暗幕のゲルニカ (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (512ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101259628

作品紹介・あらすじ

ニューヨーク、国連本部。イラク攻撃を宣言する米国務長官の背後から、「ゲルニカ」のタペストリーが消えた。MoMAのキュレーター八神瑶子はピカソの名画を巡る陰謀に巻き込まれていく。故国スペイン内戦下に創造した衝撃作に、世紀の画家は何を託したか。ピカソの恋人で写真家のドラ・マールが生きた過去と、瑶子が生きる現代との交錯の中で辿り着く一つの真実。怒涛のアートサスペンス!

感想・レビュー・書評

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  • 原田マハさんの作品は、「楽園のカンヴァス」に続いて2作目にトライしてみました。

    ニューヨーク近代美術館に勤務する日本人女性キュレーターが主人公です。楽園のカンヴァスの主人公、ティムがおっさんになって登場しており、なんだか嬉し楽し感を味わえたのは前作読了者の特権です(笑

    ピカソのあの名作「ゲルニカ」にまつわる壮大な物語。ピカソの反戦を願う強烈な意思をこの物語から理解しましたし、同時に奔放な女性関係にも驚きました。さすが天才画家です。超有名人ですが彼の人となりなどは知る機会がなかったので本書で知ることができてよかったです。今後、美術館などでピカソの作品を見ることもあるかもしれませんが少しは見え方感じ方が変わるかもしれません。

    「楽園のカンヴァス」があんまりにも面白くて、期待値マックスを突き抜けた状態で本書を読み始めてしまったんで、期待外れとは言わないもののストーリー展開の部分で何となく物足りなさを感じてしまいました。
    とはいえ素晴らしい小説であることは間違いないです。

    これから読まれる方は、「楽園のカンヴァス」から続きで読む場合は、期待値ゼロにして読んでもらうとめっちゃ楽しめる作品です(笑

  • アートの力を感じさせる物語
    熱い想いを感じました。

    ストーリとしては
    9.11で夫を亡くしたMoMAのキュレーター八神瑤子は自分の企画「ピカソの戦争」展でゲルニカを借り出そうと奔走しています。
    さらに、国連本部のゲルニカのタペストリーに暗幕がかけられた状態で、イラク攻撃を宣言する米国務長官。
    誰が暗幕をかけたのか?

    さらにゲルニカが描かれた時代、ピカソの恋人のドラ・マールの視点で、ピカソの生き様が語れます。
    どこまでが史実でどこからが創作なのかさっぱりわかりませんが、この時代をしっかり理解することができます。

    そんな瑤子の時代とピカソの時代が交互に語られ、この二つのストーリから、「ゲルニカ」に対する想いが熱く胸に残ります。

    そして、ラストの展開
    熱いものがこみ上げてきました!

    この物語を通して、ゲルニカをしっかりと見るようになりました。そして、ゲルニカから伝わるメッセージを理解できるようになりました。

    まさに、アートが人の心を、世界を、変えれるということなのだと思います。

    とってもお勧め

    • 梶井俊介さん
      原田マハさんは、結構振り幅が大きいきがしますが、良い作品はストーリーも提供される情報もともに満たされます。
      原田マハさんは、結構振り幅が大きいきがしますが、良い作品はストーリーも提供される情報もともに満たされます。
      2022/12/24
    • masatoさん
      そうですね。??といった作品もありますが(笑)、原田マハさんは好きな作家さんです。この物語もぐっと来ました。
      そうですね。??といった作品もありますが(笑)、原田マハさんは好きな作家さんです。この物語もぐっと来ました。
      2022/12/24
  • 一年三ヶ月前に読んだ『楽園のカンヴァス』に魅了された私
    同様、大傑作であろう『暗幕のゲルニカ』をただただ「簡単に読んだら勿体無い」と思っていた為、ずっと気になる想いを温めて来ました(*≧∀≦*)

    しかし、積読になっていた作品に、意を決して手を出す事にしました!
    次に繋がる作品も読みたくなったのと、美術館に行く前に初心者でもわかる予備知識を植え付けたかったからです
    そう言う訳で、1年3ヶ月分、丁寧に時間を掛けて読みました
    そう、私には一気に読める様な作品ではありませんでした。。。

    作品は、『ゲルニカ』を巡って、二つの時間軸が並行して展開されます

    『ゲルニカ』‥‥巨大なカンヴァスに描かれた黒い線描と阿鼻叫喚
    ゲルニカの惨事を再び甦らせ、殺し合いをやめない人類に対して突き付けた、ピカソ渾身の一作

    制作当時の1940年代
    ヒロインはドラ・マール
    当時ピカソの恋人であり、写真家で、知的で華やかで、高慢ちきな女性

    現代の2003年
    ヒロインは、八神瑶子
    ピカソの研究家であり、NY近代美術館(MoMA)のキュレーター

    そして、両方の時代に共通して登場する、パルド・イグナシオ
    物語のキーマンと言って良いのではないのでしょうか

    いつもマハさんの作品を読むと、「何処から何処までが史実なの?」と気になってしまいます
    気にしないでそのまま読めば良いのですが。。。
    しかし巻末に、キーマンのパルドとルースと2003年の話は創作だ、と記載されていたので、それを知ったら頭の中がスッキリしました

    私は読みながら、ピカソと他の作品に出てくるゴッホを、つい比べていました
    生きている間に作品が売れていたピカソの生活と制作の基盤は、常に女性にありました
    世界中の人々に注目され、常にある妻と恋人の存在、そしてそれに沢山の子孫に囲まれた生涯
    方や、死後に作品が売れた貧乏で孤独だったであろうゴッホの生涯
    それを思うと、人生とはつくづく不公平なものだと思いました

    また恋人であったドラも気になりました
    ピカソの周りの女性に対する嫉妬心で泣きじゃくるドラ
    ドラの弱さを知った時、同じ女性として辛いものがありました
    そんなドラの姿を描いた『泣く女』を本で見た時、苦悩や苦痛による激しいものだと表現されている涙に、少しだけピカソの絵の良さがわかる様な気がしました

    そしてマイテの正体を知った時、ジーンと来るものがありました

    『楽園のカンヴァス』は読後感の良い作品でしたが、『暗幕のゲルニカ』は小説家として何が出来るか、戦争に対するマハさんのメッセージ性の強い作品だと思いました
    二作とも大傑作だと思いますが、テーマが違うので比べるものではないなと、思いました


    先日、マハさんの『〈あの絵〉のまえで』にも出てくる箱根のポーラ美術館に行って来ました
    自然の樹木に囲まれた、森の中にある落ち着いた美術館で、気に入りました
    すっかりいい意味で、休日の過ごし方まで影響されている私です(*'▽'*)

    • ハッピーアワーをキメたK村さん
      y yさん

      こんばんは(๑・̑◡・̑๑)

      イラク空爆前夜、ゲルニカのタペストリーが暗幕で隠されていたんですね?
      いやあ、もう何が本当で何...
      y yさん

      こんばんは(๑・̑◡・̑๑)

      イラク空爆前夜、ゲルニカのタペストリーが暗幕で隠されていたんですね?
      いやあ、もう何が本当で何が作り話で、ってわからなくなります 笑

      yyさん、大原美術館に行かれたんですね!
      いいなあ〜(*'▽'*)
      私も行きたいです、大原美術館
      それと願わくば地中美術館も
      セットで行けたらいいな、と今真剣に企んでいます
      予備知識持って美術館に訪れるのって、本当に楽しいです

      そして一冊の本のことで、話題を共有出来てとても嬉しいです、このコーナー
      今更ですが。。。(o^^o)
      2023/10/15
    • あびきなこさん
      こんにちは♪

      私もじっくり時間をかけて読めば良かった〜と思いました笑
      一気に読むにはなかなか濃い1冊ですよね
      同じ女として…とても分かりま...
      こんにちは♪

      私もじっくり時間をかけて読めば良かった〜と思いました笑
      一気に読むにはなかなか濃い1冊ですよね
      同じ女として…とても分かります(´-`)
      ゴッホと比べてしまったというのも同感いたしまさた。
      2023/10/19
    • ハッピーアワーをキメたK村さん
      あびきなこさん

      私はあまり読むのが速くないので、どちらにしても時間が掛かってしまいます
      あと『泣く女』の絵が、本当に悲しそうで気になって仕...
      あびきなこさん

      私はあまり読むのが速くないので、どちらにしても時間が掛かってしまいます
      あと『泣く女』の絵が、本当に悲しそうで気になって仕方がありません笑
      そして、ピカソってもっと変わった人なのかと思っていました
      2023/10/19
  • 「楽園のカンヴァス」を読み終え、そのまま手にした本書、ついにたどり着きました。
    マハさんの作品を通じてアートに興味を持ち始め、今まで訪れることのなかった美術館へも足を運ぶようになりました。
    そんな私が学生時代からたった1つ目を奪われ、今も本棚の上に飾っているのが「ゲルニカ」。

    本書は購入してからも手をつけずに大切にしていた1冊です。

    「楽園のカンヴァス」を読み終えた時に次に読むのは本書「暗幕のゲルニカ」しかないと思えたので、マハさんの作品28作目(29冊)として手にとることが出来ました。
    このタイミングが私にとって本書を読むタイミングだったのだと思います。

    語り出すと長くなりそうなので、一旦ここまで。
    (am0:54)

    この小説は、ピカソの名画「ゲルニカ」をめぐる二つの時代と二つの物語が交錯するという構成になっています。

    一つ目の物語は、1937年のパリで起こります。
    ピカソの恋人で写真家のドラ・マールは、スペイン内戦で破壊されたゲルニカの町を描いた巨大な絵画の制作過程を記録します。
    この絵は、反戦のシンボルとして世界に衝撃を与えますが、その後も様々な運命に翻弄されることに。

    もう一つの物語は、2001年から2003年にかけてのニューヨーク。
    日本人のピカソ研究者でMoMAのキュレーター八神瑶子は、9・11テロで夫を失った悲しみから立ち直ろうとします。
    彼女は、「ピカソの戦争」という展覧会を企画し、国連本部に飾られていた「ゲルニカ」のタペストリーを借りようとしますが、そのタペストリーはイラク攻撃を宣言する米国務長官の演説の際に突然姿を消します。
    瑶子は、この事件に関わる陰謀に巻き込まれていきます。

    これら二つの物語は、ピカソと「ゲルニカ」に関わる人々の過去と現在が交差することで、一つの真実に辿り着く。
    美術と戦争というテーマを通して、人間の苦悩や希望を描いた素晴らしい作品。

    <あらすじ>
    ニューヨーク、国連本部。イラク攻撃を宣言する米国務長官の背後から、「ゲルニカ」のタペストリーが消えた。MoMAのキュレーター八神瑶子はピカソの名画を巡る陰謀に巻き込まれていく。故国スペイン内戦下に創造した衝撃作に、世紀の画家は何を託したか。ピカソの恋人で写真家のドラ・マールが生きた過去と、瑶子が生きる現代との交錯の中で辿り着く一つの真実。

    この小説は、ピカソの「ゲルニカ」が第二次世界大戦とイラク戦争をつなぐという発想に基づいています。また、ピカソの人生や作品に関する豊富な知識や情熱が感じられる作品です。



    暗幕の下にこそ、決して目を逸らすことのできない真実がある

    ゲルニカを消したのは誰だ――? 衝撃の名画を巡る陰謀に、ピカソを愛する者たちが立ち向かう。現代と過去が交錯する怒濤のアートサスペンス!

    ニューヨーク、国連本部。イラク攻撃を宣言する米国務長官の背後から、「ゲルニカ」のタペストリーが消えた。MoMAのキュレータ ー八神瑤子はピカソの名画を巡る陰謀に巻き込まれていく。故国スペイン内戦下に創造した衝撃作に、世紀の画家は何を託したか。ピカソの恋人で写真家のドラ・マールが生きた過去と、瑤子が生きる現代との交錯の中で辿り着く一つの真実。怒濤のアートサスペンス!

    内容(「BOOK」データベースより)

    ニューヨーク、国連本部。イラク攻撃を宣言する米国務長官の背後から、「ゲルニカ」のタペストリーが消えた。MoMAのキュレーター八神瑶子はピカソの名画を巡る陰謀に巻き込まれていく。故国スペイン内戦下に創造した衝撃作に、世紀の画家は何を託したか。ピカソの恋人で写真家のドラ・マールが生きた過去と、瑶子が生きる現代との交錯の中で辿り着く一つの真実。怒涛のアートサスペンス!

    著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)

    原田/マハ
    1962(昭和37)年、東京都小平市生まれ。関西学院大学文学部日本文学科および早稲田大学第二文学部美術史科卒業。馬里邑美術館、伊藤忠商事を経て、森ビル森美術館設立準備室在籍時、ニューヨーク近代美術館に派遣され同館にて勤務。その後2005(平成17)年『カフーを待ちわびて』で日本ラブストーリー大賞を受賞しデビュー。’12年に発表したアートミステリ『楽園のカンヴァス』は山本周五郎賞、R‐40本屋さん大賞、TBS系「王様のブランチ」BOOKアワードなどを受賞、ベストセラーに。’16年『暗幕のゲルニカ』がR‐40本屋さん大賞、’17年『リーチ先生』が新田次郎文学賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

    • ハッピーアワーをキメたK村さん
      ヒボさん
      おはようございます
      初コメです(๑・̑◡・̑๑)
      マハさんの2大アート作品にかける熱い想い、ただただ共感するのみです
      ヒボさん
      おはようございます
      初コメです(๑・̑◡・̑๑)
      マハさんの2大アート作品にかける熱い想い、ただただ共感するのみです
      2023/10/23
    • ヒボさん
      ハッピーアワーさん、おはようございます♪
      (勝手に省略m(_ _)m)

      コメントありがとうございます!(´▽`)
      大好きなマハさん作品の中...
      ハッピーアワーさん、おはようございます♪
      (勝手に省略m(_ _)m)

      コメントありがとうございます!(´▽`)
      大好きなマハさん作品の中で、購入後大切に温めていた2作品をようやく読み終えました(笑)
      ハッピーアワーさんもマハさん作品結構読まれていますよね。
      これからもいろいろ語り合えると嬉しいです⸜(*ˊᗜˋ*)⸝
      2023/10/23
    • ハッピーアワーをキメたK村さん
      ヒボさん
      お返事ありがとうございます♪
      いえいえ、私はまだまだ歴史が浅く、読んでいない作品は山程あります
      こちらこそ、一緒に語り合って頂けた...
      ヒボさん
      お返事ありがとうございます♪
      いえいえ、私はまだまだ歴史が浅く、読んでいない作品は山程あります
      こちらこそ、一緒に語り合って頂けたら嬉しいです
      よろしくお願いします*\(^o^)/*
      2023/10/23
  • ピカソという芸術家とゲルニカの凄さについて知ることができてよかった。現代と戦前戦中の二つのストーリーがが平行して進行し、後半クロスしていく展開でした。原田作品ならではでやはり面白い。
    かなりハイレベルなものが高い調和を保って描かれているのがピカソの作品なのだそうです。ピカソは物事の本質を一瞬で捉え、絵にしてしまうともあります。何がすごいのかわからない自分にもわかりやすく伝えてくれました。
    本書を貫いているのは「戦うべきは戦争、憎悪、暴力」との強いメッセージです。市井の人々が手を取り合って実現しなければと迫ってきます。そんな普遍的とも言える主題をアートを通して伝えられるのは原田マハさんならではですね。
    今もウクライナ戦争など世界では紛争が起きています。最近新宿を歩いていたら、ウクライナの人たちが支援者の人たちと反戦を訴えていました。また、日本の周りだってかなりキナ臭い。人々が心の中に平和の砦を築かなければいけません。
    このようにアートを切り口に、メッセージ性ある作品でした。

  • 池上彰氏の後書にもあるように、アートにはどれだけの力があるのか、戦争を阻止する力はあるのだろうかという、芸術に対する希望であり、原田さんが描こうとした可能性。
    1930年代後半から世界大戦終焉までの、ピカソと愛人で写真家のドラが、作り上げた「ゲルニカ」
    ニューヨーク多発テロ後の2001年から2003年、キューレターの瑤子と、今また焦点を当てたい「ゲルニカ」
    ゲルニカ制作当時の戦闘下と、アメリカがテロとの戦いを明言した当時が並行して描かれます。この時、国連のゲルニカのタペストリーに暗幕がかけられた国務長官の記者会見。これに衝撃を受けての執筆とのことでした。
    アートには、戦争を阻止する力はないのかも知れません。しかし、暗幕をかけたという事実は、そのアートのメッセージ性を認めているということかと思います。暗幕を掛けなければならないほどの力はあるのですね。
    両時代に登場するパルド。恋人を戦争で失い、その代替のように、ゲルニカを守る。守る事を彼の戦闘とする。フィクション部分と知っても、彼のような役割を果たした人物がきっと居たはずと思わずにいられない。

  • 誰にでも自分の中で好きな、もしくは強く印象に残っている絵というものがあると思います。私にとってそのひとつが、ピカソの『ゲルニカ』、まさしくこの作品で取り上げられている絵です。中学の美術の授業でこの絵を初めて見た時、ちょうど歴史の授業で習った広島、長崎への原爆投下のイメージが重なりました。それ以来、私の中では原爆と聞くとこの絵が真っ先に浮かびます。そして大人になり、この絵をどうしても見たくて、スペイン・マドリッドへと赴きました。「楽園のカンヴァス」の感想では同じマドリッドにある他の絵について触れましたが、主目的はこの絵を見るためでした。『ソフィア王妃芸術センター』を訪ね、この絵が飾らせている部屋に入った時の衝撃は未だもって新鮮です。見たこともない巨大なモノクロームの世界に息を飲みました。しばし呆然と立ち尽くしました。圧倒される絵の迫力に言葉を失いました。結局、その翌日も再度絵の前に立つことになった私。強い印象は何度見ても変わらずでしたが、それは帰国後も同様でした。しばらくの時を経て、この絵を見たいがために再度スペインを訪れているほどです。そんな一方で、半年前に読書を始めて、原田マハさんという方を知り、今日この作品を手にしました。二度の旅行で三度の実視を経て、今度は文字で『ゲルニカ』を見る瞬間の到来。読書を始めて良かったなと実感したこの作品、主人公・瑤子が『ゲルニカ』に対面するシーンからスタートします。

    『瑤子たち一家は、休日ごとに、マンハッタンにある美術館を訪ね歩いていた』という主人公・八神瑤子。訪れたMoMAで『目の前に、モノクロームの巨大な画面が広がっていた』という光景を前にし『磁石に引き寄せられた砂鉄のようにそこから動けなくなって』しまいます。大人になった瑤子は『イーサンと結婚したこともあり、いまではアメリカの永住権を取得』しました。そして、再びの『ゲルニカ』との出会いにより『自分は、生涯をかけてパブロ・ピカソという芸術の巨人を追いかけ、寄り添っていこう』と決意します。一方で時を遡り1937年、パリのアトリエで『今日は私、ポーズをとる必要がある?』と聞く女性・ドラ、それに対し『そうだな』と短かく答えるのはパブロ・ピカソ。『いいかげんに下絵に取りかからないと、もう間に合わないでしょう?』とドラが気にするのは、近く開催されるパリ万博のスペイン館に展示予定の『とてつもなく大きな仕事』という『およそ縦7メートル50、横8メートル』の壁面に飾られる壁画の依頼でした。『政治的に利用されるのはきにくわない。それに、あんなに大きな壁画なんて手がけたこともない』と戸惑うピカソ。でも、『ゲルニカ空爆のニュースに触れた瞬間から、ピカソの中で激しく渦巻き始めた何か。憎悪、狂気、苦悩、憤怒。負の感情の爆発が、いま、芸術家の中で起こりつつある』と絵筆を進めるのでした。一方、2000年、瑤子はMoMAのキュレーターとなり初の企画展の準備を進めます。そんな企画会議の当日、9月11日、『マンハッタンの南端、まぶしいほど澄み渡った青空に立ち上る黒煙。それを目がけて、白い機影が上空を切り裂くように突っ切っていくのが見えた』『ワールド・トレード・センターに旅客機が突っ込む』という悲劇。そして『最愛の夫を失って、このさき、生きていくことにどんな価値があるのだろうか』と生きる意味を失ってしまった瑤子。そんな中、瑤子は『ゲルニカ』を思い出します。『私の運命を、人生を変えた、あの一作。あの作品を、もう一度、MoMAで展示することはできないだろうか。9.11の報復を名目にして武力に訴えるのがいかに愚かなことか』と気持ちを立て直します。そして『企画書のタイトルはピカソの戦争:ゲルニカによる抗議と抵抗』とし、再び前を向いて進んでいきます。

    1940年前後、つまりピカソが生きた第二次世界大戦中のパリと、2000年にワールド・トレード・センターへの旅客機突入により『テロとの戦い』が叫ばれた時代の二つのストーリーが並行して紡がれるこの作品。その二つの時代を繋ぐもの。それが、ピカソの大作『ゲルニカ』でした。パリで製作され、パリ万博への展示、米国に疎開し、MoMAでの42年間の展示を経てスペインへと引き渡されたこの大作。実話と空想の世界を巧みに織り交ぜながら二つの時代を繋ぐこの大作を巡る物語が、それぞれの時代の史実をベースにしながら鮮やかに描写されていきます。『ゲルニカ』は、『縦・約350センチ、横・約780センチ』という圧倒的な迫力を持った大作です。これを原田さんは『ドラは一瞬息を止めた。そこには、驚愕し、もがき、のたうち回る、人間たちや動物たちの群像が出現していた』と表現します。あの絵を『ピカソは、ゲルニカが、空爆を受けたその瞬間をカンヴァスにて再現したのだ』と捉え、その上で、さらに、『見る者にも「共犯者」となることを強いる。それがピカソのやり方だ』と指摘します。そして『この作品で、見る者に「目撃者」となり「証言者」となれと挑発しているかのようだ』と説明します。この絵だからこそのその説得力に、この絵に潜在するただものではない力を強く感じました。

    1939年のナチスによる古都『ゲルニカ』の空爆、そして2000年の『9.11』を始まりとした米国主導のアフガニスタン空爆。歴史は前者を絶対悪と記録しますが、後者は『テロとの「正義の」戦い』とされるこの違い。『武力を武力で封じ込めようとしても、苦しむのは、結局、名もない人々』と思い、自分に出来ることを考える瑤子。一方で、万博会場で兵士に『この絵を描いたのは、貴様か?』と問われたピカソはたじろぎもせずに答えます。『いいや。この絵の作者は、あんたたちだ』。ピカソの強い意思が垣間見れるこのシーン。『ゲルニカ』という絵に込められたピカソの思いを改めて感じました。

    時が流れても悲しい歴史は繰り返されます。それを分かってか、『ゲルニカ』に込められ、託されたピカソの強い思いは不変のものでもあります。『スペインが真の民主主義を取り戻すその日まで、決してスペインには還さないでほしい』と語ったピカソ。そして今『ゲルニカ』は、スペインの地に還りましたが、世界は未だ不穏な空気に包まれたままです。『ゲルニカ』という絵に課せられた役割、果たすべき使命はまだまだ現役であり続けなければいけないのかもしれません。

    原田さんのこの作品を通じて長らく私の中にあった『ゲルニカ』像が、言葉で描いたこの作品を通じて、新しい『ゲルニカ』像として上書きされました。500ページを超える大作。原田さん渾身の読み応えのある作品でした。

  • ピカソのゲルニカを巡る時代を超えた二つの話。
    瑤子の奮闘とドラの葛藤が話の骨子と思う。
    どちらもピカソを、そしてゲルニカを追い求めたが、瑤子は真の意味を追い求め、ドラは別れを告げる。
    ミステリー仕立ての作り込みで読み易く、ピカソの絵をスマホで眺めながら読み進めた。原田マハの絵画の話は改めて芸術に触れられる良い機会になる。

  • 原田マハさんの「絵に纏わる物語」はめちゃくちゃ面白いです。
    この本は、ピカソのゲルニカをめぐる物語です。
    史実とフィクションが折り混ざって出来ており、物語にグイグイ引き込まれてしまいます。
    実際に美術館でキュレーターをされていた著者の経験と知識の深さに感心しました。
    ぜひぜひ読んでみてください

  • もともと「ピカソ」の「ゲルニカ」についての印象は、描かれている人や動物の「目」が怖いということ。そして、描かれている対象が「のたうち回っている」ということでした。見ているうちにおどろおどろしい感情に陥っていく。

    でも、「ゲルニカ」が生まれた背景について、それほど詳しくは知りませんでした。原田さんのおかげで、この作品を通じてより知識を深めることができました。

    第二次世界大戦前、スペインが内戦で大きく混乱していたことをそもそも認識できていなかった。その時代背景を含めて「ゲルニカ」に込められたピカソの意図に頷いてしまう。

    作品の中で「ゲルニカ」とピカソを浮き彫りにするために、MOMAのキュレーターをしている日本人女性「遥子」が登場する。彼女はピカソの専門家という設定。その女性は9.11で夫を失うが、9.11の後、MOMAで「ピカソの戦争」展を催すために「ゲルニカ」を求めて八面六臂の活躍をする。ちょうど米国がイラク戦争を仕向けたタイミングで。国連の「ゲルニカ」のタペストリーに幕をかけて隠した「事件」が作品のコアとなっています。

    ゲルニカの行く末とともに、この作品のもう一つの主旋律を奏でるMOMAのキュレーター遥子が登場するストーリーは「楽園のカンヴァス」と重なる部分がある。MOMAがキーワードですね。

    政治的な偏りなく、作品の中でピカソと遥子がそれぞれの時代で「戦争をやめろ」という強いメッセージの中で繋がっていく。殺人と破壊、そして憎悪しかもたらさない戦争に焦点を当て、「反戦」への思いを形にしていこうとする。そしてその中心に「ゲルニカ」が存在している。

    暖かな人間関係を醸し出しながら、そして少しハラハラドキドキするストーリーを経て、「ゲルニカ」のMOMAでの展示が実現するのだろうか?反戦への想いを込めて。

    読み終えて、「ゲルニカ」の観方が「反戦」という思いと共に少しだけ深まったかもしれません。

    そして、キンキンに冷えたカヴァを飲みたい気分になりました。(関係ない)


    <もう一つの感想>


    序章の前に書かれたこの作品全体の流れを示唆するような「導入部分」で、どうしても自分自身の経験が蘇り重なるところがありました。そして、既に少し感傷的になりつつ「序章」へ進むと、何と9.11がモチーフになっていた。もうこの時点で打ちのめされ、感情移入し過ぎて自分自身の精神状態がおかしくなるかも知れない?という危うさを感じてしまったのでした。当時の様々な記憶が頭の中を行ったり来たりする。

    しかし、ピカソがゲルニカを描きあげた背景を原田さんの文章を介して触れておきたいという気持ちが上回り、読み進めてしまう。

    「序章の最後」に、主人公の一人である遥子が9.11に遭遇した最初の瞬間に感じた心象風景が衝撃的に描かれています。しかしそれは、自分の持っている心象風景とは全く異なっていました。

    「異なる心象風景だ」と感じたその瞬間、この作品は史実には基づいているけれど、原田さんの創造なのだ!ということを全身で感じ取ることができたのです。その後は安心して、ひたすらストーリーの中に埋没することができました。

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著者プロフィール

1962年東京都生まれ。関西学院大学文学部、早稲田大学第二文学部卒業。森美術館設立準備室勤務、MoMAへの派遣を経て独立。フリーのキュレーター、カルチャーライターとして活躍する。2005年『カフーを待ちわびて』で、「日本ラブストーリー大賞」を受賞し、小説家デビュー。12年『楽園のカンヴァス』で、「山本周五郎賞」を受賞。17年『リーチ先生』で、「新田次郎文学賞」を受賞する。その他著書に、『本日は、お日柄もよく』『キネマの神様』『常設展示室』『リボルバー』『黒い絵』等がある。

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