる回線への道、特攻など。

    「やましき沈黙」など日本人の組織論の典型をここに見ることができる。戦争は過去のことだが現代の日本人が同じ過ちを繰り返さないというわけではない。

    近年、NHKスペシャルの番組を元にした良書が多い。ノンフィクションは一人のスーパーマンの作家ではなく組織力で取材していく時代なのかもしれない。

  • 秘密裏に海軍関係者によって開かれていた反省会で語られた証言等から、開戦、特攻、戦犯裁判についての海軍の関わり方と、そこに至らしめた組織と個人のあり方を考え、現代の我々はどうかと問いかける内容。
    個人としては正しく状況を認識し、正しく判断できていたのに、良き父であったり優秀な軍人であったりする人が、組織のなかではその正しさを貫けず、最後には全てを巻き込む破滅へと至った歴史からの重い教訓。

  • 太平洋戦争の作戦立案を担当した大本営の海軍部門ともいえる軍令部。そこに在籍した高級士官らによる400時間以上におよぶ「反省会」とも呼べる研究会の録音テープを取材のきっかけとして、「なぜ開戦に踏み切ったのか」、「航空機による特攻攻撃はなぜ実行されたか」、「回転(人間魚雷)による海上特攻はなぜ実行されたか」、「戦後の戦犯裁判における戦争責任回避の工作」という4つのテーマについて切り込んで行きます。
    国の存亡よりも陸軍に対する海軍のメンツを優先した結果として開戦へ流される意思決定、上官(軍令部=海軍としての組織)からの命令という形をとらないように計画・実行された特攻、軍令部に在籍した士官への戦犯責任が軽微となるように予め口裏合わせを敷いていた事実、などが明らかにされています。
    敗戦が決定的となった時、軍幹部は戦後の戦犯裁判に備えて証拠隠滅を図り大量の資料、公文書の焼却処分を指示し、そのために開戦や特攻の経緯については正確な検証が行われないままとなってきていました。それらについて当事者であった軍幹部幹部の証言をもとに明らかにすることで歴史的事実を追求するだけでなく、「責任の所在が不明瞭な組織」、「空気に流される意思決定」、「良くないとわかっていながら声を上げない”やましき沈黙”」といった現代の企業も陥りがちな誤りへの教訓を導き出そうとしています。
    国同士の対立が目立ってきた昨今だからこそ、戦争に向かって走り出してしまった当時の意思決定についてもう一度目を向けるのは非常に重要なことだと思いますし、そのような時に非常に参考になる資料となりうる1冊です。
    10年以上前に放送された同タイトルのNHKスペシャルの取材班によるノンフィクションです。番組の再放送があれば良いのにと思います。

  •  戸部良一ほか『失敗の本質』を読み、実際に日本海軍がどんな意思決定の方法を採っていたのかなぁと思っていたところ、職場の先輩の家にあったのを思い出して購入。

     軍令部に所属していた幹部を中心として、戦後秘密裏に開かれていた「海軍反省会」の録音テープをもとに、よく見られる下士官や民衆の悲劇でなく、実際に命令を下した側に焦点を当てて太平洋戦争を紐解くことを目指したドキュメント。
     資料発掘のドキドキや取材の困難さといったドラマも書かれており歴史的事実のみを読みたいと考えると一見蛇足かも知れないが、軍令部・参謀の考え方や空気を少しでも感じられるのはこうしたドキュメントならではであり、十二分に読む価値はあるだろう。

     反省会と謳いつつ腸が煮えくりかえるような会話もあり、発言者の中には「浮気しててゴメンね><」と交際相手に言ってしまうような独りよがりな解放感に浸りたかった者もいたのではないかとすら思える。完全非公開で安全な立場から何が反省なのかと。p.156辺りからはホントひどい。
     また、戦後数十年が経過してなお、階級が彼らの発言に重くのしかかっている様も感じられた。かつて階級が上だった者に批判を加える様子が特異なものとして書かれているあたり、必要以上に厳しい上下関係が動脈硬化を招いていたのだろうか。

     本の根幹は、やはり「やましき沈黙」という言葉にあるだろうか。
    「これではいかんと思いながら、やめることができずについに戦争を始めてしまう、海軍のそういう問題」「悪いと思っていてもよう言わんかった。それが海軍という組織の欠点だった」(p.269)
    といった、自分の意思ではない方向へ流されていくところ。原因の一つとしては、責任の不明確さがあるだろう。皇族を錦の御旗のように使い強引に作戦を進めてその皇族は不問であるとか、現場が書面での命令を強く求めるまで口頭命令で済ませようとするとか。天皇に「特攻作戦OKだよ」のハンコ(御璽)押させといて、天皇に戦争責任は無いといいつつその作戦を進めた責任を負わないとか。

     また、終戦後の工作についてもなかなかに非道。天皇制を維持するために海軍最上位層が戦争犯罪で裁かれないよう苦心し、そのためには玉砕した現場の司令官に罪を被せることも辞さないとか、耳を疑うような話がどんどん出てくる。

     ひどいひどいと言いつつも、現代の組織にも通ずる問題点ばかりなのかも知れない。
     今は海軍…ではなく自衛隊の任務がどんどん増えて夜警国家→行政国家化として裁量の幅も持たざるを得ない状況となっていると聞く。米軍が自衛隊以上に機敏に動いて3.11の様々に行動したことは、軍隊の裁量を広げるべきだという考えにもつながるかもしれない(米軍の機敏さが不測事態への対応力の高さがなせる業か大きな裁量によるものか分からないけど・・・)。自衛隊が概ね好意的に受け止められるようになってきたのも、悲観的に捉えるならば批判の目が緩くなっているともとれる。
     そんな中で頼りになるのは、やはり組織内部の自浄作用であり、「やましき沈黙」などという文化があったらその作用は絶対に発揮されない。自分は組織のために仕事をしているのではないこと、言うべきことは言わなければいけないということ、責任を負うべきところは責任を負い、そうでないところは責任の所在を明確にすること。様々なことを考えた。

     本書は主に海軍にのみ切り込んでいるが、実際には陸軍も政治もメディアも大衆も知識人も、そして国際情勢も絡み複雑な関係性が結果として戦争に向かっていく。その意味で、ここに書かれているほど海軍は悪いものじゃない、と捉えることも可能かもしれない。
     しかしながら、各論で各々の世界の問題点を照らしてゆくというのはやはり必要な過程なのだろう。その意味で、次は同編著の『日本はなぜ戦争へと向かったのか』を読んでみようと思っている。

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著者プロフィール

長年「ひきこもり」をテーマに取材を続けてきたメンバーを中心とする、全国で広がる「ひきこもり死」の実態を調査・取材するプロジェクトチーム。2020年11月に放送されたNHKスペシャル「ある、ひきこもりの死 扉の向こうの家族」の制作およびドラマ「こもりびと」の取材を担当。中高年ひきこもりの実像を伝え、大きな反響を呼んだ。

「2021年 『NHKスペシャル ルポ 中高年ひきこもり 親亡き後の現実』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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