検事失格 (新潮文庫 い 120-1)

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  • Amazon.co.jp ・本 (357ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101261911

作品紹介・あらすじ

「ぶっ殺すぞ、お前!」。僕は、その日、無実の組合長を恫喝した――。理想を抱き検察官の道に進んだ青年は、「割れ!」「立てろ!」という殺伐とした言葉が飛び交う職場を生き地獄と感じ、心身のバランスを崩してゆく。そして自らの弱さゆえ、冤罪をつくり出すという大罪を犯してしまった。元“暴言検事”の懺悔と告白。知られざる検察庁の闇を内側からえぐる衝撃のノンフィクション。

感想・レビュー・書評

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  • 本書は懺悔の書でであり、決意の書でもある。そして、検察という組織が変わるために学びを得るべき書でもある。筆者が辞職してから、郵便不正事件や足利事件をはじめ、多くの重大事件で捜査機関の捜査の過ちが繰り返されている。そして昨今のプレサンス事件は郵便不正事件から検察の体質が変わらないことを示す事件だとも言える。しかも特捜事件の取り調べは可視化されているにもかからず、である。本書は検察官の保身と野心がいかに歪んだものであるかを暴き、そうした強く優れた人たちの集まりが自分は間違えるはずがないという慢心から大きな過ちを犯す過程を丁寧に綴る。権力を纏いながら、いかに人間としてあるべき姿でいられるかを考えさせられる。郵便不正事件の大坪検事も最近幾度も資格審査に挑戦した末に弁護士になり、筆者と同様の体験と決意を綴っている。昨今は起訴猶予における再犯防止措置が議論され、厚生支援を行いたくて検事になった者や郵政不正事件を契機に「検察を変えたくて」検事になった者もいる。本書はそういう検事や検事志望者にこそ読んでほしい。

    尚、本書は上司の部下に対する指導のあり方や検察官の教育のあり方の変革とともに全面可視化と全面証拠開示を冤罪防止措置に据えた検察改革を提案しているが、全面証拠開示については次作の小説『ナリ検』で問題提起がなされる。根本的な問題として、検察は「裁判官も見ていない証拠を含め全てを知っているのだから検察の判断が正しい」という神の視点に自らを置きがちであるという点が炙り出されている。その意味で言うと、本書で問題提起されていないが、刑事司法というマクロな目では検察が「無罪が出そうな事件を起訴する」ことに対する問題意識自体も、「事件の決着をつけるのは公開の裁判の場だ」という公判中心主義から逸脱した感覚であり、「検察は間違ってはならない」という強迫観念と「検察は99.9%正しい」という誤解を抱かせる原因ともいえる。確かに事件関係者に取っては負担だが、違法捜査が本当に存在しなかった場合には、無罪になる可能性のある事件を起訴することの何が問題かについて大きな視点で検討していく必要もあろう。

  • 佐賀市農協背任事件(2001年)にて、著者市川寛氏は当時、当該事件の主任検事を担当してゐました。取り調べ中に暴言(「ぶつ殺すぞ!」など)を吐いたなどとして、後に証言台に立たされる事になります。
    検察の不当捜査からなる冤罪事件として、当時は結構な話題になりました。しかし、なぜかういふ事件は起きるのでせうか。
    市川氏も検事を志した時には、まさか冤罪事件に手を染めるとは思つてゐなかつたでせう。「ダイバージョン」といふ制度に魅せられ、それを実践できるのは検事だけとしてこの道を選んだと語ります。

    ところが、実務修習の時点ですでに理想と現実のギャップに悩まされます。取り調べの要領は、「被疑者が有罪だと確信して取り調べるやうに」すべしだといふのです。他にも「やくざと外国人には人権は無い」とか「新任には否認事件を担当させない(無罪判決が出ると検事にとつて傷になるらしい)」とか。
    昔は千枚通しなどを駆使して拷問が普通に行はれてゐたさうです。古い体質の検事なら、今でもそれに近い事はやつてゐさうです。取り調べの完全可視化を拒否する理由も想像がつきますね。

    どんな手段を駆使してでも、調書を取るのが「優秀」らしい。やつてもゐない事を縷々作文し、被疑者にサインを強要する。拒否する被疑者に対する「テクニック」も上司は自慢気に教へてくれます。世間の常識とは程遠い世界ですね。
    とにかく「割れ(自白させろ)!」「立てろ(起訴しろ)!」と指導されるのが検察庁。冤罪が無くならないのは当然と申せませう。

    著者はさういふ「上からの指示」に、内心抵抗を感じながらも、異議を挟むことが出来ずに、心身ともに壊れてしまひます。本人も自らを、をかしいことはをかしいと言へない弱虫検事だと評し、本来検事になるべき人物ではなかつたと自責します。それを無理して続けた結果、佐賀地検でのあの事件に遭遇するのでした。著者の話を信用するならば、当時の検事正と次席はとんでもない奴であります。歴とした犯罪者でせう。彼ら側からの言ひ分も聞きたいところです。

    確かに本書には言ひ訳が多いとも言へます。実際批判も多い。本書によつて彼の罪が免罪される訳でもありますまい。
    しかしそれでも、相も変らぬ検察庁の暗部を世間に知らしめるといふ面では、意味のある一冊でせう。
    さういへば冒頭にも前田恒彦元検事(厚生労働省局長の冤罪事件)の話が出てきます。この人の場合も、構図は同じではないでせうか。「起訴」以外の選択肢の無い状態で取り調べ、調書の作成を強要されたのでは。

    なほ、冤罪被害者の「組合長さん」の息子さんが、被害者側からの視点で『いつか春が―父が逮捕された「佐賀市農協背任事件」』といふ本を出してゐます。こちらも読んでみたいと存じます。

    http://genjigawa.blog.fc2.com/blog-entry-739.html

  • 違法な取り調べと強引な起訴で問題になった検事の自叙伝みたいなの。
    文章は読みやすいけど、同じことの繰り返しみたいなところもあり、検察の体質的な問題(当時の話で今どうかはわからないけど)の指摘が多いかな、という印象ではある。

    検事を目指す親友に贈呈。

  • 元検事の告発。面子に固まった検察庁に抗せずに本心でなく、取締りに暴言を吐き、脅迫して調書を取ってしまう。どこの組織にもある不合理な話だが、人の人生、命を預かる組織がそれではいただけない。2015.8.16

  • 特捜の本はいくつか読んだけど、地方検事の本を読んだのは初めてだと思う
    この事件は知ってる人もいるだろうけど、わたしは知らなかった
    今日の出来事では当時取り上げられてたらしいが。。

    エリート検事ではないが、これが検事の日常だと思う
    大阪地検の証拠捏造の事件はどの人にとっても記憶に新しいし、証拠捏造や被疑者に有利な証拠が証拠採用されないことなんて日常的に発生している
    検察組織の中にいれば、正義を貫いているつもりでも人間としてはどうなのだろう
    このケースでは最終的に無罪になったが、裁判中の被疑者とされた方にとって人生の時間を余計なことに取られたことになる

    TVドラマなどでしか知らない検察について、少しでも知って欲しい
    HEROのような検察組織はいない
    もし司法の世界に行こうと思っているなら、この本を読んでから入って欲しいと思う

  • まじめに、真摯に仕事を全うしようと思いながら、強いものに逆らえず、きびしい立場に追い込まれていく苦しさが伝わってきます。

    だめなものはだめ、
    自分の良心に反することはするな、

    当たり前のことが、外からみれば立派な組織の中では通らない苦しさが、伝わってきます。

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著者プロフィール

弁護士、元検察官

「2020年 『ナリ検 ある次席検事の挑戦』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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