鳥類学者 無謀にも恐竜を語る (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (427ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101215112

作品紹介・あらすじ

鳥類学者はおおいに恐竜を語っていいのだ。ティラノサウルス、アパトサウルス、地上に君臨した恐竜の子孫こそ鳥なのだから。ということで、本邦が誇る現生鳥類研究者の化石時代への大航海が始まる。どんな色でどのように鳴いたのか。樹上に巣を作るものはいたのか。鳥類の進化を辿り、恐竜の生態を復元する、野心的試み。抱腹絶倒しつつ知的興奮を存分に味わえる、とびきりの科学エッセイ。

感想・レビュー・書評

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  • 恐竜の直系子孫(竜盤類)は鳥類なのだ。
    だから、鳥は恐竜なのだ。
    それゆえ、鳥類学者は、恐竜学者なのだ。

    神々の名前を把握できず、give upしたギリシア神話問題を抱えているので、恐竜の固有名称は、読み流させていただいた。恐竜の名称を覚えなくても、読書嗜好になんの問題もないのだ。
    ちょっと、著者の文体を真似っこしようとしたが、知能指数の差は埋められない。

    文系人間にも刺さる小ネタとオチが、満載。
    もちろん、恐竜の研究進化情報も、満載。
    当然、本職の鳥類情報から生物植物の話まで。

    著者は農学博士らしいが、この文才で、恐竜か鳥類絡みのサスペンスくらい書いてしまいそうだわ。

  • 【感想】
    恐竜は鳥の祖先だったという情報から、鳥類学者が恐竜について類推していく本書。

    恐竜自身のすがたは「化石」を使ってでしか語れない。そのため、恐竜の個体の特徴を述べるというよりも、どちらかと言えば、周囲の環境に対して「鳥ならばこう行動する。では、恐竜でも当てはまるのではないか?」という生態学的推論がメインになる。

    当然、鳥から類推するのだから、図鑑で見たカッコイイ大怪獣のイメージからはどんどんかけ離れていく。鳥のように羽毛が生え、目がクリっとし、空中から魚を獲っていた種もいたかもしれないのである。

    恐竜がどんどん味気ないものになっていく、と残念に思うかもしれないが、その感情は結構人間のエゴだ。そもそも、野生動物は全般的にそこまでダイナミックではない。
    恐竜にかぎらず、野生動物の生活の大半は静止しているかゆったりしている。激しく動くときは狩るか狩られるかの一瞬だけだ。そのため、恐竜という個体があたかも映画のように、常に幅をきかせながら威圧感たっぷりで君臨していた、というのがそもそも幻想なのだ。

    そして、恐竜というグループは1億5千万年もの間繁栄していた。人間はせいぜい20万年ぐらいだが、20万年前の人類と現代人を比べて「人間とは〇〇のような生き物だ」と語るのはいささか乱暴だろう。鳥のようにおとなしいチビもいれば、「ザ・恐竜」のような獰猛な個体もおり、生活も環境に応じてバラバラだったに違いない。

    そう考えると、少しずつ少しずつ恐竜のスケールが小さくなっていくかもしれない。それに夢を壊されたと感じるか、それとも親近感を感じるかは、読むあなた次第である。

    このいい意味で適当な、そしていい意味で恐らく間違いだらけの恐竜本、まさに肩の力を抜いて読むにはうってつけである。

    ―――――――――――――――――――――――――――――――――――

    【本書のまとめ】
    1 本書の目的
    鳥は恐竜の一部であることがわかった。そこで、恐竜と鳥類の緊密な類縁関係を拠り所とし、鳥類の進化を再解釈しながら、恐竜の生態を復元することを目指す。


    2 種の分類方法
    生物を分類する場合、似た種の集まりを「科」とし、似た科の集まりを「目」と呼んでいる。

    形態学的種概念:似た形をもった個体は同種と考える
    生物学的種概念:交配可能な集団を同種と考える
    系統主義的種概念:所属している系統(DNAの近さ)によって種を判別する

    鳥類は羽毛や模様によって種を同定する。一方、恐竜の研究では、一部の骨の形態しかわからない中で、種を判定することを強いられる。当然難易度は高く、別種と思われていた2種の恐竜が同種だとされたことも何度かある。

    様々な研究と「羽毛恐竜」の発見から、鳥と恐竜には類縁関係があることがわかった。ということは、現生鳥類を調べることによって、恐竜の生活をより信頼性高く類推することが可能になったのだ。


    3 鳥の身体
    鳥の身体は、空を飛ぶために徹底的に軽量化されている。
    また、すぐに飛翔する必要があるため、生まれたあとの成長のスピードが速い。

    鳥の特徴といえば羽毛だが、羽毛はもともと飛翔のためではなく、カモフラージュやディスプレイ用だったと考えられている。
    羽毛恐竜といっても、多くの場合は、現生の鳥類がまとっているような、ふわふわの羽毛に包まれているわけではない。恐竜がまとっていたのは、よりぼさぼさとした繊維状の原始的な羽毛であった。それはふわふわの毛に比べて、簡単に退化してしまう。
    そのため、より古い近縁種で見つかっているからといって、見つかってない恐竜まで羽毛が生えていたと断定するのは時期尚早だ。


    4 恐竜の二足歩行
    恐竜は人間と同じ二足歩行とはいえ、直立していない。足に対して胴体が横向きになっているため、やじろべえのようにバランスを取っている。彼らは重心を維持するために邪魔となる大きな構造物、すなわち腕を退化させていったにちがいない。

    鳥の祖先は、腕という(失うのは惜しいぐらい便利な)重要器官の機能を失った代わりに翼を得たのではなく、身体のバランスを保つために退化していった腕を、飛翔という別の用途に転用したのではないか、と考えられている。


    5 翼竜
    翼竜は鳥類よりも先に空を支配していた。
    翼竜が持っているのは羽毛ではなく皮膜であり、飛ぶというよりも高所から落下して滑空するために使っていた。空に天敵がいなかった時代は、多少不格好であっても飛ぶことができればよかったが、そこに後続で参入してきた鳥類に制空権を奪われたのだ。

    恐竜が飛翔に特化した翼を得たということは、指の消失を意味した。くちばしを得たということは、歯を無くしたということだ。
    鳥は「歯を失った」「腕を失った」「尾を失った」のではない。空を飛ぶために、むしろ「自分から捨てた」のである。


    6 鳥から恐竜を考える
    近年、恐竜がカラフルなのは、恐竜が鳥類の祖先だと考えられるようになったからだ。といっても復元図はあくまで想像であり、図鑑によって姿形は違う。
    筆者個人としては、白い恐竜はいたはずだと思っている。
    白い姿は捕食者にも被食者にも目立つが、逆に群れを作ろうとして仲間にアピールするのにちょうどいい。群れる恐竜がいたとすれば、その中に白色恐竜がいた可能性はある。

    翼竜は川や海などの開けた場所を飛びながら、魚を食べていたと考えられている。そして、同種を見分けるためにトサカや尻尾の飾りがついていたと考えられている。

    ●恐竜の声
    おそらく、無駄泣きはせず、ここぞというときに泣いていた。映画のように低い声が終始とどろいていたということはなかっただろう。

    ●巣
    ほとんどは地上に作っていたが、中には小型鳥脚類のものだと思われる巣穴が樹木から見つかっている。

    ●卵
    巨大恐竜は、身体が大きすぎて、抱卵に向いていなかったともいわれている。抱卵可能なのは、親の体重が250キロまでの場合だと考えられており、もしかしたら地熱利用や卵胎生をしていたかもしれない。
    そんな恐竜は、現存鳥類と比べても、比較的多めに卵を産んでいる。恐竜全体を見渡すと、子どもを世話する恐竜がいたとしても不合理な話ではない。

    7 恐竜が構築した生態系
    草食恐竜は、その体の大きさゆえに、生きるために食べるだけで、環境に大きな影響を与えていた。それによって、植物と森林構造が変化した。その空間に適応した動物が進化してきたはずである。
    対する肉食恐竜は、草食恐竜を食べて環境の調整を行っていた。同時に、全ての環境を支配する捕食者として、地上性動物の生活を制御し、空や夜の生活を促した。

    恐竜は長距離で移動し、辺りを強く踏み鳴らす。そのため、他の動物や種子植物が長距離を移動する経路として利用しやすい。恐竜の出現により、植物と動物との共進化に追い風が吹いたことだろう。

    恐竜が絶滅した原因として現在有力なのは、隕石の衝突だ。衝突によって噴出物が巻き上げられ、地表面温度は260度に達した。太陽の光が遮られ、植物の多くが死滅した。そして、彼らは身体が大型だったため、その後の冬の時代に耐えられなかった。
    鳥や哺乳類が生き延びることができたのは、身体が小さく、被支配階級に属していたゆえだったかもしれない。

    この激動の出来事が、鳥類繁栄の第一歩だったのだ。

    小天体の飛来前には、空は翼竜に支配され、地上は恐竜に支配されていた。鳥が活躍できたのは、地上以上、空未満の隙間である。この空いたスペースを埋めたのが、恐竜の直系である鳥類だったのだ。

  • 鳥類にも恐竜にも興味なかったのだが、前作に引き続き楽しく読めた。時々スマホで恐竜を検索しながら読んだので、恐竜図鑑があればより楽しめそう。

    大学の講義(もちろん講義上手な先生の!)を受けているようで、学ぶって楽しいなと改めて感じた。真面目な部分とふざけて良い部分、緩急つけた文章で読みやすく飽きない。絵や注釈も楽しい。
    小林快次先生の解説も面白かった!ワニ類学者の恐竜語りも気になるところ。

  • 明治カールチーズ味をこよなく愛する鳥類学者川上博士噴火の西之島、小笠原諸島最高峰南硫黄島など悪戦苦闘の絶海孤島フィールドワークを鳥類学発展のために明るく楽しく伝えてくれます。007ジェームスボンドは1900年お生まれ鳥類学者さんから拝借したなんて初耳でした。

  • 現存する鳥類の生態をヒントに化石からは解明できない恐竜の在りし日の姿を想像するというコンセプト。鳥類と恐竜についてダブルで興味を引き立てられる内容。恐竜の研究が進むにつれて著者の予想が当たっていたとしたら、未知の生態を紐解くドラマを見た気分になれるし、著者が考えもしなかったような新発見により予想とはかけ離れた事実が明らかになったとしても自然の神秘を感じる事ができるだろう。本書を読めたのは幸運だった。

  • 鳥の祖先は恐竜だった!これって常識なのか?首長竜は恐竜じゃない⁉️知らないことが沢山書いてあった。脚注も笑ってしまうので油断ならない。大学の先生とかは、ガンダムとかドラえもんとか見てないのでは、という常識も破られた。古生物学に必要なのは、想像力なのだなー。鳥類にあまり興味はなかったが、恐竜の子孫って思ったら興味が湧くかも⁉️

  • 夏休み子ども科学電話相談 でおなじみの川上先生による本。
    鳥類学者が、熱く、真面目に、時にユーモラスに恐竜のことについて解説?した本。

    素人でも非常にわかりやすく、なるほど、と、うなりました。

    時折交える小ネタ、次々から出てくる恐竜への疑問・不思議。最初から最後まで飽きさせない。

    知的好奇心をくすぐられました。

    解説には小林先生です。

    もう、わくわく。

  • 恐竜は鳥である。鳥類学者の恐竜へのロマン、妄想がひしひしと伝わってくる恐竜へのラブレターエッセイ。特に第3章「無謀にも鳥から恐竜を考える」は恐竜の最大の魅力である『恐竜学的不確実性』に胸が膨らんだ。恐竜がピチュピュと可愛い泣き声だったら…白鳥のように真っ白な恐竜がいたら…と私も一緒になって妄想してしまった。

    他にも、感動したことがある。
    それは8/6に公開された『ドラえもん のび太の新恐竜』が最新の研究結果を反映していることだ。映画では、鳥が恐竜の祖先である事を土台に物語が展開しているし、映画に出てきた恐竜はカラフル且つ羽毛を有する種も登場する。やはり、小学館はすごい!

    あと、もう一点。
    偶然にも、先日読んだ『ある小さなスズメの記録』で私が抱いていた疑問の答え合わせができた。
    「鳥類のなかで、さえずりを学習する能力をもっているのは、スズメ目、オウム目、ハチドリ目の鳥だけである。これらの鳥は、他個体のさえずりを聞いたり練習したりすることにより、より上手に歌を歌えるようになる。(P244)」
    このことから、スズメのクレランスがピアノの音を聞きながら歌唱練習していたのにも頷ける。

    注釈も含めて、楽しく学べる一冊だった。

  • 恐竜は絶滅した→鳥は恐竜である。

    恐竜に関する常識みたいなものが、数多の研究者の努力により変わってきている。少なくとも僕が子供の頃は前者が常識で、後者なんて聞いたこともない。
    この本では、学問が生き物であること、その面白さを感じた。
    散りばめられた小ネタはあまり面白くはないが、第3章では、鳥の生態をもとに、恐竜の生態を想像する。これがいい。研究者の想像力が躍動する。夜行性の恐竜、木の上に巣作りする恐竜…なんだか、考えるとワクワクしてくる。

  • 恐竜の子孫は鳥だという最新説にのった鳥類研究者が、化石時代と恐竜について語った本。
    本人が「身の程知らずのラブレター」と言っているように、鳥類の研究者ではあっても、地球前史?や恐竜学の専門ではないため、そこは情熱で補われています。
    鳥類と恐竜のつながりについて、初めの方で引き合いに出ていますが、ほとんどは鳥類は関係なく、恐竜について語られた本。

    視点が我々一般人とかなり近いため、親近感を持って読み進められます。

    ドラえもん映画『のび太の恐竜』の話が出てきます。
    主役のピー助は首長竜の一種、フタバスズキリュウですが、それは爬虫類で、正確には恐竜ではないということ。
    子どもは間違ってしまいますね。確かにクビナガリュウは恐竜として描かれることが多いため、絵本などを見て、私も長いこと、首長竜は恐竜だと思ってきました。

    ブロントサウルスは、子供の頃に覚えた恐竜ですが、そういえば最近聞かなくなりました。
    アパトサウルスと同じ種だと考えられるようになったため、名前を消したそうです。
    むしろ、アパトサウルスではなくブロントサウルスの方を残してほしかったです。

    読んでいると、恐竜は鳥の先祖だったというのは、信憑性が高い説ではないかと思えてきます。
    まだまだ謎の部分が多い恐竜学。これからの新説発表が待ち遠しいです。

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著者プロフィール

森林総合研究所・島嶼性鳥類担当チーム長。西之島など離島の鳥類調査に従事。チーム名は自分で提案したのだが,「島」と「鳥」という字が似ていて時々混乱する。

「2023年 『羽毛恐竜完全ガイド』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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