流星ひとつ (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
4.05
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  • Amazon.co.jp ・本 (422ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101235226

作品紹介・あらすじ

何もなかった、あたしの頂上には何もなかった――。1979年、28歳で芸能界を去る決意をした歌姫・藤圭子に、沢木耕太郎がインタヴューを試みた。なぜ歌を捨てるのか。歌をやめて、どこへ向かおうというのか。近づいては離れ、離れては近づく二つの肉声。火の酒のように澄み、烈しく美しい魂は何を語ったのか。聞き手と語り手の「会話」だけで紡がれた、異形のノンフィクション。

感想・レビュー・書評

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  • 昭和の歌姫(怨歌歌手)として、18才でデビュ-した藤圭子(本名:宇多田純子.旧姓:阿部純子)が、28才で芸能界を去る決意をした。 その年(1979)年の秋、「ホテル・ニュ-オ-タニ」40階のバ-で、ウォッカ・トニック(火酒)のグラスを傾けながら、ルポライタ-・沢木耕太郎(31才)がインタビュ-を試みた。彼女の生立ち、父親のDV、デビュ-前後の生活、結婚とスピ-ド離婚、歌手をやめ何処へ向かうのか、などの問いかけに、純朴だった彼女の声の記録を、聞き手と語り手の「会話」だけで綴った異色のノンフィクション。〝喉の手術が、あたしの人生を変えたと思う...声が変わってしまったんだよ。全く違う声になっちゃったの...一生懸命歌ってきたから、あたしのいいものは、出し尽くしたと思うんだ...それでも歌うことはできるけど、燃えカスの、余韻で生きていくことになっちゃう。そんなのは嫌だよ・・・それもこれも、みんなワーァッと一時に押し寄せてきちゃたんだよね。全てが虚しくなって・・・もう、どうでもいいっていうような気持になって・・・ぼんやり、死のうかな、なんて思うようになりはじめて・・・〟娘・宇多田ヒカルを世に出し、62才での自殺を知るに及んで、そこはかとない侘しさと寂寥感に苛まれる故人の魂の声となった。

  • 初読
    ★3.5

    1979年、引退発表後の藤圭子、28歳。
    沢木耕太郎、31歳。
    いっさい地の文を加えず、会話文のみで構成されたインタヴュー。
    しかし、藤圭子があまりに好悪を語り過ぎているため、
    復帰する場合に枷になる事を危惧した沢木は出版を見合わせる。
    そして2013年、自宅マンションから飛び降り、藤圭子は62年の生涯に幕を降ろす。

    私も、リアルタイムでの彼女は知らず
    「昔の歌だよね」という知識で「夢は夜ひらく」を聞いた事があるくらい。
    宇多田ヒカルの母、としての認識。

    当時の、まさに沢木耕太郎が言うような
    「水晶のような透明で硬質な」女性としての彼女は知らなかった。

    この本が出版される経緯、その巡り合わせは奇跡のよう。

    「夢は夜ひらく」を歌わなかった方が良かったんじゃないか、
    という意見に対しての彼女の答え
    「歌手を悪くした歌なんて絶対にない、絶対にね」
    の痺れる事!

  • 宇多田ヒカルの母としてしか知らなかった藤圭子。全編、会話のみの構成でも、率直な言葉でグイグイ読める。

    読む前はほとんど知らない人だったわけで、言ってみれば知らない人のお酒の席の会話を400ページも読んでられるのは、インタビュアーの力もあるし、語り手の言葉もあるし、引退した理由という純粋に物語としての力もあるわけで、インタビューとして成功しているのでは、と思った。

    「真っ直ぐで清潔な魂」、もしくは著者の言葉を借りると「水晶のように硬質で透明な精神」は憧れる部分もあるが、生き抜いていくには大変だっただろうな、とも思う。

    2019.7.6

  • 2013年に自死したかつての演歌スター、藤圭子が、若くして引退を決めた1979年、同じく若かったルポライター沢木耕太郎が彼女にインタビューした時の会話をそのまま再現したもの。
    ほかの誰にも真似できない、「対談」でも「インタビュー」でもないような意欲作。しかしこの素晴らしい原稿は30年も封印されていた。沢木氏は藤圭子が自殺したとき、週刊誌などとは違う視点でありのままの彼女の姿をとどめたこの原稿を発表することにした。

    私は芸能界にも演歌にも藤圭子にもまったく興味はなかったが、このたった一夜の沢木耕太郎と藤圭子とのやりとりを読んで、潔く生きた一人の女性と深く「出会った」気がする。彼女の生い立ちも興味深い。当時は、週刊誌などが興味本位で藤圭子の両親や彼女の生い立ちについて書きたてた。その中には差別的なものもあっただろう。そんな中で傷つき、メディアに対して完全に心を閉ざした若き彼女の心に、沢木氏は「聞き手」として、「書き手」として、物語の紡ぎ手として、なんとも巧みに入り込んでいく。彼女に同調し、傾聴し、共感しながらも、時には「それは違う」とか、「なぜ?なぜ?」と食い下がったり、本当にうまい。
    ただのインタビューではない、素晴らしい一冊。

  •  藤圭子は、よくここまで赤裸々に自らの半生を、しかも他人事のように語ったなと思う。作者が話の節目ごとに一杯目の火酒、二杯目の火酒としたのも頷けるが、作者と藤圭子の信頼関係が偲ばれる。
     印象に残るのは、父、母との関係。酷い扱いをした父親を、憎しみを抱きながらも見捨てられない藤圭子に、憎めない人間味を感じる。
     前夫で歌手の前川清が、自らの旅番組で、たまに藤圭子のことを話題にしている。一人の女性を幸せにできなかった負い目を感じているのかなとも思う。
     宇多田ヒカルの母としてだけではなく、一世を風靡した歌手 藤圭子を知っている世代の者として、心に沁みる一冊です。

  • 沢木耕太郎の本はいくつか読んでいるが、儚い浪漫を感じた一作。正直藤圭子氏自体は深く存じ上げていないが、とても繊細で相当に寂しい人だったのではと思わずにいられない。沢木耕太郎による意図的なのかわからない会話形式がより彼女の寂しさを浮き彫りにさせる。

  • 「沢木耕太郎」のノンフィクション作品『流星ひとつ』を読みました。

    『凍』に続き、「沢木耕太郎」作品です。

    -----story-------------
    「藤圭子」と「沢木耕太郎」、二つの若い才能が煌めくように邂逅した奇跡のダイアローグ。

    何もなかった、あたしの頂上には何もなかった――。
    1979年、28歳で芸能界を去る決意をした歌姫「藤圭子」に、「沢木耕太郎」がインタヴューを試みた。
    なぜ歌を捨てるのか。
    歌をやめて、どこへ向かおうというのか。
    近づいては離れ、離れては近づく二つの肉声。
    火の酒のように澄み、烈しく美しい魂は何を語ったのか。
    聞き手と語り手の「会話」だけで紡がれた、異形のノンフィクション。
    -----------------------

    1979年(昭和54年)秋、引退を発表した「藤圭子」に対して行われた、「沢木耕太郎」のインタビューをまとめた作品… 本書の大きな特徴はダイアローグだけで構成されていること、、、

    聞き手である「沢木耕太郎」(当時31歳)と「藤圭子」(当時28歳)… その二人の間で交わされた言葉のやりとりだけで貫かれているんですよね。

    実際は何度かの対話を、一夜の出来事として構成し直しているようですね… ホテル・ニューオータニ40階のバー「バルゴー」でウォッカ・トニックを飲みながらのインタビュー、ウォッカ・トニックを飲み進める毎に、『一杯目の火酒』、『二杯目の火酒』… と章が変わっていき、八杯までグラスを重ねていく構成も気に入りましたね、、、

    会話での二人の距離感は、「沢木耕太郎」のインタビューの巧さだけでなく、恋愛関係があったと噂された二人の信頼関係によるものだと感じましたね… 人間関係が透けて見えるというか、滲み出ている感じがする内容でしたね。

     ■一杯目の火酒
     ■二杯目の火酒
     ■三杯目の火酒
     ■四杯目の火酒
     ■五杯目の火酒
     ■六杯目の火酒
     ■七杯目の火酒
     ■最後の火酒
     ■後記
     ■解説 梯久美子

    ホテルのバーでウォッカ・トニックの杯を重ねながら続けられる二人の対話… 一杯目では、ぎこちない印象だった二人の対話が、杯を重ねるほど滑らかになり、四杯目くらいからは親しい二人が、飲みながらおしゃべりしているような雰囲気までに打ち解けていき、最後の杯では、インタビューの失敗を祝して盛大に乾杯できるくらいの間柄にまで発展する様が、全く解説の無いダイアローグだけの構成でも十分伝わってきましたね、、、

    「藤圭子」って、子どもの頃にテレビで観てハスキーボイスで暗い曲("圭子の夢は夜ひらく"のイメージが強いのかも)を歌っていたという記憶はあるものの、演歌という興味のないジャンルの歌い手だったので、あまり印象に残っておらず、その後は「宇多田ヒカル」の母親ということで再びマスコミから注目を浴び、2013年(平成25年)に自死した… くらいのことしか、知らなったのですが、聞き手である「沢木耕太郎」の話を引き出す巧さもあり、本書では「藤圭子」が自分のことをのびのびと語っているので、その人物像の一部を垣間見ることができました。

    「沢木耕太郎」って、本人も気付いていなかったことや意識していなかったこと、これまでに話していなかったことを引きだすのが、ホントに巧いんだと思いますね… しかも、それを活き活きとしゃべらせるんだもんなぁ、、、

    そして、貧しかった過去や、歌に対する拘り・価値観、恋愛観、家族(特に母親)への思い等々を読んでいると(感覚的には読んでいるというよりもインタビューを聞いている印象ですが…)、知らず知らずのうちに「藤圭子」に好感を持っていましたね… 流れ星のように消え去った「藤圭子」のことを少しは知れたかな と思います。

  • 「銀座堂書店」。職場の近くにある朝日新聞販売店が併設している、小さな本屋さん。雨降りの昼飯時に覘いたら、一番目立つ位置に沢木耕太郎の新刊『流星ひとつ』があった。

    沢木耕太郎、やっぱり凄いや。
    『キャッパの十字架』からそんなに時間が経っていないと思ったら、1979年に書き上げたものだった。
    引退を表明した藤圭子への「インタビュー」を書き起こす形で、この本は構成されている。沢木さんはこの作品でノンフィクションのまったく新しい書き方を追求した。「時代の歌姫が、なぜ歌を捨てるのか。その問いと答えを、彼女の二十八年間の人生と交錯させながら、いっさい「地」の文を加えずインタビューだけで描ききる。」
    この作業は彼の最初の新聞連載・長編ノンフィクションの『一瞬の夏』と同時作業として進行した。
    だが、ある迷いが沢木さんにこの本の出版を躊躇させた。この思いを理解した新潮社の担当も立派だと思う。反人権雑誌「週刊新潮」を抱える会社にして、なお出版人の良心を持った人々がいることもひとつの感激だ。
    当初『インタビュー』という書名で発刊予定だったこの原稿は、1979年暮れに『流星一つ』と題名を変え、たった一冊だけ製本されて藤圭子に贈られ、作品としては葬られた。

    そして、今年8月22日朝、藤圭子は自宅マンションから飛び降り、自ら命を絶った。
    沢木さんは藤圭子の娘・宇多田ヒカルの「コメント」を読み、藤圭子が精神の病に苦しんだ末の自殺であることを知る。その説明で世間は納得しただろう。
    「しかし、私の知っている彼女が、それ以前のすべてを切り捨てられ、あまりにも簡単に理解されていくのを見るのは忍びなかった。」
    沢木さんはあらためて手元に1部だけ残っていた『流星ひとつ』のコピーを読み返した。
    「ここには、『精神を病み、永年奇矯な行動を繰り返したあげく投身自殺した女性』という一行で片付けることのできない、輝くような精神の持ち主が存在していた。」

    この沢木さんの「後記」を読むだけで、感動にふるえる。本文を読むのがこわいほどだ。
    人の死を眼前に、輝きを増す真実がある。『愛の流刑地』での『虚無と熱情』の扱われ方を思い出す。
    「一杯目の火酒」から「7杯目の火酒」そして「最後の火酒」まで、8つに章分けされた300頁の長編、全部「-------」「・・・・・」の会話だけで構成されている。
    今夜も眠れそうにないな。台風の夜に徹夜を覚悟する(~~;)







    自動代替テキストはありません。

  • 30代前半の僕にとって藤圭子は、宇多田ヒカルの母親という認識以上のものは無く、この本を読むまではどのような歌を歌っていたのかすら知らなかった。
    1970年代の芸能界を歌と共に生き抜き、そして自ら芸能生活を終わらせる決意をした藤圭子。
    沢木耕太郎の巧みなインタビューにより、本人すら気付いていなかったような本当の自分の気持ちが引き出されてゆく。
    そもそも人は、簡単に言語化できる程に自分の気持ちなんて理解していないし、こうしてバーでお酒を飲みながら訥々と語ることが気持ちの整理には一番最適なんだと感じた。藤圭子の人生を知る上で、とても秀逸な作品だと思う。

  • 沢木耕太郎の藤圭子へのインタビュー。全編会話だけという形が見事。緊迫して、美しい会話。「一瞬の夏」も大好きだけど、こちらも素晴らしい。藤圭子という女性の明晰さを強く感じた。

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著者プロフィール

1947年東京生まれ。横浜国立大学卒業。73年『若き実力者たち』で、ルポライターとしてデビュー。79年『テロルの決算』で「大宅壮一ノンフィクション賞」、82年『一瞬の夏』で「新田次郎文学賞」、85年『バーボン・ストリート』で「講談社エッセイ賞」を受賞する。86年から刊行する『深夜特急』3部作では、93年に「JTB紀行文学賞」を受賞する。2000年、初の書き下ろし長編小説『血の味』を刊行し、06年『凍』で「講談社ノンフィクション賞」、14年『キャパの十字架』で「司馬遼太郎賞」、23年『天路の旅人』で「読売文学賞」を受賞する。

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